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アパレル最速上場yutoriを徹底解剖|最強D2Cの死角は?!

D2Cを中心にアパレル販売を手掛けるベンチャー企業、yutori(ユトリ)が2023年12月、東証グロース市場に新規上場しました。アパレル企業として創業から最短でのIPO(新規株式公開)となったほか、アパレル企業のIPO自体が久しぶりだったことから、小売業界では大きな話題となりました。

yutoriはなぜ早期に上場できたのか、そして今後の成長性はどうなのか、本記事で考察してみたいと思います。

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収益力の高さで創業から早々と黒字化

yutoriは2018年4月、片石貴展社長が設立しました。それから2023年12月27日に東証グロース市場に株式上場するまで、わずか5年8カ月の歳月しか要しませんでした。アパレル企業としては最短のIPOです。また、アパレル企業のIPO自体が久しぶりの出来事であり、アパレル業界にとって明るいニュースとなりました。

どうしてyutoriはスピード上場できたのでしょうか。同社が新規上場の承認に合わせて開示した有価証券届出書をひも解くと、答えが見えてきます。
まず、創業来の業績を見てみましょう。売上高と経常利益の推移を下グラフにまとめました。

創業した2019年3月期から2023年3月期までの5年間で、売上高は1600万円から24.7億円へ152倍に成長しています。2024年3月期も上半期(4~9月)だけで17.5億円に達しており、通期では35億円を超える見通しです。

一方、利益面では3期目である2021年3月期に早々と経常損益を黒字化させています。2022年3月期の売上高経常利益率は13.8%という高さです。

ただ、2023年3月期は前年の買収に伴うのれん償却や人件費の増加、支払利息の増加が響いて経常赤字となりましたが、売上高は前期の1.5倍となっており、先行投資に伴う“良い赤字”だったと言えるでしょう。実際、2024年3月期も上半期(4~9月)は1.1億円の営業利益および1億円の経常利益を上げています。

財務体質もIPOから急成長を目指すスタートアップ企業としてはかなり健全です。通常、スタートアップは創業から資金調達(増資)に依って投資を継続し、赤字が続いても現金が底をつかないように資金調達(増資・融資)を繰り返します。すると、債務超過まではいかなくとも、繰越利益剰余金が大幅なマイナスとなります(累積損失)。要は累積した赤字が資本金を食い潰す形です。

これに対し、yutoriは4期目の2022年3月期に大きな利益を上げたことで累積損失を一掃してしまいました。2023年3月期は5400万円の赤字となりましたが、繰越利益剰余金は依然プラスを維持しています。

(ちなみに、クラウド会計ソフトベンチャーのfreeeは2023年6月末時点で414億円の累積損失を抱えています。yutoriと同じアパレルのライトオンは赤字が続いたことで2022年8 月期に5億円の累積損失に転落しました)

こうした収益力の高さと健全財政による投資余力の大きさが評価され、スピードIPOが実現したとみられます。

自社EC訪問者数の半数がSNS経由

そんなyutoriは一体どんなビジネスモデルなのでしょうか。キーワードは「SNSマーケティング」と「OMO」です。

片石氏はもともと、古着に特化したInstagramメディア「古着女子」「古着男子」を立ち上げてきました。InstagramをはじめとしたSNSを駆使してこうした古着好きのコミュニティーを盛り上げていくうちにフォロワーが増え続け、インフルエンサーにリポストしてもらうことでZ世代(1997年〜2009年に生まれた世代)の間で人気が拡大していきました。

その後起業したyutoriでは、インスタメディアで育てたコミュニティー向けにストリートファッションブランドをECで展開していきました。ストリート系以外のカテゴリーにも横展開したほか、2023年3月期にはM&Aでブランドを取得し、カテゴリーの多様化を図っています。また、2022年4月から実店舗を出店しています。

そうした出自ですので、特にInstagramやTikTokを利用したマーケティングに力を入れています。

  • ブランド公式アカウント:ブランドの世界観を伝え、新商品の紹介も行う
  • 社内運用個人アカウント:yutoriのSNS担当個人の視点から着用画像・動画を投稿
  • 外部インフルエンサーアカウント:ブランド認知度向上と新規顧客の流入を図る

このようにアカウントを使い分け、フォロワー数をKPIに設定しています。2023年9月の自社ECサイトの訪問者数は50.2万人でしたが、このうち53.2%に当たる26.7万人がSNS経由でした。いかにSNSマーケティングが機能しているかが分かるかと思います。

なお、Instagramのブランド公式アカウント、店舗公式アカウント、社内運用個人アカウントのフォロワー数は計165.4万人(2023年12月末時点)とのことです。

