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大量発注・大量生産に疑問…生地の流通を「売り切り御免」に変える挑戦

生地ひと筋20年。独特の商慣習や、小規模な生地メーカーが多く販売を外部に委託せざるを得ない業界構造などにより、日本の織物産地がどんどん弱体化していく様子に堪えかねた1人の元商社マンが立ち上がった。産地とアパレル企業をつなぐマッチングサイトKIZIARAI(キジアライ)を始めたbird fab studio代表の上羽英行氏は「織物のサプライチェーンを刷新し、生地業界だけでなくアパレル産業全体をより善くしていきたい」と意気込む。

問屋介在をなくし直接マッチング

KIZIARAIは上羽氏が立ち上げたオンラインの仮想“問屋”だ。生地メーカーと、生地を求める商社やOEM事業者、アパレル企業が登録して利用する。
アパレル側がほしい生地の種類や量などの情報を入力すると、全てのメーカーに配信される仕組み。マッチする素材があれば両者間でやりとりが始まる。アパレル側には金額の相場が分かる利点があり、生地メーカーとしては問屋が介在して分業が確立されている従来の流通システムとは違ってアパレルの最新情報が分かるというメリットがある。
生地メーカーの登録は、目的にあわせて無料と有料の2種類を設定。KIZIARAIはサイト利用料を受け取る。

2019年1月の開設以来、生地メーカーは全国の約70社、アパレル企業や商社、OEM事業者は約110社が登録するまでになった。中には芸能プロダクションもあり、インフルエンサーのブランドも素材を探しているという。
特にここ数カ月は、新型コロナウイルス蔓延の影響で中国製素材の生産、出荷がストップしたことから、中国産の生地を使わず、縫製も中国以外の国で行う機運が従来と比べ高まっている。
このため日本産の生地を用いてベトナムやミャンマーで縫製する動きが目立っているという。上羽氏は、ロットの大小を問わずマッチングできることで「オリジナルの生地ならば作って売り切るビジネスモデルなので、在庫が残らない」と意義を語る。

分業化されたサプライチェーンに功罪

出身地の京都府舞鶴市を拠点に全国を飛び回る上羽英行氏

上羽氏は大手生地商社の瀧定大阪(スタイレム)に20年勤務。国内各地の織物産地へ足を運び、生地を買い付けてアパレル企業やOEM事業者に卸してきた。
しかし、次第に大量発注、大量生産の仕組みに疑問を抱くようになっていった。生地メーカーは営業力が弱い会社が多く、アパレル企業などへの販売は問屋(商社)に頼らざるを得ない。自然と中間コストが乗る。

また、生地メーカーは在庫を現金化できるまでの期間が非常に長いことでも常に頭を悩ませている。一般的に糸メーカーは実際に生地の需要が生まれるよりかなり前から糸を仕込む。生地メーカーは糸メーカーに代金を現金で支払わなければならないが、問屋から生地メーカーへは3カ月後の掛け払いとなる。このため生地メーカーは糸メーカーに支払いをしてからおよそ半年後にようやく現金を手にすることができる。

一方の問屋は販売力を背景に、大量発注して生地メーカー各社の生産能力のキャパシティーを押さえるビジネスモデルだった。また、安く仕入れて高く売るために次第に海外へ調達先を求めるようになっていった。
この結果、「国内の織物産地の弱体化を招いた」と上羽氏は自戒を込めて語る。アパレル産業の原材料調達から小売に至るサプライチェーンは半世紀以上にわたり発展した分業が固定化しており、「メリットもあるにはあるが、価格が高くなる」と上羽氏。これに対しKIZIARAIも中間業者ではあるが、サイト利用料をもらう仕組みにして生地メーカーの負担を減らしている。

上記グラフのとおり、国内の織物生産量は年々減っている。アパレル側がコスト抑制のために生地を安く買い付けるため、海外からの調達を増やしたのが原因だ。安い素材を求めるアパレル側の姿勢は自由経済の下では当然だが、多くのブランドが短期間に大量発注する現在のビジネスモデルが定着した結果、流通する衣料品のおよそ半分が一度も着られず処分される業界構造が定着した。商品が大量に余ることを前提に発注しているのだから当たり前といえば当たり前だろう。

このままではアパレルの淘汰は避けられず

そんな上羽氏には、川下のアパレル業界はどのように映っているのだろうか。
「アパレルが儲からないと、生地の産地に波及しない」。レッドオーシャンで利益を落とす企業が増えている現状にもどかしさを感じている。

分業の弊害で、いったん売上が落ち込むと在庫が積み上がり、キャッシュアウトが続くという負のスパイラルから抜け出せないアパレルは多いとみられる。
実際、「マジェスティックレゴン」を展開する株式会社シティーヒルが経営に行き詰まり3月16日、大阪地方裁判所に民事再生手続きを申し立てた。

https://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20200316_01.html

上羽氏は「多くのアパレルは(分業化されたサプライチェーンで)身動きが取れないのではないか。それに比べると新興アパレルは強い。適応できない企業の淘汰は避けられないだろう」とみている。
そうした中、KIZIARAIは新たなプラットフォームを提供しているといえる。生地メーカーはコストをかけずに自らの製品をユーザー(アパレル、OEM事業者、商社)に知ってもらえるし、ユーザーは均一化されていない素材を適量、適時に見つけることができる。

ファッション産業のサプライチェーンにおける川中に位置する生地業界で始まった、脱・大量廃棄に向けた取り組み。消費者を相手にする川下であるアパレル企業にもこの機運が波及することを期待したい。

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