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島精機製作所・島社長とフルカイテン瀬川がアパレル業界のこれからについて対談しました

株式会社島精機製作所とフルカイテン株式会社はこのほど、島三博・島精機製作所社長と弊社代表・瀬川直寛による対談を行いました。日本のファッション産業が直面する課題と今後のあるべき姿について両者が約1時間30分にわたり意見交換しました。最終的に、「消費者目線でデータを活用することで、サプライチェーン全体の無駄を無くす。それにより多くの粗利を上げることでイノベーションを生み出す投資を敢行すべき」との意見で一致し、提言を行いました。

両者のやり取りを以下にご紹介します。※写真は左が島氏、右が瀬川

イノベーションが起きなかったアパレル産業

Q 現状のファッション産業における課題は何だと思いますか。

 自動車や家電製品などと比べ、ファッション業界の変化のスピード自体が他の産業の技術革新と比較すると、非常にスローでした。象徴的な例でみると、スティーブ・ジョブス氏がiPhoneを生み出し、消費者がその製品に価値を見出しましたね。自動車にしても、ガソリンエンジンからハイブリッド車、最近ではEVへ。未来においては車が空を飛ぶと言われています。車の構造自体はタイヤが4つあってアクセルとブレーキがあってと基本的なところは変わりませんが、消費者から見た価値が変わってきています。

 それに比べ、洋服の価値はどうだったでしょうか。和装から洋装、さらには非常にカチッとしたスタイルからカジュアル化と変化はありましたが、他産業と比べると大きなイノベーションは起きていません。

 消費者は限られた収入の中で、車もほしいしスマホもほしいし洋服もほしいと考える。となると、あまり変わっていない衣服には支出を割かず、目新しいiPhoneにお金をかけたいなというのが偽らざる心理ではないでしょうか。

瀬川 確かに、アパレル不況とは言われても、「自動車不況」というのは聞いたことがないですよね。島社長が仰るとおり、イノベーションを起こせなかったのは大きいと思います。サプライチェーンを見ていくと、素材産業とか川上、川中は競争力があったりします。それと比べると、川下の競争力はどんどん落ちていると感じます。

 でも自動車産業ではそんなことは起こっていません。単なるものづくりではなく、イノベーションを起こし続けてきたからです。でもアパレル産業ではできなかった。それが財務上も数字に出ています。営業利益率が5%も出ていなかったり、利益を出せないが故に原価を抑えようとして大量生産に突き進んできたりしました。

 これからは、洋服にどうやって価値を付けるかです。消費者目線で本当にほしい服は何だろうか、とファッション業界が考えないといけません。これまではイノベーションが起きなかったから、大量に安く作って他社に対して競争力を持とうとしてきました。でもそうした価格戦略一本槍では、ますます洋服の価値が無くなってしまいます。価格も大事ですが、それも残しつつ、価値を高めていくようなものづくりの仕方、デザインの仕方、素材の開発の仕方、それらをミックスして新しい価値を消費者に届けることにリソースを分配していかないといけないでしょう。

 そのためには、今までのサプライチェーンにある莫大な無駄をグッと圧縮したうえで、新しい付加価値を生み出すためのリソースを生み出していくことが重要です。

瀬川 私は大量生産自体が悪いとは思っていないんです。いいものを安く提供できることには価値がありますから。でも、製造原価を下げるために売れる量、売る力を超えて作るのはよくないですよね。売れ残ると値引き、評価減(評価損)が発生してしまいます。この2つが見えない形で利益を圧迫しているがために利益率が低くなってしまい、イノベーションを起こすための投資ができなくなっています。

 なので、もっと粗利を増やす努力をしないといけないと思いますね。弊社の範疇でいうと、在庫をしっかり管理していくことで値引きと評価減を抑え、粗利を増やすことでイノベーションの原資を生んでいくべきではないかと考えます。

 20年前まではアグレッシブな人がいましたが、時間の経過とともにイノベーターのような人が少なくなっているのは事実だと思います。

瀬川 イノベーションの対象は、ものづくりの技術だけではなく、売り方もあると思うんです。自動車はレンタカーもあり、中古車市場は大きなマーケットになっていますよね。でもアパレル業界は最近までそういった考えを重視してきませんでした。

