アパレル企業がパレートの法則(2:8の法則)から脱却する方法~残り8割の商品からもっと利益を生み出すには~
「パレートの法則」をご存知ですか。マーケティングに携わる方なら一度は耳にしたことがあるワードだと思います。
概ね「上位2割が全体の8割に貢献する」ことを表しています。アパレルで言えば、全商品のわずか20%で売上全体の8割を生み出している問題がまさにパレートの法則に当てはまるでしょう。
逆に言えば、残り80%の商品からいかに売上をつくることができるかが、粗利率と営業利益率を大きく左右します。本稿では、「在庫分析」によってパレートの法則を克服する方法論についてみていきます。
「2:8の法則」とも呼ばれるパレートの法則
パレートの法則とは、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレート(1848-1923年)が明らかにしました。
パレートと言えば、経済学における「パレート最適(パレート効率性)」(資源配分を行う際に「誰かの状況を改善しようとすれば、他の誰かの状況を悪化させることになる」、つまり資源が最大限利用されている状態:https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ha/A02883.html)の考え方を導入したことで知られています。
そのパレートは、2割の高所得者に社会全体の富の8割が集中し、8割の低所得者に残りの2割の富が配分される所得分布の不均衡を明らかにしました。これがパレートの法則です。
このニッパチ(2:8)の原理はマーケティングの世界にも援用されています。 「顧客全体の20%に相当する優良顧客が売上全体の8割を占めている」「全商品の20%で売上全体の8割を構成している」というのが好例です。
実際、アパレルの現場では、売上上位の商品に面白いように需要が集中するのが常です。そうした商品は下手すると欠品し、逆に下位80%の商品は売れ残ってしまい、値引き販売や償却(在庫の評価減)を余儀なくされます。
このように、パレートの法則は、いま手もとにある在庫を有効活用して利益とキャッシュフローを最大化したいアパレル企業にとって“目の上のたんこぶ”のような存在なのです。
20%のSKUで粗利総額・売上総額の8割を稼ぐ
次に、パレートの法則がアパレル業界で本当に成り立っていることを客観的な数字でお示ししましょう。
弊社フルカイテンは、弊社が開発するクラウドシステム『FULL KAITEN』を利用中の企業のうち、FULL KAITENバージョン3.0が稼働を開始する前に当たる2020年4~6月期のデータが得られたアパレル・ライフスタイル34社(導入ブランド数:168)を対象に利益構造を調べました。
具体的には、SKU単位の粗利益が大きい順にSKUを並べ、粗利益の累計額が粗利益総額の80%になるSKU数を特定するという作業を繰り返しました。
その結果、34社の平均として、全SKUの上位20.5%のSKUだけで粗利益総額の8割を生み出し、残り79.5%のSKUは粗利益総額の2割を構成しているにすぎないことが判明したのです(下グラフ)。
なお、粗利益総額の8割を生み出すSKU数の割合は、最高の会社が45.1%、最低の会社は0.1%で、中央値は20.4%でした。
上記の分析は粗利益を対象に行いましたが、売上高についてもほぼ同様の結果が得られました。パレートの法則がきれいに成り立つことがビッグデータによって証明されたことになります。
一方、粗利益総額の2割しか生み出していない下位79.5%のSKUは、本来なら得られたはずの粗利益が大きく失われているということになります。具体的には、セール時等における値引きや評価減(残在庫の評価損)が原因です。
※本調査の詳細はこちらのプレスリリースにまとめています。
下位80%のSKUからも粗利を取りながら売ろう
では、アパレル企業がパレートの法則を打破する手立ては無いのでしょうか。実は糸口はあります。
まず、後付けの論理だけで言えば、粗利益総額の2割しか生み出さない下位79.5%のSKUは販売する必要がなく、そもそも発注も仕入れも不要ということになります。
