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南充浩note:巷にあふれるエコ・エシカル・サステイナブルは“ウォッシュ”だらけ

早いもので2020年ももう終わろうとしています。今年の繊維・アパレル業界の話題といえば、

  1. コロナ不況
  2. エコ、エシカル、サステイナブル押し
  3. 在庫処分
  4. D2C(笑)

あたりが4大トピックスと呼べるでしょうか。当たり前のことですが、この4つは決して独立したものではなく、それぞれが関連付いています。「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないですが、世の中の事象はどれも関連付いているものです。その中でも今回は「エコ・エシカル・サステイナブル押し」について考えてみたいと思います。(南充浩=フリージャーナリスト)

エコバッグや有料紙袋は本当に「エコ」ですか

厳密に言えば、エコ、エシカル、サステイナブルはそれぞれ全然違う意味の単語ですが、それらに全く興味のない自分から見て、メディアや業界の使い方はほぼ同義語として使われているように見えます。多くの論調ではこれらの言葉が「環境問題対策」的な意味で使われていると感じられます。ですから、今回はこれらを同じ意味の言葉として扱います。

衣料品業界のみならず、ほとんどの物販で今年から直面したエコ課題としては「レジ袋有料化問題」があるでしょう。7月からビニールのレジ袋が有料化されました。プラスチックごみを減らすという目的でエコバッグを持つことが推奨されましたが、当初からレジ袋削減によるプラスチックごみの削減効果は薄いと指摘されていました。実際、旗振り役の小泉進次郎環境相もそのことを認める発言をしています。

しかし、素朴な疑問ですが、エコバッグの量産というのは「エコ」なのでしょうか?レジ袋よりもはるかに手の込んだ工程が必要となる上に、各メーカーやブランドからどんどんと新商品が供給され続けています。当然、売れ残りになった不良在庫も増えているでしょう。

消費者は一人当たりいくつくらいのエコバッグを所有するでしょうか? 個人的には、S、M、Lの3サイズをそれぞれ洗い替えも含めて2つずつの計6個も所有すれば限界だと思っています。特大サイズを2個加えたとしても合計で8個です。エコバッグを何十個も揃えるなんて少数のマニアだけでしょう。そうなると、量産販売されているエコバッグのほとんどは不良在庫化します。果たしてこれがエコでしょうか?

また、ユニクロとジーユー(ともにファーストリテイリング傘下ブランド)はレジ袋有料化に伴って、ビニールのレジ袋を廃止し紙袋を有料化しました。しかし、紙袋を有料にする意味があるとはまったく思えません。そもそも「プラスチックごみの削減」が目的ですから、紙袋はプラスチックごみではありません。なぜ有料なのでしょうか?

雨が降って濡れると紙袋は破れます。過去に何度か経験しました。それを防ぐために雨除けの透明ビニールのカバーを紙袋につけてくれるのですが、こちらは無料です。なぜ、これは無料で配布できるのでしょうか?また、オンライン通販で購入し、店頭受け取りにすると、総額5000円未満でも店までの送料は無料になります。

例えば、190円に値下がりした靴下をオンライン通販で購入し、店頭受け取りにすると送料は無料で受け取れます。この時、紙袋は無料でもらえるのです。これはなぜでしょうか? ちょっと釈然としません。正直に言うと、ユニクロとジーユーのレジ袋政策は個人的にはちっともエコな取り組みとは思えません。対外的ポーズに過ぎないとすら感じてしまいます。

合繊推し、オーガニックコットン不正認証という皮肉

動物愛護の観点から、毛皮を使わないという取り組みも増えています。毛皮業者からは「野生動物を捕獲して毛皮を取る行為は禁止すべきだが、ミンクなどの毛皮はそれ専用に飼育・繁殖させており、いわば食肉用に牛や豚を飼育・繁殖させているのと同じなので納得できない」という声も挙がっています。毛皮を使う代わりにフェイクファーを使うブランドも増えました。

少し話は逸れますが、日本にはフェイクファーの一大産地があります。アパレル業界の中にも知らない方もおられるのですが、和歌山県橋本市周辺が国内のフェイクファー産地です。高野山のふもと辺りに位置するので「高野口産地」と呼ばれています。

最近、欧米ではフェイクファーのことを「エコファー」と呼ぶことも増えました。エコとは環境だけに使う言葉ではないのだそうです。筆者は高野口産地の仕事も3年間くらい請けたことがありますので、何度もフェイクファーを見せてもらいましたが、フェイクファーの多くはポリエステルやアクリルなどの合成繊維でできています。ポリエステルやアクリルの原料は石油です。同じ石油原料のレジ袋は「エコ」を理由に削減すべきだといい、毛皮に対しては「エコ」の意味は違いますが、石油由来の合繊で作られたフェイクファーを奨励するというのは、ちょっと首を傾げたくなります。

またコットンについても無農薬で化学肥料を使わずに栽培するというオーガニックコットンが環境問題の高まりから以前よりは注目を集めるようになりました。単純に考えて、無農薬で化学肥料を使わずに栽培すると、それだけ手間がかかりますから、綿花自体も高額になりがちです。実際、驚くほど高額なオーガニックコットン製品も世の中には珍しくなく、一般的にそれがオーガニックコットンのイメージとして定着しているように感じます。

