事例インタビュー

「あなたの値引きは本当に正しいですか?」適切なタイミングでの価格設定が生み出した、粗利額と消化率を同時に改善したプロセスとは

イー・ジーニング 株式会社

アウトレット部門

アウトレット店舗

常識にとらわれない革新的なデニム製品を生み出すことを使命とし、日本発の新しいデニムカルチャーを創造してきたアパレルブランド、EDWIN。

エドウインブランドの販売を行うイー・ジーニング株式会社(アウトレット部門)様は、従来、人力での在庫分析による粗利の毀損を課題に感じていらっしゃいました。

今回は、同社の営業本部で粗利の最大化に取り組む田中様と大島様に、どのような在庫課題を抱えていたかや、早期に市場適正価格に修正したことで粗利を創出した事例、システム導入でぶつかる壁を突破するマインドも伺いました。

※本稿に含まれる情報は、2024年9月時点のものです。

写真左から、弊社プロダクトマーケティング 矢田、イー・ジーニング株式会社 大島様、株式会社エドウイン 田中様、弊社カスタマーサクセス 内舘

過去の実績に基づいた判断で粗利確保に課題

営業本部 営業第三部の田中様と大島様にお話を伺いました。

田中様

  • 直営第二課長(兼)業務改革本部 DB 戦略室 QD チーム長
    • アウトレット全店の運営と統括、EDWIN全体の在庫管理などを担当
  • 23年間同社に勤務。アウトレットの販売員として働き始め、その後、チーフ、副店長、店長と経験を積み、10年前から本社勤務

大島様

  • 直営第二課
    • アウトレットメンズ部門のMD、アウトレット店舗の在庫に関する実務を担当
  • 11年前、同社に入社。店舗の販売員として働き、店長を経て2年前から本社勤務

――どのような在庫課題を抱えていましたか
田中様 粗利の確保
です。人の目でできるのはあくまで過去の実績に基づいた分析なので、結果的に後手を踏んでしまい粗利の確保に課題を感じていました。

株式会社エドウイン 田中様

大島様 人の目で分析することで、本来する必要がない値引きや、本当は必要な値引に気が付かず行動できないことも課題でした。限られた品番なら人の目でもある程度は分析できますが、アウトレットチームには専任のDB(ディストリビューター)がおらず、私のようなMD(マーチャンダイザー)が在庫を見る必要がありました。

岸良(弊社マーケティング) オフ率の基準は決めていましたか?

田中様 自分たちの経験に基づいてオフ率を決めていましたが、それが正しかったのかは検証しておらず属人的でした。

――ジーンズ・デニムならではの慣習や在庫課題とは
田中様 
デニム製品は購入サイクルが長いため、購入頻度が低くなる傾向があると思います。高品質を目指しており、長持ちするのでタイヤ業界と似ています。

EDWINのジーンズを購入してくださる方は、穿き潰すほど最後まで大切に着てくださる方が多いので、本当に気に入ったものを長い期間着用してくださっている印象です。

――今までどのような消化施策を実施していましたか
田中様 
メインはマークダウンです。販売動向が鈍いと感じる商品があれば、担当者の判断でマークダウンを実施していました。オフ率は、あくまで在庫週数に基づいて私達が試算したものなので、本当に正しいのかは確信はありませんでした。

矢田(弊社プロダクトマーケティング) 御社はFULL KAITEN導入前も精度が高いオフ率の設定をしていらっしゃいましたね。以前、御社が元々実施していた施策とFULL KAITENを使った施策の効果検証を同時に実施したと思います。その際に、御社が独自で設定したオフ率は目標消化日にぴったりくっつくように推移していました。消化の観点では、精度の高いオフ率を設定しており素晴らしいです。

加えて、『シミュレーションシート』というものを使って、マークダウンによってどれくらい粗利が残るかや在庫の消化も加味した予測をしていたことも凄いと感じました。

田中様 矢田さんが仰るように、アウトレットチームの森川という社員が作ったシミュレーションシートを使って、特に不調なアイテムに対してオフ率のシミュレーションを実施していました。

そのアイテムの在庫週数を算出しオフを決めたら、決めたオフを実施した後の在庫週数や粗利のシミュレーションもしていました。 決めたオフ率で販売した場合、売上点数が何%伸長するか予め基準を決め、それに合わせて評価していました。

人の目と頭脳での分析に限界を感じた

――導入に至ったきっかけは何でしたか
田中様
 人の目と頭脳での分析は限界があると思ったからです。FULL KAITENは商品カテゴリー毎の売れ方の波動なども分かりますが、人の目と脳ではそこまで分析しきれません。

一緒に取り組みながら「これは使える」と思いましたが、特に実施した施策の効果検証に納得感があったので導入を決めました。

矢田 効果検証を実施したことで大きな定量成果を創出したことが明確になりました。仮に業務負荷が下がらない場合でも導入に至りましたか?

