コスト高でも業績を伸ばした鍵は値引き抑制とプロパー強化|セミナーレポート
2023/3/23(木)に、オンラインセミナー「コスト高でも業績を伸ばした鍵は値引き抑制とプロパー強化」を開催いたしました。
当日ご参加いただきました皆様に、御礼申し上げます。
本記事では、弊社取締役COO 宇津木がセミナー内でお伝えした、すぐ実践可能な値引き抑制・プロパー強化のノウハウをご紹介致します。
登壇者:フルカイテン株式会社 取締役COO(宇津木 貴晴)
2019年7月よりフルカイテンに参画。
これまで一貫してBtoB向けSaaS企業に勤務。
セールス、マーケティング、事業戦略などに従事。フルカイテン入社後、ビジネス組織の立ち上げを行い、2020年9月より取締役就任。
SaaSの良いところはお客様と一緒にサービスが進化していけるところ。たくさんの企業に使っていただき、積年の課題である『在庫問題』、ひいては『大量廃棄問題』を解決したい。
余計な値引きを抑制し、プロパー消化率を改善させる方法をまとめた資料はこちら>
業績を伸ばすためにはプロパー販売強化・値引き抑制が鍵
宇津木:まず、なぜ今プロパー販売強化と値引き抑制が重要なのかを様々なデータを基にお伝えします。弊社では上場しているアパレル企業を対象に決算分析をさせて頂いております。
上図が2023年3月〜11月期の各社決算発表を分析した表になります。
顕著だったのが、対象16社中14社で売上が前年同期を上回っており、下回った企業も0.3%~0%減でほぼ横ばいだったことです。
新型コロナウイルスによる行動制限がなくなり来店者数が伸びたため、実店舗の売上が各社非常に好調でした。
上図は2022年3月〜11月の仕入れ額・在庫高・粗利率の各増減を一覧にした表です。対象16社中12社で在庫高が増えており、そのうち9社は2桁増になっています。しかし粗利率は総じて改善しているため、各社値引きやセールを抑制し無駄な在庫消化に走らなかったことがこのデータから伺えます。
このような値引き抑制の傾向は、2023年3月〜5月期から顕著になってきており、この1年間を通して各社定着してきています。実際、しまむらさんでは今まで集客目的で行っていたレジ割引を取りやめた他、チラシでの特価品掲載も前年同期比で3割減らしています。
また三陽商会では2022年2月期までは6期連続で営業赤字に沈んでいましたが、プロパー販売の強化や値引き抑制に力を入れた結果、7期ぶりの黒字化が見えてきています。
※しまむら、三陽商会が粗利改善をしたポイントをまとめた記事はこちら
値引きをやめた「しまむら」に学ぶ粗利改善のポイントとは?
三陽商会がようやく復活…ポイントはプロパー強化と値引き抑制
このようにコロナ渦を経て、各社上場アパレルがプロパー販売強化や値引き抑制を進めている状態ですが、力を入れるべき要因としては大きく2つあります。
余計な値引きを抑制し、プロパー消化率を改善させる方法をまとめた資料はこちら>
今、値引き抑制・プロパー販売強化が必要な理由
1.市場の変化
宇津木:まず一つ目の要因は、市場が変化しているためです。残念ながら日本の国内市場は縮小傾向にあり、2030年には九州の人口と同規模である約1400万人減になると言われています。
ですが市場規模は縮小しているにも関わらず、国内のアパレル供給量は年々増加しているため、非常にアンバランスな状態となっています。
例えば市場が成長・拡大している状況下であれば、顧客の奪い合いも起きにくく、余計な値引きをしなくても売れてくれるため、売上を追えば粗利も一緒に増加していました。
しかし縮小市場で売上増加を目的にシェアの拡大をしようとすると、どうしても値引きが常態化してしまい、過度な価格競争が起きて結果的に粗利の毀損に繋がります。
そのため、このような状況下では、売上よりも粗利を追うべきなのです。
もちろん世界市場を見ると繊維業は今後も拡大傾向が見込まれているため、越境EC等でグローバル展開することも重要です。しかし、そう簡単に世界市場を意識した戦い方に切り替えることは難しいと思うので、今の国内市場でどう戦っていくべきかを意識することも非常に大切になります。
2.消費者の変化
宇津木:もう一つは消費者の変化です。
第2次世界大戦後の復興期に生まれた「ベビーブーマー」や1960年〜79年生まれの「X世代」。1980年〜95年生まれの「Y世代」、1996年以降の「Z世代」と主に4つの世代に分けられますが、この世代による価値観の差異も非常に大きくなってきています。
