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値引きをやめた「しまむら」に学ぶ粗利改善のポイントとは?

近頃、円安と原価高騰により小売業は大ダメージを受けています。しかしそんな中、しまむらを筆頭として多くの小売企業が過去最大の営業利益を出しています。そこで弊社独自の視点で小売業を深堀しつつ、無駄な値下げを抑制し利益を上げる方法をご紹介します。

しまむらに学ぶ値引き抑制の重要性

アフターコロナとなり各企業の売上状況は2019年に戻りつつあります。弊社の企画広報である南が、新聞記者を18年勤めた経験を生かして各小売企業の決算レポートをまとめたところ、意外な事実が分かりました。

コロナ下の最優等生はしまむらだった!

以下のグラフは決算レポートを基に、GMROI(商品投下資本粗利益率)の推移を弊社で作成したものです。

横軸は左から右へ向かって期間が累積しており、一番右の「3~2月」は2019年度が2019年3月~2020年2月の1年間を指します。 2022年度は直近で公表されている2022年3~5月期のみとなっています。

まずはファーストリテイリングです。

コロナ禍がアパレル企業の経営を直撃したのは2020年3~5月期からです。

2021年度になってもコロナ禍前(2019年度)には及ばず、3~11月期になってようやく2019年度を上回りました。9月以降、利幅の大きいAW商材が売れた効果とみられます。

続いてしまむらは、2020年度はコロナ禍が始まった直後(3〜5月と3〜8月)こそ2019年を下回りましたが、3〜11月には早くも回復して2019年を超えました。

2021年度になると、一貫して2019年度を上回り、過去3年間で最高の成績となりました。2022年3〜5月も2021年を上回っています。

グラフからわかる通り、コロナ禍の負の影響はわずか半年間しかありません。それどころか在庫効率は一本調子で向上し続けています。

ここで、「しまむらは低価格商品が中心だから、コロナ禍で生活防衛意識が高まった消費者の支持が広がっただけでは?」というツッコミを想起する方もいらっしゃるでしょう。本稿もそれは否定しません。

そこで、低価格帯を得意とする他の会社のGMROIの推移を見てみることにします。ハニーズホールディングスです。

しまむらとの違いは一目瞭然です。ファーストリテイリングと同様に2020年度は2019年度を下回り、2021年度になっても2019年度に追い着くことは叶いませんでした。直近2022年3~5月も2019年3~5月を超えられませんでした。

「低価格帯の会社だからコロナ下でも強い」とは必ずしも言えないことが分かります。

上記結果からわかる通り、コロナ下の最優等生はしまむらと言えるでしょう。事実、しまむらの2022年第1四半期の売上高は前期比4.8%増、営業利益も146億円で1Qとしては過去最高益を記録しています。

ではなぜしまむらは、コロナの影響を抑えて、これほどまで売上・利益を上げることができたのでしょうか。ポイントは大きく2つです。

ポイント1:商品力の強化

まず1点目のポイントは商品力の強化です。

しまむらにはプライベートブランドとオリジナルブランドを合わせて、14のブランドがあります。近年、メーカー製造のナショナルブランドではなく上記ブランドの商品力強化に力を入れており、2023年2月期の決算ではブランド比率は29.8%となりました。

具体的には新商品の開発と既存商品の改善を行っており、特に高価格帯である「CLOSSHI PREMIUM」の拡充をしています。また原材料高騰への対応策として、今後も高価格帯の構成を徐々に上げていくことが発表されています。

また商品力の強化に加え、ホームページとアプリの全面リニューアルを行いました。さらにTikTokやインスタグラム、WebCM「#キンキ25円でCM出演」(※)などのデジタル販促にも力を入れています。拡散力の強化によりオンラインストアとの連動が進んだことが、自社ブランド売上好調の一因となっています。

(※)KinKi KidsのCDデビュー25周年を記念して、契約料25円(税別)でCMに出演して全国のファンと企業に感謝を伝えるキャンペーン

ポイント2:値引き抑制による粗利改善

2点目のポイントは値引き抑制による粗利改善です。

しまむらの決算短信によると、値下高は前年同期比で20.5%、値下率は−2ポイント。粗利益は3.5%増、粗利率は0.2%増となりました。

冬服や春服といった季節商品の適切な在庫コントロールを行い余剰在庫を抑制したことや、売れ筋商品を短期間で追加発注できるように生産体制を強化したことが要因だそうです。

また、今までは集客のためにレジでの割引や特価品を行い、利益率の悪化を招いていました。そのためレジ割引をやめ、チラシの特価品は前年同期比で29.3%減としました。

むやみに値下げしても大丈夫だった時代は終わった

上述した通り、しまむらは値下げ抑制を徹底的に行ったことで粗利を改善しました。これは在庫分析を徹底的に行い、グループを上げて数年かけて取り組んだからこそできた技であるとも言えます。

