5分で分かる物流関連法改正|荷主に求められる効率化対策とは
「物流2024年問題」がすぐ眼前に迫っています。トラックドライバーに対する時間外労働時間の上限規制が2024年4月から適用されるのです。国や運送業界はようやく重い腰を上げ、小売事業者をはじめとする荷主は、運転手の負担軽減に向けた計画の策定が義務付けられることとなりました。
小売はどのように物流クライシスと向き合っていけばよいのでしょうか。本記事では、国土交通省がまとめた規制的措置をひも解いていきます。
トラック業界独特の多重下請け構造にメス
政府は2024年2月13日、流通業務総合効率化法と貨物自動車運送事業法の改正案を閣議決定しました。開会中の今国会に提出し、可決・成立を受けて荷主および物流事業者の双方に対する規制措置を実施していく方針です。
物流2024年問題とは、平たく言うと、荷物量が増えているのにドライバーの数が足りず、トラック物流網が崩壊することです。野村総研が2023年1月に「2030年には2015年比で全国の約35%の荷物が運べなくなる」と警鐘を鳴らすレポートを公表して話題を集めたのをご記憶の方も少なくないと思います。
物流2024年問題について詳しくはこちら>
宅配運賃値上げから考える、ECと在庫の最適な運用について解説した記事はこちら>
要は、ドライバーの賃金が他産業よりも低いのに労働時間は長いため、生産年齢人口の減少に伴ってなり手が激減し、かつドライバーの高齢化が進んでいるというところに根本原因があります。
今回、国土交通省が低賃金の主因として指摘したのが、この業界独特の多重下請け構造です。元請け運送会社が荷物を下請けや孫請けに回すことが常態化しており、各段階でマージンが抜かれることで、実際にハンドルを握るドライバーの取り分が減っているのです。
国土交通省が2023年に実施した調査によれば、全国のトラック運送事業者の77.7%が下請けを利用しています。さらに、そのうち49.2%が孫請けに仕事を回していることも分かりました(下グラフ)。
また、小規模・零細事業者ほど孫請け以上となる割合が高くなっています。資本金300万円〜1000万円の事業者の約15%が3次下請け以上になっているのに対し、資本金3億円以上の事業者におけるその割合は約7%に過ぎません。
こうした構造を是正するため、国交省は今回の法改正で、実際に運送を担う事業者名を記載した実運送体制管理簿の作成を元請けに義務付けました。これまで必ずしも透明ではなかった運送体制を明らかにして責任の所在を明確化するとともに、過剰な下請けが生じにくいようにする狙いがあります。
また、下請けとの契約に際し、役務の内容だけでなく対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)について記載した書面の交付を義務付けました。これは大変重要なポイントです。
というのも、運送の現場では、運転手が積み下ろしを手伝わされたり、荷積み・荷下ろしの待ち時間が長いことに対する補償が明確でなかったりということが常態化しているからです。これらに対応する附帯業務料も明記させることで、契約内容の透明化による対価の適正化が期待されます。
さらに、元請けには下請けに出す行為を乱発しないようにする努力義務も課されます。管理簿の作成、対価の明記と合わせ、下請け側が利益を確保しやすくする狙いがあると言えるでしょう。
荷主企業にドライバーの負担軽減策の策定義務づけ
小売をはじめとした荷主側にも2024年問題の克服に向けて様々な措置が課せられます。
その最たるものが、物流の効率化に向けた取り組みが努力義務化されることでしょう。荷主も一緒になって運転手の負担軽減に向けた具体的な計画を立案することが求められるのです。
しかも、一定規模以上の事業者(特定事業者)は、中長期計画の作成に加え、国交省への定期的な報告が義務となります。そして、仮に計画に基づく取り組みを国が「不十分」と判断すれば、勧告・命令の対象となることとされました。また、特定事業者となる荷主には、物流統括管理者の選任を義務付けられます。
国交省がこうした計画の策定と責任ある履行を荷主に強く求める狙いは、やはりドライバーの待ち時間と荷物の積み下ろし時間の削減にあります。というのも、出荷および入荷の条件決定には、発荷主と着荷主の両方が大きく関わっているからです。
国交省が具体例として挙げているのがパレットの利用です。2022年に公表された調査結果によれば、標準的なトラックにバラ積みする場合、積み込むだけで2時間ほど要しており、この間ドライバーは待機を余儀なくされます。ひどい場合だと、契約内容に明記されていないにもかかわらず、ドライバーが荷積みを手伝わされることもあるそうです。
このため、パレットの利用による作業負荷の削減や荷待ち時間の削減、共同輸配送などの効率的な輸送の実現に向けた取り組みが必須となっているのです。
(なお、荷主が具体的に着手し得る取り組みについては、追って公開されると思われます)
「送料無料」は本当!? 裏にある犠牲
以上にみてきた物流2024年問題はわれわれ消費者や荷主となる小売企業、特にEC事業者に密接にかかわる問題です。2023年6月に政府がまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」においては、「送料無料」表示がフォーカスされました。ズバリ、見直しに向けた取り組みが必要ではないか、と明確に問題提起されたのです。
ところが、消費者庁が開いた「送料無料」表示の見直しに関する意見交換会では、EC事業者から異論が噴出しました。
ただ、この問題の本質は、EC事業者が実際には運送会社に送料を支払っているにもかかわらず、消費者には負担が生じない、という印象づけのために「送料無料」と表示することの是非です。トラック業界側は、「輸送にコストがかからないような印象を与え、人手不足や賃金の低下につながっている」と主張しました。
実際この10年来、トラックドライバーの年収は全産業平均と比較して5%~10%程度低い状態が続いています。そのうえ労働時間が長いとなれば不人気職種となるのは道理であり、就業者数は減少しています(下グラフ)。
一方で、「送料無料」というワードが消費者への訴求力に優れるというのも事実でしょう。ECサイトのリピート率をめぐり、サイトの満足度の決め手となる項目のトップが「送料無料」だったという調査結果もあるそうです(前述のとおり実際には無料ではないのですが)。
ダイヤモンド・オンラインに転載された物流専門紙・カーゴニュースの記事に興味深い指摘が載っていましたので、一部引用します。
事実として送料は無料ではないのだから、景品表示法、すなわち誤解を与える表示をしている商品から一般消費者を守るための法律の趣旨にのっとって、通販会社が「送料は当社が負担しています」と「ただし書き」を記すことをぜひとも強く促すべきだ。
(ダイヤモンド・オンライン、2024年1月18日公開記事より)
消費者や小売事業者が”当たり前”のものとして享受している利便性が、今やさまざまな犠牲の上に立脚しているという事実に向き合う時期が来ているのかもしれません。