期末に在庫を残さない!新商品を追加判断する際の考え方を解説
期末に在庫を残さないためには、新商品の追加判断を的確に行うことが必要です。そして、売れそうなどの判断を、経験や勘ではなくデータを使って判断することが重要となります。
本記事では、実際にMD業務を担当していたメンバーに、新商品を追加判断する際の考え方とアクションをインタビューしました。
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なぜ期末に在庫が残ってしまうのか
ー弊社宛に「期末に在庫が残ってしまい、キャリー品が発生している」というご相談をよく頂きます。そもそも、なぜ期末に在庫が残ってしまうのでしょうか?
期末まで在庫が残ってしまう原因は、主に2つ挙げられます。
1つ目は、新商品を発注する時点で発注数を見誤ったことです。新商品の場合、販売開始の半年前には発注する必要がありますが、売れるだろうと思っていたものが売れなかったというのがまず1つございます。
2つ目は、新商品の追加判断を見誤ったことです。MDの皆さんは、商品が売れそう・売れなさそうという感覚を持たれているかと思います。しかし、「売上の初速が良い」「今後も売れそう」といった思考を感覚に頼り追加発注をしてしまうと、外れた時に過剰在庫の原因となってしまいます。
期末に在庫を残さないためには、初回発注数と追加発注数を適正にする必要がありますが、初回発注数の部分は、現実的にかなり難しいです。新商品がどれだけ売れるかは、競合店の状況やSNSの反応、気候などの自社だけではコントロールできない要因が関わってくるためです。
そのため、追加発注数を適正にすることが重要となりますが、まずは「初速が良い」の定義と、売れなかった場合にどう行動するかを予め決めておくことが必要になります。
実際、私が担当している企業様で、新商品の追加を経験と勘で判断し、期末まで在庫が残ってしまい困っている方がいらっしゃいました。その企業様に対しては、データに基づいて以下の定義をご提案させて頂いております。
- 発売からピークインまでの在庫週数が4週以内の商品を初速が良いとし、追加の候補とする
- 売上の下降開始を10週目と定義し、発売1ヶ月時点で在庫週数が10週以降の場合は売れていないとする
※上記で4週目、10週目としている部分は企業によって異なります。理由と定義方法については、後述いたします。
販売ピーク時に欠品リスクがあれば追加する
ー売上の初速についての判断が難しそうと感じました。一般的に、どのような状況なら「良い」と判断されるのでしょうか?
企業様によって判断が異なりますが、販売ピーク(最も商品が売れるタイミング)までに売り切れそうな商品は初速が良いと判断するケースが一般的です。
販売ピークでは、販売機会ロスを起こさないことが重要となります。 そのため、ピークまでに在庫が持たなそうな場合は、リードタイムを考慮して早めの発注が必要です。
「発売からピークまでの在庫週数が4週以内の商品を初速が良いとし、追加の候補とする」という定義も、リードタイムを考慮したものになります。リードタイムが1ヶ月かかる場合は、1ヶ月以内が初速の良い商品という形です。
ー販売ピークとリードタイムを考慮するならば、発注するタイミングも重要になるかと思います。ここはどう判断すれば良いでしょうか?
弊社では、シーズン内で実施する追加発注等の施策を、どのタイミングで行うか判断しやすくするために、商品ライフサイクル(※)を以下5つのフェーズに定義することを推奨しております。
※商品の投入から完売までのプロセス。詳しくはこちら>
製品ライフサイクルとは?商品が辿る5フェーズと対応策を解説
- シーズンイン:商品立ち上げ期間。売上は低い
- ピークイン:売上が大きく伸長し、売場拡大期間
- ピーク:最も売上に貢献する期間
- ピークアウト:売上が大きく下降し、売場縮小期間
- シーズンアウト:商品売り切り期間。売上は低い
先ほどまでにご説明した内容をより分かりやすくするために、春シーズンの商品ライフサイクル(表1)に当てはめながらご説明します。
上述の通り、ピーク(表1の場合は3/20週)までに売り切れそうな商品は初速が良いと判断されます。定義例のリードタイムと1シーズンにかかる期間はそれぞれ4週間のため、この場合は2/13週までに発注をする必要があるのです。
もちろん、シーズンインからシーズンアウトのフェーズがあるというのは、MDとして感覚を持たれている方が多いかと思います。
しかし、あくまでも感覚のため、少しでも発注のタイミングが後ろ倒しになるとその分だけ欠品リスクが高くなる上、ピーク直前で闇雲に売上分の在庫を発注してしまったら、納品はピーク後になるため在庫過多の原因となってしまいます。
そのため、各フェーズがいつからいつまでなのかを定義することが重要です。また、例ではシーズンごとに定義をしていますが、商品カテゴリーごとに定義することがベストになります。例えば同じ冬シーズンでも、ニットとコートのシーズンインは違うタイミングで発生するためです。
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ピーク以降も売れ残りそうなら早めに消化を
ー「発売1ヶ月時点で在庫週数が10週以降の場合は売れていない」とご提案したと仰られていましたが、なぜ10週と定義したのでしょうか?
