アパレル業界の課題はAIで解決できるのか?|AI活用事例から注意点を紹介
Chat GPTの登場により、ついにAIが身近な存在になってきました。アパレル業界においてはコロナを経てデジタル技術の導入が加速しましたが、業界を取り巻く課題解決の一助としてAI活用が期待されています。
本記事では、アパレル業界でのAI活用事例からAI導入時の注意点を解説します。
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アパレル業界でAI活用が進んでいる理由
オムニチャネルやOMOの浸透
SNSの普及やコロナウイルスの影響により、オンラインとオフラインの垣根をなくしたマーケティング手法であるオムニチャネルやOMOという概念が近年急速に広まりました。これにより販売チャネルは実店舗だけではなく、ECサイトやモール、SNSなど多岐に広まっています。
オムニチャネルやOMOの最大の目的である「消費者にとって1番良い顧客体験を提供する」ためには、1to1での接客が必要です。そして1to1での接客を実現するためには、各販売チャネルに蓄積されている在庫データや売上データから打ち出すべき商品を見つけ出す必要があります。
しかし、膨大なデータから消費者一人一人にあった商品を選定し接客するのは、人力では不可能に近いでしょう。
このようなことから、AIを活用した自動採寸サービスやECでの行動履歴分析しておすすめするAIレコメンドエンジンの導入が進んでいます。
人手不足
日本国内の生産年齢人口は1990年代をピークに減少が続いていますが、特にアパレル小売業では人手不足が深刻な状況です。
WWDJAPANが2023年5月17日に公開した、主要アパレル小売企業30数社を対象にしたアンケートによると、「販売スタッフは足りているか?」という質問に対して、「不足」「とても不足」と答えた企業が8割以上に上りました。
生産年齢人口が減少傾向にある中で小売業に限らず採用は売り手市場にあり、コロナを経てアパレル業界への就業意欲が低下傾向にあるためです。
※参考:WWDJAPAN,アパレル販売員「構造的な人手不足」をどうする!?
このように日々深刻化する人手不足に対応するべく、各アパレル企業では予め用意しているテンプレートに沿って会話をする「チャットボット」の導入が進んでいます。
さらに、昨今話題のChat GPTも接客での活用が期待されており、スタイリストの提案履歴をもとにAIがコーディネートを提案する服選びの相談サービスの提供も始まっています。
環境問題
アパレル業界には「大量生産・大量廃棄」という社会問題を抱えています。2020年は81.9万トンの衣類が国内で新規供給されましたが、その内の90%である78.7万トンは使用後に捨てられていると言われています。
「大量生産・大量廃棄」は利益逼迫に繋がるだけではなく、環境へ与える影響も甚大です。この環境問題へ対処するべく、需要予測を活用して「適量生産」を行おうとしている企業もあります。
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AIを使った需要予測は難しい
AIで需要予測と聞くと、多くの人は「本当に当たるの?」「精度はどれくらいなの?」と思い浮かべるでしょう。結論からいうと、現在の技術ではAIを使って適量生産を行うことは非常に難しいです。
まずAIが高い予測精度を出すためには、以下のような条件を満たす必要があります。
- 大量のデータがあること
- データフォーマットが統一されていること
- 想定外の外的要因がないこと
1番の問題は、「想定外の外的要因がないこと」です。他の条件としてある通り、AIを活用するためには大量のデータが必要になりますが、アパレルは以下のような外的要因により売上が大きく左右されます。
- その日の天気
- インフルエンサーやTVによって商品が紹介される
- 競合店が値下げ/欠品
- 感染症 etc.
上記のような要因は人間にも予測ができない突発的に起こる事象であるため、データが存在しません。そのため、現在のAIはこうした外的要因までも予測に反映させる技術水準には達していないのです。
AIを活用する際の注意点
上記で解説した通り、AIを活用した需要予測は難しいという現状があります。しかし、AIを取り入れたシステムは日々リリースされており、AIとうまく付き合うことができれば非常に大きな武器になります。
そこで、AIを活用する際の注意点を2つ解説します。
1.AIに頼り切らない
そもそも現時点でのAIは、以下のような作業を得意としています。
- 厳格なルールに基づいた単純作業
- 画像や映像、テキストデータの分析
- 過去データを基にした予測
このように、AIはインプットされたデータを基にした作業や予測を得意としているため、外的要因に左右されやすいアパレル業界においては、AIに頼り切らないということが重要になります。
ここで、FULL KAITENを導入して欠品率を下げながら在庫回転率を向上させた、株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)事業部長 坪井様の言葉を引用します。
Q.AIに任せる部分と人間に任せる部分の線引きで気をつけていることは何でしょうか?
