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【セミナーレポート】小売業の生死を左右する向こう10年の道しるべ 粗利第一経営への変革ステップ

2024年8月6日に弊社代表・瀬川が登壇し『粗利第一経営への変革ステップ』を体系的にお話しするオンラインセミナーを開催しました。

https://full-kaiten.com/seminar240806

現在、小売経営の舵取りは非常に難しい状況に置かれています。 

具体的には、未曾有の円安による原価の高騰、人口の減少と高齢化による市場の縮小、そしてSDGsに代表されるような様々な外圧など、事象が異なる複雑な問題にさらされています。

このような中で、これまで通り売上を第一優先する考え方では経営の難しさを感じておられる経営者の方は多いのではないかと推察します。

本レポートでは、これから10年間の日本の小売企業の経営を持続可能なものにするため、どのような経営方針を取れば、長く勝ち抜くことができるのかを体系的にお話しします。

コロナが作った時代の潮目

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナと表記)がきっかけとなり、市場環境が大きく変わりました。2020年から2024年の特徴は以下の通りです。

【2020年】
昨対売上の増加を目標とする企業が多くいらっしゃいました。これは一概に悪いとは言えませんが、冷静に見ると2020年は明らかに在庫過多で、店舗単位で見れば不採算な店舗も含めて存在するオーバーストアな状態でした。
それまでの慣習もあり、在庫過多とオーバーストアをある程度許容していたと言えます。

2020年4月に緊急事態宣言が発令され、店舗が閉まり需要が消失しました。
ここで、在庫過多とオーバーストアを許容してきたツケが回ってきます。店舗で販売できず急激に資金繰りが悪化するなかで、不振を補うためにECが注目されました。
ですが、EC化率が上がっても、固定費を賄うことは難しく赤字に転落する企業が急増しました。

ここで『売上より粗利とキャッシュフローを重視すべきではないのか』と気が付いた企業が多く、パラダイムシフトが起きます。

その結果、仕入れの抑制や、取り扱う品番数の削減、不採算店舗の撤退なども起こり始めました。

【2021年】
仕入れと品番を絞ったことで在庫が減り、値引きと評価損が減りました。結果として粗利率が上昇しました。そして、不採算店舗の撤退による固定費の減少で営業利益が増加し、小売業がコロナ渦の戦い方を再確認した年でした。

【2022年】
2021年から仕入れの抑制が続き、 業績がV字回復する企業が続出します。弊社では上場企業の決算資料を定期的に追いかけていますが、2022年は明確に結果が出た年でした。

参考:値上げが浸透し増収増益の企業続出|大手アパレル2023年3〜8月決算まとめ

赤字の企業もありましたが、2020年、2021年と比較し赤字幅が小さくなりました。

仕入れを抑制することで値引きが減るので粗利率が改善することや、不採算店舗を閉鎖し固定費を減らすことで営業利益が増えることは素晴らしい判断なのですが、当たり前とも言えます。

在庫と売り場が減ったのにコロナ前と唯一変わっていないのは『儲ける力』です。
もし、この先3年、5年、10年と儲ける力が変わらない場合は業績が縮小均衡に向かうのは明らかです。

2022年後半は2つのターニングポイントがあり、向かう道が絞られました。

選択肢1:減らした在庫・減らした売り場という状態を維持したまま業績を向上させる
選択肢2:もう一度在庫と店舗を増やして業績を向上させる

【2023年から2024年】
弊社が様々な小売業の決算データを分析する中で、『二極化の二極化』が起きていることが分かりました。

参考:暖冬の影響で主要アパレル6割以上が在庫効率悪化…|2024年2月期決算まとめ

どういうことなのか図で説明します。

決算からは、在庫を抑えたという企業と在庫を増やした企業が二極化していることが読み取れました。

そして、在庫を増やした企業の中でも、二極化しています。
日本を代表するような資金的体力がある大手小売業では、業績を上方修正するほど好調でしたが、残念ながらそうではない企業が大半です。
今の選択によってこの先10年の勝敗が決まると考えられるため、過渡期にあると言えます。

もちろん、どのような選択をしても簡単な道ではありません。自社にとって筋の良い道なのかは資金力や従業員の皆様のスキルレベル、考え方、カルチャーなど様々な要素を選択肢に考慮する必要があります。自社はどの道を行くのか決めるべき時代の潮目が来ていると強く感じます。

