Z世代と考える|サーキュラーエコノミーとアパレルの未来【セミナーレポート】
2023/11/30 (木)に、オンラインセミナー「Z世代と考える|サーキュラーエコノミーとアパレルの未来」を開催いたしました。
当日ご参加いただきました皆様に、御礼申し上げます。
セミナーではサーキュラーエコノミー研究の第一人者である、安居昭博氏にサーキュラーエコノミーの基礎から導入事例までをご解説いただきました。
安居 昭博 氏|サーキュラーエコノミー研究家
1988年生まれ。Circular Initiatives&Partners代表。世界経済フォーラムGlobal Future Council on Japanメンバー。ドイツ・キール大学「Sustainability, Society and the Environment」修士課程卒業。企業や自治体にてアドバイザーを務め、資源循環の仕組みづくりを進める。日本におけるサーキュラーエコノミー実践と理論の普及が高く評価され、「青年版国民栄誉賞(TOYP2021)」にて「内閣総理大臣奨励賞(グランプリ)」受賞。著書に「サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル(学芸出版社)」
近藤 美羽|フルカイテン株式会社 マーケティング インターン
2002年生まれ。高校での授業をきっかけに環境問題に関心を持ち、政策やビジネスによる具体的な解決策を探りたいとの想いから、環境分野で世界をリードするオランダの大学へ進学。「世界の大量廃棄問題を解決する」というミッションに惹かれ、2023年4月よりフルカイテンでインターンを行う。
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【お役立ち資料】安居昭博氏に聞く|アパレル業界におけるサーキュラーエコノミー実践への鍵
新しい経済の仕組み|サーキュラーエコノミー
安居氏:サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは、廃棄物として捨てられている材料や製品を「資源」として捉え直して活用し、循環させる新しい経済の仕組みのことです。
下の図は、リニアエコノミー、3R*エコノミー、サーキュラーエコノミーをそれぞれ表しています。
リニアエコノミー(上図参照)は、大量生産・大量廃棄をベースとした現在の経済システムになります。「資源を取って(take)」→「作って(make)」→「使って(use)」→「捨てる(dispose)」という、資源の流れが直線的で一方通行であることから、リニアエコノミー(線型経済)と呼ばれています。
一方、サーキュラーエコノミーは一番右の図で示されています。ここでご注目いただきたいのが、リニアエコノミーの図と見比べると黒の「捨てる」という項目がなくなっている点です。サーキュラーエコノミーでは、企業が事業を計画したり、国や自治体が政策を決める際、初めの段階から廃棄が出ない仕組み作りが行われます。これがサーキュラーエコノミーの最大の特徴です。
私が最も頻繁にいただく質問として、「3R(リデュース・リユース・リサイクル)とサーキュラーエコノミーの違いは何か」というものがあります。しかし、先ほどの図の真ん中をご覧いただくとわかるように、3Rエコノミーはあくまで左のリニアエコノミーがベースとなって形作られた仕組みです。
つまり、リサイクルやアップサイクルでは、ビジネスモデルや商品の設計の時点では、大量生産・大量廃棄モデルのように捨てることが前提になっており、その中で商品の延命措置としてリサイクル・アップサイクルが行われています。
このように、3Rエコノミーはリニアエコノミーの中で廃棄物の一部を再利用することを目指していますが、サーキュラーエコノミーは廃棄物の全てを資源として再利用すること(=ゼロ・ウェイスト)を設計段階から目指しており、両者はこの点で大きく異なります。
では、廃棄が出ない仕組みとはどのようなものでしょうか。例えば、オランダのマッドジーンズという企業が開発したジーンズは世界初のサーキュラーエコノミー型のジーンズとして広く知られています。
マッドジーンズでは、ジーンズのサブスクリプションサービスを展開しており、利用者は月額制でジーンズを借りることができます。1年間利用すると、そのジーンズを引き取るか、返却して新しいジーンズと交換するかを選ぶことができます。
引き取った後も、破れたり履けなくなったりした場合は企業に返却することができるため、生産されたジーンズは最終的にすべて企業のもとに返ってくる仕組みになっています。
