難易度が高いバッグの回収・解体・リメイクに挑んだマザーハウス「RINNE」
発展途上国で生産したバッグやジュエリーを「世界に通用するブランド」として世に送り出している株式会社マザーハウスが、バッグを回収して解体し新たな皮革製品にリメイクする新事業「SOCIAL VINTAGE」に乗り出した。元来、革製バッグは解体と再利用が技術的に難しいとされてきたが、マザーハウスは従来から修理を依頼している職人たちの協力を得て、「作り手の責任」として使われなくなった製品の回収まで踏み込む。新型コロナウイルス危機の下、循環型社会をつくるために「長く使うこと」に対する社会的評価を高める挑戦となる。
売って終わりではない「作り手の責任」
マザーハウスは2006年に設立して以来、バングラデシュをはじめ、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーの計6カ国で、それぞれの素材や文化を活かしてアパレル製品やバッグ、アクセサリーなどを生産している。
同社は2020年7月、新プロジェクト「SOCIAL VINTAGE」によって生産される新ブランド「RINNE」を発表するオンラインプレス会を開催した(冒頭写真)。
そもそも、革製バッグは壊れないように丈夫に作ってあるため、解体が非常に難しい。腕力が必要なうえ、糊を剝がすのも一苦労だからだ。
しかし、普段から修理をしてくれている職人さんたちならできるのではないかと考え、日本の修理工場と組んで取りかかることになった。
山口絵理子デザイナー兼社長は「非常に面倒くさいので、他に誰もやりたがらないだろう。しかも、材料に規格がなくて大きさや色もバラバラなので、なおさらやりたがらないのでは」と話す。
それでも事業化を目指したのは「作り手の責任」からだ。使われなくなった商品の回収・再利用をバッグでも実践すること。そして、コロナショックによって、生産国6カ国の中には工場の稼働がストップしたところもあり、SOCIAL VINTAGEによって操業を維持する狙いもある。
多くのアパレル企業が「リサイクル」を謳って衣料品を回収しつつ、実際には自社で何もせず他団体に寄付するのが大半のなか、マザーハウスの取り組みは特筆すべきことだ。
商品の回収に協力したお客には、通常の買い物に使える1500円分のポイントを付与。別途1000円分を同社が途上国の公衆衛生対策へ寄付するために貯める仕組みだ。
「ストーリー依存」はNG
RINNEは回収された商品と、サンプルなどとして流通せず廃棄を待つ在庫製品が材料となる。ラインアップはバッグ3型とカードケースなど革小物6型。マザーハウスのバッグはバングラデシュの工場で生産しているが、RINNEの第1ロットは日本の修理工場で生産した。
修理工場では開催されたバッグの素材の色あせや傷を補修。カラーの組み合わせや使用素材の判断基準、納品までマザーハウスのMDが付きっ切りで関わった。本年8月からはバングラデシュの工場へ型を送り、現地で生産しているという。
以上のように、RINNEは素材となるレザーの色や風合いが異なるため、同じ商品は他に一つもない。にもかかわらず、価格はバッグで2万7500円(ミニショルダー)と2万9700円(フラップショルダー)、ブックカバー7700~8800円、キーケース7700円などと消費者の手が届きやすい水準に設定した。
「(回収したバッグを解体してリメイクしたという)ストーリー依存になってはいけない」と山口氏。「エシカル、ソーシャルという付加価値があるとはいえ、お客さまに買ってもらうからには可愛い製品でないといけない。コロナショックで財布の紐が固くなっている今だからこそ、もっと良いものを作って買ってもらいたい」と語る。
要は、エシカル、リメイクと言わずともお客が買いたいと思う商品を作れているかどうかということだ。
コロナ危機を受け、山口氏は今、お客のマインドを読み取ること、半年先がどうなるかを予測することに腐心しているという。例えば、来店しないお客とはYouTubeでつながってライブでコミュニケーションし、すぐに型紙を起こすスピード感を心がけているという。
SOCIAL VINTAGEは、モノを売った後もお客と長くコミュニケーションを続け、ブランドの付加価値を突き詰める同社だからこそ実現できたといえるだろう。(南昇平)