市場環境の激変

ここからは観点を変えて、人口減少と高齢化による市場環境の変化を考えます。

私は学生時代からAIと統計の勉強をしてきたこともあり、国と地方自治体が公表する統計データを見る機会が多くありました。

人口減少と高齢化はニュースでよく取り上げられますが、これらの数字は死亡率や出生率などほとんど変動しないデータを使い算出する統計値なので、ほぼその通りに推移するという特徴があります。そのため、一番信用に足る統計値だと言われています。

人口動態の統計データによると、以下のように急速に人口が減少し、しかも統計値通りに推移しています。

次に、高齢化の輪郭をしっかり捉えていただくために、人口構成比を紹介します。

<人口構成比>
0〜14歳(若年層)=12%
15〜64歳(生産年齢人口)=60%
65歳〜(高齢者)=28%

2024年の1月から3月の出生数は2023年の前年同月比より6.4%減っており、これは2045年に日本の人口が1億人を切ることを意味します。
なぜ高齢化するかというと、出生数が減り生まれる人数が少ないのに、生産年齢人口の構成比が高すぎることで高齢者の方に構成比が移るためです。

ちなみに、2024年は団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者になる年なので、2024年、2025年から人口構成比の割合が大きく変わる時期でもあります。

人口減少と高齢化はニュースでもよく取り上げられるキーワードなので、知らない方はいないと思います。ですが、知っているだけではなく、自社のビジネスでどう捉えるかを結びつけないと意味がありません。

実際に、30代女性をターゲットにした小売業(年商100億円規模)の社長様に以下のように言われたことがあります。

「僕らの市場規模は9兆円あるし、年商100億円の企業に市場縮小なんて影響ないです。」

ぜひお考えを改めて頂きたいと感じたエピソードとして紹介しましたが、以下の理由から本当に影響がないのか考えてみましょう。

  • 人口が急減し、かつ人口構成比は高齢者層に偏っていくのですよ?
  • それって30代女性という層自体が縮小するということですよ?
  • その市場にはたくさんの競合企業がいるのですよ?
  • 今まさに起きている変化ですよ?

私が小学校低学年のとき、定規で直線を引く授業がありました。きちんと引いているつもりでも、徐々に曲がり最後には大きな差が生まれました。小さな変化が大きな変化になりますが、人間は目の前で起こっている小さな変化を低く見積もってしまうところがあります。
人口減少と高齢化も気が付いた時には大きな変化になり、後手を踏んだ対応にならないよう、足元で起きている変化を小さく見積もってはいけないと考えています。

次に未曾有の円安による影響です。
下図のように、2019年から2024年までで為替のレートは1.46倍に上がっています。

日本企業は生産拠点が国外にあるケースが多く、製造原価が高騰して粗利率が悪化する事象も起こっています。
さらに、サステナビリティの外圧もあります

温暖化、カーボンニュートラル、資源の枯渇、不平等貿易などの問題があり、特にヨーロッパでは法整備が盛んです。もはや、サステナビリティ対応なくしてヨーロッパで商売することは困難になってきています。

この手の話を2021年頃からしてきましたが、当時は「サステナビリティは儲からない」と言われました。日本国内の市場規模が急激に縮小し円安問題もあるため、国内で稼ぐことの限界もくるでしょう。

「サステナビリティは儲からない」と腰が重かった大半の日本企業はスタートラインに立っておらず、外貨を稼ぐ難易度がますます上がっています。

この先10年の経営方針

前章でお話しした様々な外圧を踏まえて、私がこの先10年の経営方針をどのように考えているかお話しします。

下図の通り、外部要因の経営課題が多いため、企業努力で改善できることが少なく見えます。

ですが、経営判断の難易度の高さから「まずは何に着手すればよいのか…。」と悩み行動が後手を踏むと、業績の悪化が加速します。

私も弊社の代表として様々な意思決定をしますが、「悩むな。」と感じる際は全てが変数に見えている時なのだと思います。その際は、「これは変数に見えるけど、実は定数だと言えるものもあるのでは?」と視点を変えるように意識しています。

今回の場合は、人口減少と高齢化は今後50年変わらない傾向なので『定数』と言えます。

これにより、経営判断は今までより容易になるのではないでしょうか。

定数が分かったので、これからの経営の方向性は在庫を減らし、製造原価を上げることです。

人口減少と高齢化で国内市場は縮小します。縮小市場の中で在庫が増えると価格競争が激化しますが、価格競争ができるのはごく一部の資金力のある大企業だけです。

そこで、多くの企業にとって妥当な選択肢は在庫を減らすことです。在庫を減らすと製造原価が上がりますが、既に円安で製造原価は上がっていると思います。いずれにせよ、製造原価の高騰は解決すべき問題ですので、サステナビリティ対応にかかる費用も製造原価に積めばよいと考えています。

