【AIで需要予測は可能?】分析方法・メリット&デメリット&AIの限界や導入&活用事例を解説します
※最終更新日:2022年10月17日
将来的に見込まれる販売数やトレンドの変化を予測する「需要予測」は、今後AIの活用が期待される分野です。特に小売業において、従来は勘と経験に頼っていた需要予測を活用することで、高い精度の予測が可能になり、販売機会を逃さず、売れ残りも防いで利益につなげられるとされています。
一方で、それで成果が出たという事例の話はあまり耳にしません。AIを導入すれば本当に需要予測は当たるのでしょうか? 本記事では、AIによる需要予測のメリットから活用事例、成果を出す方法について解説します。
需要予測システムとは?
まず、需要予測システムは、過去の購買実績や在庫状況、市場動向などのデータを分析し、将来の販売数や需要の変化を予測するためのシステムのことです。
小売市場のボラティリティ(変化・変動の度合い)が大きくなっている現在、できるだけ欠品もせず、なおかつ売れ残りも発生しないような発注(仕入れ)が求められており、関心が高まっています。
AIで需要予測を行うメリット
需要予測にAIを用いるメリットは、予測精度の高さです。人間が需要予測をするにしろAIがするにしろ、根拠となるデータが必要になる点は変わりません(データを基にしない予測を「勘」や「願望」といいます)。
一般的にデータが多ければ多いほど予測精度は高くなるとされており、大量のデータを処理する計算は機械に軍配が上がるのは自明です。
すると、人間は他の付加価値業務に集中できますから、業務の効率化を図ることができます。
また、小売業や卸売業、メーカーなど業種を問わず予算(計画)に基づいて投資を行い、実績と突合していく流れが一般的だと思います。需要予測は生産計画の立案から在庫数の最適化、来客・来場者の予測など、業務フロー全ての基礎となるといえるでしょう。
需要予測の方法
需要予測には大きく4つの方法があります。
- 時系列分析法
- 確率として起こる現象を、時間の経過に従って定期的に観測し、得た値を整理・配列し分析する手法。時間とともに変動するデータを解析する際に用いられる
- 確率として起こる現象を、時間の経過に従って定期的に観測し、得た値を整理・配列し分析する手法。時間とともに変動するデータを解析する際に用いられる
- 移動平均法
- 一定期間の間隔を定め、その間隔内の平均値を連続して計算することで、趨勢的な動向を知ろうとする手法。変動の激しい株価や季節的な変動がみられる小売の売上高の動きなどを見る際に用いられる(Excelでグラフを作成する際の「近似直線」がこれに該当します)
- 一定期間の間隔を定め、その間隔内の平均値を連続して計算することで、趨勢的な動向を知ろうとする手法。変動の激しい株価や季節的な変動がみられる小売の売上高の動きなどを見る際に用いられる(Excelでグラフを作成する際の「近似直線」がこれに該当します)
- 指数平滑法
- 加重平均法の一種で、時間的に遠い過去の値よりも近い過去の値の重みを大きくし、移動平均を得る手法
- 加重平均法の一種で、時間的に遠い過去の値よりも近い過去の値の重みを大きくし、移動平均を得る手法
- 回帰分析
- あるデータのモデル化を行い、あるデータから別のデータを予測する統計手法。結果(目的変数)を Y とし、結果を説明する要因(説明変数)を X として、最も都合の良い直線(Y = aX + b)を引き、この直線状の点が予測値となる。最も都合の良い直線は、直線と各Xとの差(残差)の二乗和が最小になるようにして a と b が計算される
需要予測システム導入時に必要なデータ
いざ需要予測システムを導入するとなると、データが必要になります。AIを含むどんなシステムも、計算の前提となるデータがなければ、ただの函(はこ)に過ぎないからです。
必要なデータは業界・業種によって様々ですが、弊社フルカイテンが開発する在庫DXクラウドシステム『FULL KAITEN』でいえば、下記のような感じです。
- 売上データ
- 売上明細
- 在庫データ
- 商品マスタ
FULL KAITENは、品番ごとあるいはSKUごとに、在庫商品が何日後に売り切れるかを予測します。例えば下記のように商品A、B、Cの現在の在庫数と下代、上代のデータが揃っているとします。
- 商品A:現在庫数 = 30個/下代 = 500円/上代 = 1,000円
- 商品B:現在庫数 = 50個/下代 = 600円/上代 = 900円
- 商品C:現在庫数 = 100個/下代 = 300円/上代 = 600円
