円安時代の粗利向上戦略 〜仕入れた在庫を利益に変える仕組みとは〜|セミナーレポート
2024/9/26(木)に、オンラインセミナー「店舗の利益を伸ばす客単価UP講座」を開催いたしました。当日ご参加いただきました皆様に、御礼申し上げます。
本記事では、数々の企業を支援してきたメンバーがセミナー内でお伝えした以下2点についてご紹介します。
- 在庫を利益に変える際のポイント
- 滞留在庫のアプローチ方法
登壇者:山﨑 優介(フルカイテン株式会社カスタマーサクセス)
生活雑貨のチェーン展開を行う事業会社に入社し約15年間従事。主に商品管理部門の責任者として、ディストリビュート業務全般、値引き施策立案、自社倉庫やECサイトの立上げを担当。
企業の在庫問題を解決することで「世界の大量廃棄問題を解決する」をミッションに掲げるフルカイテンに共感し参画。
登壇者:岸良 腕(フルカイテン株式会社マーケティング マネージャー)
人材企業を経て、2020年1月にフルカイテンに入社。入社後はインサイドセールス・カスタマーサクセスとして様々な小売企業様に対しての提案・支援業務を担当。
その後マーケティングマネージャーとして、ターゲットの選定やメッセージの発信などのマーケティング活動全般を担当。
雑貨小売業の状況
岸良:小売業界も打撃を受けている、”歴史的な円安続き”は皆さまも周知の通りかと思います。円安が進むと何が問題かと言うと、輸入依存度が高い日本において、雑貨や原材料の仕入れ価格が高騰してしまうという点です。
原材料高騰により商品価格に転化も必要になり、個人消費がさらに冷え込む傾向が強まる懸念もあります。
個人消費の落ち込み
岸良:個人消費がどのくらい落ち込んだのかを表したグラフがこちらです。リーマンショック以来、回復をしていましたが4期連続で減少していることがお分かりいただけると思います。「投資した商品を販売し、資金に変える」ことが、これまで以上に重要な環境下になっていると言えます。
在庫が黒字倒産の原因に
岸良:ここで、子供向け服飾雑貨ブランド「motherways」を運営するマザウェイズ・ジャパン様の事例を1つご紹介いたします。
2019年6月に倒産した理由の1つに”在庫”という問題があったのでは?とFULL KAITENでは推察しています。
在庫が積みあがっていった背景として、以下3点が考えられます。
・当時も続いていた円安
・原材料費の高騰
・高騰した分を商品価格に転化
融資をもらうために出店を継続し、店舗とともに増加した在庫をキャッシュにすることができず、キャリー在庫が昨対比1.5倍となっていたようです。
会社の事業としては儲かっていたが、キャッシュが苦しかったというのも倒産の要因として考えられます。現在も円安が続いているため、在庫が積み上がりキャッシュに変えられないことが続くと、厳しい状況になるのは見当がつくと思います。
在庫で倒産を防ぐためには以下2点が重要です。
1.在庫をいかに早く現金化する
2.売上ではなく、粗利を重視する
>詳細はこちら
在庫が黒字倒産の原因に|実例から学ぶ”罪庫”にしないための対策とは
在庫を利益に変えるための重要な3要素とは
岸良:それではここから、在庫を利益に変えるために重要な3要素をお伝えします。
1.滞留在庫の消化促進
在庫を消化してキャッシュを作り、そのキャッシュを元手に新商品の開発を行う
2.新商品の開発、仕入れ
新商品の開発、仕入れにより売場の鮮度を保ち、この店舗に来ると素敵な商品があるなという店舗作りを行う
3.売れる定番商品のリピート
新商品にだけ頼り切るのではなく、定番商品で売上と粗利のベースを作っていく
これらを偏りなく、バランスよく実行していくことがとても重要になります。
SKUと粗利の相関性
岸良:FULL KAITENを導入いただいた企業様のSKUと粗利の関係性についてまとめたデータをご紹介いたします。
分析したところ、全SKUの20%で粗利の80%を生み出していることが分かりました。残りの80%のSKUから利益をさらに生み出すことができれば、前段でもお伝えしている話の通り、在庫を利益に変えるという部分の促進に繋がると思います。
小売業としてここをどう解決するのか?が大きなテーマになってくると思います。
円安にどう対抗するのか?
