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スノーピークMBOに見るアウトドア業界の教訓とは

ここ数年急成長を遂げていたスノーピークが、MBO(経営陣による買収)により株式を非上場化することになりました。業績が急激に悪化しており、短期的な利益を求める株主の意向に左右されないよう中長期のスパンで経営を抜本的に立て直すのが狙いです。

新型コロナウイルス禍による特需が一巡したアウトドア業界で、スノーピークの誤算は何だったのか。今後の勝ち筋は何か。そして、アウトドア市場の活路は何か。本記事で考えてみたいと思います。

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非上場化を迫られた最大の原因は「在庫」

2024年2月17日土曜日、アウトドア業界や個人投資家たちの間に衝撃が走りました。日本経済新聞が、スノーピークがMBOにより株式を非公開化することを報じたのです。週明けの東京株式市場では、同社株価の終値は前営業日(2月16日)終値より17.9%高い988円のストップ高となりました。

この1週間前の2月13日、スノーピークは2023年12月期の連結決算を発表していました。純利益は前期(2022年12月期)比99.9%減の100万円に急降下し、事前の見通しを大きく割り込みました。増加を続けていた売上高は18期ぶりの減収で、翌日の株価は763円へ12.0%急落しました。

このスノーピーク・ショックには伏線がありました。半年前の2023年8月、通期業績予想を下方修正したのです。それを受け、フルカイテンブログでは、「キャンプブーム終了…アウトドア市場の需給調整が急務に」という記事を公開し、その中で次のように予想していました。

  • 直営店(小売)と卸売の2通りある国内の販路のうち、小売の売上は落ちていない。高いブランド力が株価の下支え材料となっている
  • 今後、膨れ上がった在庫の調整が進めば、業績が回復へ向かう望みはある

しかし、この見通しは残念ながら外れてしまいました。では、どうしてスノーピークはMBOで抜本的に経営立て直しを図らなければならないほど業績が悪化してしまったのでしょうか。2023年12月期通期決算を読み解いて見えてきた原因は、ズバリ「在庫」です。

過去最高業績だった2022年に変調は始まっていた

まず、スノーピークの過去5年間の業績推移を見てみましょう(下グラフ)。

2023年12月期の売上高は前期から16.4%減って257億円、経常利益も66.9%の減益となりました。2022年12月期の売上高が前期比19.7%増の307億円と急成長していましたが、2023年は2021年とほぼ同額へ戻った形です。

大幅減収の最大の要因は、コロナ禍で急拡大した国内のキャンプブームが一巡してしまったことでしょう。アウトドアファンやキャンプ好きの来客が多い直営店の売上は4.7%増でした。しかし、自社ECは12.0%減少だったうえ、コロナ下のアウトドアブームで売上を引っ張った卸売チャネルの売上は36.9%も減ってしまったのです。

ここまで見ると、コロナ禍の行動制限が解けた影響のように映ります。しかし、スノーピークの変調は、過去最高の売上高を記録した2022年12月期に既に始まっていたのです。

それはフリーキャッシュフロー(CF)を見れば分かります。下グラフは過去5年間の営業CFと投資CFの推移をまとめたものです。

※フリーキャッシュフローとは
営業CFは本業で稼いだ現金を指し、投資CFは、投資活動(資産の売買を含めたあらゆる投資活動の現金収支)を表す。フリーCFは営業CFと投資CFの和。投資資金を営業CFで賄い、投資によって翌期以降の増収を図るのが企業の本分であることから、営業CFがプラス、投資CFはマイナス、フリーCFはプラスが理想である(成長期の企業の場合)。

2021年12月期までは、前期の投資が当期の営業CFに貢献していることが一目瞭然です。ところが、2022年12月から営業CFがマイナスになります。前期までの投資が将来の現金獲得につながっていないのです。

既に触れたように、2022年12月期は売上高が過去最高になりました。それなのに営業CFがマイナスになっています。この原因が、在庫滞留と卸売への依存なのです。

どういうことか。在庫が増えると、その分だけ現金が減ります。在庫(商品)を売って現金を回収しないと営業CFはプラスになりません。また、卸は掛け売りですから、卸売先に販売してから売掛金を回収するまで3〜6カ月待たなければなりません。2022年12月期は卸売頼みの大幅増収でしたから、営業CFが大きなマイナスになってしまったのです。