ですが、ECモールや館に出店をしている場合、各モールや館に合わせてセールを行わなければならないこともあるでしょう。

そのため本章からは、すぐに実践できる粗利を生む値引き抑制の考え方について解説をします。その前に、なぜ今まで通りやっても粗利が改善しないのかについてご説明します。

要因①:市場の縮小

現在、日本の小売市場は縮小の一途を辿っています。内閣府が公表している平成24年版高齢社会白書によれば、毎年30万人前後の人口が減少していき、2048年には1億人を割って9,913万人となる予測が出ています。

出典:内閣府 平成24年版高齢社会白書より引用

また市場縮小により消費額も減っていきます。経済産業省の商業動態統計によれば、小売業販売額は毎年140兆円規模ですが、前年比増減率は次のように推移しています。

  •  2016年:-0.6%
  • 2017年:1.9%
  • 2018年:1.7%
  • 2019年:0.1%
  • 2020年:-3.2%
  • 2021年:1.9%     

  経済産業省_商業動態統計

2020年の大幅なマイナスはコロナ禍によるものです。2021年はその反動でプラス1.9%となりましたが、コロナ前の2019年と比較すると98.6%の水準に過ぎません。

今後コロナ禍が完全に収束したとしても、人口減少・高齢化と相まって、個人消費は2019年をピークに頭打ちになる可能性が高いといえます。つまり、小売業に関しては「市場規模の拡大」は終わったのです。

要因②:大量生産の価値喪失

SDGsのゴール12に「つくる責任・つかう責任」が掲げられているように、従来のビジネスモデルであった大量生産の価値はすでに喪失しています。

戦後〜高度経済成長期は、モノ不足により消費者は物質的な豊かさを求め大量消費がニーズ化しました。このような市場が成長していた時代では、在庫を持てば売上も利益も増える時代だったため、大量生産が価値を生みました。
しかし、一億総中流社会になったことを機に日本はモノ余りの時代になりました。現在の日本は価値観が多様化した時代だと言われますが、それは、モノが世の中に溢れたことにより消費者のニーズが多様化したという意味です。”モノが手元にある”ということがニーズではなくなったということは、大量消費はニーズを失い、大量生産は価値を生まなくなったということです。

低粗利の原因はこれ!

市場が成長期にあり大量生産が価値を生んだ時代には、仕入れた全在庫の商品原価をプロパー販売で回収することができたため、原価回収後の粗利回収フェーズではどれだけ値引きをしても問題はありませんでした。

しかし今は、仕入れた全在庫の商品原価はプロパー販売だけでは回収できず、マークダウン販売も使って回収しています。そのため粗利は減少し、売れ残りも非常に多いため評価損で粗利を失うリスクが年々高まっているのです。

すぐに実践できる!値下げを抑制して粗利改善をする方法

それでは、すぐに実践できる値下げ抑制の仕方をご説明します。
結論からいうと、値下率の付け方を一律ではなく、在庫の評価に応じて変えていきます。

よくある値引率の付け方として、セール時は一律の値引率とし、著しく消化率が悪いものについては感覚でさらに値引きすることがあるかと思います。ですが一律オフにしてしまうと、本来得られたであろう粗利までも失ってしまうことになります。

そのため、在庫の評価に応じて値引率をつけることで、最低限の値下げに抑えることができるのです。

例えば、お手持ちの在庫を優・良・可・不可の4分類にします。この在庫の分類に合わせてあらかじめ値引率を決めていくことで、不要な値引きを抑制することができます

上記はFULL KAITEN導入企業が、実際に在庫リスクに合わせて値引率を変えたことにより粗利が増加した成果事例になります。

こちらの企業の課題は、オフ率をつけるための商品選定の際に担当者の勘所を頼りにしており、さらに時間がかかっていました。

また、休日と平日の客数差が激しかったため、売上トップライン伸長と在庫消化を目的にした「平日タイムセール」を企画。その際、消化をしたい季節商品を対象に、以下のように値引率の基準を決めました。

  • 完売予測日はプロパー消化期限よりもかなり先だが、売上貢献度が高い商品を5%オフ
  • 完売予測日はプロパー消化期限日に近いが、売上貢献度は低い商品を10%
  • 完売予測日はプロパー消化期限よりもかなり先だが、売上貢献度が少し高い商品を10%オフ
  • 完売予測日はプロパー消化期限よりもかなり先であり、売上貢献度も低い商品を10%オフ

このように基準を決めたことにより、在庫を消化しつつ不要な値引きを抑えることができ、粗利金額は前週比122%を達成することができました。

FULL KAITENの4つの商品分類についてはこちら>

日本の市場はすでに縮小が始まっており、むやみに値引きをしても大丈夫であった時代は終わりました。この先を生き残っていくためには、戦略的に値引きを抑制していくことが重要です。

余計な値引きを抑制し、プロパー消化率を改善させる方法についてはこちら>

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