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【セミナーレポート】粗利第一経営への変革ステップ|値引きをしても粗利を上げる戦略を基本から徹底解説

2024年9月10日に弊社プロダクトカスタマー部 部長・矢田が登壇し、値引きをしながら粗利を伸ばすための戦略について事例を用いて解説するオンラインセミナーを開催しました。

コロナ禍を機に、小売業界ではプロパー消化率向上を目指す販売戦略が注目されていますが、在庫の滞留が新たな課題として浮上しています。値引きは粗利を圧迫する要因となる一方で、適切なタイミングで行うことで業績の改善に繋がる可能性も秘めています。

本セミナーでは、実際に値引きをしながら粗利を向上させた事例を、戦略を商売の原理原則から徹底解説します。

登壇者:矢田 陽平(フルカイテン株式会社 プロダクトカスタマー部 部長)
新卒で株式会社ファーストリテイリングに入社。ジーユー日本事業で店長やSVを経験した後に、海外(中国/台湾)で営業/教育責任者として、全店舗の統括、採用/育成プログラムやインシーズンの商売立案を担当。その後、HR-Techスタートアップでカスタマーサクセスを経験しフルカイテンに入社。現在はプロダクトカスタマー部 部長として、顧客要望に応えるサービスを開発し、新たな市場創造に従事している。

粗利と値引きの関係性

本日の論点は『値引きをしたら本当に粗利を稼げないのか?』です。
この論点に対しての解と具体的なアプローチをご紹介します。

まず、本セミナーの事前アンケートで皆様から多く寄せられたキーワードとして『プロパー消化率』が挙げられます。この後のお話でも重要になるので、改めて意味の認識合わせをさせて頂きます。

プロパー消化率とは、仕入れた金額のうち、商品がどれぐらい定価で売れたのかを表します。
一般的な通例として、プロパー消化率を高めることで粗利額(粗利率)が高くなり、最終的な営業利益も高まります。

値引率は、値入高と実際の売価との差額である売価変更高の売上高に対する比率を表します。※値引率とは「 値引高÷売上高」で計算

値引きをすれば粗利が低くなるのは当然ですが、本当にそうなのかどうかを深掘りしたいと思います。

具体的な値引きのアプローチをお話しする前に、まずは在庫と売上の関係性を説明します。

小売業では仕入れた在庫の原価に値入をして販売します。実際の商売では、仕入れた在庫が計画どおりに販売できない場合、値引きの意思決定が必要になります。
値引きするほどプロパー消化率が低くなり、最終的に残る売上(キャッシュ)は少なくなります。

在庫と売上の関係性を表した図

次は在庫と粗利の関係性です。
下図の左は在庫を多く仕入れた場合で、右は少なく仕入れた場合を表しています。

在庫と粗利の関係性を表した図

左のように売上拡大のために在庫の仕入れを強化しても、計画どおりに売れない(プロパー消化率が低い)と粗利を棄損します。
結果的に、在庫の仕入れが少ない右のケースと同等の粗利しか残らないことも多く発生するという仕入れと粗利の関係性が理解できると思います。

最後の在庫と営業利益の関係性が非常に重要です。

在庫と営業利益の関係性を表した図

左は在庫を多く仕入れ、右は在庫を少なく仕入れた場合を表しています。
どちらも粗利は同じ400万円ですが、営業利益の観点では左の在庫を多く仕入れたほうが低くなります。

理由は、在庫はコストなので扱う在庫が増えれば増えるほど販管費がかかるからです。
粗利額が同じでも、在庫の数量を少なくした方が最終的に残る営業利益は高くなります。

今までの話を踏まえると、プロパー消化率を高めたり、仕入れを最適化したりして粗利を毀損しない商売をするのがよいと思いますよね?

しかし、実態は在庫が過剰で消化進捗に乗らないケースもあります。
そうなった場合に、どのような値引きをすれば効果的に粗利を最大化できるのかをお話ししたいと思います。

結論、僅かな値引きで販売数が伸長すれば粗利額は増えます。
一般的には値引きをすると粗利を毀損するという通説がありますが、理論上そうではない場合もあります。
これを実現するにはコツがあるので、以後の章では下図の「値引きあり②」の考え方を基軸に置き解説します。

粗利を上げる値引きのポイント4つ

前章でもお話ししたように、企業は営業利益を残すことが一番重要だと考えているので、ここからはP/Lの勘定科目をロジックツリーに分解して解説します。

値引きのアクションがどれくらい粗利を引き上げるのかや、ネガティブインパクトである販管費がどう変化するのかも解説します。

様々な販促手法がある中で、PL勘定科目に対してのGoodインパクト(〇)、Badインパクト(×)を可視化したのが下図です。

青枠の値引きを見て頂くと、〇×が特に多いことが分かります。つまり、値引きは良くも悪くも、PLのポジティブ/ネガティブインパクトも大きいため、方法を間違えると業績不振に陥るということです。

ポジティブインパクトは最大化し、ネガティブインパクトは最小化するためには、
値引きの実施時期、商品選定、価格設定の3要素と、後半にお話しするもう4つ目の要素を抑える必要があります。