特にZ世代においては、SDGsを意識している人が多いという意見もあれば、全く見ていないという意見があるなど、同じ世代の中でも様々な意見を持っている人たちが多くいます。
その中で1つ共通している点としては、安ければ買う時代ではなくなっているということです。
皆さん実感している部分はあるかと思いますが、人口が減少したことにより一人一人の税負担が増えているため、可処分所得が減っています。事実、この15年間で1家庭につき月6万2000円も使えるお金が減っているというデータもあり、消費行動自体が希少化してきているのです。
さらに、どうせ買い物するなら良い体験をしたい。良いものを買いたいという考えが増えてきており、1回の買い物に対する期待値は大きくなっています。
つまり、このような期待値に答えられないと選ばれないという状況となっており、生き残るためには消費者が満足できる購買体験を提供できる企業のみとなっています。
消費者が満足できる購買体験を提供するためにはどうすれば良いでしょうか。ここは、商品や店舗販売などの顧客接点に付加価値を付けることが必要になります。
そして顧客接点に付加価値を付けるためには源泉となる粗利が必要になるため、値引き抑制やプロパー販売強化で粗利を増やして顧客接点に投資するという循環を作ることが非常に重要なのです。
よく、縮小市場では価格競争になっても原価率を下げれば良いという考えをお持ちの方がいらっしゃいますが、これは半分正しく半分間違っています。
原価率を下げるためには、どうしても大量発注をする必要があります。大量発注した商品を全て売り切ることができる程の販売力があれば問題ありませんが、現実的には余剰在庫になってしまうことがほとんどでしょう。
余剰在庫になると、売り切るために値引きをせざるを得なくなるため、粗利の毀損が発生します。さらに売れ残ってしまった場合、評価損という形でPLに反映されるため、結果的に粗利を圧迫してしまうことになるのです。
そのため上述の通り、市場や消費行動が変化をしている中では、値引き抑制やプロパー販売を強化して、在庫を効率的に粗利に変える力が必要になってきます。
ではここからは、具体的にどうしたら良いのかをお伝えしていきます。
プロパー販売強化・値引き抑制を行うための考え方
8割のSKUは利益貢献していない?
宇津木:まず、プロパー販売強化と値引き抑制を行うための考え方をお話しします。
FULL KAITENを導入頂いている約200ブランドを対象にSKU数と粗利の関係性を分析したところ、ほとんどのブランドで全SKUの約2割で粗利総額の8割を生み出しているという結果になりました。
そして、送料や保管量は各SKUに等しくかかっているため、8割のSKUを単体で見ると赤字になっています。
しかし、この8割のSKUたちは本当に利益を生み出せない商品なのでしょうか?中には商品力が落ちてしまい、消化が難しい商品もあるかと思いますが、各SKUを分析していくとまだまだ利益に貢献してくれる商品が眠っていることがわかりました。
ではなぜ多くの企業では全SKUの約2割で粗利総額の8割を生み出すような利益構造になっているのか。これはSKU数が多すぎるあまり、各SKUを見切れていないことが1番の要因です。
ですが、値引き抑制とプロパー販売強化を行っていく上では、全SKUの在庫の質を可視化して、8割のSKUから利益をとっていくことが非常に重要になります。
商品は売れる売れないで判断してはいけない
宇津木:商品には鮮度があるため、打ち出す商品を正しく選定して早めに手を打っていく必要があります。そして、正しく商品選定をする上では、商品に対して「売れる」「売れない」の2軸だけで判断してはいけません。
商品が「売れる」「売れない」の間には、中間である元々は売れ筋だった商品が存在します。
元々売れ筋商品だということは売れるポテンシャルがあると考えることができますが、多くの企業では中間の存在に気づけていません。そしてこれらの商品を見逃してしまっているが故に上述した「全SKUの約2割で粗利総額の8割を生み出している」という利益構造になっているのです。
そのため、中間にある商品たちがどういう状態にあるのか評価する必要がありますが、評価するにあたって先行指標という考え方が大切になります。
よく消化率や在庫回転率を見て、商品を評価することが多いかと思いますが、これらは何かアクションをした結果の指標です。消化率を改善しようとした時に、結果である消化率を見ても良い改善はできません。