ここでの論点として「製造原価を上げたら、粗利を稼げなくなるじゃないか!」という指摘があると思います。その通りです。

しかし、在庫を増やす判断をすると市場縮小のせいで値引きと評価損が増えるので、価格競争になります。結果として粗利を稼げなくなるのなら、在庫は減らして製造原価に投資をしたほうがキャッシュフローも安定し持続可能な経営に繋がるのではないでしょうか。

在庫を増やすことを違う角度から考えると、既に大量生産の価値は喪失しているといえます。

戦後の高度経済成長期からバブル崩壊までの間は、物不足で消費者は物質的な豊かさを求め大量消費がニーズ化し価値を生みました。

現在は、物は余り高齢化と人口減少により消費者が求める『豊かさ』の価値は多様化しています。物が余るということは、何に価値を感じるか細分化しており、大量消費はニーズを失い価値を生まなくなったと言えます。

ここまでお話してきたことをまとめます。

  • 在庫を増やしても粗利を稼げなくなる理由
    • 日本の小売市場
      • 市場が縮小しているのに、在庫を増やし売上規模を追う企業が多い
      • 大量生産が価値を喪失しているのに、大量生産型ビジネスを続ける企業が多い
    • 上記による悪循環
      • 資金が在庫で眠る→キャッシュフローが悪化
      • 抱えすぎた在庫を消化する値引きが横行→価格競争で粗利率が悪化
      • 粗利率改善を目的に商品原価を下げる→大量生産が継続
  • 在庫を減らしても粗利を稼げなくなる理由
    • 市場環境や価値観の変化に合致しているのは良いが、製造原価が高騰することが原因
    • 工夫で粗利改善が可能

在庫を増やしても在庫を減らしても、粗利を稼げなくなるという結果は同じです。
しかし、在庫を減らす場合は工夫で粗利改善が可能という違いがあります。

どのような工夫で粗利を改善できるのでしょうか。

単純に製造原価が高騰するなら、商品単価を上げて粗利を稼げばよいです。
ですが、何の付加価値も変わらない状態で商品単価だけ上げるのは消費者も離れていってしまうため、付加価値の付け方次第で粗利は稼げるという発想の転換が必要です。

商品は一番重要な顧客接点ですし、実店舗がある企業様であればまた訪れたくなるような店舗づくり、お客様と接するスタッフも重要です。このような接点で付加価値を上げることができると、今までよりも高く売れるでしょう。

業務の効率化と精緻化という観点もあります。
DXとAIを上手に取り入れることで、業務効率と実施する施策の精度も上がり粗利を増やすことにも繋がります。

この先10年は、在庫を減らし、製造原価を上げ、付加価値向上に投資することで商品単価を上げる粗利経営が求められると考えています。

ここで、スーパーマーケットの成功事例を紹介します。

2020年から2023年では、食品の売上は1.08倍に増えています。 一方で粗利率は維持または増加しています。

スーパーマーケット各社の粗利利率

これは皆さんご存じの通り、商品単価が上がった結果です。もちろん、食品は生活必需品のため値上げをしても売れる側面はありますが、成功事例として他業種の方も同じ考え方を持つことが勝ち筋だと考えています。

粗利経営の切り口

ここまでマクロな話からこの先10年の方向性を示してきましたが、具体的な打ち手をお話しします。具体的に何ができるかについては、皆さんで考えるべきことですので、私が挙げたキーワードを題材に、粗利経営の変革に向け議論して頂ければと思います。

例えば、商品力を上げるために、素材、機能、デザイン、サステナビリティへの対応などの項目を設けると「ここで商品単価を上げる工夫ができそう!」という発見もあり議論しやすくなるでしょう。

店舗はブランドを感じる接点なので、「お店で特別な体験をしていただくにはどうしたらよいか?」「お店の情報発信はどうするか?」「商品の見せ方はこれでいいのか?」の観点で議論をすると、お店での定価販売力がつくと思います。

