客数減の市況でも客単価20%、粗利1.4倍アップ!データドリブンな店頭戦略とは
株式会社ムラサキスポーツ
課題
- 新作や売上上位品に注力しがちでそれ以外の商品が手薄になり、非稼働在庫が増えていた
- 担当者の経験や感覚に依存した商品選定になっており、業務の再現性が無い
解決策
- FULL KAITEN〈セット提案〉で売れる組み合わせを算出し、プロパー施策に活用
- 週1回店舗にて、併売データを活用し、売れる組み合わせを平台展開・マネキン着用、接客強化などに使用
定量成果
- 創出粗利額1.4倍、客単価 伸長率20%アップ
1973年に設立し、スケートボードやローラースケート、サーフィン、スノーボードといったアクションスポーツ用品の販売を通して、アクションスポーツの普及にも貢献していらっしゃる株式会社ムラサキスポーツ様。スポーツ文化の発信基地でもある実店舗は146店を展開(2025年4月時点)し、複数のECサイトも運営しています。
同社は、客数を伸ばすことが難しい市況の中で、新作や売上上位品に注力することで既存商品の販促頻度が減り、非稼働在庫が増加するという課題を感じていました。そこで、FULL KAITEN〈セット提案〉を活用しプロパー販売で客単価を上げるための取り組みを実施しました。
今回は、同社サポートサービス部で全社課題の改善に取り組む髙木様に、抱えていた課題や、具体的な取り組み、成果に繋がったポイントも伺いました。
※本稿は2025年3月19日に開催したセミナーの内容を再構成したものです

客数が伸びない今、プロパー販売で客単価の向上を目指す
髙木様は、1994年神奈川県茅ケ崎市のムラサキスポーツ茅ヶ崎店に販売スタッフとして入社し、新潟店や秋田店、札幌2店舗、藤沢店の店長やチーフ、エリアマネージャーを9年担当。2025年で勤続30年目を迎える。2024年4月よりサポートサービス部に異動し同部のゼネラルマネージャーとして社内の課題を見つけ、改善に向けた取り組みを実行。FULL KAITENの活用を社内に推進する役割を担っている。
――どのような課題を抱えていましたか
髙木様 弊社はほぼ全ての商品が仕入れで成り立っている体制で、本部が店舗に新商品や売れ筋商品を中心とした販売強化の指示を出すことが多くありました。結果的に、既存商品の販促頻度が減ったことで非稼働在庫が増え、非稼働在庫と滞留在庫のバランスが計画通りになっていませんでした。弊社社長の金山からも常日頃から、滞留在庫の削減は命題として挙がっていました。
矢田(弊社プロダクトカスタマー部 部長) 小売業に限らずですが、日本国内は人口減に直面しており、客数向上には限界があると思います。客数が増加することで、レジや問い合わせ対応などの人件費がかかるといった負の側面もあるため、利益向上のためには、客数向上ではなく客単価向上のアプローチが必須だと存じます。
御社は客数が伸び辛い中でも、値引きでの在庫消化は粗利毀損につながるため避けたいという課題をお持ちでしたので、定価販売で客単価を上げるための取り組みを一緒に進めさせていただくことになりました。

髙木様 合わせ買い提案はこれまでも自社で実施してきたのですが、大きな手ごたえはありませんでした。要因は3つあると考えています。
要因1:属人化
・担当者の経験や感覚に依存した商品選定になっている
・誰でもできる仕事になっておらず、再現性がない
要因2:実行の壁
・店長や店舗スタッフの判断で実施可否を判断。取り組みができている店舗、できていない店舗が混在
・バックヤードで分析する十分な時間がなく、実行まで至らない
要因3:ブラックボックス化
・会社としてパック率(セット率)は意識していたが、1.6~1.7程度から上がらない
・施策を実行したのに成果に繋がらない原因が不明確だった
フルカイテン様のサービスでいうと売価変更と店間移動を既に導入していますが、今回はFULL KAITEN〈セット提案〉を一部の店舗で導入し、客単価向上を目的に合わせ買い提案の施策を3か月ほど実施しました。次章では、実施した施策の成果をお話しします。
店長が店舗での商品打ち出しを変え、創出粗利額1.4倍、客単価 伸長率20%アップ
髙木様 FULL KAITEN〈セット提案〉で売れる組み合わせを算出し、プロパー施策に活用した結果、創出粗利額1.4倍、客単価 伸長率20%アップという成果をとある店舗で創出しました。
具体的には、週1回店舗にて、併売データ(※)を活用し、売れる組み合わせを平台展開・マネキン着用、接客強化などに使用しました。
(※)レシートデータ(購買履歴)をもとに、ある商品を基軸としたとき、その商品とセットで同時購入された商品の傾向を数値化したもの。併売分析を活用した売場開発をすると、関連購買や比較購買(まとめ/ついで買い)の促進が可能になる。
【プロジェクト概要】
ゴール :売上・粗利の向上
対象期間:3ヶ月間(2024年9月~11月)
対象店舗:イオンモール四條畷店(中型店)
【効果検証方法】
ABテスト方式:A/対象店舗(四條畷店)B/直営店
評価指標 :創出粗利、客単価
対象品番 :イオンモール四條畷店の施策実施品番
実施期間 :前期間を比較

