宅配運賃値上げは物流クライシスの序章…ECと在庫の最適な運用は
運送大手各社が宅配便の運賃を相次いで値上げしています。燃料価格の高止まりに加え、人手不足による人件費上昇が要因です。
アパレルをはじめとしたEC事業者にとって運送費はコスト全体に占める割合が高く、EC以外でも在庫ディストリビュート(在庫移動)に関係してきますので、多くの小売企業に甚大な影響を及ぼすでしょう。
小売は物流と在庫移動、ECについてどう考えていけばいいのでしょうか。
ヤマトと佐川が8~10%の値上げ…荷物を運べなくなるリスクも
2023年4月以降、ヤマト運輸や佐川急便が宅配便の運賃の値上げに踏み切りました。ヤマトは個人が利用する宅急便の基本運賃を平均約10%上げ、佐川も同様に平均約8%値上げしました。
両社とも値上げの対象は個人利用の荷物であり、取り扱う荷物全体の1割程度に過ぎません。今回の値上げをきっかけに、ドライバーの待遇改善を図るとともに、大部分を占める企業など大口顧客との間で企業間物流の値上げ交渉を進める方針のようです。
宅配便の運賃はこれまでのジリジリと上がってきました。日本銀行が公表する企業向けサービス価格指数をみれば明らかです(下グラフ)。
足元では、8年前の2015年の水準と比較して24%ほど高くなっています。この8年間、消費者物価指数は2%も上がらなかったことを考えると、値上がり幅の大きさが分かります。
これに関連して衝撃的な試算があります。野村総合研究所が本年1月に発表した「物流2024年問題」をめぐるレポートです。
日本で人口減少が続いていることはフルカイテンブログでたびたび取り上げてきましたが、特に労働人口の減り方が顕著です。その中でトラックドライバーのなり手の不足は深刻で、2024年4月からはドライバーに総労働時間の上限規制が適用されます。これが2024年問題です。
野村総研のレポートは、将来どの程度ドライバーが不足して荷物を運べなくなるかを推計しています。今のままでは、2030年には2015年と比較して約35%の荷物が運べなくなり、東北や四国では40%を超える可能性もあるとのことです。
参考:トラックドライバー不足の地域別将来推計と地域でまとめる輸配送~地域別ドライバー不足数の将来推計と共同輸配送の効用~(2023.1.19/野村総合研究所)
この推計は大げさでも何でもありません。ドライバーが不足しているにもかかわらず、宅配便の取り扱い個数はEC市場の拡大に伴って右肩上がりで増え続けているからです(下グラフ)。
国土交通省の統計によれば、2022年度は48億8200万個となり10年間で40%増加しました。
しかも、この数字にはAmazonが自社物流で配達する荷物(年間で数億個)は含まれておらず、実態は統計よりもはるかに多いのです。
また、興味深いデータがあります。ヤマト運輸の持ち株会社ヤマトホールディングスの株価が5月11日、1年4カ月ぶりの高値を付けたのです。2024年3月期の連結業績が3期ぶりに増益となる見通しを発表したことが好感された形です。
ヤマト運輸は個人向け宅配運賃の値上げは需要減退よりも増益効果が大きいとみており、株式マーケットも同社を一定程度、支持したと言えるでしょう。
つまり、EC需要の増加と配達の多頻度小ロット化によって物流のニーズは高度化しているにもかかわらず、トラックドライバーが不足しています。これでは、運賃の値上がりは今後も断続的に続く可能性が高いですし、荷物を運べなくなるリスクも消えることはありません。
ファッションビジネス企業の6割は「送料据え置き」
前章で触れた事態は、小売業界へ具体的にどのような影響を及ぼすのでしょうか。タイムリーな記事が4月26日の繊研新聞に載っていました。ファッションビジネス企業81社に実施したアンケート結果のまとめ記事です。
参考:送料無料がなくなる?物流配送運賃の値上げ、ファッション企業の対応は
一部を引用します。
Q.運賃値上げによるEC事業への影響は?
送料無料がなくなる?物流配送運賃の値上げ、ファッション企業の対応は
71%:大きい
24%:軽微
5%:ない
多くの企業が利益圧迫要因として頭を抱えていることが窺えます。なお、影響が「軽微」である理由としては、単価が高い商品を扱っているため、配送コスト上昇のインパクトは相対的に小さいというものが中心だったようです。
Q.EC購入客に対する送料の考え方は?