田中様 定量成果を創出することが最重要なので、業務負荷が下がらなくても導入していたと思います。きちんと定量成果が出ることで経営陣に対して数字の提示ができますが、提示できないとFULL KAITENを契約する判断ができません。

――どのようにFULL KAITEN〈在庫分析〉を活用していますか
大島様 
毎週、在庫分析で今後の販売状況がどうなりそうか見ています。月曜日にFULL KAITENの数字を元に先週の検証をして、細かい数字面は各MDが品番単位で分析します。

あとは、マークダウンをする際に、いつ、どれくらいのオフ率に設定すべきなのか判断する時にも活用しています。

初めてFULL KAITENの話を聞いた時に、『商品の成績が分かる通知表』だと解釈し、MD担当として自分が企画した商品がどのように評価されているのか見るのが楽しみでした。自分の特性としてデータを見て分析するのが好きなので、分析しているとワクワクしました。

FULL KAITENのデモ画面。商品の完売予測日と売上(粗利)貢献度で評価する。横軸の完売予測日は、予め設定した完売予測日を原点として、左に行くほど消化が速く、右に行くほど消化するのに時間を要する。縦軸の売上貢献度は上に行くほど売上への貢献度が高く、下に行くほど売上への貢献度が低い

【売価変更PoC】早期に市場適正価格へ修正し、粗利額と消化率を同時に改善

――売価変更PoCでの成果を教えてください
田中様
 売価変更は、粗利、売上、消化率それぞれを最大化するオフ率が分かる開発中の機能で、弊社はPoCとして一緒に取り組みをさせて頂きました。

  • 対象商品
    • アウトレット専用品の半袖カテゴリー
  • 実施期間
    • 2024年5~7月

成果

  • ポイント
    • 粗利と消化率を同時に改善
    • 予め決めた消化期限に遅延することなく、目標消化率80%を達成
  • 定量数字
    • 5月~7月累計
      • 粗利額前年比
        • 133%UP
      • 粗利率前年
        • 2.1%UP
      • 消化率前年
        • 3.2%UP
      • プロパー消化率
        • 1.0%UP

田中様 月ごとに原価率の目標を置いていますが、ほぼ目標通りに着地しました。目標とする消化日に80%の消化率を達成することも決め、概ね計画通りに消化が進みました。

売上は目標には少し届きませんでしたが、粗利と営業利益の面ではクリアし成果に繋がりました。アウトレットの買い取りルールの改定などもあり、全てがFULL KAITENの貢献だとは一概に言えないのですが、2~3%の原価抑制には成功していると思います。

――業務効率が上がったことで、どのような変化がありましたか
田中様 
社員育成の観点で変化がありました。

業務負荷の軽減によって、メンバーに新たな業務を与えられるようになりました。私も大島も様々な業務を兼務しているので、ある程度は他のメンバーに引き継いでいきたいと考えていました。FULL KAITENの導入によって、それまで自社で行っていた在庫消化のシミュレーションを回す必要が無くなったので、その社員には他の業務を引き継いでもらうことができました。システム導入で属人化が無くなるので、引き継ぎは行いやすいと思います。

大島様 私自身の業務量は減ってはいませんが、できることは増えました。

例えば、皆でFULL KAITENを使えるようにしたいと思ったので、社内向けの勉強会を開催しました。「AIがこういう結果を出したので、こんな風にまとめます。」と、考え方と作業方法が明確なので説明もしやすいです。

以前は自分の経験と感覚で判断してきたので、それを人に説明しづらいと感じていました。もしも今まで通りの方法で業務をしていたら、ずっと私一人の感覚で進めることになっていたと思います。そうすると、私が急に仕事を休まないといけなくなった時に、業務が滞ってしまいます。FULL KAITENを使って、皆私と同じ業務ができるので大きな進化だと思います。

斉藤(筆者) 勉強会に参加した方の反応はいかがでしたか?