岸良:円安への対抗手段として大きく分けて2つがあると思います。
1.商品の値上げ
単純に原材料費が高騰した分を商品に転化する方法
2.今ある在庫を利益に変える
効率よくキャッシュに変える方法
ただし、商品の値上げに関しては、価格を上げれば売上利益も上がるか?というとそういう簡単な問題でもなく、競合がどういった価格戦略を打っているのかなどにも影響を受ける部分だと思います。
今ある在庫を利益に変えることについては、前述通りまだ利益に変えられていない一定数の在庫を利益に転じる販促などで消化をすれば、利益を生み出すことができると思います。
値上げについての無印良品様の事例
岸良:値上げやセールを抑制するなどを行っている企業様も多いかと思います。が、必ずしもそれが増益に繋がっているわけではなく、場合によっては株価が下落することにも繋がります。
ここで値上げが成功している無印良品様の事例を取り上げたいと思います。
1.競合の存在とオンリーワン性
競合にないような商品の開発、提供を行い「無印良品だから」というブランドが形成されているため、多少の値上げであっても客足が離れていない
2.客数減少の中でも客単価UP
新型コロナにより行動規制の撤廃や天候による要因もあるが、競合に負けない魅力的な商品展開により、客数減少の中でもしっかり客単価UPに繋がっている
上記のような対策を打てば値上げであってもお客様はついてくるが、競合に対して価格以外の価値がない状況の場合で値下げしてしまうと、単にお客様が流れていってしまう可能性もあります。
>詳細はこちら
ついに値上げへ…無印良品の路線変更から考える2023年の価格戦略
仕入れた在庫を利益に変える方法
山﨑:これほどまでに円安になることは数年前までは想像もつかなかったと思います。円安であろうが円高であろうが、今ある在庫を利益に変えるということは前段でもお伝えしたことです。
目の前の在庫課題をクリアにし、健全な状態を保つことが非常に大事です。課題解決のヒントを今回はお伝えできればと思います。
仕入れた在庫を利益に変えるポイントは2つです。
1.商品の売り切り期限を決める
2.滞留在庫や滞留しそうな在庫を消化していく
雑貨小売業が陥りやすい考え方
山﨑:”置いておけばいつか売れる!”や”VMD商品=見せ筋商品なんだ”という商品があると思います。オールシーズンの通年品や長期的に販売計画をたてる定番品が多い小売雑貨業界に置いては一般的に浸透している考え方だと思います。
多品種多品目の品揃えは会社やお店にとって基礎となっている場合も多いですし、正しい考え方でもあります。
しかしながら、円安の局面で窮地に陥っている、現状を打破しなければならない状況の場合は「その在庫はいつお金に変わりますか?」という意識を強く持っていただきたいと思います。
在庫保管も実はコストがかかっている!?
山﨑:いつか立つであろう売上=しばらく陳列したままの商品の裏側にも多くのコストが隠されていることにお気づきでしょうか?倉庫の保管料やテナント料、商品を売るために定期的に売場変更をする人や在庫管理の棚卸をする人の人件費も発生します。
いつか売れるだろうというのは希望的観測で、いつまでに売れるか?の計画から外れてしまった在庫が滞留在庫とも言えます。裏側のコストが重くなると、手が付けられない状態となります。
そのため、早期に滞留在庫の解消が必要と言えます。
その定番品は本当に定番品ですか?
山﨑:商品ライフサイクル、つまり新商品として投入をされてから終売となるまでの、その商品の一生を表した図になります。特にアクションを定義して業務ルールを設計することは非常に重要なことです。
通年品や定番品、品揃えが多い雑貨小売業においては、季節とともに終了する商品はほんの一部だと思います。全体で考えた時に売り切り期限を設けていない企業様も多いと思います。
シンプルなデザインやオールシーズン商品は、初めから定番品として位置付けていることは大いにあると思います。その場合は発売開始日だけを決めて、売り切り時期は販売後の状況を見てから判断すればいいかと、季節品と比較するとスケジュールが粗くなる傾向が強いです。
この図で重要なのが、売り切り期限の設定が起点になっている点です。まずは売り切り期限を設けてから、商品の定番化の判断を行います。全商品に売り切り期限の設定を行うことがとても大切です。
売り切り期限の設定を行うと商品ライフサイクルのトレンド変化に気づきやすいメリットもあります。安定的に売れていた商品が直近の入荷分から売り切り期限の計画値より下回った場合にそれはなぜか?と立ち止まることが可能になります。
例えば近隣の競合店で類似品が販売されていたり、単純に飽きられ購買行動が一巡したという可能性が考えられます。ここにいち早く気付けることが滞留在庫解消の大きなポイントです。
早めに気づくことで、次回の生産量を抑えたり場合によってはリピート商品の発注を停止することで、過剰在庫の発生を未然に防ぐことにも繋がります。その商品に充てていた資本(予算)をより利益を生み出す商品へ投資を回すこともできるようになります。
スマホやSNSの普及で欲しいものが次から次へと目に入ってくる時代なので、商品ライフサイクルのスパンが短くなっている点も実感していると思います。定番品をいつまでも定番品だと思い込んでいると、大きな落とし穴にハマる可能性があります。
滞留在庫へのアプローチ方法|露出強化
山﨑:滞留在庫に対して様々なアプローチ方法がありますのでご紹介いたします。
まずは露出強化が上げられます。VMD的アプローチとお伝えするとウィンドウディスプレイや販促物などのクリエイティブな演出をイメージされるかもしれません。このような演出に加えて、ストレスのない購買体験ができる利便性を追及することも大切です。
売りたい商品ではなく、売るべき商品を訴求する!