 ただ、これは経営者たちだけの責任ではないと思います。バブルが弾けて、失われた20年で経済成長が低迷し、そうなると「服は去年と同じでいいか」と思う人が増えても不思議ではありません。経営者にとって非常に難しい舵取りだったのではないかと思います。

消費者起点からのリブランディングを

Q ファッション業界が変化のスピードを上げるためにできることは何でしょうか。

瀬川 消費者目線と関連するかもしれませんが、最終的に重要になると思っているのはリブランディングです。イノベーションによってリブランディングを果たすということです。そのためには投資のための原資が要るので、粗利を増やさないといけないと考えています。でも、多くの企業において、どこで粗利を失っているかという観点が現場に行けば行くほど浸透していない、認識されていないと感じます。

 値引きと評価減で粗利を失っていること、商品原価は粗利を決める3要素の1つにすぎないのに、他の2つである値引きと評価減はPLからは見えにくいこと。こうした考え方を業界全体にもっと知ってもらわないと粗利を増やすのは難しいと思いますね。

 原点になるのは消費者との接点から得られるデータをもっと活かすことですね。「消費者起点」をもっと重視すべきではないかと思っています。

 何が売れたという消費者の反応は今でもフィードバックできていますが、なぜ売れなかったのか、また「これは買うけど、もう少しここがよければなあ」という消費者の陰の声をものづくりに活かせる仕組みというのが大事だと思います。つまり、消費者と生産者とのコミュニケーションをもっと密にして、データを次につなげる仕組みが重要だということです。

 アパレルメーカーは当社のデザインシステムを使うと、バーチャルで商品を作ることができます。その中から思い入れのある情熱をこめたバーチャルの製品を消費者に提案し、消費者との間のコミュニケーションを深められます。そしてデザインをこういうふうに変えようとか、素材はもっと薄くしようとか、消費者の思いを製品に反映させることができるのです。消費者目線のコミュニケーションツールとして活用してもらうことで、新しいものづくりに変化させていってほしいですね。

瀬川 データの活用という視点でいえば、値引きと評価減を減らすには在庫というものがいちばん効きますので、販売の現場に対しては本当にそこまで値引きしないといけない商品なのか、という観点でデータをお見せするということをやっています。

 大抵の場合、どんな企業もよく売れる商品だけで売上をつくるじゃないですか。でも商品がたくさんある中で、優秀な商品とイマイチな商品の二極しかないというのはあり得なくて、在庫リスクはもっとグラデーションになっているんですよね。だから、そこまで大きく値引きしなくても良い商品というのをデータでもって可視化して、今までより値引きせずに売って行けば、それだけで粗利率は上がるんです。

 よく売れる商品だけで売上をつくるという考えを改めれば、気付いていない隠れた実力商品を販促することで売れ残りは減っていきます。FULL KAITENはそういうデータをお見せできます。

 在庫と粗利の密接な関係に対する理解がなかなか広まっていないことが原因で、商品原価を下げれば粗利が増えると考えて売れる以上の大量生産をしてしまい、値引きして、それでも余った在庫は評価減となって粗利がどんどん減っていくんですね。なので、極端な話、私は商品原価は上がっていいと思っています。価値を提供できるリブランディングにつながるものづくりができるのであれば。

 「来季はこれが流行るだろう」という需要予測は消費者起点ではありません。そうではなく、当事者である消費者とのコミュニケーションを密にして、ビッグテータになったものを利用してものづくりをし、消費者に還元する。消費者でありながら消費者がものを作っている感覚を得られるようになれば、買い物も楽しくなるのではないでしょうか。

 これはオーダーメードというのよりはマスカスタマイゼーションの感覚です。消費者のいう事を生産者が聴いてくれるというのがものすごく大事だと思うのです。ホールガーメントなどの弊社のツールを活かすための最終ゴールは、まさにそこです。

 任天堂の『集まれ どうぶつの森の中』に「エイブルシスターズ」という仕立て屋さんがあるのですが、将来的にイメージしているのは、あつ森のようなプラットフォームがあって、生産者と消費者がコミュニケーションができて、産地がどこでどういう人がものづくりをしているかとか、コミュニケーションできて、なおかつ気に入ればバーチャルで着て街を歩いて、評判が良ければ製品化し、1週間ほど待てばリアルの製品が送られてくる、という仕組みです。

