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仏下院でファストファッション罰則案が可決|日本のZ世代がSDGsを考える

先日、フランスの下院でファストファッションを規制するための法案が全会一致で可決されました。その背景にはファストファッションの産業構造が引き起こす様々な課題があります。

本記事では、オランダで環境問題を学ぶインターン生が、近年ますます厳しくなるEUでのサステナ規制の動向と背景について解説するとともに、これからのファッションへの向き合い方について探ります。

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フランスの下院で「ファストファッション罰則案」が可決

まず、可決された法案の詳細を振り返りましょう。

今回の法案では、特にSHIEN(シーイン)などに代表されるECの大手ファストファッション企業を対象としており、ZARA(ザラ)やH&Mのように国内に実店舗を持つブランドは除外されています。規制対象となる企業は、衣服の生産量や新商品の回転率などを元に今後決定される予定です。

対象のファストファッション企業には、自社製品における環境への影響の表示、さらに顧客に購入商品のリサイクルを促すメッセージの掲載が義務付けられる予定で、違反した場合は最大1万5000ユーロ(約245万円)の罰金が課せられます。

また、法案にはファストファッションの広告禁止や低価格の商品への罰金なども含まれます。罰金は、商品の環境への影響に応じて、商品1点あたりに最大5ユーロ(約815円)が課せられ、2030年までに10ユーロ(約1630円)まで引き上げられる予定です。

法案は上院の承認が必要ですが、施行された場合は2025年より上記の罰則が適用される予定です。

EUのサステナ規制|近年の動向と今後

廃棄にNO!EUでは「持続可能な製品」の認定が必須に

フランスでのファストファッション罰則法案だけでなく、EU(欧州連合)では持続可能な社会を目指し、新しい法案や規制を導入する動きが近年活発化しています。

2023年12月5日には、欧州議会とEU加盟国が、売れ残った衣服や靴の廃棄を禁止する法案に大筋合意し、日本でも話題になりました。

参考:EUアパレル廃棄禁止令|日本企業は古着・リセールに本腰を(24年1月16日公開)

法案では、売れ残った商品を廃棄した事業者は、廃棄した製品の数量と理由の報告義務がかせられ、施行から2年後、履き物を含むアパレルの未使用製品(売れ残り品)の廃棄が禁止されます。

さらに、EUは商品の環境への影響や修理・リサイクルの可能性などの情報を含む「デジタル製品パスポート(DPP)」を導入する予定で、これにより、公共機関が製品のチェックとコントロールをより効果的に行うことができるようになるだけでなく、消費者はDPPに記載された情報を比較して購買判断を下せるようになります。

つまり、企業がEU域内で活動するためには、生産するプロダクトが「持続可能な製品」と認定される必要があり、廃棄を出さないことは前提のもと、長持ちして修理やリサイクルが容易な製品を作らなければならなくなるのです。

EU各国がフランスに続く可能性

ファッションの本場であるフランスは、ファッションの持続可能性においても各国を先導する立場にあります。実際、フランスでは2023年12月のEUの決定に先駆けて、2022年1月より売れ残った衣服の廃棄が禁止されており、売れ残った商品は寄付やリサイクルが義務づけられています。

当時、EUでは容器や包装廃棄物に対するリサイクルを義務付ける法律は存在したものの、繊維廃棄物に対するリサイクル義務を導入したのは、ヨーロッパではフランスが初めてでした。しかし、この動きがオランダやスウェーデンなど環境意識の高い欧州各国に広がり、最終的にはEU全体の決定に影響を与えました。

このような動きを踏まえると、今後ファストファッションへの規制がフランスから欧州全体に広がる可能性は十分にあると考えられます。

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なぜファストファッションは問題視されるのか?

EUやフランスの決定の背景には、ファストファッション業界に起因する深刻な環境負荷があります。
ファストファッションは、安価でトレンドのファッションが楽しめる点が魅力的な一方で、大量生産・大量廃棄という産業構造上、環境に対して非常に大きな負荷を与えています。

環境問題を引き起こす原因として挙げられるのは主に以下の3点です。

  • 生産過程での資源の大量消費、環境汚染
  • 売れ残り商品の廃棄
  • 消費者による廃棄

まず、1点目は生産過程における資源の大量消費、環境汚染です。ファストファッションの生産には大量の水、エネルギー、化学物質が使用されます。例えば、1枚のTシャツを作るためには約2700リットルの水が必要とされ、その過程で染色や加工に使われる化学薬品が河川や土壌を汚染します。

また、衣料品の生産における温室効果ガスの排出量も膨大であり、気候変動に大きな影響を与えています。ファストファッションの生産現場では、安価で大量に生産されることが求められるため、環境への配慮が二の次になりがちであり、持続可能な生産方法が採用されにくいのも問題とされています。

2点目は、売れ残り商品の廃棄です。ファストファッションはトレンドに非常に敏感であり、短期間で次々と新しい商品が市場に投入されます。そのため、売れ残った商品が大量に発生し、それらの多くは廃棄されます。売れ残り商品はしばしば焼却されるか、埋め立て地に送られますが、これらの方法はいずれも環境に深刻な影響を及ぼします。