大島様 初回の勉強会だったので、沢山の質問がありました。当日にフォローしきれない部分は、後日個別にレクチャーの機会を設けました。勉強会も大事ですが、最終的には「使ってみないと分からないね!」という認識になったので、まずは第一歩を踏み出せたと思います。

田中様 本来は半年から1年かけて一緒に仕事をするなかで引き継ぎしますが、それでも経験と考え方を正確に伝えることは困難です。
経験は個人の中でしか積み上げられないので、人が変わったらまたリセットされます。
FULL KAITENのようなシステムがあれば実務の引継ぎはすぐに終わるので、業務がブラックボックス化せず、容易に伝えられるようになります。

――売価変更をどのように活用しますか
田中様 
私がFULL KAITENの社内稟議に際して作った『AIを使った4カ年計画』というものがあり、毎年分析対象を広げることで粗利を確保したいと考えています。
今はアウトレット専用品だけを対象としていますが、今後はそれ以外にも広げていきたいです。
少し早いペースで進行しているので、計画を前倒しできそうです。

【FULL KAITEN〈在庫分析〉】在庫消化しながら、粗利金額が20%向上

2024年3月の時点で5月末までの販売予測を分析し、3月に先手を打って売上上位品も売価変更を実施したところ、在庫消化しながら粗利金額が20%向上したと伺いました。
早期に売価変更を決断できた理由を教えてください。

田中様 FULL KAITENのAIが予測する数字を信じて実行しない限り、良いのか悪いのか何もわからないと思ったからです。四の五の言わず、とりあえずやってみないと何も得られません。
社内に対しては、定量面でこれだけ粗利や営業利益も増えるだろうという説明もしました。

斉藤 在庫消化しながら、粗利金額が20%向上した要因を教えてください。

田中様 売価変更のタイミングに尽きると思います。人の目では実現できないタイミングでの適切な売価変更によって、粗利の毀損を抑制できました。
10%オフという今までチャレンジしたことのない価格を設定したことも大きく寄与しました。

内舘(弊社カスタマーサクセス) 弊社では商品の投入から完売までのプロセスのことを商品ライフサイクルと呼んでおります。今回は、ピークインのタイミングで早期に市場適正価格へ修正したことが粗利向上と消化促進に繋がったと思います。

商品ライフサイクルを説明した図

矢田 今回、一度の売価変更で在庫消化をしながら粗利金額も上がったので、何度も売価変更をする手間も省けたと思います。店舗では、売価変更のたびにマークダウンのシールを貼る作業が発生しますが、そのような作業も減りましたか?

大島様 減りました。今まで3段階ほど売価変更をすることがありましたが、今回は大半が1回で済んでいます。

斉藤 粗利金額が20%向上したことは、どのように評価していらっしゃいますか?

田中様 まずは導入費をペイできると思いました。AIを使った4カ年計画通り行けば、更に粗利金額が向上するはずなので、これからの定量成果が重要です。

矢田 値引きをすれば消化率が上がるのは当たり前ですが、売上のトップラインは下がったものの、粗利が改善した点がとても示唆深いと思いました。どのような点が成果に寄与したと思いますか?

田中様 先ほど申し上げた通り、10%オフに初挑戦したことが大きいと思います。正直、「10%オフではお客様が購入するフックにはならないだろう。」と考えていました。

大島様 今回の売価変更で驚いたことがありました。

私が企画した半袖Tシャツがあったのですが、半袖Tシャツなので8月末まで定価で売れると思っていました。しかし、FULL KAITENでは4月の1週ぐらいに早々に値引き対象になりました。私としては売れると思い用意した商品ですので、「信じたくないし、目を背けたい。」と思いました。

ですが、FULL KAITENによると、その半袖Tシャツは4月に10%オフしないと、消化、売上、粗利の毀損が大きくなる予測が出ていました。
まだ追加のフォロー出荷もある商品でしたが、早期に10%オフの判断をしました。
すると、期末まで10%以上値引きせずに消化80%まで推移しました!

もしも人の目で分析をしていたら、4月の時点で値引きしようとは思いません。
「この半袖Tシャツは売れる!」と信じ、結果的に期末に大幅なオフをしてしまっていたと思います。

イー・ジーニング 株式会社 大島様

田中様 10%オフのジャッジは、人の目では拾えていなかったですし、そもそも私たちは10%オフは意味がないと思い込んでいました。今回はFULL KAITENが予測する数字を全て信じて実行しました。人の判断で「これは売れるから、10%オフは意味がない」と言って10%オフの提案を拒絶したら、FULL KAITENを導入する意味がありません。

岸良 なぜ予測結果を信じられたのですか?

田中様 FULL KAITENの予測通りに実施しないと、良いのか悪いのか、使えるのか分からないからです。そこを明確にしないと、導入するかどうかの判断すらできません。

斉藤 AIの予測を信じることに対して、社内から反発はありませんでしたか?