GDOが欠品率を下げ在庫回転率を上げた秘訣は「マインドセットとPDCA」
坪井氏:AIに関しては、100%の精度を求めないということが大事です。弊社では8割ぐらいをAIに頼り、最終的な判断は人が行っています。
AIのメリットは、人がジャッジするまでの時間を短縮できる部分と感覚ではないロジックに基づいた判断ができる部分のため、AIと上手く共存をする使い方が良いと思っています。
上記にある通り、AIが得意とするデータ出しや分析まではAIに頼り、その情報を基に人間が最終判断を行うという棲み分けが必要だと言えるでしょう。
2.AI人材の育成
AIを活用する上では、正しい知識と活用するためのスキルを持ったAI人材を育成することが重要です。
AI人材とは以下のようなスキルを持った人間を指します。
- プログラミングスキル
- AIを導入する現場の理解と課題特定スキル
- 統計解析スキル
- AIからのアウトプットを活用した現場の改革推進スキル
昨今DX化が求められていることから、岸田政権が「リスキリング(※)」支援に5年間で1兆円の予算を投じることが話題になりましたが、AI活用においても会社として人材育成に投資をしていくことが求められます。
※業務を行う上で新たに必要なスキルを習得したり、更なるスキルアップをすること
小売でもリスキリングが絶対に必要な理由を解説した記事はこちら>
アパレル業界のAI活用事例
では、アパレル業界でのAI活用事例をご紹介します。
ナノユニバース(チャットボット)
ナノユニバース株式会社では、株式会社空色の「OK SKY」と有人対応を組み合わせて、お客様からの問い合わせに24時間即時対応するチャットスタッフを導入しています。
電話での対応が難しかった深夜帯のユーザーに対しても応対できるようになったことで、人的コストの削減や顧客満足度の向上が可能になり、売上20%以上アップにつながりました。
参考:https://store.nanouniverse.jp/feature/nu-chat/
https://ecnomikata.com/ecnews/15008/
TIS(AI骨格診断サービス)
TIS株式会社では、ファッション関連プラットフォーム「NIAiNO(ニアイノ)」のサービス群の一つとして、骨格診断の第一人者である二神弓子氏初認定の「AI骨格診断サービス」を提供しています。
「AI骨格診断サービス」を活用することで、お客様の手や体のパーツの画像をAIに判定させ、骨格タイプに合ったファッションコーディネートの提案が可能になります。
参考:https://www.tis.co.jp/news/2020/tis_news/20201001_1.html
大塚商会(顔認証システム)
大塚商会では、非購買層へのマーケティングを実現する「FieldAnalyst」を提供しています。
「FieldAnalyst」では、店舗に設置されたカメラ画像を解析して、入店者数のカウントや年齢や性別などの属性分析、売り場の滞在時間を測定します。
これにより、今まで難しかった非購買層に関するデータ収集や分析が可能になります。
参考:https://www.otsuka-shokai.co.jp/erpnavi/product/fieldanalyst/?02=82_tab
FULL KAITEN(在庫分析システム)
フルカイテン株式会社が提供する「FULL KAITEN」は売上データ/在庫データ/商品マスタを基にEC・店舗・倉庫、全ての在庫をAIを用いて予測・分析します。
すでに実績のある期中の実売データを活用することで、可能な限り外的要因による影響を取り込んだ状態で予測を行います。
これにより、直近の売上に対して早めに手を打つことが可能となるため、余計な値引きの抑制や販売施策に活かすことができ、売上・粗利を最大化を可能にします。
まとめ
- オムニチャネルやOMOの浸透、人手不足、環境問題などに対応するためにアパレル業界ではAI活用が進んでいる
- 想定外の外的要因を予測に反映させる技術水準には達していないため、現時点でのAIを使った需要予測は難しい
- AIを活用する際はAIに任せる部分と人間に任せる部分の線引きを行い、AIに頼りすぎないようにする
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