実施時期

成果を出すには様々な変数がありますが、「いつ」値引きするかが最重要だと考えています。
弊社では、新商品を売り始めてから売り切るまでの売上の波を5段階で定義し「商品ライフサイクル」と呼んでいます。

シーズンイン :商品立ち上げ期間。売上は低い
ピークイン  :売上が大きく伸長し、売場拡大期間
ピーク    :もっとも売上に貢献する期間
ピークアウト :売上が大きく下降し、売場縮小期間
シーズンアウト:商品売り切り期間。売上は低い

商品ライフサイクルに基づき、良くない値引きと良い値引きをご紹介します。

◆良くない値引き
期末セールまで値引きしない方針
業績を確認できておらず、判断が遅い
売れる時期を逃したシーズンアウトに値引きする
期末セールの動向を確認した後(売れる時期を逃した)の値引きの判断

上記のような値引きをしても、追加の値引きをする悪循環に陥ってしまうでしょう。

◆良い値引き
業績を確認し、値引きする場合は「いつ値引きするか」を素早く判断する
1回の値引きで最終消化すると最も効率的かつ効果的

良い値引きのスローガンは『後始末から前始末へ』です。
顧客需要に沿った価格設定でない場合は、早期に市場適正価格へ調整(値引き)することが重要です。シーズンアウトで値引きの意思決定をしてしまうと粗利を稼げず消化も進まないため、ピーク時には意思決定をすることを推奨します。

良い値引きをすれば好循環が起き、悪い値引きをすれば悪循環が起きます。
下図からも後手を踏まない値引きが重要であることが分かります。

商品選定

目的(売上、粗利、消化)によって選定すべき商品は変わります。


・売上アップのため、集客を増やしたい場合
 消化ベースに載っていない商品の中でも、比較的顧客の需要が高い売上上位品を選定

・消化促進し、滞留在庫を減らしたい
 販売不振在庫を対象に、顧客の需要が低い売上下位品を選定

今までの話を図にすると以下の通りです。

適切な値引き施策を図解

図の縦軸に売上ランク、横軸に消化進捗、原点に消化目標を設定した四章限で表現すると、それぞれ適切な値引き施策が分かります。

右上:期間限定価格(売上/粗利最大化)
右下:売価変更(消化促進)
左 :値引き対象外

価格設定

価格設定をする際には、考慮すべきことが大きく2つあります。

・その商品がどのような消化進捗か
・その商品がどのような売上状況か

まずは消化進捗について商品a、b、cを例に紹介します。

a:消化目標に近い
b:消化目標に少し遠い
c:消化目標に遠い

商品a、b、cを消化目標に近づけるためには、下図の下段にあるような対応をする企業様が多い傾向にあります。

a:消化進捗が良いので、浅い値引きを実施
b:消化進捗が普通なので、商品aを基準に+10%の値引きを実施
c:消化進捗が悪いので、商品aを基準に+20%の値引きを実施

次は、売上状況について商品a、b、cを例に紹介します。
a:売上上位品
b:売上中位品
c:売上下位品

a、b、cに対して一律で10%オフをすると、消化がばらつきます。
消化の足並みを揃えるためには、売上上位品は低いオフ率、売上下位品は高いオフ率を設定する必要があります。

ここまでお話ししてきた、消化進捗と売上進捗をセットで考慮し値引き率を変えることが重要です。

考慮することで、理論上は確度の高い値引きができるようになります。
消化進捗と売上進捗を加味し、あるべき価格設定をまとめたものが下図です。

消化状況 :左にあるほど良く、右にあるほど悪い
売りランク:下にあるほど悪く、上にあるほど高い

一般的に、消化進捗が悪いものには高いオフ率を付け、進捗が良いものには低いオフ率を付けると思います。しかし、売上進捗の観点も加えると『傾斜をつけた値引き』が必要であることが分かります。

弊社が提供している在庫分析サービス「FULL KAITEN」では、傾斜をつけた値引きに加えて、その値引きをした際に狙い通りに販売数が伸長したのかどうかを検証することもできます。
効果検証を積み上げることで、様々な知見が蓄積されるので商品群ごとの傾向も見える利点もあります。

FULL KAITEN サービス概要 資料ダウンロードはこちら>

着地見込み

ここまで、値引きの実施時期、商品選定、価格設定をお話ししましたが、もう一つ重要なのがその値引き率を設定した際の売上、粗利、消化の『着地見込み』です。

なぜなら、見込みが分からないと値引きの意思決定ができないからです。

例えば、残在庫が多く目標に対して消化が大きく遅れている商品があったとします。
消化を進めるために値引き率を設定しても、粗利を大きく毀損する場合は値引きの意思決定ができず、再考する必要があるため後手を踏んでしまいます。
このことからも、値引きにおいては見込みの算出が重要だと分かります。

下図は、値引きの着地見込みで商売をすることの重要性を示しています。

図の上から順に説明すると、以下の通りです。

  • 現状見込み/定価販売
    • 在庫を消化できない
  • 消化促進/50%オフ
    • 在庫の消化は進むが、粗利を大きく毀損
  • 粗利UP/10%オフ
    • 粗利は儲かるが、在庫消化が進まない
  • 消化&粗利最適バランス/20~30%オフで微調整
    • 在庫消化と粗利のバランスが良い

