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EC市場は拡大?鈍化?求められる次の一手とは

日本最大のプレスリリース配信プラットフォームであるPR TIMESの2024年上半期キーワードランキングがこのほど発表され、「EC」が順位を大きく落としました。新型コロナウイルス禍から4年が経ち、消費者の関心が行動を伴うイベント等へ変化したことが影響したとみられます。実際、ECの市場規模は成長率に鈍化の兆しもあり、商品カテゴリーごとに成否が分かれている感があります。

本記事では、アパレルECに求められる次の一手について考えてみます。

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食品やアパレルのEC化率は頭打ち

PR TIMESによると、2024年1月〜5月におけるプレスリリースのキーワードランキングでは、「EC」は2022年、23年とトップ10に食い込んでいました。しかし24年1月〜5月は21位(2022件)へ下落。外出型レジャーにまつわる需要が増え、自宅での消費需要が落ち着いた影響と考えられるとのことです(ちなみにランキング1位は「イベント」で、「旅行」「観光」も順位を上げたそうです)。

ここで物販系ECの市場規模をみてみましょう。経済産業省は2023年8月、電子商取引(EC)に関する市場調査の結果をまとめ、公表しました。それによると、2022年の物販系EC(B2C)市場規模は前年比5.4%増の13兆9997億円でした(下グラフ)。2021年(8.6%増)や20年(21.7%増)と比べ物足りない数字です。 

新型コロナウイルス禍でECに活路を見出す小売企業が増え、消費者も様々な商品をECで購入するようになりました。しかし、カテゴリーによっては成長率が徐々に鈍化しています。
下表は2022年における物販系ECの分類別の市場規模とEC化率をまとめたものです。

「食品、飲料、酒類」と「生活家電、AV機器、パソコン、周辺機器」「衣類・服装雑貨」「生活雑貨、家具、インテリア」の上位 4 カテゴリーが2兆円超えとなっています。市場規模成長率は「食品、飲料、酒類」が9.2%と最も高く、「化粧品、医薬品」も7.5%となっています。

EC化率を見ると、「書籍、映像・音楽ソフト」や「生活家電、AV機器、パソコン、周辺機器」が高く、2021年から22年にかけて約4〜6ポイント上昇しています。一方、「衣類・服装雑貨」は21.6%ですが、21年からほぼ横ばいで、これは「食品、飲料、酒類」も同様です。

つまり、食品やアパレルに関しては、従来は実店舗にあった需要をECで取り込むことでEC販売額を増やす余地はほぼ残されておらず、新たな需要を喚起しないとEC販売額を伸ばすことは難しいといえます。

望ましいOMOの形は変わっていく

では、アパレルECの一段の成長には、どういった取り組みが必要なのでしょうか。1つのヒントとなるのがOMO(Online Merges Offline)をはじめとする実店舗とECの役割分担の融合です。

OMOについて詳しくはこちら>

ECサイト上の商品を店舗に取り寄せ、試着してから購入するサービスや、ECサイトから来店を予約してスタッフによるスタイリング提案を受けられるサービスを展開する事業者が増えています。実店舗の機能を活かしてECの価値を上げ、消費者にとっての魅力を高める戦略といえます。

また、スマートフォンの専用アプリを使用したオンライン接客も広がっています。スタッフが実店舗と同じようにリモートで消費者を接客できるため、消費者にとって便利であるほか、接客スキルを有するスタッフは多面的な活躍の場を得られます。ECへ送客したスタッフやオンライン接客実績を上げた販売員に貢献相応分のインセンティブを支払う仕組みも一般的になってきて、モチベーションを高めている会社も多いのではないでしょうか。

前記事(トレンド変化が速すぎるZ世代|「コミュニティ作り」が攻略のカギに/https://full-kaiten.com/news/blog/9812)で詳説しましたが、Z世代が購買力を付けていく今後は、ECと実店舗の役割は不断の変化を遂げていく蓋然性が高いです。現在OMOがうまく機能していても、それが継続する保証はなく、ECおよび実店舗における消費者の体験価値を上げていくことが求められます。

アダストリアはEC売上高の3割がSNS経由

その中で、EC売上高が好調なのがアダストリアです。2024年2月期は689億円(国内)で、前期比10.1%増でした。国内売上高に対する比率は28.3%、連結売上高全体に対する比率は25.0%に上ります。

好調だった要因は次のとおりです。

  • 販売スタッフのインフルエンサー化
  • 自社EC(ドットエスティ)をオープン化(外部に開放)

同社はスタッフによるスタイリングの投稿サイト「スタッフボード」を運営しています。その前提として、①インセンティブ拡充、②教育研修の整備、③分析ツールの導入という3つの施策に注力しました。

その結果、2024年2月末時点のスタッフ個人のSNSとスタッフボードのフォロワー数合計は、23年2月末の573万人から1035万人へとほぼ倍増しました。そして自社EC売上高のうち、スタッフボード経由とSNS経由は計約3割を占めるまでになっています。また、24年2月期は売上高に占めるドットエスティ会員の比率が約7割に達しており、リピート率が高かったことが窺えます。

また、自社ECドットエスティの会員数は2024年2月末時点で約1,750万人(前年同期比200万人増)となりました。アダストリアはそのドットエスティを外部ブランドに開放し、集客力を見込んだ8社9ブランドが出店しています。アパレルに加えシューズやペットなど取扱いカテゴリーは多岐にわたります。

そして2025年2月期には、OMO店舗の展開に乗り出しています。複数ブランドの人気アイテムを同じ店舗に集めたドットエスティストアを8店舗出すことを計画。2024年2月期は計画を6億円上回る42億円をシステム投資に費やしましたが、25年2月期も38億円を投資します。

オンワードHDは全店舗の6割がOMO対応

オンワードホールディングスもOMOを全社的に推進しています。ECサイトで見つけた商品を店舗に取り寄せて試着し購入できるクリック&トライサービスの導入店は前期末から57店増えて397店となり、2024年2月末の導入率は58%となりました。

このクリック&トライはどれくらい使われているのでしょうか。2024年2月期の予約件数は12万6千件と前期比34%増でした。この予約件数を2023年2月末時点の340店舗で割ると約371件となります。平均して(平日と土日祝を合わせ)毎日1店あたり1件以上の利用があったことになります。

この結果、2024年2月期の国内EC売上高は前期比6.5%増の477億円となり、EC化比率は29.8%に上りました。そしてクリック&トライ導入店は、未導入店よりも売上が25%多かったそうです。

カジュアル衣料のアダストリアと、商品単価の高いオンワードホールディングス。領域は違っても、OMOの有効さは共通しています。売り手側の都合ではなく、買い手にとってどのような価値(便利さ、快適さ)が付加されるのかという視点からECと実店舗の連携とタッチポイント強化を考えることが重要と言えそうです。

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