 消費者ではあるがコト経験をバーチャルでできて、どういう人が作っているか顔も見られる。作る方もいろんなデータを取ることができます。データというと、生産者側に有利なように集められていると消費者側は考えがちです。そうではなく、データを出すと色んなフィードバックが返ってきて消費者にメリットがあるというようにアプローチしていけば、色んなデータが有効に使われるようになるでしょう。生産者側でも有効に使われるし消費者にもメリットがあるというデータの使われ方が非常に大事だと思いますね。

セールありきの原価率設定に限界

Q 根本的に、アパレル企業は自分たちの商品に自信がないから値引きしてしまう、あるいは安くしないと売れないような商品を作っているのではないでしょうか。ファッション感覚が下がっているのかもしれませんが。

 そうだと思います。今はセールありきの原価率になっていて、それに慣れ切っています。正しい値付けは何ぞやと。通常で言われている、プロパーで何%売れて、何%が3割引きで売れて、というのが通説になっていて、そこから逆算してプロパー価格はいくらにしよう、枚数はこれだけにしようという計算式に慣れ切っている部分があるんですね。それを続けている限りは、恐らく何も変わらないのではないでしょうか。

瀬川 現状は売上目標が対前年比何%と最初に決まって、原価率は何%以内がルール、みたいに決まっています。そうすると、自ずと在庫の発注量も決まっていきますよね。つまり粗利は計画を立てる段階での優先度が低いのです。こうして数量が決まった在庫が売れ残り、値引きされ、それでも残ったものから評価減(評価損)が出て粗利を圧縮してしまうわけですから、商品原価率だけで粗利が決まるのではないと理解しないことには、何もうまくいかないと思います。

 国内でいえば、どんどん市場が縮小していきます。2025年以降は最悪の想定だと、およそ50年にわたって毎年100万人前後の人口が減っていきます。そういうマーケットにいるのに、昨対比いくらという売上目標を決めるのは正直、意味がないと思います。

 縮小していく市場で売上を追いかけたら、資金力がある企業しか勝てないんです。価格競争になるに決まっていますから。ですから、やらないといけないのは昨対比何%という売り上げ目標をやめて粗利第一にまず考えを変えることだと思います。

 この十数年で、普通の家庭が消費支出に使えるお金は、何万円という単位で減っています。高齢化と人口減少で使えるお金はもっと減るでしょう。

和歌山市の島精機製作所本社にて。和やかな雰囲気の中、活発に意見を交わした

今こそSDGsを行動に移す時

 SDGs、サステイナビリティに対する消費者の意識の現状はどう捉えていますか。

 SDGsというキーワードについては、ほとんどの人が言葉だけなのかなと思います。資源を大切にするために地道な行動が重要だとは頭の片隅では分かってはいても、実際に行動には移せていない段階ではないでしょうか。

 でも、若い世代は比較的敏感なので、洋服にしてもサステイナビリティに合致した素材で作られた商品に興味を惹かれていると思います。特に欧州ではその意識が強い。世代交代につれてそういう意識が強くなっていくのは喜ばしいですね。

 弊社会長(島正博氏)のような80代の方は戦中戦後を経験されて、ものを非常に大切にする価値観で生きてこられた人たちです。その世代が昭和の高度成長を引っ張って、子供たちに同じようなつらい思いをさせたくないから工業化がどんどん進んだと思います。それが進みすぎてしまったので、余計なものまで作り過ぎているのが現状でしょう。行き過ぎたから逆効果になっているんですね。

 だからほどほどのところに落ち着くというか、もうそろそろ折り合いを付けようよ、と世界的なコンセンサスを得るのが本当の意味でのSDGsのゴールなのかなと。世界がデータでつながって、そこそこを目指すのがあるべき姿だと思います。

瀬川 スケールが大きすぎてイメージが湧かず、自分事になっていない印象はありますね。私はキャンプが趣味で、夏はぜったい海に潜るんです。だから山や海がきれいなままであってほしいと強く願っています。誰でも自分の好きなことに対しては普段から意識が高まると思うのですが、私は子供が2人生まれて「孫の代に地球はえらいことになっているのではないか」と、ちょっとした体験から問題意識を持ち始めたんですよ。