多くの人が誤解しがちなのですが、オーガニックコットンは通常栽培のコットンと成分的に何の違いもありません。肌荒れなどに効能があると言われていますが、それに対する科学的データも存在しません。そのため、「肌荒れなどに効果がある」と謳うことは薬機法違反となるのです。

高額なイメージのあるオーガニックコットンですが、大手低価格ブランドにも使われており、そこでは「オーガニックコットン使用」と謳われた衣類が低価格で販売されています。代表例は無印良品や以前のH&Mでしょう。オーガニックコットンの栽培地は米国、インド、トルコ、一部のアフリカがメインですが、米国産は契約栽培されているので、高額品に使われているのはほとんどが米国産だと考えられています。インド、トルコ、一部アフリカのオーガニックコットンはフリーに売買されており、低価格でも取引されています。ですから、低価格オーガニックコットン製品にはこうしたインド・トルコ・一部アフリカ産が使われています。

そのインドで、先日、大規模なオーガニックコットンの不正認証が発覚しました。12月7日付の繊維ニュースが報じています。

THE SEN-I-NEWS 日刊繊維総合紙 繊維ニュースwww.sen-i-news.co.jp

「オーガニックコットン/インドで不正認証が発覚/供給不安定化で価格高騰」
 オーガニックコットンの有力生産国であるインドで10月下旬にオーガニックコットン認証の大規模な不正行為が発覚した。この影響で一時的にオーガニック綿花・綿糸の出荷が停滞し、価格が急騰している。
 オーガニック繊維の国際的な認証組織「グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード(GOTS)」は10月30日、インドで偽造原綿取引証明書に基づいてオーガニックコットンとして売買されている綿花を確認したと発表した。不正行為に関与していたインド企業11社に対して認証の取り消しと今後2年間は認証申請を拒否する処分を発表している。
 インドでは以前から通常の綿花がオーガニックコットンと偽って売買されているとのうわさが絶えなかった。GOTSが大規模な不正行為を確認したことで疑念が一段と強まった。オーガニックコットンを取り扱っている業者は自社の取扱品が適正に認証を取得したものかどうかの確認に追われることになり、新規の認証作業も事実上ストップしている。

とのことで、「市中から安値玉が姿を消している」という状況にあります。
結局のところ、これまでの低価格オーガニックコットン製品の中には、これまでの不正認証品もかなり含まれていたと考えられます。まったくもってエコ素材ではなかったというわけです。

大量生産のメリットにも目を向けよう

「エコ」な取り組みは素材ばかりではなく、在庫問題にも及んでいます。しかしながら、大量生産と過剰生産を混同し「大量生産は悪だ」と叫ぶ人も少なくないように見受けられますが、そういう人は業界人でも生産のことにあまり詳しくないという場合が多いのです。知らないからこそ混同してしまっているのでしょう。

昔、産業革命以前の衣類は高級品でした。なぜなら糸作りから生地作り、縫製と全て個人の手作業で行われていたためです。量が作れませんから、必然的に高額品になります。そのため、庶民は新しい服を仕立てるということがほとんどできませんでした。庶民が新しい服を仕立てられるようになったのは大量生産が可能になった産業革命以降のことです。
さらに「既製服」という物が作られるようになったことで、衣類は庶民に行き渡るようになりました。すべては「大量生産」による洋服1枚当たりの製造コストの引き下げによるものです。「大量生産=悪」という人はともすると「受注生産」を主張しますが、産業革命以前の「洋服は王侯貴族の物」という状況に戻したいのでしょうか?

以前にも書きましたが、縫製という工程だけを受注生産化したところで、実は糸、生地、ボタンやファスナーなどの副資材、縫製するためのミシン糸などは大量生産されていますから、大量生産システムから逃れることはできないのです。

これに対して、デジタル技術を用いて多品種少量生産が可能な工場を実現せよという主張があり、純粋な洋服ではありませんが、アディダスのスニーカーのインダストリー4.0が例に挙げられます。しかし、このアディダスのインダストリー4.0構想は昨年秋に終了してしまいました。

アディダスがドイツと米国生産から撤退発表、インダストリー4.0構想は後退へ
 独アディダスは(2019年)11月11日、本社近くのドイツ・アンスバッハと米国アトランタにある最新鋭工場”スピードファクトリー”での生産を、2020年までに終了すると発表した。

というのが実情です。
ではどうして後退したかというと、上記記事中から引用すると「経済的」ではなかったからということになります。

脱石油原料、各種エコ素材、インダストリー4.0と、そのどれもが結局のところ、SF小説のような未来テクノロジーを使って一足飛びには解決できないことなのです。現実に即した改良しか手はないはずなのに、メディアや<イシキタカイ系>は逆転満塁ホームランを求めすぎているように感じられます。

そして、何より儲からなくては(経済的でなければ)事業は続かないのです。アディダスのインダストリー4.0の頓挫も「経済的でなかったから」が理由でしたし、ペットボトルを砕いて溶かしてポリエステル糸にする「リサイクルポリエステル」も高コスト高価格な割には品質が悪いため、経済的ではないという理由で使用が広がりにくいのです。

逆転満塁ホームランではなくシングルヒットを重ねながら、いかにして経済的であるか、ということが結局は環境問題改善への最短の近道になるのです。

著者プロフィール
1970年生まれ。繊維業界紙記者としてジーンズ業界のほか紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下まで担当。 退職後は量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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