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「新型コロナ倒産」次は靴業界で出てくると考える理由

今週は「マジェスティックレゴン」を展開する株式会社シティーヒル、ファッション雑貨などを手がける英ローラアシュレイ(Laura Ashley)が相次いで経営破綻した。マスメディアによる報道では「新型コロナウイルスの感染拡大の影響」という切り口が多いが、両者ともここ2、3年ずっと経営不振で、新コロを原因とする急激な売り上げの落ち込みは、法的整理を決断させる引き金になったにすぎない。様々な経済活動が止まったままで特に小売業界は厳しい経営環境が続くが、筆者は今後、商品の種類が多い靴業界でメーカーや卸売りが倒れていく恐れがあるとみる。漫然と在庫を積んで値下げで勝負するような業態には茨の道が待っているといえる。

マザウェイズ・ジャパン破産の陰で…

2019年6月30日、ファッション業界に軽い衝撃が走ったのをご記憶の方も多いだろう。都市部のショッピングセンターを中心に子供服販売店motherwaysを運営していたマザウェイズ・ジャパン株式会社が大阪地方裁判所に破産を申し立てたのだ。

その陰であまり目立たなかったが、関連会社の株式会社根来(本店・大阪市中央区)も同時に破産を申し立てていた。両社は管財人弁護士の下で現在も破産手続き中だ。

根来は1987年設立。主に女性向け衣類や靴、バッグ、服飾雑貨を国内や中国から仕入れ、中小規模の小売店に卸していた。1980年代には海外に拠点を構えるなど経営は好調だった。

ところが90年代に入るとバブル経済の崩壊で売上が減少傾向に転じ、2000年代以降は拠点数や取り扱い商品数を段階的に減らすなど事業縮小を余儀なくされていった。さらに大規模小売店舗(ショッピングモール、SCなど)の勢力拡大に伴い、主な取引先だった中小規模の小売店の業績が悪化したことで、根来の売上減少に拍車がかかった。
その結果、根来は次第に大量の余剰在庫を抱えるようになっていった。

注目したいのは破産申請の時期。2019年春夏ものの仕込れが終わり、これから19年秋冬ものを仕込んでいくタイミングだった。
これで困ったのが根来を得意先としていたメーカーや1次卸だ。根来は特に靴やバッグで有名だったが、関係者は「根来は大量に仕入れてくれるので、(メーカーや1次卸にとっては)ラクだった。労せずして目先の売上が立つから。その代わり、委託なので売れなければ返品されていた」と語る。

この結果、19年秋冬の売り先に困るメーカー・1次卸が続出。自社ブランドで直販に活路を見出す関西の工場も現れたという。
しかし19年秋冬は夏~秋の相次ぐ台風をはじめとする天候不順や記録的な暖冬で個人消費が振るわず、そこに新コロが追い打ちがかける格好になっている。

売上偏重で利益率置き去りの果てに

シティーヒルや根来、マザウェイズ・ジャパンに共通するのは売上偏重主義だ。特にシティーヒルとマザウェイズは店舗数を増やすことで全社売上高を伸ばしていた。これでは投資の減価償却や人件費などの固定費負担が重く、相応の利益が伴わなければキャッシュフローの歯車が逆回転しだすことは容易に想像がつくだろう。実際、採算は悪化していた。

シティーヒルについては南充浩氏の下記ブログが詳しい。

根来も似た経緯を辿っている。Zaikology Newsが入手した破産申立書によれば、2000年代以降、大量の余剰在庫が経営を圧迫していたため、在庫を減らすべく売上高を重視し安価での販売を推進した。その結果、利益率は悪化の一途をたどり、売上高は維持できても業績改善にはつながらなかったという。

根来は2016年に代表取締役が交代した後、経営方針を利益率重視に転換。過度な価格競争からは手を引き、商品の差別化を試みた。これが一旦は奏功して利益率は改善傾向に転じたが、銀行借り入れの返済に窮するまでになっていた財務状態を根本的に好転させるまでには至らなかった。

なお、同社は2019年1月期、売上高34億円、営業利益5400万円、経常利益1500万円を計上。期末の在庫(棚卸資産)は8.2億円だった。期初(2018年1月期末)の在庫は7.4億円だったので、19年1月期の売上原価24億円と比較した在庫回転率は3.1回転だった。
この数値は靴を扱っている会社としては決して低い数字ではない。売上ばかり重視して低価格で数を売る姿勢から、利益率重視の経営へもっと早く舵を切っていれば違う結果になっていたのではないかと悔やまれる(※以上の決算数値は、「粉飾決算を行っていた」と管財人が申立書に明記しているので、信頼性には留意が必要だが)。

「今ある在庫」で売上を増やすという考え方

靴はサイズやカラーの種類が多く、衣料品よりもSKU(品番からさらに枝分かれした商品管理の最小単位)が格段に多い。小売店を例に挙げると、欠品を避けるために在庫を多めに積み、なおかつ全サイズをまんべんなく揃えようとすると、大量の売れ残りが発生する。

大手小売でも「在庫」と「商品鮮度」を課題に挙げ、腰を上げる会社が出てきた。シューズポストウィークリー2019年11月4日号に掲載されたチヨダの記事を紹介したい。

当記事によれば、澤木祥二社長は2020年2月期第2四半期(2~8月期)決算説明会で、1店舗あたりの在庫金額が5年前と比べ約30%増えていることを明かし、商品評価損のルールを見直して在庫を削減していくと述べた。同時に売り場の鮮度向上のためSKU数を削減し、シーズン商品はシーズン内に、通年商品は継続販売終了までの間に売り切るという。

SKU数を減らすことで売上は落ちるように見えるが、次の商品を投入する頻度が従来よりも上がるため、売り場の鮮度は向上する。なおかつ売れ残りが減ることから、値下げ販売や在庫の評価損が減ることでかえって利益は増えるだろう。

国内を見れば、15年後には九州と四国を足した人口が減少すると推計されている。従来の大量生産型のビジネスモデルがそのまま成り立つはずがなく、体力のある企業は今こそ変革に取り組むべきではないだろうか。(南昇平)

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