成果創出の要因1:顧客満足と企業利益を両立させる商品選定
矢田 成果に繋がったポイントを教えてください。
髙木様 2つありますが、1つ目の要因は顧客満足と企業利益を両立させる商品選定です。
今回は、店舗スタッフが自ら分析して作った売場が結果に繋がった点が大きな成果だと感じています。
弊社としては、業務の属人化がボトルネックになっていると感じておりましたので、店長や担当者の経験や知識をどのように平準化し再現性も高めるか検討していました。
以前はお店が売りたいものや売れているものに注力する傾向があったため、結果的に社内で商品の取り合いが起きていました。
本来は、売上が高いが消化課題がない『売りたい商品』ではなく、売上粗利が高く在庫も潤沢で、かつ欠品も発生していない『売るべき商品』を売り場で訴求すべきです。売りたい商品の訴求だけでは計画を達成することは難しいので、御社との取り組みを通じて、売るべき商品の販売にも注力しました。
矢田 店舗スタッフの皆様の視点で考えると、やはりお客様が欲しい商品を提供したいと思うわけで、結果的に売上上位品を訴求しがちです。しかし、全社視点に立った時、リソースをかけずに売れる商品に人手をかけてもコストパフォーマンスは良いと言えません。逆もしかりで、売り手視点で在庫が潤沢にあり需要が少ない死筋商品を訴求した場合は、顧客需要に沿った商品ではないので客離れの原因になります。これらをどのようにバランスさせるかを今回の取り組みで一緒に考えてきました。
髙木様 今回の取り組みでは、下図の『隠れた売れ筋在庫』から販売を強化する商品を選びました。

全ての在庫を4つにわけると、以下のような示唆を得られます。

更に詳細な分析をするため、Better(隠れた売れ筋在庫)を対象に、「併売回数が多い」「在庫数が〇点以上」「粗利率〇%以上」などの条件で絞り込んだ商品の中から店長が注力商品を選定しました。商品の抽出にあたり、レジを通過した毎日のレシートデータ(いわゆるジャーナル)に加え、Better在庫の中でも、FULL KAITENの独自指標である商品トレンド(販売トレンドを表す指標)も加味することで、なぜその商品を売るべきなのか判断する材料が増えました。

永田(ムラサキスポーツ様支援担当) レシートデータ(購買履歴)を分析することで、品番毎の併売回数と客単価を加味した分析が簡単にできます。下図のように併売回数を活用した売り場にすることで、関連購買(合わせ買い)や比較購買(まとめ/ついで買い)の促進が可能です。

例えば、商品単価が同じ5,000円の商品Aと商品Eがあった場合、併売された回数の差から「商品Aの方が商品Eよりも他の商品を引き連れてくる可能性が高い。」と分かります。
次は客単価の視点です。
一般的な客単価は一客ごとの客単価はいくらなのかを示すと思いますが、弊社は各商品ごとの客単価を示すことができます。

商品Aの場合、レシート①から③の商品Aを基軸としたときの併売内容と合計金額データを元に客単価を算出しています。これにより、客単価をあげる商品の組み合わせを戦略的に選定することが可能になります。
髙木様 今までは忙しい店舗がここまでの粒度で分析することは困難でしたが、今はクリック3工程ほどで分析ができています。簡単に分析の手順を紹介します。
工程1:在庫の消化予測に応じて、基軸商品を選定