企業に回収されたジーンズは新しいジーンズとして息吹が吹き込まれます。さらに、ジーンズは元から再利用できるようにデザインされており、繊維に戻しやすいように単一の素材を使用する、ファスナーより修理・再利用がしやすいボタンを採用するなどの工夫がなされています。
マッドジーンズの例からわかるように、サーキュラーエコノミーでは、利用者に商品を捨てさせないビジネスモデル、そして回収した商品を再利用するためのプロダクト設計を行うことで、廃棄が出ない仕組みを実現しています。
サーキュラーエコノミーの事例は以下の記事でも詳しくご紹介しています。
サーキュラーエコノミーと世界の動向
欧州のサーキュラーエコノミー政策
サーキュラーエコノミーは主に欧州委員会(EU)で進められている政策です。以下は、近年のEUにおけるサーキュラーエコノミー政策の動向になります。
サーキュラーエコノミーという言葉が初めて登場したのは、2015年の循環型経済行動計画に含まれている「サーキュラーエコノミーパッケージ」で、サーキュラーエコノミーを2030年に向けた成長戦略の核とし、具体的な数値目標やアクションプランが打ち出されました。
さらに、2020年には新循環型経済行動計画が採択され、EU市場の製品への法的規制強化の予定が発表されました。具体的には、長期間の使用やリユース・リペア・リサイクルが可能な設計であることや規定の比率以上のリサイクル材を使用することなどが含まれます。
特に、欧州委員会(EU)が提唱した「修理する権利」は大きな注目を集めました。修理する権利とは、パソコンやスマートフォン、自動車など、買った製品をメーカーに通さず、消費者自身で修理できるようにすることです。
製品の修理は通常メーカー側が行うか、修理業者が指定されているため、他のメーカーや消費者が修理を行うことは難しいのが現状です。このため、メーカーに競争相手がおらず、修理費用を自由に設定できることから、修理費が高騰しています。これにより、「修理するより買った方が安い」ことが頻繁に起こり、多くの廃棄を生み出していると言われています。
このような現状を受けて、欧州委員会(EU)は消費者の「修理する権利」を認めることで、消費者の権利を強化するとともに廃棄を減らすことを目指しています。
これらの政策には、「修理する権利が守られ、環境に配慮された設計になっていなければ、将来的にEU圏内でビジネスが続けられなくなる」というメッセージが込められているでしょう。
【お役立ち資料】安居昭博氏に聞く|アパレル業界におけるサーキュラーエコノミー実践への鍵
なぜ今サーキュラーエコノミーが注目されるのか
サーキュラーエコノミーは主に欧州諸国で進められている方針でしたが、近年では欧州諸国に止まらず、多くの国々から注目を集めています。
これには、主に以下の3つの要因があると考えられます。
- 社会情勢の不安定化によるサプライチェーンリスクの上昇
- 世界的人口増加による枯渇性資源の調達リスク
- 従来型ビジネスモデルの行き詰まり
まず、新型コロナウィルス、ウクライナ侵攻、中東情勢の悪化などをはじめとして、海外からのモノの調達が不安定化、また将来に向けた不透明化が注目される理由の一つとして挙げられます。このようにサプライチェーンリスクが増大している背景から、国内での資源をフルに活用できる仕組みを整え、サーキュラーエコノミー化を進めることが長期的にリスク削減につながると考えられています。
さらに、日本では少子高齢化が叫ばれる一方、アフリカや東南アジア諸国を中心として世界的に人口が増加しています。この人口増加に伴い、石油、石炭、レアメタルといった枯渇性資源の調達リスクも高まっています。
加えて、従来型ビジネスモデルの成長の行き詰まりもサーキュラーエコノミーへの期待を高める要因の一つです。
戦後から現在にかけて、経済成長を測る指標として1年間あたりの国内総生産を示すGDPが非常に重んじられてきました。そのため、現代の私たちの経済や社会の仕組みは、短期に偏ったモデルに仕上がっていると言われています。
しかし、新型コロナウィルスやウクライナ侵攻によるサプライチェーンや市場への影響からも明らかなように、昨今の変化の早い不確実な社会に振り回され、短期的な利益や成長に重きを置いたビジネスモデルを持つ企業の成長は行き詰まっているのが現状です。
つまり、これからの変化の激しい時代では、短期的な経済成長は必ずしも長期的な経済成長にはつながらないのです。そこで、サーキュラーエコノミーの導入によって長期的な視点を取り入れることで、短期に寄りすぎてしまった仕組みを短期と長期のバランスの取れた仕組みに再構成していこうという風潮が高まっています。
このように、サーキュラーエコノミー型のビジネスモデルの実践により、サプライチェーンリスクが軽減できたり、コストを長期的に削減することができるなど、長期的に安定した利益を上げ続けられるのではないかという考えが広まったことで、サーキュラーエコノミーへの各国の関心・評価が年々高まっているのです。
