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ロングテール逆張り! 商品数(SKU)削減・値上げしても良いことづくめの家具ECの話

様々な顧客を取り込むために販売数が小さい商品も含め幅広く取り揃える「ロングテール」は、ECだからこそ為せる業であり、売上増加の王道とされている。しかし、取り扱い商品の種類(SKU)を半分近く減らしたうえに値上げするという“逆張り”経営で、売上高は維持しつつ利益は2倍超になっている家具ECがある。Re:CENO(リセノ)だ。値上げと商品絞り込みにもかかわらず客離れは起きず、むしろブランドイメージが統一されて顧客からの支持が強まった。財布の紐が固くなるアフターコロナの世界におけるECのあり方に一石を投じる取り組みとして注目される。

アジア系インテリアへの思い入れから起業

リセノのウェブサイトを開くと、白とベージュを基調とした落ち着いた雰囲気のトップページが出迎えてくれる。自然ななかにも完成度の高さをうかがわせるナチュラルビンテージにブランド感が統一されている。

リセノは京都市中京区に本社を置く株式会社Flavor(フレーバー)が運営する。ECサイトのほか東京と京都に実店舗を1カ所ずつ持つ。共同創業者の山本哲也代表が起業前に勤めていたアパレル企業で担当したアジアンインテリア雑貨ブランド「The Cenozoic(ザ・セノゾイック)」に強い思い入れがあり、リターンの「Re:」を付けて「Re:CENO」としたという。

セノゾイックは売上高が20億円前後あるブランドで、全国に約20店舗を展開。アジアン系のインテリア、服飾、ファッション雑貨を扱っていた。新宿やポルタ(京都駅地下街)、心斎橋などの一等地に100坪くらいの売り場を出す業態で、2000年代のアジアブームで業容を拡大。ただ、ブームが去って採算が悪化し、事業から撤退した。
山本氏は5年ほど働き、店長まで務めていただけに、そのコンセプトを復活させたかったという。

ホームページ制作会社でウェブサイト運営について学び、2008年に現在の役員2人とともに創業。当初はソファから扱い、普及し始めたばかりの「ドロップシッピング」のビジネスモデルを採用した。
家具は前職から取り扱いの経験があり趣味でもあったことから、創業当初は「やっていて本当に楽しかった」。100万円くらいで始まった月商も仕入先と販路を開拓して1年後には1000万円へ一気に伸びたという。

過剰在庫で「危なっかしかった」薄利多売の時代

一般的に、小売業を始めると、売上が急成長した時には在庫を増やしたり在庫管理がおろそかになったりして、売れているのにキャッシュフローが追い付かなくなるというケースが少なくない。
Zaikology Newsを運営するフルカイテン株式会社の創業者・瀬川もEC時代に倒産危機の憂き目を3度も経験している(詳しくはこちら)。

フレーバーもよく似た事態に陥った。委託在庫もあり、在庫をフルに持っているわけではなかったが、海外からコンテナで大量に仕入れていた時期があり、「薄利多売」の極みだったという。5年ほど前のことだ。
1SKUで500個ほど売れる商品もあり、千葉にあるメインの倉庫に保管していた。テレビボードは1SKUで1000枚も在庫を持ったこともあって、倉庫代だけで月に数百万円が消えていった。山本氏は「売上は増えていたが、かなり危なっかしかった」と振り返る。

売上高のピークは2016年9月期で、20億円を突破。“ヤマトショック”により運送費が高くなる前だったこともあり、引っ越しシーズンの2~3月は残業残業の毎日。文字通り薄利多売だった。
その後、徐々に売れなくなっていき、翌期には売上高が急減。売っても売っても利益が残らず、「薄利多売の限界を感じたときだった」。

もちろん、山本氏をはじめ経営陣は手をこまねいていたわけではない。手探り状態ながらもメーカーと二人三脚でオリジナルブランドを模索し始めていた。
オリジナルブランドの商品はセレクト品よりも粗利率が高い。現在は売上の4割以上を占め、粗利ベースでは半分、多い時で6割に上るまでになった。

さらに2018年末にはオウンドメディア「Re:CENO Mag」を始めた。「(オウンドメディアの)ブログを見て商品は分かっている。手触りを確認しに来た」という来店客もいた。
山本氏は衝撃を受けたという。「体感してもらえれば売れる。情報とともにモノの良さを伝えて売れば、単価が高くても納得して買ってもらえる」。今ではブログは週3回更新し、新作を売り出す際は不定期に記事を公開している。

現在1歳1カ月の長男を抱く山本氏(2019年10月に社内で行われた撮影会で)

SKU削減し値上げ…売上横ばいでも利益は倍増

そして、今期からは大手ECモールとの戦いを見据え、「ロングテール」の逆張りに打って出た。

まずは選択と集中。それまでは1つの店であらゆる商品を売ろうとしていたが、ブランドイメージを統一するため、自分たちが好きになれない商品は扱わないようにしたという。
狙いは、客層を「ナチュラルビンテージといえばリセノへ行こう」というお客へ絞り込むこと。その分野でナンバーワン、オンリーワンを目指した。

次にSKUの削減だ。対象はほぼセレクト品で、2020年1月にソファで実験。400SKUを減らした。
蓋を開けてみれば売上は落ちなかった。逆にサイト、売り場の制作コストは減少。お客からは「あの商品はないのか」といった問い合わせが若干あっただけだったという。
「商品数を半分削っても、売上は大きく減らないという事がはっきり分かった。しかも、自分たちが良いと思って推している商品がよく売れたので、ロジカルに判断ができた」と山本氏。5月の大型連休明けから他の商品でもSKU削減を順次進めている。

また、今期はセレクト品も含め値上げに踏み切り、オリジナルブランドの比率を上げた。その結果、全体の粗利率は前期と比べ約5ポイント改善。売上個数(受注数)は4割減ったが、売上や粗利は変わっていない。
むしろ個数が減ったことで販管費が減少し、営業利益は上半期(2019年10月~20年3月)で前年同期比2.3倍に急増した。20年9月期通期では売上高は前期比微減の17億円で着地する見込みだという。

「安くなくてもいいんだ、というお客さまからのメッセージだと受け止めた」と山本氏。今後、飢餓感マーケティングを念頭に置いていくという。「欧米では、モノに自信を持って売っている。フェラーリは変えないから価値がある。日本でいうと任天堂のやり方。ジャパネットたかたも商品数を絞って商売している」と言い切る。
 
これらは、日本ネット経済新聞に取り上げられ、小さからぬ反響を呼んだ。
https://modify.netkeizai.com/articles/detail/443

こうした変化もあり、ここ1年は調子が良いリセノ。ただ、競合は多く、山本氏は「ベター」にとどまっていると考えている。利益のベースをより高め、給与面も含めた従業員満足度でベターから「ベスト」にするのが当面の目標だ。

「2030年問題」はすぐ目の前に

国内市場をみれば、人口の3分の1が高齢者になり、実需を支える生産年齢人口が激減する2030年がわずか10年後に迫る。市場のパイ全体が縮小する中で大量生産・大量消費を前提にした価格競争においては資本力が勝負を左右するのは自明の理であり、特にアパレル産業は価格以外の付加価値を打ち出せなければ生き残れないと筆者は考える。

さらに新型コロナウイルスの感染拡大の影響で需要の“蒸発”が起こり、終息後は全く違う世界になるとみる分析は多い。コロナ危機によって「2030年問題」がすぐ目の前の課題になったといえるだろう。(南昇平)

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代表取締役・瀬川が語る
アパレル業界の
縮小する国内市場で
勝ち抜く粗利経営