スタッフの皆さんの待遇を改善することで、更にスキルの高い方を採用できます。商品知識を今までよりも高め、データを有効に使うための情報武装をすることで、接客レベルも上がるでしょう。「接客レベル自体を上げるための成長支援として何ができるか?」という議論があっても良いと思います。

DX化という観点で言うと、業務負荷を下げて本来すべき重要な業務に時間を割くことができるよう、データ集計や可視化はシステムに任せた方が速く正確です。

発注業務では、直近何日間や前年同月比を見て、発注数量の係数を変動させ数量を決めるのは人力で行うには限界があります。このように時間と労力がかかる計算はAIに任せて、その計算結果を見て打ち手を考えるところに人間の価値があります。

経営層の皆様は社内に向けて「粗利を目標に置きます。」というメッセージを発信することで、過度な値引きと在庫を抑える効果もあります。目標の立て方を工夫することで、粗利経営の変革は起こりやすくなると考えています。

一人勝ち時代の幕開け

ここまでの章で、難しい舵取りが求められる小売経営において、粗利経営は重要な方向性であることをお話ししました。経営判断が難しい半面、実はとても大きなチャンスが到来しています。

売上第一を続ける企業と粗利経営に変革する企業では、大きな差が生まれます。

まずは、業績の二極化です。

【売上第一を続ける企業】
価格競争の激化で苦しむ

・資金力のある大企業に淘汰される
・企業規模をさらに縮小しギリギリ存続する
・最悪の場合、M&Aや倒産もあり得る

【粗利経営に変革する企業】
増益の好循環が生まれる

・商品原価に投資し、付加価値の高い商品開発が可能になる
・店舗に投資し、付加価値の高い店舗開発が可能になる
・労働環境やITに投資し、生産性の高い労働が可能になる
・社員の教育や給与に投資し、優秀な社員を育てたり採用したりすることが可能になる
・だからさらに増益を実現できるようになる

次に、人気の二極化です。

【売上第一を続ける企業】
投資ができず社員が不幸せになる

・商品原価に投資できないため、他社と同質化した商品しか開発できない
・店舗に投資できないため、優秀な社員が入社しない
・労働環境やITに投資できないため、業務負荷が高く属人化しその企業でしか通用しない人間になる
・社員の教育や給与に投資できないため、社員が一向に育たず他社との差が開いていく
・だから給与水準が下がり、離職率が上がっていく

【粗利経営に変革する企業】
投資ができ企業力が上がる

・商品原価に投資できるため、クリエイティブな社員が入社する
・サステナビリティに投資できるため、社員が誇りを持てるようになる
・店舗に投資できるため、優秀な販売員が入社する
・労働環境やITに投資できるため、採用市場で人気が上がる
・社員の教育や給与に投資できるため、増益の好循環が生まれる
・だから給与水準が上がり、社員が定着していく

粗利経営への変革を目指すことで、増益効果が得られる→投資余力が生まれる→投資できるから企業としての力も上がるという好循環が生まれていきます。

粗利経営の導入メリット

売上を第一優先にすると、増益効果がなかなか見込めず投資する力も減り、企業としての魅力も低下するでしょう。

今は10年に1度のビジネスチャンスです。
ここまで私がお話ししたことは、人口減少や高齢化の実態からもとても分かりやすい未来でした。「恐らく、この先こうなるだろう。」と分かっていたとしても、他社の出方を様子見する企業が多いだろうと思います。

つまり、大多数の企業は変革せず、価格競争に突入することを意味します。
価格競争に巻き込まれると、自然と企業の淘汰は進み勝手に競合が減ります。

変革に挑戦した企業が生き残り、一人勝ちする時代になるため、粗利経営への変革に舵を切る決断をして頂きたいと思っています。

ちなみに、粗利経営への変革は売上向上を目指さないということではありません。
粗利を重視すると結果として売上も伸びますが、社内に伝えていくメッセージとして、「粗利重視」を発信するのは重要な点だと思います。
粗利を重視することで、財務諸表の様々な項目が変わり社員の皆さんの注力ポイントが絞られ、勝てる会社に変わっていきます。

FULL KAITENとは

弊社は4つのサービスを提供しており、どれも抱えている在庫からより多くの粗利を生むためのサービスです。継続的に使って頂くことで、多くの在庫を抱えることなく、今までよりも少ない在庫で粗利や業務効率を上げることも可能です。

導入頂いているどの企業様も、抱えた在庫を使って粗利の創出に取り組んでおられ、目覚ましい成果を創出していらっしゃいます。

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