アパレルにおける循環型ビジネスモデルを考える
サーキュラーエコノミーの導入についてアパレル企業の方々からご相談いただく質問の一つに、生分解性素材の開発・導入を進めれば十分か、というものがあります。
しかし、下の図をご覧いただくとわかるように、素材選びというのは川上のほんの一部の工程でしかありません。サーキュラーエコノミーで重要なのは、誰がどこでどのように製品を回収して再資源化し、川下から川上に戻せるか、という部分です。
そのような観点で考えると、川上の素材選びだけでは十分ではなく、川下も含めた全体での新しい仕組みづくり、そしてビジネスモデルの再構築がサーキュラーエコノミーの実践では欠かせません。
では、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルを形作るにはどのようにしたらよいのでしょうか。よく参照される図として、以下のバタフライダイアグラムがあります。バタフライダイアグラムは、サーキュラーエコノミーへの移行を進める際に、優先度の高いアプローチを決定するのに役立つ図解として知られています。
図の中央上部から下への矢印では、資源を投入し、製造会社やサービス提供会社を通して、製品が消費者に渡り、使用後には焼却・埋め立て処分される、というリニアエコノミーの一連の流れ※が示されています。
※リニアエコノミーの一連の流れとは、「資源を取って(take)」→「作って(make)」→「使って(use)」→「捨てる(dispose)」のこと
一方、サーキュラーエコノミーでは、資源が投入される前に新しい資源の投入量を最低限に抑えるリデュースを行います。その後、製造・加工され利用者の手に渡った製品をどのように上部のいずれかの工程(加工、製造、サービス)に戻すかが検討されます。
戻す際のアプローチは技術系サイクル(図右側)と生態系サイクル(図左側)に分けられます。技術系サイクルでは、それぞれの工程に戻すための技術的なアプローチ(リサイクル、リユースなど)が示される一方、左の生態系サイクルでは再生可能資材を循環させる方法が表されています。
この際、戻す時の輪が小さければ小さいほど、環境と経済の両面にとってメリットが大きいことが分かっており、優先度の高いアプローチとして知られています。
例えば、1番外側の大きな輪のリサイクルだと、 リサイクルを行うための工場が必要となり、製品の運搬や工場での工程でエネルギーが発生する上、余計なコストがかかってしまいます。しかし、リサイクルよりも内側にあるリユースであれば、リサイクル工場は必要なく、工場での無駄なエネルギーやコストが発生することはありません。また、そのさらに内側にあるのが修理(リペア)やメンテナンスをして使い続けることです。
EUがサーキュラーエコノミー推進のために、市民に修理する権利を与えているのはこういった理論的背景もあります。このように、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルを導入する際は、優先順位をつけて効果的なモデルから取り組んでいくことが非常に重要です。
では、環境と経済の両面で効果のあるモデルとは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。以下にて、アパレル企業の事例を用いてご紹介します。
【お役立ち資料】】アパレル業界におけるサーキュラーエコノミー実践への鍵
廃棄生地削減と良質な労働環境を実現|コトパクシ
不要な資源を削減するリデュースの例として挙げられるのが、ネクストパタゴニアのコトパクシです。
上の図からもわかるように、コトパクシでは同じモデルのカバンがさまざまな色で作られています。これは、製造する際に現場の意思決定権や裁量が広くとられており、製品に使用する布などの材料が現場に委ねられているためです。
通常、カラフルなデザインの製品を製造すると、デザイン上必要だけれど少しの量しか使用しない生地が大量に余ってしまいます。しかし、デザインの形だけが決まっていて、色の組み合わせは現場の裁量権を広く取ることで、廃棄になってしまう生地の量を減らすことができます。
服の金継ぎ!修理で付加価値をつける Mittan
また、海外だけでなく、日本にも優れた事例が多く存在します。Mittanは大麻繊維や草木染めの商品を扱う京都のアパレルブランドで、修理によって製品の可能性を広げています。