消化率を改善したい時は、結果が出る前の指標である先行指標に基づいて行動する必要があるのです。
プロパー販売強化・値引き抑制を行う3つのポイント
宇津木:ここまででは、プロパー販売強化・値引き抑制を行うためには「売れる」「売れない」の間に存在する中間在庫を見つけて、手を入れていく必要があるとお話しました。ここからは、中間在庫を見つけるためのポイントをお伝えしていきます。
ポイント1:在庫リスクを可視化する
宇津木:中間在庫を見つける上で、まずは全ての在庫を4つに分類しましょう。
4つに分類することで、「売れる」「売れない」だけではなく、「売れ始めているがまだ十分ではない」「全く売れない訳ではないが、売れなくなってきている」などの状態がわかりやすくなります。
4つに分類する際は、直近2週間程度の販売数から1週間あたりの平均販売数を算出し、販売個数の基準を決めます。そして、基準をもとに以下の4つのような形で分類します。
- 売れている
- 売れ始めている(しかしまだ十分ではない)
- 売れなくなってきた(しかし売れないわけではない)
- 売れていない
もちろん直近の売上を使うため、直近の売上傾向に引っ張られてしまう部分はありますが、消化率や在庫回転率だけを見るより高い精度を保つことができます。
ポイント2:ルールごとに販促をパッケージ化
宇津木:在庫を4つに分類できたら、それぞれの在庫に対してどんなアクションをするか決めます。そしてアクションを実行して、結果を振り返り、修正を加えるというPDCAを回していき、アクションをパッケージ化していきましょう。
ブランドによって値引きしない、在庫移動はしないというルールは存在するため正解はありませんが、色々なお客様とお話しする中で、商品や価格帯が違ったとしても、分類ルールやそれに対する打ち手は下図のような形に集約されると思います。
ポイント3:商品ライフサイクルに沿った戦略的な消化
宇津木:特にシーズン性の高い商品の場合、売れる時期と販売期限が明確に決まっています。そのため、商品ライフサイクル(※)を定義することで、より成果の高いアクションが可能になります。
(※)商品の投入から完売までのプロセス。一般的には、商品の属するシーズン毎に5つのフェーズに定義される。
商品ライフサイクルを定義した後は、各ライフサイクルごとに消化率目標を決めることで、目標未達/達成に応じてアクションを決めることができます。
このように対策をパッケージ化していくことで、スピーディーに手元の在庫を効率よく利益に変えることができるのです。
商品ライフサイクルについては以下の記事で詳しく解説しています。
FULL KAITENで効率的に
宇津木:弊社で提供しているシステム「FULL KAITEN」は、属人化や業務負荷をかけずに小売企業の粗利を最大化させることを提供価値にしております。
FULL KAITENでは、在庫の質を4つに分類し、どの在庫でどの施策を行えば良いか視覚的に考えることが可能になります。AIを活用し販売予測を行っているため、先行指標となる未来の在庫状況がわかることが特徴の1つです。
未来の在庫状況を見ることができるため、プロパー販売強化や値引き抑制するために、どの在庫を使って何をすれば良いかの打ち手を考えやすくなり、粗利を最大化することが可能になります。
Q&A
Q1.シーズンごとの分析は可能か?
宇津木:可能です。シーズンごとや店舗ごと、商品カテゴリごとなど様々な切り口で分析を行うことができ、切り口についてはお客様ごとに設計頂けます。
例えば販売開始年という切り口で、去年の春服だけを対象に分析した場合は、去年の春からキャリーしたものだけを見ることができます。この中で、Bestに分類された在庫があった場合、今年も十分戦力になる商品と考えることができるため、プロパー販売強化を行うというアクションを行っていただけます。
Q2.気温の予測は加味されるか?
宇津木:気温のデータは入れておりません。FULL KAITENでは、お客様の過去2年分の売上データに基づいてSKUごとに販売予測モデルを作成し、プラスで1日1回、前日の売上データを取り込み予測モデルを計算し直しています。
在庫を利益に変えるクラウド『FULL KAITEN』
FULL KAITENでは在庫データを活用して、EC・店舗・倉庫、全ての在庫をAIを用いて予測・分析し、商品力はあるのに眠っている在庫を明らかにします。商品力を可視化することにより、利益を生み出す在庫とその施策を立てることが可能になります。