工程2:併売回数が多く、客単価が高い商品を絞り込み

工程3:施策に使う商品を絞り込み

成果創出の要因2:店舗のモチベート
矢田 成果に繋がったポイント2つ目を教えてください。
髙木様 店舗のモチベートです。ITツールがいくら優れていたとしても、それを活用する環境が整わないと上手くいきません。そのために3つの事に取り組みました。
①目的の共通認識
なぜ実施する必要があるのか、実施するメリットなどを現場に浸透させるところからスタートしました。ここは未だに課題が残っている部分もありますが、理解が無いまま進めても、途中で施策が途絶え継続できないため、重要だと考えています。
②PDCAを回すための効果検証
以前は、接客やバックヤードでの忙しさから店舗での施策の実行と結果の振り返りをセットで実施できていませんでした。FULL KAITENではタイムリーに結果が分かるので、自分たちが実施した施策に対する成果を見られ、店舗スタッフにも伝わりやすかったと感じています。施策実施後に御社との振り返りミーティングがあるので、成果が芳しくなかった際は「この商品は店間移動の対象だったため、店舗に在庫が無かった。」など根本的な原因も明らかになり、納得感がありました。改善点を明確にして前向きにPDCAを回すことができました。
③成果実感と一体感の醸成
店舗スタッフが自らアクションした売場や接客で成果に繋がると、モチベーションアップに直結します。成果が出ると「次も頑張ろう!」という気持ちになりますし、店別で成果を横並びで可視化することで健全な競争意識も働き、一体感の醸成に繋がると感じました。
永田 店別で成果を横並びで可視化したことで、とある店長様から「他の店舗に負けたくないので、もっと成果に繋がる使い方を教えてください。」と電話をいただいたことがありました。同じ会社の仲間ですが、切磋琢磨していらっしゃるのは素晴らしいことだと思います。

店舗が主体的に行動するための3つのポイント
矢田 店舗スタッフの皆様が商品の選定、施策の実行、振り返りまで主体的に実施するためのポイントを教えてください。
髙木様 ポイントは3つあります。

1つ目は、店長が決めた注力商品を店舗スタッフへ共有する際に施策の目的と意図も共有したことです。人は『なぜ』が分からないと行動しない傾向にあると思うので、大前提の内容をきちんと伝えた上でレイアウト決めや販売強化を行いました。
2つ目は、施策実施後の定例ミーティングでフルカイテン様から効果検証結果を店長へ共有していただいたことです。結果のデータを元に、成果に繋がった要因や、施策を実施した率直な感想を店長と話し合い、継続することや改善することも明らかにしました。
3つ目は、効果検証結果の「良い点」「改善点」を店長から店舗スタッフへ共有したことです。自分が担当した売り場変更や接客によって「実際にこういう結果に繋がりました。」と伝えることで、モチベーションアップにも繋がりました。結果が良い時も芳しくない時もありましたが、今まで取り組めていなかった結果と改善点が分かること自体が重要だったと思います。
矢田 施策の実行にあたり、店舗の皆様も初めは「FULL KAITENのデータを信じて大丈夫なの?」という気持ちがあったと思いますが、その点はいかがでしょうか。
髙木様 正直に申し上げると、はじめはなかなか活用が進みませんでした。今までFULL KAITENを活用していたのは本部のスタッフだったので、店長はFULL KAITENを深くは知らなかったり、実際に出てきたデータに対して自分の感覚も入ったりしていたので、皆が同じ方向を向くのに時間がかかりました。ですが、実際に施策を実施して成果に繋がったことで納得感にも繋がりました。
現在は一部の店舗でFULL KAITEN〈セット提案〉を導入していますが、今後は全店舗で販売強化の商品選定に利用したいと考えています。
取材後記
2024年3月に、売価変更の成果事例としてムラサキスポーツ様に取材をさせていただきました。
今回は図らずも丁度1年後に客単価向上の成果を取材をさせていただき、同社でのFULL KAITEN活用が進んでいることを実感でき、社員一同とても嬉しい気持ちになりました。
弊社の矢田が話していたように、日本国内は人口減に直面しており、客数向上には限界があります。仮に客数が増えたとしても、レジや問い合わせ対応などにかかる人件費が増大し店舗スタッフの疲弊に繋がる側面もあります。
ムラサキスポーツ様はこのような社会問題ともいえる課題に取り組み、全社最適を実現するため客単価向上のアプローチをしていらっしゃいます。
今後もお客様と共に、小売業の課題解決に向けた取り組みや製品開発も進めたいと強く感じた取材でした。