Mittanでは、着古した商品をMittanに返却すると元値の20%で買い取るサービスを行っており、例えば2万円で購入した商品であれば4000円で買い取ってくれます。さらに、Mittanは買い取った商品の染め直しや縫製などの修繕を行い、再販を行います。
修繕する際は単に新品のように元に戻すのではなく、その服の個性を生かして修復されるため、一点モノとして元の商品より高い価格帯で販売されます。
例えば、藍染めシャツであれば、単に同じ藍で染めるのではなく、くるみやよもぎなどで染めたり、ほつれた部分を直すだけでなくステッチを入れるなど、その服がよりかっこよくなるように個性に合わせて手を加えます。
Mittanにはこのような優れた修繕技術をもつ職人が多く在籍しており、このような修繕が施されることによって、唯一無二のビンテージ商品となり、高い付加価値がつくためより高値で販売されるのです。
サーキュラーエコノミーを導入し、回収や修理などを行うと手間やコストが余計にかかると思われた方も多いと思いますが、やり方によっては金継ぎのように新しい価値の創造につながります。このような点で、Mittanからは学べるこtは非常に多いなと感じております。
京都信用金庫の古着回収と循環フェス
別の分野の団体どうしが協力することによる可能性を感じられるのが、京都信用金庫の古着回収の事例です。
京都信用金庫は、古着屋を多数保有するヒューマンフォーラムと提携し、全支店に古着の回収ボックスを設置しています。これにより、初めは銀行口座の開設や保険の契約で来られたお客さんが、銀行が古着回収を行っていることを知り、今までは捨ててしまっていた服を銀行に持ってくるという流れができています。
回収された古着は状態やブランドの有無などに応じて仕分けされ、国内外でリサイクル・リユースされます。古着の行き先の一つとして挙げられるのが、京都で定期開催されている循環フェスです。
循環フェスの中では0円マーケットというイベントがあるのですが、下の写真のように、京都信用金庫などから回収された古着がラックにずらっと並び、利用者は自分の着なくなった服と交換することで、ラックの服を「購入」します。
例えば、ラックの中で欲しい服が3着あった場合、自分の古着を3着ラックにかければ、欲しい服を持ち帰れるということです。
この循環フェスは、開場前から会場をぐるりと取り囲む行列ができるほど大盛況で、2022年11月に開催されたフェスでは、1日で5000着以上の衣類が回収され、約2000着が持ち帰られました。また、古着だけでなく、さまざま自転車や羽毛布団、おもちゃなどの回収も行っており、さらなる広がりを見せています。
この事例からもわかるように、資源循環の仕組みを整えることで、環境に良いのはもちろんのこと、人が集う場所になり、新しいコミュニティが形成されるなど、経済合理性を超えたさまざまなベネフィットが生まれています。経済合理性だけでなく、環境や人々の幸福度など多角的な視点から物事を評価することが、サーキュラーエコノミーに取り組む上で非常に重要です。
課題が新たな可能性に|サーキュラーエコノミーから見える世界
最後に、こちらの写真を紹介して終わりたいと思います。これは「森、道、市場2023」という音楽イベントで撮影された写真なのですが、人だかりができているのは音楽ステージではなく、生ゴミを集めるコンポストステーションです。
音楽フェスでは多くの人が集まり、その分ゴミも多く出てしまうのが年々問題となっていました。そこで、「森、道、市場2023」では、ゴミ問題をエンタメ化することで来場者・出店者を巻き込み、この問題にアプローチしました。
この生ゴミステーションの広告塔となったのが、写真中央の茅葺屋根です。茅葺屋根は土に還る素材で作られており、また分解することで再利用も可能な構造になっていることで、この屋根自体がこの取り組みを体現するものとなっています。
さらに、イベントの開催期間中に屋根が出来上がるという仕掛けを作ったり、来場者も屋根作りに参加してもらうイベントを行うことで、自然とゴミステーションに人が集まる仕組みができていました。
生ゴミステーションは本来ならこれほどの人が集まる場所ではないでしょう。しかし、さまざまな仕掛けを行うことで人が集まってきます。実際、このイベントでは来場者は4万600人と前年比20%増えたのにもかかわらず、ゴミは1.6トンも削減することができました。
この例からもわかるように、サーキュラーエコノミーは「何かやらなきゃいけない」という義務感よりも、むしろやった方が新しい楽しみや豊かさにつながる、となるような発想を生み出すことが大切です。また、サーキュラーエコノミーはヨーロッパで生まれた概念ですが、それをそのままコピーするのではなくて、アイディアは学びつつも、どの形が日本にあっているのかを探っていくことで、より人々や環境に寄り添った取り組みができるでしょう。