しかし、発注する段階ではどのSKUがよく売れるかを高い精度で予測することは困難です。発注する時期は実売期の半年ほど前であるため中長期の予測になるからです(中長期の需要予測が当たらないことは、ビジネスの世界では常識です)。
このため、多くのSKUを横展開して発注し、過剰な数量を仕入れることになってしまっているのが実情でしょう。
では、79.5%の“無駄な”商品は、アパレル経営における「必要悪」なのでしょうか。本稿はそうした考え方に与しません。下位79.5%のSKUを、売れないからといって値引きして在庫消化を促すのではなく、無駄な値引きを抑えることでもっと粗利益を取りながら消化することができるはずなのです。
そのためのポイントは、次の1つに尽きます。
需要予測つまり仮説に基づく「販売計画」と「期中修正」
具体的に見ていきます。
- 気温変化や連休の並び等から売上のピーク週ができるので、そこでいかに売れ筋が欠品しないよう在庫を積み込むか。もしくはカラー・サイズを揃えた新商品を投入するかという施策をまずはやらなければいけない
- ピーク週でもなく在庫も揃っていないのにキャンペーンをするのではなく、需要がある時期・場所に在庫をしっかりと積み、キャンペーンや販促をかけるのが本来の順番
- 「販売計画」は金額(売上目標)だけで策定するのではなく、売上目標金額を達成するために何を何点売るかまで明確化して初めて販売計画と言える
- 計画は、立てた段階ではあくまで仮説にすぎない。実際の需要が見えてきた時に、いかに変化対応として軌道修正できるかがアパレル経営の神髄である。月別の販売計画に対して週次実績を検証し、シーズン変動を迎えるべきだ
- 商品部は計画を立て、販売部はお客様の購買行動に応じて反応するという動きだと、需要に振り回されてしまう可能性が高い。そうではなく、月次の計画があれば、どれぐらい乖離があるか検証しやすくなるので、週次の修正を加えて次月の販売計画に反映させるということを柔軟に繰り返すようにする
そして、期中修正する際の商品選定には「在庫分析」が欠かせません。2022年9月16日公開の別記事(効果のある在庫分析とは?エクセルでできる方法を3ステップで解説)で詳しく触れていますが、在庫は「売れる商品」と「売れない商品」の単純な二択には分類されません(下図)。
その中間には「元々は売れる商品だったのが何かしらの要因で売れなくなってきた商品」が多く存在するのです。在庫リスクは白黒2色ではなく、グラデーション状になっていると言い換えることも可能です。
前章で触れた、粗利益総額の2割しか生み出さない下位79.5%のSKUのうち一部は、売れる・売れないの中間に位置する商品なのです。こうした商品の存在に期中の早いうちに気付くことで、販売計画の軌道修正が可能になります。
まとめ
- アパレルは「パレートの法則」が成り立つビジネスの典型例
- 下位8割の商品を生かすか殺すかでアパレル経営の生死が分かれる
- 販売計画と実績との乖離をいち早く把握し、値引きを最小限に抑える
パレートの法則で言うところの下位8割の商品は、わざわざ6カ月前に需要を一括予測することで引き起こされています。当初の予測が外れたとしても、実需に合わせて計画を修正し、消費者のために在庫を整え、値下げせずに粗利益を取っていく手法が求められています。
コロナ下で、消費者は価値を見出した商品にはお金を使い、それ以外の商品には見向きもしなくなりました。新型コロナウイルス禍が長引いている今だからこそ、付加価値の高い製品(商品)を値引きを押さえて高く売ることに挑戦することが業種を問わず求められていると言えます。
そして、利益確保のための行き過ぎたコスト削減に頼って逆に仕入れを増やすのではなく、製品の付加価値を高めたうえで限られた在庫を値引きを抑えて高く売ることで粗利益を取らなければ、現金が増えないため従業員の賃金も上げることはできません。
メーカー、商社(OEM・ODM)、卸、小売とつながるサプライチェーン全体が、サプライチェーンの終点である消費者を見据え、製品の付加価値づくりを前提とした価格転嫁に向けて建設的な取り組みに手を携えて臨む必要があるといえそうです。
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