焼却すれば有害物質が大気中に放出され、埋め立てればプラスチック繊維や有害化学物質が土壌や地下水を汚染する可能性があります。

3点目は、消費者による廃棄です。ファストファッションは安価であるため、消費者は頻繁に新しい衣類を購入し、古くなったり飽きたりした場合、衣類をすぐに捨ててしまう傾向があり、衣類の廃棄問題をさらに悪化させています。

また、リサイクルのためのインフラも整っていないこともあり、未だに多くの衣類が再利用されることなく廃棄物として処理されています。

以上のように、ファストファッションはその生産から廃棄に至るまで、さまざまな形で環境に対して深刻な負荷をかけています。

このような現状を打破するには、環境に配慮した素材の使用や生産工程の見直し、リサイクルの推進、消費者への商品の長期使用を促進する必要があります。

しかし、市場では企業は利益のみを追求し、環境への配慮は二の次になりがちです。そのため生産プロセスの改善や消費者の意識改革においては、政府の介入が非常に重要な役割を果たします。

フランスをはじめとする欧州諸国がファッション業界に対して様々な規制を行うのは、以上のような背景があるためなのです。

インターンで感じたアパレル業界の希望

ここからは、オランダで環境問題を学ぶ学生として、そしてFULL KAITENで1年間働いたインターン生として、私が思ったことを率直に書きたいと思います。

私は、インターンを行う以前からアパレル業界における環境問題へ関心を寄せており、フルカイテンでのインターンを決めたのも、本企業が「大量廃棄問題の解決」をミッションに掲げていることにありました。

しかし、インターンを通して気づいたのは、私はアパレル企業が実際に抱える課題について全く知らなかったということです。

なぜ、多くのアパレル企業は在庫を抱えすぎてしまうのか。そして売れ残った商品を廃棄せざるをえないのか。その足元の問題に気づかずに、私はその先の廃棄問題、ひいては環境問題にばかり目が向いていました。

フルカイテンは、アパレル企業をはじめとした小売企業の在庫問題を解決するべく、AI技術による在庫分析ツールを通して、さまざまな形で企業をサポートしています。

ここだけ聞くとあまりピンとこないかもしれませんが、企業の在庫問題と環境問題には非常に密接な関係があります。

在庫管理がうまくいくと、売れ残りを最小化でき、その結果として廃棄するのに使われる資源を大幅に減らすことができます。さらに、在庫管理で得たデータから学び、仕入れの量を調整することで、売れる見込みのない大量発注・生産がなくなり、生産に使われる資源量も減らすことができるでしょう。

そして、もし大量生産の状況が改善されれば、無理な発注量によって引き起こされる工場の労働問題の解決にもつながります。

個々の企業が抱える課題に対して直接アプローチする、そしてその積み重ねが「世界の大量廃棄問題」という大きな課題を解決する糸口であると私は思います。

新しいテクノロジーとビジネスモデルが救うアパレルの未来

環境問題は、今「解決が難しい課題」から「解決可能な課題」へと変わりつつあります。

環境汚染や人権問題など、以前は可視化されないために無視されがちだった問題が、テクノロジーの発達により明らかになり、対策を打つことが可能になったためです。

例えば、情報追跡技術の発展により、どこで何が起きているのかを特定しやすくなりました。これにより、EUで導入される「デジタル製品パスポート」のように、政府は規制を強化しやすくなり、消費者も環境や倫理に配慮した商品を選択できるようになりました。

また、FULL KAITENのように、AI技術の進歩により、売れ残り商品の削減や生産量の適正化が可能となりつつあり、大量生産・大量廃棄の時代の終焉が見え始めています。

さらに、循環型ビジネスモデルの台頭も見逃せません。マッドジーンズに代表される衣服のサブスクリプションサービスや、修理を通じてさらなる付加価値をつけるブランドなど、「捨てないこと」で収益を得る新しいビジネスモデルが次々と登場しています。

このような商品やサービスは、消費者の選択肢を増やすだけでなく、企業にとっても厳しくなる規制に対応するための新たな方向性となるでしょう。

持続可能なファッションビジネスの事例についてはこちら>

ファッション業界は、今大きな転換点にあると思います。消費者、企業、政府が三位一体となって協力することで、環境に配慮した持続可能な業界へと変容し、より良い選択肢が広がっていくと、私は感じています。

まとめ

  • フランスの下院で「ファストファッション罰則案」が可決。下記対応が義務付けられる
    • 対象企業に環境フットプリントの記載を義務付け
    • ファストファッション広告の禁止
    • 環境に負荷を与える低価格商品への課税
  • 近年のEUにおける規制の動向
    • 2023年12月に売れ残り商品の廃棄禁止を決定
    • EUでは「持続可能であること」が製品に求められる時代に
  • ファストファッションが問題視される原因
    • 生産過程での資源の大量消費、環境汚染
    • 売れ残り商品や消費者による廃棄

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