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在庫効率の改善は頭打ちに|2024年3~5月決算まとめ

小売企業の2024年3〜5月期(2024年度第1四半期)決算が出そろいました。本記事では株式上場する様々な規模のアパレル企業16社を対象に、様々な在庫関連の指標から決算を読み解いてみます。新型コロナウイルス規制の緩和や値上げ効果で増収増益の会社が多く、在庫高も増えていますが、粗利率や在庫効率では明暗が分かれました。

※ファーストリテイリング、良品計画、ライトオンは例外的に8月期決算、ハニーズホールディングスは5月期決算ですが、いずれも人為的に3〜5月の3ヵ月を抽出しています。

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16社のうち増収8社、営業増益は6社のみ

まずは売上高、営業利益、当期純利益といった損益指標を見てみます(表1)。売上高は半数の8社が前年同期比で増収、残り8社は減収となりました。営業損益も増益が6社、減益または赤字幅の拡大が10社と明暗がはっきり分かれました。

ファーストリテイリングと良品計画は前年同期比10%を超える増収でした。ファーストリテイリングは中国事業が円安の影響を除いた現地通貨ベースで減収減益となりましたが、国内外のユニクロ事業の好調さでカバーしました。

良品計画も国内外で87店純増の新規出店効果を主因として15%超の増収となりました。この春夏物で一部アパレル商品を値上げしたことが営業利益の高い伸びにつながっています。また、西松屋チェーンは4月以降の高温が続く気候を捉え、夏物の販売を大きく伸ばした結果、6.7%の営業増益を確保しています。

一方、TSIホールディングスやハニーズホールディングス、三陽商会、バロックジャパンリミテッド、パレモ・ホールディングスは2桁の大幅な減益となってしまいました。TSIホールディングスは人件費の増加と一過性の構造改革費用の影響が出た形です。バロックジャパンリミテッドは中国事業の失速から在庫の評価減を実施した影響が大きく、国内も奮いませんでした。

在庫高増減は三者三様、粗利率は苦戦

次の表2は、各社の2024年3〜5月における仕入れ額(発注額)と粗利率および粗利率の前年比、2024年5月末における在庫高の対前年増減率を一覧にしています。

ファーストリテイリングは、国内ユニクロの販売が好調で在庫が減ったものの、積極出店を続けている海外ユニクロ事業で在庫を増やしており、全体として前年から4.5%増加しました。良品計画も海外店舗の在庫高が円安により62億円押し上げられた影響もあって9.6%の増加となっています。

ファーストリテイリングと良品計画は仕入れ額が2割超増えましたが、売上が大きく伸長したため在庫高の伸びは緩やかになっています。さらに、価格改定(値上げ)と好調な売上に支えられた値引きの抑制によって粗利益率が大きく改善しています。

対照的に、この2社と三陽商会、コックス、パレモ・ホールディングス、マックハウスを除く10社は粗利率が前年同期より低下しました。過去に類を見ない円安で仕入れコストが上昇するなか、売価への転嫁や値引き抑制にも限界があったとみられます。

他方、三陽商会は減収減益に終わりましたが、粗利益率は0.9pt改善しています。繰越在庫が減った結果、セール販売による売上の上積みがなかったことが減収減益の背景とのことで、プロパー販売比率が計画を上回った結果、粗利率が向上しました。

在庫効率は半数がコロナ禍前を下回る

次のグラフは、各社の3〜5月期のGMROI(商品投下資本粗利益率)について、2019〜2023年の推移を示したものです。2019年3〜5月を1とした指数でコロナ禍前後を比較しています。

※GMROI:どれだけ少ない在庫で多くの粗利益を得たかを表す指標
GMROIについて詳しくはこちら>

2024年3〜5月のGMROIは16社中9社が前年同期より悪化しており、改善は7社にとどまりました(ファーストリテイリング、しまむら、良品計画、西松屋チェーン、バロックジャパンリミテッド、ライトオン、三陽商会*)。増収が8社、営業増益が6社だけだったのと似ています(*三陽商会は新収益認識基準の影響が大きいため、グラフからは除外)。

コロナ禍前の2019年との比較で見ると、2024年のGMROIが2019年の水準を上回っている会社は三陽商会*、ナルミヤ・インターナショナル、ファーストリテイリング、オンワードホールディングス、しまむら、コックス、良品計画、西松屋チェーンの8社です。

全体的に、ファーストリテイリングを除いて2019年からの改善は頭打ちになっています。歴史的な円安が定着して原価が上がる中、売上増加ペースよりも在庫の増加ペースが大きいためです。

ただ、良品計画は2022年に大きく落ち込んだ後、V字回復しており、この傾向が続くかどうか要注目です。

経営再建中のライトオンとマックハウス、中国事業の立て直しに余念がないバロックジャパンリミテッドのほか、繰越在庫が減少した三陽商会の4社を除き、2024年5月末の在庫高は増加しています。国民の実質所得に増加の兆しがない中、在庫を効率よく利益と現金に変える販売力を付けなければ、過剰在庫と値引き頼み、在庫評価減というかつての悪循環に戻りかねません。

ZOZOは合わせ買いで出荷単価上昇

最後に日本を代表するECモールZOZOTOWNを運営するZOZOの決算(2024年4〜6月期)から、今春夏シーズン前半の販売状況を振り返りたいと思います。

過去1年間におけるZOZOの四半期ごとの平均商品単価と対前年増減率をみてみます。

  • 2023年7〜9月 :3,590円(3.0%増)
  • 2023年10〜12月:4,360円(1.7%減)
  • 2024年1〜3月 :4,003円(0.4%増)
  • 2024年4〜6月 :3,698円(0.7%減)

2024年4〜6月は、平年より気温が高い日が多く、Tシャツなど単価の低い商品の販売が多かったことから、平均商品単価は前年割れとなりました。

一方で、平均出荷単価は8,343円となり、前年同期(8,177円)から2.0%増えました。12,000円以上の買い物で送料無料とする施策により、購入点数が増えたためとのことです。

各社とも人件費が上昇していますから、実店舗でも顧客1人あたりの購入点数を増やす、合わせ買いの促進が、利益確保に欠かせないと言えそうです。

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