直営店を増やし、卸し先も増やして新規販路を開拓した経営判断が、完全に裏目に出た形です。

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在庫効率も急低下。回転率はわずか1.2回転に

次に、在庫の増加について見てみましょう。フルカイテンが重視するGMROIの直近5年間における推移をまとめたのが下グラフの左側になります。

2021年12月期をピークとして、売上高が過去最高となり300億円を超えた2022年12月期には2.36ポイントも低下しています。売上高の急伸とは裏腹に、たくさん在庫を抱えた割には粗利益を稼げていなかった実情が数字で裏付けられました。そして、2023年12月期にはさらに1.71ポイント下がり、ピークの3分の1に満たない水準になってしまいしまた。

当然、在庫回転率も悪化しました(上グラフ右側)。2023年12月期は、ピークだった2021年12月期の4分の1である1.24回転に沈んでいます。2022年12月期の時点で2.89回転に低下していましたから、ここで軌道修正できなかったことが悔やまれます。

非上場化で目指す道は

スノーピークは過剰在庫と積極出店による固定費(販管費)の増加、それに伴う借入れの増加という三重苦に喘いでおり、短期的に業績を上向かせる手立てはほぼ断たれています。一方で、これは上場企業の宿命なのですが、増収増益と株価上昇を株主から常に求められます。

こうした状況において、MBOによる上場廃止は、スノーピークにとって中長期的に経営を抜本的に立て直すために残された最後の一手だったと言えるでしょう。折しも国内は低金利環境が続く蓋然性が高いことも、経営陣の背中を押したのではないでしょうか。

では、短期志向の株主からの圧力を脱して、スノーピーク経営陣はどのように経営再建の青写真を描いているのでしょうか。本年2月21日に開示された意見表明報告書から垣間見ることができます。

同社は意見表明報告書で次のように述べています。

  • コロナ禍の収束によってアウトドア需要の高まりが一巡し、海外ローカルブランドや異業種(スポーツ用品、ホームセンター、アパレル等)企業の参入による競争がますます激化する
  • 当社が企業価値を高めていくには、海外事業の一層の拡大やキャンプ用品関連という現状の枠を超えた事業の拡大が必須
  • そのためには、アウトドア文化が根付いている米欧、豪州だけでなく、キャンプを含むアウトドア文化が広く浸透していない中国を中心としたアジア太平洋地域の需要を取り込むことが必要不可欠
  • 米国、韓国、中国、台湾、欧州などで事業拡大を進めるとともに、M&A(企業の買収・合併)で迅速に市場参入を図る

これに対し、ベインキャピタルは以下のような大方針で支援する考えです。

  • スノーピークの現経営陣は続投させる
  • ロイヤリティの高い岩盤顧客向けに、顧客属性・購買情報・商品データに応じた個別マーケティングやオムニチャネル戦略推進といったデジタル化を進める
  • 海外では、潜在顧客からの認知度の低さを解決するため、ブランドの世界観を伝えるための旗艦店出店と販売チャネル開拓を推進する
  • 様々な業界・買収に関する実務ノウハウを活かし、海外におけるM&Aを支援

株式を上場したままでは腰を据えて取り組むことが難しかった海外展開が、MBOの最大のお題目であることが窺えます。

国内市場で縮小均衡を甘受するのではなく、莫大な借入れリスクを背負ってでも海外市場に活路を見出す山井氏の決断は正解になるのか。答えが出るまでには時間がかかりそうです。しかし、正解だった場合は、スノーピークは世界に冠たるブランドに飛躍を遂げているに違いありません。

アウトドア市場全体にとって他山の石に

最後に、アウトドア市場全体、つまり他社は対岸の火事と傍観するのではなく、スノーピークを他山の石としてほしいと思います。

2020年から2022年にかけて、コロナ禍の拡大に伴う行動制限が敷かれるなか、キャンプを含むアウトドアは「三密」を避けたレジャーとして認知が広がりました。その結果、新規キャンパーが増え、キャンプギアやアウトドアグッズの需要が一気に盛り上がりました。

スノーピークはこの波に乗って新規顧客の獲得に成功し、それを見た様々な企業がアウトドア用品事業に参入したのでした。ワークマンやホームセンターのPB(プライベートブランド)、100円ショップ勢などが低価格を武器に売上を伸ばしたことは、2023年8月31日公開の「「キャンプブーム終了…アウトドア市場の需給調整が急務に」」で指摘したとおりです。

とはいえ、アウトドアを楽しむ人が一定数存在する事実は変わりません。

  • サプライチェーン最適化
  • 「体験」への誘導と「コミュニティ」づくり
  • アジアをはじめとする海外で販売網を築けるだけのブランド力をつける

この3つを通して単に原価低減に頼ることなく付加価値を上げ、ファンを増やしていくことが、生き残りには必須になるでしょう。

需給バランスが整い、市場全体の在庫調整が済んだ後に残ったプレーヤーがどのようにアウトドア市場を牽引していってくれるか、要注目です。

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