送料無料がなくなる?物流配送運賃の値上げ、ファッション企業の対応は
58%:据え置く
17%:値上げを検討中
7% :すでに値上げしている
18%:その他
6割弱が送料を据え置く方針です。理由としては、商品価格を値上げ済みであることや、消費者が送料を含めた出費総額で判断しがちであるケースが多いようです。
ただ、商品価格の値上げは原材料高が原因であり、原材料費の上昇に見合う値上げをできている企業はごく少数派であることがフルカイテンの調査で判明しています。
参考:ファッションビジネス企業の8割弱が「値上げ幅は不十分」/9割が年度内に再値上げ視野
送料を値上げしなければ採算悪化は避けられません。送料無料ラインの購入金額を上げるなどの工夫が必要でしょう。
Q.配送コストの圧縮策は?
ファッションビジネス企業の8割弱が「値上げ幅は不十分」/9割が年度内に再値上げ視野
61%:取り組んでいる
24%:検討中
15%:取り組んでいない
小売企業がEC絡みで負担する配送コストは、運送会社に支払う送料(運賃)だけではなく、梱包費や梱包資材費、人件費などさまざまです。
コスト圧縮の取り組みとしては、梱包資材の最適化(材料、サイズなど)や店舗受け取りの推奨、物流拠点の構え方などが挙がったようです。
本稿が特に注目したのが「物流拠点の構え方」です。上記の繊研新聞の記事には以下のように書かれています。
物流拠点は1拠点に集約して「作業を効率化する」考え方と、拠点を分散してより「より消費者に近いところから発送して配送コストを下げる」という2つの考え方に分かれた。店舗網が充実している事業者は「店舗から消費者に商品を発送する仕組みを構築」するところもある。
送料無料がなくなる?物流配送運賃の値上げ、ファッション企業の対応は
前者の拠点集約、後者の拠点分散いずれもビジネスモデルにマッチすれば、コスト削減に少なからず資すると考えられます。以上はB2C物流の話ですが、小売企業の物流には当然ながらB2B物流もあります。在庫ディストリビュートが代表例ですね。
在庫移動はやはり必要。運送費上昇に備え粗利強化を
店間移動には送料という経費がかかります。こうしたB2B運送費も個人向け宅配運賃に続いて値上げ圧力が高まっていることは最初の章で触れたとおりです。
ですので、在庫移動を禁止している企業もあるでしょう。在庫移動が不可となると、プロパー販売期間が終わって売れ残った商品は他店舗や倉庫へ移動させず、値下げして売り切ろうとするしかありません。
しかし、よく考えてみてください。販売期間の終盤まで放置するより、運送費をかけてでも適時にその商品がよく売れている店舗へ移動し、プロパーで販売したほうが、トータルの利益は増えるのです。
例えば下記のようなケースです。A・B両エリアにカットソーをそれぞれ100枚初期配分したと仮定します。
- 原価:3,000円
- 売価:6,000円
プロパー販売期間の半分ほどが経過した時点での残在庫は次のようになっています。
- Aエリアの在庫:80枚
- Bエリアの在庫:20枚
1. AエリアからBエリアへ在庫を60枚移動させれば、Bエリアではプロパーで売り切ることができると予想されます。この場合、追加的な費用(損失)は運送費のみです。
2. 逆に在庫移動が禁止されている場合、Aエリアでは値引きを余儀なくされ、平均して50%オフでほぼ売り切ったとしましょう。Bエリアでは欠品が発生します。
I. 値下げによる粗利の毀損 :80枚 × 3,000円 = 240,000円
II. 欠品による粗利の機会損失:60枚 × 3,000円 = 180,000円
粗い推計ですが、40万円余の損失が発生します。
上記ケース1とケース2を比べてみてください。わずか1回の在庫移動にかかる運送費が40万円もするでしょうか。どちらに経済的合理性があるかは明らかでしょう。
運送費の上昇が避けられない今後は、在庫分析を行うことで粗利益を毀損させずに販売することが求められます。品番ごとあるいはSKUごとの動きに目を凝らし、どの商品をどの店舗からどの店舗へ、いつ、どれだけ移動させれば良いかを日々判断しなければなりません。
これは人力や根性Excelでは非常に難易度が高いことですが、在庫分析ツールを使うことで可能になります。そうした分析ツールの1つが、フルカイテンが提供する「在庫を利益に変える」SaaSであるFULL KAITENです。
FULL KAITENは数万のSKUの商品力を売り場(実店舗、ECサイト)単位や全社の括りで見える化しますので、今の時点で、どの商品をどこで売れば最も粗利を得ながら売ることができるかが可視化されます。
在庫を利益に変えるクラウド『FULL KAITEN』
FULL KAITENでは在庫データを活用して、EC・店舗・倉庫、全ての在庫をAIを用いて予測・分析し、商品力はあるのに眠っている在庫を明らかにします。商品力を可視化することにより、利益を生み出す在庫とその施策を立てることが可能になります。