こういったサーキュラーエコノミーの成功例が、まさにこの写真一枚に凝縮されているなと私は感じています。
サーキュラーエコノミーの眼鏡をかけると、地域であったり企業の課題がむしろ可能性に、そして悩みの種であった廃材がむしろ宝のような資源に見えてきます。世の中をサーキュラーエコノミーという観点から少し肩の力を抜いて眺めてみることで、今抱えている課題のなかに何か新しい可能性や面白さが見えてくるかもしれません。
本日のお話がみなさまにとってヒントや気づきになれば幸いです。ありがとうございました。
対談|安居 昭博氏×フルカイテン近藤
近藤:ご講演ありがとうございました。環境問題の課題解決というと、何かを我慢しなくてはならないといったようなネガティブな印象がついて回りがちですが、今回のご講演を聞いて、サーキュラーエコノミーの実現は「我慢」が必要な苦しいものではなく、新しい生活スタイルや消費のあり方を探求するクリエイティブで楽しいものなのだなと感じました。
サーキュラーエコノミーの導入はとても魅力的な一方で、現在の社会はまだリニアエコノミーがベースとなっているため、消費者の需要や習慣などを考えると企業としては導入がしにくいという面があると思うのですが、その点についてはどうお考えでしょうか。
安居氏:日本でもヨーロッパでも、いきなり全部の企業の事業やビジネスモデルをサーキュラーにするのはなかなか難しいです。また、既存の事業をサーキュラー化するよりも、新しくサーキュラー事業を始めた方が早くて質の高いサービス・プロダクトができるとも言われています。
ですので、もちろん今あるビジネスを徐々にサーキュラーにしていくという行動はとても大事ですが、新しく挑戦できそうな事業からはじめるというのも一つの選択肢だと思います。
サーキュラーエコノミーは既存のビジネスを否定するものではないので、長期的なコスト・リスクの削減や新しい価値の創出といったサーキュラーエコノミーならではのメリットを生かすことで、企業にとってもプラスになるという側面もあると私は考えています。
近藤:なるほど。従来のリニアエコノミーをベースにしたビジネスモデルだと、服を生産して、そのコストを売上で回収し、消費者は使ったら捨ててしまうので、アパレル企業は服を販売したあとにさらなる利益を作ることはできないですが、服を修理して再販するMittanやマッドジーンズのサブスクリプションなどのように、サーキュラー化によって服を使い続けられる仕組みをつくることで、販売したその先も利益を得ることができるので、企業にとってもプラスかもしれませんね。
安居氏:そうですね。また、先ほど消費者の需要についてのお話がありましたが、この点も消費者の需要がないのではなく、まだ顕在化していないのではないかと考えています。例えば、EUの統計局の発表によると、EUの4億人ほどいる市場の約8割が修理する権利を望んでいるという結果が出ています。
しかし、日本では修理する権利が守られた商品をどれくらいの消費者が支持するのかという具体的なデータが存在していません。では、日本で修理やメンテナンスが望まれていないかというと決してそうではなく、パタゴニアさんなどが開催する修理のワークショップやイベントには実際多くの人々が集まります。
近藤:確かに、消費者のサーキュラー型のサービスやプロダクトへの需要はまだ顕在化していないだけで、実はかなりあるのではないかと私も感じています。
私はオランダの大学に通っているのですが、クロージングスワップという着なくなった服を持ち寄って交換するイベントや、ミシンや裁縫道具を無料で貸し出して自分の服を直すワークショプなどが学生主催で行われています。毎回すごく盛り上がっていて、そのイベントを中心としたコミュニティも形成されています。
参加者自身もとても楽しんでいる様子を見ると、日本でも同様のイベントを開催したら、きっと多くの人が参加するんだろうなと感じます。
安居氏:そういったイベントやスペースが人が交流する場になるのは、まさにおっしゃる通りで、新しい楽しみやコンテンツが生まれるのもサーキュラーエコノミーの1つの魅力だと思います。
近藤:今回ご紹介いただいた事例も含めて、サーキュラーエコノミーの取り組みは、イベントやサービス、プロダクト自体がとても魅力的だなと感じました。その魅力が環境課題に特に興味がない人までも惹きつけて、サーキュラーエコノミーの輪がどんどん広がっているのがとても面白いなと思います。
サーキュラーエコノミーの基本的な考え方から、どのようにビジネスに落とし込んでいくかという具体的なお話まで幅広く伺えて、大変興味深かったです。改めて、ありがとうございました。
【お役立ち資料】】アパレル業界におけるサーキュラーエコノミー実践への鍵