南充浩note:セシルマクビー凋落にみる人口動態のインパクトと海外事情
今回は人口減少問題とアパレル産業について考えてみたいと思います。少子高齢化は我が国が世界で最も進行していますが、ヨーロッパ諸国のほか東アジア・東南アジアでも実は少子化がかなり進んでいます。日本のブランドが海外に進出しても決してブルーオーシャンというわけではありません。さらに主要顧客とする年齢層の人口動態に対応できなければ、セシルマクビー(CECIL McBEE)のようにブランド凋落は不可避でしょう。(南充浩=フリージャーナリスト)
大量死亡時代と人口構成の変化
人口動態については、「人口減少=終わり」みたいな論者もいて、そういう論者は決まって「大量移民を受け入れろ」と主張します。しかし、大量移民を受け入れたドイツの混乱ぶりや、今のコロナ禍のアメリカの混乱ぶりを見ていると、無制限な大量移民の受け入れは国の基盤を破壊しかねないので、個人的には反対です。
また、人口減少ですが、基本的に死者数のほとんどは老人です。もちろん、若い人の死亡もありますが、当たり前ですが少数です。戦争や大規模災害の頻発でも起きない限りは、基本的に死者数は常に老人層がほとんどを占めるのです。
そうなると、老人はすでに産業活動からはリタイアしているため、彼らの死亡は実は産業にとってはあまり痛手ではないと考えられます。もちろん老人とても消費者ですが、中年層のような活発な消費活動をするわけではありません。
体感的に80歳を越えると健康寿命が尽き、身体の機能が低下するため、出歩けなくなり消費活動も活発ではなくなります。食料を消費する量も減ります。
そのため、老人の死者数が増えても消費にはそれほど多大な影響を及ぼさないのではないかと個人的には見ています。逆に医療費を含む社会保障費の総額はグッと下がりますから、老人人口の減少は何も悪いことばかりではなくメリットもあります。
現在、最大の人口を誇っているのが団塊の世代ですが、70代半ばに差し掛かっているため、遅くとも20年後にはすべて亡くなるでしょう。その次が団塊ジュニア世代ですが、こちらは現在49歳~40代半ばの世代なので、40年後にはほとんどいなくなってしまいます。
そうなると、もしかすると、40年後には意外に世代バランスの良い日本社会になっている可能性も否定できません。こればっかりはいくらシミュレートしても正解かどうかは分かりにくいので、その時になってみないとわかりませんが。
そんなわけで40年後は一概に悪い世界になるとは思いませんが、団塊世代がほとんど消えた20年後(2040年)から2090年までの間は産業人口が減少し続けるので産業構造が変わらざるを得ません。また、消費構造も変わらざるを得ないでしょう。
ブランド大淘汰は確実に起こる
ここからは2040年前後から2090年までの消費、特に洋服の消費について考えてみましょう。人口が減少するため、洋服に限らず食料品や雑貨類などの売上総数も減ることになるでしょう。いくら、個人が今よりも大量に消費するようになったところで、1人で10倍も20倍も消費できるわけではありませんから、売上総数は減らざるを得ません。
洋服のビジネスで考えれば、売り上げ枚数は減るでしょう。そうなると、今よりもブランド数が淘汰されて減り、大手による寡占化が確実に起こると思います。なぜなら、今よりも売上枚数が減るということは破綻するブランドが増えるということを意味するからです。
労働者人口も減っていますから、破綻したブランドの残党がまた新しくブランドを立ち上げるということも減るでしょう。現在はブランド数が多すぎるくらいですから、減るのはちょうどよいといえるかもしれません。
それに加えて大手の寡占化がもっと進むのではないかというのが個人的な推測です。
現在のアパレル小売の市場規模はだいたい9兆2000億円内外で毎年推移していますが、この9分の1がユニクロとジーユーに占められています。ユニクロとジーユーの売上高合計は1兆円強となっています。そして、しまむらグループは5400億円の売上高がありますので、それを加えると1兆6000億円近くになり、国内の市場規模の6分の1を占めることになります。
すでに現在も大手の寡占化は十分に進んでいますが、2040年からさらに寡占が進むのではないかと思われます。なぜなら、小規模・零細ブランドや中規模ブランドが販売数量の減少でどんどん淘汰されるからです。大手の寡占化と、それ以外のブランドの淘汰というのが国内の洋服市場となるのではないでしょうか。
「海外に活路を」…言うは易く行うは難し
国内の人口減少を懸念して「海外へ活路を見出せ」という論調がありますが、わたしは、幾分かは緩和する効果があるものの、根本的な解決にはならないと見ています。そしてそれは今回の新型コロナショックと、中国包囲網の締め付けによって、ますます解決策ではなくなったと感じますが、何よりも根本的な問題は、新型コロナショックや中国問題の如何にかかわらず、先進国・東アジア・東南アジアの人口は今後、我が国と同様に減少に向かうからです。
結婚問題・少子化問題で個人的にもっとも評価している荒川和久氏はこんな記事を書いておられます。
日本だけでない「世界的な人口減少」は不可避だ
https://toyokeizai.net/articles/-/304861
「人口・出生率・死亡率」の深い関係を分析