田中様 アウトレット店長会で「AIを導入して利益を取るので、みんな理解してほしい。」と話したので、反発はありませんでした。

矢田 弊社のお客様でも、AIを現場に浸透させることに苦労されていることがありますが、正直言って、これは田中様だからできた事だと思います(笑)

田中様 店長たちも、元々私が現場の人間だと知っているのでそれは大きいです。もし私が元々の本社側の人間だったら、そうはいかないのかなとは思います。

現場から「あなたに何が分かるんですか?」と言われないように、今まで生きてきましたので。

斉藤 早期の10%オフは、御社の業績にもインパクトがありましたか?

田中様 アウトレットチームとしての業績では、2~3%の原価率削減に貢献し営業利益がきちんと出たと思います。

あなたの値引きは本当に正しいですか?

――どのような課題を持っている方にFULL KAITENを勧めたいですか
田中様
 人の目と頭脳で分析するのは限界だと思っている方に勧めたいです。 

そういう方に向けて、「あなたの値引きは本当に正しいですか?」と聞きたいです。

「あなたの値引きは本当に正しいですか?」と問いかける、株式会社エドウイン 田中様

――チームや店舗の皆様からのご感想を教えてください
田中様
 批判的な声は殆ど無いです。弊社は在庫の最適配置ができるFULL KAITEN〈在庫配分〉も契約していますが、導入当初は「何故この商品が移動されたのか?」という声がありました。ですが、それは日々改善できているので特に問題だとは思っていません。

人の目で分析すると、その人の人となりを知らなければ「あの人が分析した結果を信じていいのか?」と不安になることもあると思います。ですが、FULL KAITENはシステムなので、良い意味でシステムに対して感情は湧かないと思います。人間なので人に対して思うところは色々あるとしても、システムに対して思うことはあまり無いです。

矢田 以前とある企業様で、担当者別の在庫移動実行率を一緒に調査したことがあります。その際に、移動の指示を出す個人別で店舗側の移動実行率が大きく異なりました。

詳細は控えますが、店舗側は人を選んで在庫移動をしていると分かりました。現場からすると、「Aさんが言うなら移動しよう!」や「Bさんが言うなら移動しないでおこう。」ということが起こっていました。田中様が仰るように、全てAIの決定なので人を選んでの行動は減ると思います。

田中様 AIで実施するので、当然結果まで明らかになることは皆分かっていると思います。今までのように人からの指示なら、結果まで追っていないだろうと油断する人もいるかもしれません。FULL KAITENは結果も数字で分かるので、そのあたりも役立っています。

――今後どのようにFULL KAITENを使っていきますか
田中様 
更に利益に繋がる方法を模索していきたいです。

大島様 私は商品企画もしているので、次のシーズンの仕入れ数量なども分かるようになると良いなと思います。

矢田 田中様はアウトレット店舗を統括するお立場ですが、店舗の業績を上げる観点でFULL KAITENに実現してほしいことはありますか?

田中様 店舗という観点では、各SV(スーパーバイザー)がFULL KAITENを使いこなせると更に業績が上がると思います。SVが各店舗を回る際に、下調べとして活用できれば現場に行って指示を出しやすくなります。

――弊社カスタマーサクセスへのご意見を教えてください
田中様 
矢田さんと内舘さんのお2人だから、ここまで進んだと思います。斜に構えている方なら私もNOと言っていると思います(笑)

大島様 いつも手厚く支援して頂きありがとうございます。お二人ともとても忙しそうなので、「ちゃんと休息できていますか?」「無理していないかな。」と思っています。

大島様と田中様からの温かいお言葉に感激する、弊社プロダクトマーケティング 矢田(写真左)、内舘(写真右)

取材後記

イー・ジーニング様が成果を創出された理由は、田中様の言葉から分かりました。

現場から「あなたに何が分かるんですか?」と言われないように、今まで生きてきましたので。

店舗のスタッフからキャリアをスタートし、現在に至るまで様々な経験をされ、芯を強く持って行動で示してきたのだと伝わってきました。

そのような姿に心を打たれ、一緒に頑張りたいと思う方が沢山いらっしゃることで、今回大きな成果をチームで達成できたのだと思いました。

加えて、大島様のアンラーニング力も素晴らしいと感じました。

ご自身が企画した商品を早期に売価変更する判断は、並大抵のことではなかったと思います。しかし、軌道修正し粗利と消化率の改善に繋げていらっしゃいます。

お二人はスポンジのように新しいことを吸収し、現状を疑い打破する力が飛び抜けていらっしゃいました。

「あなたの値引きは本当に正しいですか?」

どんな物事でも、自分を振り返る際はこの言葉を思い出したいと思う取材でした。