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南充浩note:コロナ危機で注目のバッタ屋はアパレルの“救世主”ではない

Zaikology News的な視点として、新型コロナウィルスの感染拡大によって今回発令された非常事態宣言は非常に大きな事件だといえる。本稿では、アパレル業界と、バッタ屋と呼ばれる在庫処分業者について考えてみたい。(南充浩=フリージャーナリスト)

全国一斉休業は戦後初めての大事件

アパレルの在庫問題としてはもちろんのこと、我が国の社会としても、これだけ全国的に大型商業施設が一斉休業するというのは、第二次世界大戦後初めてのこととなる。過去にもさまざまな災害や事件が起きたが、どれも被害は特定の地域に限定されており、他の地域では商業活動が営まれていた。
そのため、全国の主要商業施設、百貨店は一斉に休業してしまい、衣料品の売上高はネット通販を除いてはゼロになってしまった。

新型コロナウィルスの感染拡大によって3月から百貨店や主要商業施設は営業短縮と週末休業を開始した。4月7日の非常事態宣言、そして16日の全国への適用範囲拡大によって、完全休業となった。

アパレル業界の商流でいえば、1月は正月と冬バーゲンでよく売れるだが、2月はその反動で売れない。2月と8月は昔から「にっぱち」と言って、もっとも服が売れない月として知られている。
3月は春物が本格的に動き、4月も引き続き動く。ゴールデンウィークに突入すると洋服の売れ行きは鈍り始め、5月のゴールデンウィーク終了後は完全に止まってしまう。5月後半と6月は夏のバーゲン待ちで、これまた服の売れない月となる。そのため、5月後半からプレセールが始まるのは、非難する声もあるが、販売側からすると理にかなった売り方でもある。

今年は3月の営業時間の減少、4月の完全休業というのは、アパレルの春物がもっとも好調に動く2か月を完全に棒に振ってしまったといえる。
今のところ、5月のゴールデンウィーク明けから営業が再開される見通しだが、5月のゴールデンウィーク明けは元々洋服が売れない時期なので、そこから売れ行きを挽回させることはほぼ不可能である。またこれだけ売れない(売ることができない)と、秋冬物の仕入れ額や製造額も減らさざるを得ない。

アパレルに残された手段は2つだけ

アパレル各社に残された在庫処分方法は2つしかない。

  • 正規のネット通販で処分する
  • バッタ屋と呼ばれる在庫処分業者に引き取ってもらう

実店舗が営業できない以上、この2つしか手段は残されていない。
ネット通販が強いユニクロ、オンワード、アダストリア、ユナイテッドアローズ、ナノユニバースなどはネット通販で値引きしまくれば、幾分かは在庫処分が可能だろう。しかし、レナウンのように知名度はあってもネット通販に弱いアパレルやブランドではこの手段は望めない。

残るのはバッタ屋に二束三文で引き取ってもらうことしかない。
この状況を受けて、やはりバッタ屋各社には不良在庫の引き取り要請が急増している。メディアにも頻繁に登場するショーイチを経営する山本昌一社長は各メディアへの取材で「在庫の引き取り要請がいつもの3倍くらいに急増している」と話している。メディアに頻繁に登場する分、それだけ知名度も高いから、パッと思いつかれるということだろう。

一方、京阪神で10店舗以上の直営店ラックドゥを運営するドゥラックの今堀陽次社長は「3月から当社への在庫引き取り要請も急増している。新規の問い合わせがバンバン来るようになった」と話す。

しかし、バッタ屋と呼ばれる在庫処分業者にはネックとなる共通した部分がある。それは資本力が小さいことである。ショーイチですら年商13億円内外でしかない。もちろん単価の低い商品を売っているから売上高も小さくなるのだが、だからと言って、資金繰りはそれを容赦してくれない。ドゥラックで2億~3億円規模だと推測される。必然的に買い取れる量には限度があるということになる。

ドゥラックの今堀陽次社長は「さすがにうちのような資本力では、要請されたすべてを買い取ることはできなくなっている。付き合いの長い先を優先するようにしている」という。ショーイチは買い取りには前向きだが、だからと言って年商13億円の会社が無限に買い取ることは不可能だから、どこかで取捨選択することになる。

そして、多くのアパレルやメディアは引き取った跡の処分方法についてはあまり心配していないのだが、実店舗の営業時短や休業によって売れないのはバッタ屋も同様であることを忘れている。

バッタ屋も販路なし…買い取り能力に限界

バッタ屋の主な処分方法は次の4つである。

  1. 他社へ卸売りする
  2. 直営店で売る
  3. ネット通販で売る
  4. 海外へ売る

このうち、ネット通販以外の販路が厳しいことは、正規アパレル各社と同様である。じゃあネット通販はどうかというと、例えば、2020年2月期のオンワードホールディングスの連結決算によると、ネット通販は333億円にまで伸びたと発表されているが、そこまで大きな売上高はバッタ屋各社にはない。何度も繰り返すがショーイチですら年商13億円なのだから、ネット通販は確実にそれ未満だということになる。せいぜい最大でも数億円程度だろう。

そうなると、ネット通販だけで何十万枚、何百万枚の在庫を売りさばくことは到底できない。ショーイチでだいたい100万~150万枚の在庫を抱えていることがすでに各メディアで発表されている。ドゥラックでもだいたい30万枚以上の在庫を抱えているとされている。
だから多く見積もっても2~3億円程度のネット通販でこれだけの在庫を売りさばけないことは、アパレルの商売をしたことがある人なら説明せずともお分かりいただけるのではないかと思う。

引き取り要請が急増し、商材には困らない状況にあるが、資本力の小さい在庫処分各社は一歩舵取りを誤ると即座に倒産してしまう。おまけに正規アパレル各社と同様に販売ができないのだから、バッタ屋が在庫過多で倒産してしまうという笑えない事態も起きかねない。そのあたりの危機が報じられず、正規アパレル各社への状況の認知が広まらないことはかなり危うい状況だと言わねばならない。

正規アパレルと同様に、下手をするとそれ以上にバッタ屋も危機に見舞われているのである。(みなみ・みつひろ)

著者プロフィール
1970年生まれ。繊維業界紙記者としてジーンズ業界のほか紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下まで担当。 退職後は量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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