2015年時点で世界の人口は約74億人です。2100年には、国連のMEDIUM推計で109億人になると言われていますが、これはかなり楽観的な見通しです。LOW推計での73億人が妥当だと個人的には思います。アフリカ以外、すべての国の人口は減少するでしょう。
1950年、2015年、2100年推計(国連WPPのLOW推計より)それぞれにおける各国の位置をプロットしたものがこちらです。1950年(青)→2015年(黄)→2100年(赤)というように、世界の国々が一塊となって「少産多死」のステージに移行する様子が見て取れることと思います。
興味のある方は全文をお読みください。
これについて「なぜ?」と疑問に感じられる方も多いと思いますが、日本の少子化は国内では有名ですが、世界各国の少子化はアホみたいな報道規制があるのかほとんど報道されません。東アジア・東南アジアはすでにほとんどが少子化になっています。
現在、出生率が世界一低いのは韓国です。日本の出生率は1.40~1.36くらいで推移していますが、韓国の出生率は1未満の0.98とか0.95が続いています。今後韓国は恐ろしいスピードで人口が減少します。
シンガポールも長らく1.2くらいで推移していますし、台湾も1.1~1.2くらいです。東南アジアでもタイやベトナムは1.6くらいに落ちて来ています。戸籍統計があやふやな中国ですが、これもわかる範囲では1.6くらいではないかと言われています。
そしてヨーロッパでもイタリアは日本より低めの1.3台後半、ドイツはだいたい日本と同じの1.4台です。ですから、現在の先進国・中進国のほとんどは今後人口が減少します。そのため、日本ブランドが海外に進出しても想像しているほど容易には売れにくくなると考えられます。
そして、国内でも海外でも人口が減少するマーケットにおいて、もっとも有効なブランドの生き残り戦略は「他社の顧客を奪い取ること」です。人口が増えれば、他社・他ブランドとの共存共栄は可能ですが、消費者数が減るわけですから、売り上げを維持するためには、他社の顧客を奪い取ることがもっとも効果的な生き残り戦略だということになります。
これは人口が減少する国内でもそうですが、同じように減少していくであろう海外でも同じだということになります。海外でも国内同様に先行ブランドや現地ブランドが顧客の奪い合いをするわけですから、たやすく拡販できるはずがありません。2020年以降、他社・他ブランドからの顧客の奪い合いが激しさを増すことになるでしょう。
「109系」ブランドの凋落は必然だった
今後の若年層の人口減少と、ブランド間の顧客の奪い合いの一端が伺い知れるのが、近年の109系ブランドの凋落ではないかと思います。
ギャルブランドというジャンルで知られた「109系」ですが、近年は全般的に一部を除いて苦戦傾向が続いています。中でも世間を驚かせたのは、本年7月20日に発表された「セシルマクビー」の全事業停止とその運営会社であるジャパンイマジネーションのライセンス事業以外の全事業停止でしょう。
かいつまんで話すと、ジャパンイマジネーションという会社は、セシルマクビーのライセンス管理以外の全事業、全ブランド運営をやめてしまうのです。もちろんセシルマクビーも実店舗・ECともに閉鎖で、水着やサングラスなどの他社がライセンス契約で生産した商品だけが残ることになります。
これを「セシルマクビーが実店舗閉鎖」と報道したニュースもありますが、これは間違いで、実店舗だけの問題ではなくネット通販も終了し、セシルマクビーの服は一旦市場から姿を消すのです。
セシルマクビーばかりでなく、かつて「109系」と総称されたブランドはほとんどが苦戦傾向にあり、アズールも苦戦していますし、ココルル、エゴイストなんて名前すら聞かなくなりました。
その理由ですが、まず、若年層の人口減少が挙げられるでしょう。その次に、若い女性の買う店が変わったということも挙げられるのではないかと思います。また109系のようなテイストが好まれなくなったということもあるでしょう。
では109系を離れた若い女性はどこで洋服を買っているのかというと、最も吸収しているのは少し前なら「しまむら」、今ならジーユーではないかと思います。
圧倒的な低価格でトレンド商品をそろえるジーユーは若い男女を圧倒的に取り込んでいます。また近年のビッグシルエットの流行によって、今度は加齢によって体型が大きくなってしまった中高年層まで取り込み始めました。
ジーユーが意図したかどうかはわかりませんが、人口減少社会において最も手っ取り早く有効な手段は顧客を奪うことで、109系からジーユーが、圧倒的低価格を武器に顧客を奪ったと考えられます。
そして、109系はいつの間にか「かつてのギャルたち(現在30~40代)が支持するブランド」という色合いが強くなっており、セシルマクビーの報道の際も「寂しい」「愛用していたのに」という声がSNS上で多く見られましたが、だいたいは10代後半~20代の女性よりも、30代・40代女性の方が多かったと感じています。
今後、2020年以降は、このような事例が頻発し、大手の寡占化がさらに目立つようになると思われ、セシルマクビーの件はその先触れに過ぎないのではないかと思います。
著者プロフィール
1970年生まれ。繊維業界紙記者としてジーンズ業界のほか紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下まで担当。 退職後は量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。