FULL KAITENでは、AIが移動平均法など複数のアルゴリズムを用いて過去の売上データ等を基に機械学習を行い、販売数を予測します。
その販売予測と現在庫数とを比較することで、各SKUが売り切れるまでに要する日数を計算するのです。
アウトプットは以下のようになります。
【完売予測日数】
- 商品A:60日
- 商品B:30日
- 商品C:20日
皆さんはこの完売予測日数をご覧になって、どんな印象を持たれましたか? 在庫が最も多い商品Cが、実は一番の売れ筋であり、逆に在庫数が最小の商品Aの在庫リスク(売れ残りリスク)が最も大きいのが分かると思います。
もしも筆者がMDだったら、迷わず商品Cの補充発注をかけるでしょう。逆に、商品Aは利幅が大きいうえ在庫が少ないので補充発注したいところですが、不良在庫化の兆候があると判断し、自重すると思います。
※この辺りの考え方は、SKUごとの在庫回転率とも密接にかかわります。
需要予測システム全般に言えることですが、季節要因を含んだインプットがある場合、その影響を(加重平均で)重みづけするなどして考慮すると、需要予測の精度は向上しやすいです。
また、都道府県別に集計しなければならない特売情報などは、地域カルチャーも考慮する必要があり、需要予測にプラスαの要因が伴うことにも留意してください。
需要予測システム導入時の注意点
このように、需要予測システムは、使い方によっては大変役に立つツールとなります。その半面、導入時の注意点もあります。
そもそも予測はなかなか当たらない
まず、予測はなかなか当たらないという前提を理解する必要があります。ここでアパレル業界の時価総額世界一の座をスペイン・インディテックス(ZARA)と争うファーストリテイリング(ユニクロ、ジーユー)の事例を紹介します。
2017年、ファーストリテイリングは情報を駆使して無駄を省く「情報製造小売業」へ脱皮する事業構想を打ち出しました。この構想において同社は需要予測や効率的な生産・物流システムの分野で様々な改善に取り組んでいます。しかし、需要予測は目論見どおりには進歩していないようです。
2020年2月19日付日本経済新聞や2019年6月27日付日経産業新聞によれば、ファーストリテイリングは18年夏に米グーグルとの共同プロジェクトを開始。 世界で集めた膨大なデータを分析して流行する色やシルエットを予測し、AIを使った精度の高い生産計画を立てることに活用を図ってきました。
しかし、柳井正会長兼社長は記事中、情報製造小売業への取り組みについて「まだ3合目」と述べています。直近の決算期において在庫(棚卸資産)が増えており、店頭値下げが増え、買い控えを誘発する悪循環が起きているという分析もありました。
自他ともに認めるデータドリブン経営のファーストリテイリングとITの巨人・グーグルをもってしてもAIによる需要予測は難しいことが改めて浮き彫りになりました。
どうして需要予測はなかなか当たらないのでしょうか。 その理由はAIの特性を理解すれば簡単に理解できるのです。
まず、AIが高い予測精度を出すためには、次のような条件が満たされる必要があります。
- 大量のデータがあること
- データフォーマットが統一されていること
- 想定外の外的要因がないこと
大量のデータ(売上データ、在庫データ等)があるのは、よく売れている人気商品に限られます。このため、あまり売れていない商品は相対的にデータが少ないことから、予測の精度にばらつきが出やすくなります。
データフォーマットが統一されていることも重要なファクターです。統一されていないとAIは正しい計算ができないからです。
- ECと実店舗でデータのフォーマットが違う
- データを手入力する際のミスや表記ゆれ
この2つは“データが汚いあるある”のほんの一例です。
そして3つ目の「想定外の外的要因」は最も重要です。実際のトレンドや需要は外的な要因に大きく左右されるからです。
- 競合店が値下げ/欠品 (→ 自店の売上は下がる/上がる)
- 近くにマンションや大型商業施設が建設される
- 店舗従業員のその日の気分
挙げればキリがありませんが、現在のAIはこうした外的要因までも予測に反映させる技術水準には達していません。
もちろん、AIは画像認識や音声解析などの分野ではめざましい発展を遂げていますし、データ解析は明らかに人間よりも得意であり、人との分業がますます進むのは確実です。しかし、需要予測はまだまだ実用に耐えるレベルではないといえるでしょう。
どの商品の需要を予測したいのか
とはいえ、AIの需要予測が実用に耐えうる商品も、あることはあります。それは生鮮食品やリードタイムが非常に短い商品です。
この2つの共通点はお分かりでしょうか?