私が10週と定義したのは、ご提案した企業様の売上が下降するタイミング10週目だったためです。
図1の通り、ピークを過ぎると売上は下降していきます。そのため、ピーク以降に在庫が残ってしまいそうな場合は、「売れていない」と判断して早めに手を打つことが重要です。
ー売れていない商品に対して、具体的にどのような施策を打てば良いでしょうか?
発売から1ヶ月間、毎週新商品の状況を確認した上で、特集ページやタイムセールの対象にするのが良いと思います。
例えば図2の春シーズンの通り、1/23に販売開始した場合、翌週の1/30に在庫分析を行います。このタイミングで在庫週数が10週の場合は、特集ページやメルマガ等で上位表示させることで消化スピードをあげていきましょう。
ECサイトなどの表示順を意識されていない方も多いですが、上位表示させるだけでも効果があります。
こちらの記事で、表示順の変更で売上が262%アップした方法を解説しておりますので、是非ご参考下さい。
自社ECのVMD変更だけで売上262%アップした方法とは?|成果へ導いた本人が徹底解説
発売3,4週目のタイミングで、在庫週数10週となっている場合は、売り切れる頃にはピークアウトに入ってしまいます。ピークで売り切れなかった在庫は、消化自体も難しくなり期末に在庫が残る可能性が高くなるため、タイムセールの対象とし集客フックにしましょう。
ータイムセールを含めて極力値引きをしたくないという企業もあるかと思いますが、実施した方が良い理由を教えてください。
私がご提案した企業様も常連の方が多かったため、「値引きをすると、定価で購入してくださった方をがっかりさせてしまうのでは…」と値引きするのを躊躇われていました。しかし、初回発注が適正量にならない限り、売れない商品も出てきてしまいます。
また、期末で一気にマークダウンするよりも、早い段階からタイムセールをした方が最終利益を確保できます。
実際、その企業様も「今まで売れているものは値引きしなかったが、戦略的に集客のフックとして値引きすることで売上が増えることが分かった」と仰ってくださいました。
データを活用し、期末までに在庫を消化させる
ー小売業界は、「経験と勘」で判断することが多いように感じます。各社購買データ等の情報はある中で、データを使った判断が広まらない理由を教えてください。
一番は、時間がなく全品番を分析できないというのが原因かと思います。
MDの業務は、マーケや流通など様々な部署と関わりながら、半年先・現在・過去が同時に動いています。その中でも、発注リミットまでに売れる商品を作る必要があるため、未来のことに一番集中したいという本音があります。
さらに、小売業も慢性的な人手不足に悩まされているため、データの重要性を理解している一方で、時間がなく過去の振り返り(分析)が疎かになりがちになってしまうのです。
また、せっかくツールを入れても、MDが欲しい「分析できる状態のデータ」を手にするには更なる加工が必要となることが往々にしてあります。つまり、DX化しても結局は一番手間のかかるデータ加工作業に時間を使ってしまっているのです。
ーMD業務をDX化するためにはどうすれば良いのでしょうか?
分析するまでのデータ加工作業をDX化することが重要です。
弊社では、FULL KAITEN〈在庫分析〉という分析ツールを提供しておりますが、AIが消化スピード×売上・粗利の予測・分析を行ってくれるため、データ加工業務をスキップすることができます。
例えば、売れていない在庫は特集ページやタイムセールの対象とするとご説明しましたが、これをFULL KAITEN〈在庫分析〉の画面で表すと、図3のようなイメージとなります。
このように、打ち出すべき商品をビジュアル化してくれるため、商品を売るために何をすれば良いかに時間を費やすことができます。
もちろん、SKUごとに分析することができるため、LサイズとLLサイズは売れ行きの初速が良いため少し多めに発注するなど、SKUごとに発注数の強弱をつけることも可能です。
まとめ
- キャリー品を作らないためには、「初速の良い」の定義と売れなかった場合にどう行動するかを予め決め、追加発注数を適正にすることが重要
- ピーク時までに売り切れそうな商品は初速が良いと判断するケースが一般的
- ピーク以降に在庫が残ってしまいそうな場合は、「売れていない」と判断することができる