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欠品は実は未然に防げる…大企業から在庫リスクを押し付けられる中小の自衛策とは

流通事業者やメーカーの多くは商品(製品)の欠品を何が何でも避けたいと考えている。ただ、欠品を恐れるあまり在庫を持ちすぎるため、キャッシュフロー(資金繰り)が悪化したり在庫維持コストが増大したりと大きな副作用に苦しんでいるのが、現在の在庫ビジネスの実状ではないだろうか。しかし筆者は先日、在庫を多く積まずとも欠品を未然に防ぐことができる手法をメーカーなどに助言しているコンサルタント米田慎一氏と出会った。クライアントはネットショップや製造業など様々で、欠品回数が3分の1になったり、商品アイテム数を維持しながら在庫を33%削減したりという効果が出ているという。どのようにして欠品を防ぐのだろうか。

安全在庫が「安心在庫」になっている

米田氏は大阪市で在庫適正化に特化したコンサルティング会社インフォグロースを経営。クライアントは主に売上高5億~30億円規模のメーカーや卸売事業者、小売事業者で、キャッシュフロー改善→回転率向上→利益率向上のサイクルの実現がゴールだ。

相談に来る会社で多いのが、「現在庫量も適正な在庫量も分からないので、とりあえず欠品せず安心できる数量をもっている」というケースだという。これではいつまで経っても在庫が減るわけがなく、キャッシュフローも好転しない。下手をすると黒字のまま倒産してしまう。
これに対し、米田氏は「欠品は大概、未然に防ぐことができます」と話す。やり方は至ってシンプルで、在庫管理の教科書どおりの方法に独特のノウハウを組み合わせているという。

在庫管理の担当者は経営者や営業から「絶対に欠品させるな」と厳命される。すると、欠品を恐れて多めの仕入れを繰り返しがちだ。米田氏は、在庫管理でいう安全在庫ではなく、担当者自身が安心するための「安心在庫」になってしまっていることが最大の原因だとみており、「そもそも安全在庫の基準がないから、必要以上に欠品を恐れるんです」と指摘する。

となると、対策としてはまずは安全在庫の基準をきっちりと決める必要があるということになる。基準在庫量は売上規模によって決まるが、商品が売れだして取引先から増産や取扱量拡大を求められた時につまづく企業が多いのが実状だ。

その増産が身の丈に合っていれば良いが、合っていないと売上は上がっても利益率は下がる。その結果、キャッシュが減っていき従業員満足度も下がる。
「売上増」「取引増」という甘い声が社外からも社内からも出てくるが、「最近成功しているところは、当初のコンセプトを持ち続け、自社の強みをきちんと自覚している。だから必要以上に売らないし作らないから在庫をコントロールできています」(米田氏)

(インフォグロースの資料に筆者加筆)

そもそも需要は一定でないため、発注から納品までの間に欠品してしまうリスクがあるのが在庫ビジネス。納入リードタイムを勘案した発注点を設定している場合、在庫数が発注点を割ったら発注する。
トレンドの移り変わりが激しい業種を除き、売れ行きに応じて発注点や安全在庫を増減させれば過剰在庫も欠品も大抵の場合は避けられる。在庫を注視しているようで注視していないから、欠品の兆候や発注点割れがいつ来るかを早く察知できないのだといえる。単純明快だ。

ただし、イベントリスクは常にある。そんな時は堂々と欠品すれば良いと筆者は思う。絶対に欠品していけない商品というのはごく一部だろうし、売る側が疲弊するだけではないだろうか。

中小にフィットしないシステムに疑問

米田氏はもともと、在庫系のシステム会社にSEとして勤務。2013年にインフォグロースを設立した。以前の会社はシステムはつくるものの、導入後の顧客の面倒まではみていなかった。
「ソフトウエアは顧客に使って成果を出してもらわないと意味がない」。大企業ばかり相手にしていて、中小企業に全くフィットしないことに気付いて独立を決意したという。

在庫適正化コンサルタントとして多くの中小企業を目にしてきた。その過程で感じるのは、在庫管理システムがあっても、運用し切れていない企業が多いということ。棚卸しして分かる実地高とシステム上の数字に大きな差があることはザラで、「システムの数字なんて信用してないよ、と言ってのける会社すらある」という。さらに製造業だと、導入されているのは生産管理システムがメインで、中小だと生産管理システムすら未整備のところも少なくない。

確かに「在庫」は地味で陽の当たらない存在だが、前述のとおりキャッシュフローや利益率という形で経営のストライクゾーンど真ん中に影響するキーファクターだ。

中小企業や零細事業者でも在庫管理を重要な経営課題とみなして真剣に向き合うべきだろう。米田氏は「大企業は中小に在庫リスクを押し付ける。だから自衛しないといけない」と語る。(南昇平)

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