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EC売上アップには「倉庫出荷」改善がすぐ効く|事例を交え徹底解説

アパレル、雑貨、靴など商材を問わず、小売業にとって必要不可欠のチャネルとなったEC(ネット通販)。小売市場全体(消費総額)に占めるEC化率は年々上昇していますが、参入障壁の低さも相まって、EC売上を伸ばすことは簡単ではありません。広告に頼れば短期的に売上は増えますが、そうすると安定して利益を確保するのも難しくなり、在庫コントロールも課題となってきます。

しかし、広告に頼る前に、商品の倉庫出荷を改善することで在庫偏在が解消され、ECで売る在庫を確保でき、売上増につなげるという手法があるのです。しかもこのやり方は即効性が期待できます。本記事では、倉庫出荷の改善が、コストをかけずにEC売上を伸ばすに当たって有効な手立てであることを解説していきます。

物販系EC化率は10%弱、生活のインフラに

わが国の小売において、ECはどれくらいの存在感があるのでしょうか。経済産業省による市場調査が参考になります。下グラフは、2024年9月に公表された調査結果を基に、BtoC-EC(消費者向けEC)の市場規模の推移をまとめたものです。

2023年の物販系ECの市場規模は、前年の13兆9997億円から6763億円増加し、14兆6760億円となりました。4.83%の増加率です。EC化率は前年から0.25ポイント上がって9.38%となりました。

また、2023年における品目別のEC化率は下表のようになりました。

分類市場規模(円)EC化率
食品、飲料、酒類2兆9,299億4.29%
生活家電、AV機器、PC・周辺機器2兆6,838億42.88%
書籍、映像・音楽ソフト1兆8,867億53.45%
化粧品、医薬品9,709億8.57%
生活雑貨、家具、インテリア2兆4,721億31.54%
衣類・服飾雑貨等2兆6,712億22.88%
自動車、自動二輪車、パーツ等3,223億3.64%
その他7,391億1.91%
合計14兆6,760億9.38%
経産省「令和5年度電子商取引に関する市場調査」より

「書籍、映像・音楽ソフト」が53.45%と非常に高くなっています。「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」が42.88%となっており、「生活雑貨、家具、インテリア」が31.54%で続きます。

「衣類・服飾雑貨等」の22.88%という割合は、前述の上位3分野と比較すると物足りない水準ですが、衣服や靴は試着が必要という特徴に鑑みると、それなりの高さなのではないでしょうか。

つまり、ECはもはや、私たち消費者の生活に必要不可欠なインフラとなっているのです。

ECは粗利率が低く、販促費もかかる

前章のグラフをご覧になって、1つ気づくことがあるのではないでしょうか。物販系ECの市場規模(販売総額)の棒グラフと、EC化率の折れ線グラフが呼応して動いている点です。

2014年から23年までの10年間で見ると、市場規模は2.157倍になっています。EC化率はと言うと、4.37%から9.38%へ2.146倍の伸びです。つまり、小売市場全体の規模自体は横ばいであり、EC販売額が非EC販売額を侵食することでEC化率が伸びているということです。小売事業者にとっては、新規事業でもない限りはEC売上を増やすことが非常に難しいことが分かります。

このため、多くの小売事業者は広告を多用して売上を取ろうとします。ただ、ECは検索が容易なこともあり、衣料品などでは価格競争に陥りがちです。その結果、利益率が悪化しやすいのです。

これは、当社FULL KAITENのビッグデータからも裏付けられています。当社の在庫分析SaaS「FULL KAITEN(フルカイテン)」を提供している小売企業のうち、アパレルと靴を実店舗や自社ECサイト、ZOZOなどのECモールで取り扱っている企業数十社の2024年3月〜2025年2月の12カ月間における品目(SKU)ごとの販売データを分析し、売り場ごと(実店舗、自社ECサイト、各ECモール)の粗利率を計算しました。算出した粗利率を箱ひげ図にプロットして分布状況を確かめたのが下グラフになります。

箱ひげ図とは、データが分布する様子を把握するためのグラフのことです。データを大きな順に並べ、外れ値(極端な値)を除いた最大値と最小値の間を「ひげ」と「箱」で4つの区画に区切ることで分布の様子を表現します(左図)。ひげと箱それぞれの区画には全体の25%のデータが存在することになります。このため、箱の中にデータの真ん中50%が含まれ、上のひげの長さは上位25%が分布する範囲を指すのです(同様に下位25%が存在する範囲が下のひげの長さになります)。

グラフの一番左に示した実店舗の粗利率の高さが光ります。粗利率56.4%以上で売れているSKUが全体の4分の3を占めており、自社ECや各種ECモール(外部EC)と比べても群を抜いています。

逆に外部ECは総じて低い粗利率で販売しているSKUが多いのが特徴です。価格競争から値引きを迫られていることが窺えます。これに加えて広告費用や送料がかかるとなると、手元に残る利益はますます減ってしまいます。

ECで売上を伸ばすには、全く異なるアプローチが求められているのです。

業務負荷を下げつつ最適に倉庫出荷

そこで本章でご紹介したいのが、在庫配分の改革によるEC売上アップへのアプローチです。広告の重要性を否定するわけでは毛頭なくて、在庫をECへ割り当てる(配分する)だけで売上改善を見込めるということなのです。