山﨑:売りたい商品よりも、売るべき商品を選定することも重要です。店内には限りがあるので優先的にどの商品を置くか?が大きなポイントになります。
売れている商品の訴求を強めたくなると思いますが、売れているからこそ欠品というリスクも伴います。また売れている商品は、一等地ではなく別の場所で展開しても売れるという考え方もできると思います。
そこで、FULL KAITENでは露出強化をする商品を選定する基準として「消化」を起点に考えがスタートします。消化進捗は悪いが売上がしっかり取れている商品にスポットを当てて露出を強めていきます。
VMDを強化し、売上・粗利金額が前週比130%以上に
山﨑:とある雑貨企業にて、消化進捗はあまり良くないが、売上ランクは上位の商品=隠れた売れ筋商品を特定し、同じカテゴリーの商品と合わせてワンコーナーを使いVMD強化をする取り組みを行いました。
具体的には、売場の一等地で売れている商品の展開を止めて、在庫が潤沢にある消化したい商品と同カテゴリーの他商品を組み合わせて打ち出しを行いました。その結果、売上と粗利金額が前週比130%以上を達成しました。
露出強化により、滞留在庫を消化することは十分可能と言えます。
滞留在庫へのアプローチ方法|店間移動
店間移動はコストがかかる
山﨑:店間移動には物流費、店舗作業コスト、本部などによる指示作成コストなど多岐にわたり労力をかけているため、非常にコストがかかる作業です。
そのため、店間移動はなるべく頻度を抑え、精度を高く保つことが重要になってきます。
しかしながら、精度の高い在庫移動を人の手だけで実現するのは非常に難しく、業務フロー自体がなく属人化になっているケースが圧倒的に多いのが実態です。
本部と店舗にとって最適な店間移動をするには?
山﨑:本部と店舗、双方にとって最適な店間移動を実現させるにはポイントが2点あります。
1.最適な商品を選定し移動する
2.最適な指示量にする
全社的にも、店舗的にも有益であることと、コストをなるべく最小限に抑えることが大切です。本部から余計な指示を出してしまうことで、店舗にも作業負荷が大きくなってしまいます。この2軸を適正にすることが重要と言えます。
店間移動で在庫消化率が86%に
山﨑:今までは本部指示による店間移動はせず、店舗間同士での店間移動を行っていた企業様の事例をご紹介いたします。
FULL KAITENにて不足と余剰の需要をマッチングして、適切な店間移動を行った結果、約50日間で移動した在庫の消化率が86%になりました。
やはり人の考えだけでは難しい部分を、予測データを用いることで実現することが可能と言えます。
滞留在庫へのアプローチ方法|値引き
値引きする際の注意点
山﨑:売上がなかなか上がらない商品にかけるアプローチ方法に値引きがあります。よくあるケースとして、「一律OFFをする」ことが挙げられますが、値引きはやり方を間違えると業績不振に直結してしまいます。
売上と消化進捗で傾斜をつけたOFF率を設定し、余計な利益毀損を防ぎながら消化を進めることが大切です。
平日タイムセールで粗利金額前週比122.1%に
山﨑:平日のタイムセールの売上と進捗を見ながら、値引き率に傾斜をつけて販売を行ったEC事業者様の値引き事例をご紹介いたします。
売上の消化進捗と売上が悪い商品は深い値引きを行い、消化進捗はそこまで悪くないが売上が良くない商品には浅いOFF率を設定します。
滞留商品として在庫を抱えているが売上は上がっている商品を目玉商品に設定することもポイントです。目玉商品はごくごく浅い値引き設定にして展開を行いました。
結果、売上金額前週比129.2%、粗利金額前週比122.1%になりました。全社と比較しても約40%近く上がる形となりました。
Q&A
Q1. 商品ライフサイクルの部分で質問です。商品導入時にはどのくらい売れるのか分からないので、売り切り期限の設定をしていないのですが、その場合はどうしたら良いでしょうか?
山﨑:仮にイメージで、このぐらいだろうでもOKなのでいったん期限を設けることが大切です。計画値があることにより振り返りができるので、ざっくりでも良いのでまずは設定してみましょう。
Q2.数年続ける予定の定番商品は売り切り期限ではなく、回転率の考え方でも良いでしょうか?
山﨑:もちろん、回転率で問題ないと思います。いつまでにこのぐらいにするという目標を持つことが大切だと思います。
まとめ
- 円安・コスト高・消費の落ち込みという負のスパイラルで、特に単価の低い商品を扱う雑貨小売業は、利益が残し辛い状況に
- だからこそ、投資した商品を販売して、資金に変えて回収するという意識がより必要
- そのためには、「滞留在庫の消化促進」「定番商品のリピート発注」「新商品の開発・仕入れ」を偏りなく、バランスよく実行する
- 仕入れた在庫を利益に変えるためには、下記2点が重要
- ①商品の売り切り期限を決める
- ②滞留在庫や滞留しそうな在庫を消化していく