そうです、予測する対象となる「期間」が短いという点です。予測期間が短ければ、それだけ外的要因の影響を受ける可能性が低くなるため、AIの特長が発揮されやすくなるのです。
実際、食品スーパー大手のライフコーポレーションでは一定の効果が出ているそうです(後述)。
なお、前章で触れたFULL KAITENは現在のところ生鮮食品を対象としていませんが、需要を予測するためのデータ集計と計算を毎日繰り返します。一度予測結果を出力したら、それで終わりではなく、予測を毎日繰り返すことで日々起こる外的要因の影響を計算に取り込んでいるのです。
市場以外の需要変動要因を加味して分析
需要予測はなかなか当たらないのが実情とはいえ、予測精度を上げるためにできることはあります。「想定外の外的要因」のうち、セールや天候、景気動向など比較的“想定できる”要因を計算に加味することで精度の向上は見込めるでしょう。
需要予測システムの導入と活用事例
AIによる需要予測システムの活用事例をいくつか見てみましょう。成果が出ている会社と、失敗に終わっている会社の両方があります。
スーパーで作業時間を半減
スーパー大手のライフコーポレーションは2021年、日本ユニシスと共同開発したAI需要予測による自動発注システム「AI-Order Foresight」を導入し、ライフ全店で稼働させました。
※出展:ダイヤモンドチェーンストア記事
当記事で「欠品や廃棄が何パーセント減った、という華々しい成果があるわけではない」とライフコーポレーションの担当者は答えています。むしろ年間40万時間の作業の半減を目指しており、従業員の教育コスト削減や作業の質の均一化といったメリットが大きいようです。
そのうえで、ライフコーポレーションがAI自動発注導入で狙うのは、コストの削減ではなく「顧客満足度の向上」とのこと。導入によって浮いた人時をお客への細やかな対応や売場づくりの充実へ振り向ける方針です。
ドラッグストアも消費行動の変化に対応狙う
関西を地盤とするドラッグストアのキリン堂ホールディングスは2020年、AIが需要を予測し自動で商品発注を行うシノプス製のシステムを全店で導入しました。※参考:2020年7月のプレスリリース
システム導入により、「欠品数の27%改善、日配品の発注時間の半減が期待される」としています。キリン堂HDだけでなくドラッグストア各社は一般食品や日配食品などのカテゴリー拡大を進めていますが、商品によって売れ行きの差が大きく、適量発注に苦戦しているようです。
ただ、キリン堂ホールディングスは2021年1月6日をもって上場廃止となったため、21年2月期決算の成績はうかがい知れません。
アパレル企業では結果出ず
大手ディベロッパー系のカジュアル衣料品店運営会社は、画像のAI解析技術を持つベンチャーと連携しました。
ファッションサイトなどネット上で検索できる幅広い年齢層の女性向け洋服の画像を解析することで、色やアイテムなどデザインに関する過去数年の露出頻度を分析。
こうしてAIによって把握した「正確なトレンド」を2019年秋冬物から商品計画に反映させ、生産量を調整して値引きを抑え、適正価格で販売するとともに廃棄商品を減らすことを狙っていました。
ところが、店舗特性に応じた品揃えができずに売上が伸び悩み、既存店売上高は前年同期を下回り、当初計画からも乖離。次の連結決算は黒字予想から一転して赤字に転落しました。
また、かつて「御三家」と呼ばれた老舗名門アパレルの一角も、AIによってトレンドを解析したり需要を予測したりするベンチャーなど2社と2018年から協業していましたが、直近まで5期連続で赤字に沈んでいます。このアパレルの在庫はコロナ禍前まで一貫して増え続け、実質的な年間在庫回転率は2回転台にとどまっていました。
アパレル企業でAIを活用するためには
なぜアパレル企業では成果が出ないのか
上述した通り、様々な企業が需要予測を導入していますが効果が出ていないことがほとんどです。その最大の理由は外的要因を考慮できていないためです。
現在のAI技術は、防犯カメラといった画像認識の分野では飛躍的な進化を遂げていますが、トレンドや株価など「時間」が関係する予測には様々な要因が絡み合うため、正確な予測がまだできていません。
特にモノが売れるまでには、ライバル店の販売動向やインフルエンサーが商品紹介をしバズるといった様々な要因があります。
こういった予測時点では起きていない外的な要因を考慮できないのが、現代技術の現状であり、アパレル企業で需要予測の成果が出ない理由です。
商品が入荷した後に需要予測を活用しよう!
では本当にAIによる需要予測をアパレル企業で活用することは難しいのでしょうか?答えは可能です。
そもそも需要予測の活用シーンとして主に想定される新商品発注の時点では、発注した全ての商品が売れる前提のため在庫リスクはありません。在庫リスクが発生するのは新商品発注時点ではなく、商品が販売された後です。
この在庫リスクが発生する商品入荷以降の予測をAIで行うことで成果を発揮することができます。まず、予測に使用するデータを直近の売上動向にすることで、可能な限り外的要因による影響を取り込んだ状態で予測が可能となります。これにより、直近の売上に対して早めに手を打つことが可能となるため、余計な値引きの抑制や販売施策に活かすことができ売上・粗利を最大化することができるのです。
前述した通り、FULL KAITENはこの在庫リスクが発生する期間の中でSKUごとにAIによる分析と予測を行っています。需要予測をするためのデータ集計と計算を毎日繰り返し、外的要因の影響を計算に取り込みます。
さらにEC・店舗・倉庫全ての在庫をAIを用いて予測・分析することで、商品力はあるのに眠っている在庫を明らかにすることで正しく手を打つことができ、早く在庫を利益に転換させることができるのです。
需要予測システムを含め、様々なツールは導入するだけで課題を解決してくれる魔法の杖ではありません。目的・目標をしっかり持ち、ツールを使いこなしていきましょう。
(調査担当デスク)