そうすれば、売るものがなくなって、残っている在庫を対象に広告を打つという事態を避けることができます。なおかつ、仕入れ予算の上限があるなかで、在庫を積み増すことなくEC売上の伸長が望めるうえ、実店舗ーEC間の在庫の偏在の解消にもつながるのです。

カギを握るのが「倉庫出荷」です。多くの小売企業が現在採用している倉庫出荷の仕組みは過去の販売実績に基づいた自動出荷が主流であり、未来の需要変動に対応できていないのが実情です(下図)。

この場合、担当者の業務負荷は低いものの、売り場(店舗、EC)単位で滞留在庫が増えたり欠品が起きたりという弊害が発生します。

これを防ぐには、将来売れる(であろう)数量を出荷することが必要になります。換言すると、各売り場には必要最低限の数量だけを出荷し、それ以外は極力、在庫を倉庫に留め置くオペレーションです(下図)。

一方で、こうしたオペレーションは業務負荷が大きいという難点があり、だからこそ普及していません。

このトレードオフを解消するのが、当社が提供するSaaS『FULL KAITEN〈倉庫出荷〉』です。FULL KAITEN〈倉庫出荷〉は以下の作業を自動で行います。

  • 売り場(店舗、EC)ごとにSKUごとの余剰量および不足量をAIが予測
  • 出荷エリア、倉庫の優先順位、最低出荷数といった企業ごとの制約条件(ロジック)に柔軟に対応して出荷数量を決定

これにより利用者は売れる商品を売れる量だけ、売れる店舗へ出荷できるようになります(上図)。

実際の事例:売上を維持したまま店舗在庫14%減

ここでFULL KAITEN〈倉庫出荷〉を活用して、店舗の売上は前年と同水準を維持しながら店舗在庫を14%も削減した衣料品小売企業J社の実際の事例をご紹介します。J社は下図のような課題を抱えていました。

具体的には次のとおりです。

  • 外部ECや実店舗の売上が伸びる中で倉庫在庫に欠品が発生。本来売上を伸ばすべき自社ECに在庫が十分に配分されなくなっていた
  • ディストリビューター業務(DB業務)が属人化。在庫の中身まで見ることができていなかった

このような事態を招いていた背景としては、次のような要因がありました。

  • 従来は、実際に売れた数量(つまり実績)に基づいて設定数(売り場ごとに設定した各SKUの在庫数)を決めていた。このため売れている商品は設定数が上がり続け、逆に売れない商品は設定が下げられる
  • 売り逃しが怖いがゆえに、販売のダウントレンドに差しかかる時期になっても設定数を下げることなく、そのままにしていた
  • その結果、店頭在庫の余剰につながってしまう

そこで、J社はFULL KAITEN〈倉庫出荷〉が算出する予測値を設定数として利用する運用に切り替えました。未来に必要な数量だけ、店頭に在庫を持たせることにしたのです。

そうした運用を6週間にわたり実施した結果、次のような成果が得られました。

 ・実店舗への出荷数量20%抑制された
 ・店舗在庫は前年比14%削減された
 ・にもかかわらず、売上高は前年と同水準を維持

つまり、在庫総量を増やすことなく、自社ECに割り当てることができる在庫が増えたのです。J社の担当者は「売上への負のインパクト無しで在庫を減らすことができました」と振り返り、「自社ECの売上拡大が見込めるという点が、FULL KAITENを導入した一番大きな価値です」と話しています。

無尽蔵に在庫を持つのは非現実的

以上見てきたとおり、倉庫出荷を通した在庫の適切な売り場への分配(ディストリビュート業務)が、在庫の計画に沿った消化と売上増加の両面で非常に重要であることが分かります。広告やCRMといった“ソフト面”の施策は、ディストリビュートという“ハード面”の改善を図ってからでも遅くないのです。

ここで留意していただきたいのは、仕入れそのものを増やすことで各売り場に供給(出荷)する在庫を増やすことは全面的に悪手であるということです。何故かというと、大量生産・大量消費の時代はとうの昔に終焉していますので、在庫の「物量」だけでは粗利益を増やすことができなくなっているためです。

  • キャッシュ(資金)が在庫として眠る → キャッシュフローが悪化
  • 在庫を消化させるために値引きを頻発 → 粗利率が悪化し利益が残らない
  • 粗利率改善を目的に商品原価を下げる → 大量生産に頼らざるを得なくなる

上記のような負のスパイラルに陥らないようにするには、少ない在庫(いま手元にある在庫)で多くの粗利益を得られるようなオペレーションを組むことが必要になります。具体的には、下図のように各工程で粗利益の毀損を最小限に抑えるための手を打っていくということです。

・(参考)FULL KAITENのコンセプト:https://full-kaiten.com/fk-concept

多くの企業がこうした粗利重視の経営に変革していくことで、ECを含む小売市場全体が健全化し、Web広告も効果が出るようになっていくのではないでしょうか。


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・FULL KAITEN〈セット提案〉サービス資料はこちら >> https://full-kaiten.com/wp-cs-download

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代表取締役・瀬川が語る
アパレル業界の
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勝ち抜く粗利経営