粗利と消化がバランスよく進む値引き率を見つけるのは難易度が高いですが、値引き施策ではいかに最適な値引き率に着地させるかが重要になります。

FULL KAITENを活用したアプローチ

値引きの重要要素である、値引きの実施時期、商品選定、価格設定、着地見込みが分かるFULL KAITEN〈売価変更〉をご紹介します。

本サービスでは、最適なOFF率の提案と売粗在の着地見込みを算出できます。

過去の売価変更の実績から、「売上粗利最大化」「消化促進」などの目的に応じた最適なOFF率を提案します。また、この先2ヶ月分の見込みを算出することにより、目的に応じた最適なタイミングの把握が可能です。

FULL KAITEN〈売価変更〉のデモ画面

ポイント1
値引きするべき商品をビジュアル化
・消化進捗×売上ランクから全SKUの在庫リスクを可視化
・売価変更するべき商品を一目で判断可能に

ポイント2
目的に応じた「実施時期」「推奨OFF率」を提案
・過去の売価の変更実績を元に、価格弾力性を算出
・価格弾力性を元に、目的別の実施タイミングとに最適なOFF率をご提案

ポイント3
設定したOFF率での売粗在の着地見込み算出
・売価変更を実施したときの売粗在の着地見込みを自動計算
・現行の成り行きと比較して意思決定が可能に

詳細な資料に関してはこちら(https://full-kaiten.com/wp-spl-download)からダウンロード可能です。

値引きをしても粗利を稼いだ事例

適切なタイミングでの価格設定により、粗利額と消化率を同時に改善した事例をご紹介します。

エドウインブランドの販売を行うイー・ジーニング株式会社(アウトレット部門)様は、以下のような在庫の課題を抱えていらっしゃいました。

粗利の確保
人の目で分析することで、本来する必要がない値引きや、本当は必要な値引に気が付かず行動できていなかった

業務の属人化
・自分たちの経験に基づいてオフ率を決めていたが、それが正しかったのかは検証していなかった
・経験と感覚は説明しづらい

上記の課題に対して、人の目と頭脳での分析は限界があると感じ、商品カテゴリー毎の売れ方の波動などが分かるFULL KAITENの導入に至りました。

2024年5~7月にアウトレット専用品の半袖カテゴリーに対し、早期の売価変更を実施したところ以下の成果を創出することができました。

定量成果(5月~7月累計)
粗利額前年比 :133%UP
粗利率前年  :2.1%UP
消化率前年  :3.2%UP
プロパー消化率:1.0%UP

他にも、以下のような変化がありました。
・業務負荷の軽減によって、メンバーに新たな業務を与えられるようになった
・システム導入で属人化が無くなるので、引き継ぎは行いやすい
・社員皆で同じ業務ができるようになった

※イー・ジーニング 株式会社様の成果は、以下で公開しております。
https://full-kaiten.com/case-studies/10281

最後に、イー・ジーニング 株式会社様の事例から得られた示唆をご紹介します。

  • 値引きは粗利を毀損すると思われがちだが、値引きは方法次第で粗利を稼ぎながら消化を促進させることが可能
    • プロパー販売(定価販売)=営業利益UPとは限らない
    • 早期の値引き判断はプロパー消化率低下に繋がるが、期中の粗利は最大化される
    • 値引きの実施時期が最重要
  • 商売の原理原則を理解したうえで、自社の経営課題に合わせたツールを使うことで成果に繋がる
    • 例:FULL KAITENを武器として持つだけではなく、商売の原理原則を理解することで業績改善に繋がる

まとめ

最後に、このレポートで特に重要な点をおさらいしましょう。

  • 値引きの方法次第で粗利を稼ぐことは可能
    • 値引きによる「粗利単価毀損<販売数伸長」となると、理論上は粗利額が大きくなる。これを実現するにはコツがある
  • 成果の出る値引き施策には三つの要素+α
    • 実施時期
      • 後始末から前始末へ、一回の値引きで売り切ることが理想
    • 商品選定
      • 選定の起点は在庫消化進捗に乗っているか否かで判断
      • 目的(売上/粗利/在庫)に応じて選定方法が異なる
    • 価格設定
      • 在庫消化だけでなく、売上を考慮した傾斜をつけたOFF率が必要
      • 価格弾力性を用いたアプローチができれば精度はより高くなる
    • 着地見込
      • 商売は粗利最大化vs消化促進の二項対立ではない
      • 商売状況(着地見込み)に応じて、意思決定の舵とりする必要がある
  • 商売の原理原則理解とFULL KAITENの活用でより大きな成果創出が可能
    • ビジュアルで簡単に商品選定・価格設定することが可能
    • AIの予測値で早期意思決定も可能
    • 価格弾力性を用いた推奨OFF率や売粗在着地見込み算出により、さらなる精度向上へ
    • 消化目標を達成しながら、粗利を大きく伸長させた事例もあり

ここまで読んでくださりありがとうございました。
今後も小売業の実務に役立つような情報を発信して参ります。

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