こうしたSNSマーケティングには別の効果もあります。販売開始前に需要の予測と認知拡大が可能になることです。yutoriは2~7月を春夏シーズン、8~1月を秋冬シーズンに設定しており、1シーズンで500万円以上を売り上げた商品をSランクに位置付けます。これらSランク商品に社内リソースを集中的に投下するそうです。

yutoriが運営する「YOUNGER SONG」心斎橋店(筆者撮影)

2つめの特長はOMO(Online Merges with Offline)です。yutoriの場合、そのフローは以下のようにはっきりしています。

SNSマーケティングで集客

自社ECサイトへ誘導

待機ユーザーを実店舗へ送客

※OMOについて詳しくはこちら>

EC注文品の店舗での受け取りやEC在庫の店舗への取り寄せといった物理的なマージにとどまらず、オンラインの行動履歴を活かした顧客とのマンツーマンの接客の質のさらなる向上が今後のカギを握るでしょう。

同社は今後、Y世代(1981年〜1996年生まれの世代)を主なターゲットとしたブランドの立ち上げを計画しています。一からブランドを育てるというよりは、M&Aで既存ブランドを取得し、SNSマーケティングのノウハウを活用して成長させていく青写真を描いており、ここでOMO戦略がますます重要になるのは必至です。

ブランド数増加と在庫効率維持の両立が課題

そんなyutoriに死角はないのでしょうか。本記事が注目するのは、やはり在庫コントロールです。

yutoriはD2C(Direct to Consumer)のビジネスモデルで急成長してきました。自ら企画して生産を発注し、小売店や広告代理店の手を借りずに消費者に届けるD2Cモデルを、yutoriはInstagramやTikTokを駆使することで高速かつ精緻に回転させてきたのです。

矢野経済研究所の「2023 アパレル産業白書」によれば、消費者の年代別の市場規模は次のとおりです。

  • 10~20代:1兆5154億円
  • 10~30代:2兆3963億円

yutoriが成功しているD2C商品の多くはZ世代の顧客による注文です。これだけでは成長に限界があり、同社がY世代向けブランドの立ち上げに動くことは前述のとおりです。

となると、Z世代向け、Y世代向けそれぞれに特色が異なるブランドを多数抱えることになります。片石社長は繊研新聞のインタビュー(2024年1月16日公開記事)で「5年後には70ブランドに増やす」と明言しており、現在の23ブランドの3倍超となる計算です。いくら在庫リスクが比較的小さいD2Cといえど、在庫コントロールは難しくなります。

そこで、yutoriのGMROIと在庫回転率を計算し、2022年3月期と2023年3月期の数字を比較してみました。

※GMROIについてはこちら>

  • GMROI
    • 2022年3月期:7.858
    • 2023年3月期:4.355
  • 在庫回転率
    • 2022年3月期:4.98回転
    • 2023年3月期:3.61回転

GMROI、在庫回転率いずれもアパレル企業としては非常に良好な数字です。ただ、売上の急成長に伴って2023年3月期はいずれも前期比で低下しています。成長期のブランドが実店舗を増やす過程でよく起きる事象とはいえ、どこかの段階で歯止めは必要です。

実際、2022年4月に事業譲渡で取得したブランド「 F-LAGSTUF-F (フラグスタフ)」は販売不振に陥り、2023年3月期に早々と減損処理で6800万円の損失を出しました。今後、SNSマーケティングによる消費者の潜在ニーズの早期把握という既存施策だけでなく、「在庫の質・中身」の分析という次の手が求められるでしょう。

具体的にはヒット商品頼みの構造からの脱却です。yutoriは有価証券届出書で、2023年2~7月シーズンでは500万円以上を売り上げたヒット商品(前出のSランク商品)が全社売上の約2割を占めたと明らかにしています。筆者はこの2割という数字は、Sランク以外の商品に対する販促やマーケティング次第でまだまだ下げられる余地があると考えています。

>参考記事:アパレル企業がパレートの法則(2:8の法則)から脱却する方法~残り8割の商品からもっと利益を生み出すには~

また、アパレル以外の商材を対象にD2C事業を推進することを中長期の経営戦略として掲げています。商材の多様化は売上の安定につながる半面、在庫を粗利益に変えるための在庫分析の重要性が高まります。

とはいえ、yutoriはまだまだ若い会社であり、今後の可能性は無限大です。従業員のおよそ8割は20代で、2023年9月には被雇用者39人にストックオプションを付与するなど、事業成長に向けたインセンティブ向上にも取り組んでいます。

「日本一多くのブランドを保有する会社になるべく、好きな人と好きなことを好きなだけやってまいります」という宣言をホームページに載せている片石社長。ファッションの楽しさを万人に届けるyutoriの今後に期待したいと思います。

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