 もっと皆が環境に対して興味を持つことができる機会を作ったらいいんだろうなと思います。「国連がSDGsと言っている。覚えてください」といくら言われても実行は伴わないでしょう。むしろ原体験みたいなところから答え合わせのように根付いていくものだと思いますね。

 会社組織がいろんなグリーン関連情報を開示していくことで、国民の意識も高揚していくという流れにもっていかないといけませんね。弊社では工場建屋の屋根を利用した太陽光発電は結構前から始めていますし、金属類の製作加工くずは百パーセントリサイクルしています。弊社の工場では段ボールなど一部の不要物は焼却処分していますが、原材料にならずにゴミになる素材はゼロなんです。水も浄化して自然に還していますし。

 『FULL KAITEN』と、フルカイテンの在庫の考え方について島さんはどう思いますか。

 在庫を十把一絡げにマークダウンしないところとか、すごく良いですね。我々も横編み機を製造するとき部品を調達しますが、リードタイムが最も長いものだと半年かかるんです。でも半年後の世界なんて誰も見えないですよね。だから仕様変更で部品が余ってしまうというようなこともあります。

 だから、やはり価値のあるものにもっと価値を付けて売るということが当たり前にできる世界にしたいですね。

Q 瀬川さんには島精機製作所はどう映りましたか。

瀬川 圧倒されました。アパレルは常に変化が起きているので、需要を予測しても当たりません。そういう環境でサプライチェーンの川下であるアパレル企業が利益を上げるには、変化によって自分たちの在庫にどのような売れ残りリスクが発生しているのか、例えば昨日まで売れていた物が何がしかの変化によって今日は在庫リスクが出てきているかもしれない、こういう変化をきちっと見ていくことが重要なんですね。それができれば、欠品を過度に恐れなくても、つまり明らかによく売れている商品が仮に欠品したとしても他にやりようがあるんです。そうした対応ができる仕組みをつくらないと、小売はこれから厳しいと思います。

 島精機さんのデザインシステムとホールガーメント編機を使えば、店頭投入の前に、商品を作る前に、どれがどれくらい売れそうか消費者の感覚が分かります。そうすると、今より確実に無駄が減りますよね。

 単純に在庫の量を減らしたら事業が縮小してしまいますから、在庫を積むのならある程度(どの商品をどれだけ仕入れれば良いという)当たりをつけることができていれば良いに決まっています。そこをあれだけのレベルと規模感でされているので、本当に圧倒されましたね。

 弊社の顧客である川下の企業はリードタイムを短縮させたがっています。でもこればかりは川下だけでは解決できなくて、川中・川上との連携が必要です。でも、テクノロジーの力で作る前の段階で在庫に当たりをつけるというのは、川上・川中と利害調整しなくてもできることなので、島精機さんの事業は本当にすごいなと感じました。

共通言語は「データ一元化」と「粗利」

Q ファッション産業に向けた提言をお願いします。

 本当の意味でサプライチェーンの川上から川下までつなげようとすると、共通言語が必要になります。今はそれぞれの持ち場で分断されていますから。その共通言語というのは、テクノロジー的に言えばブロックチェーンのようにデータが一元管理されている状態が理想です。

 例えば、カシミアセーターの糸の原料は内モンゴルのどこどこ地区産で何年何月に取れたもので、何年何月に糸染めしたものをA工場で編みたてて、どこそこのアパレル経由でどこそこのお店で売られたというようなデータです。

瀬川 やはり共通言語は「粗利」だと思います。皆さん、ある種もっと下世話になったらいいと思うんです。「SDGs」といきなり言うのではなく、「もっと利益を出しましょうよ」とはっきり言ってしまえばいい。その手段として、余計な在庫をもたないようにすると皆が考えればいいんです。

 在庫を減らそうと思ったら、サプライチェーンの各社がそれぞれの在庫をどうにかしようとするだけで利害が一致しますから。縮小市場においては「粗利第一」です。

 結局は、情熱をもって良いものを作りましょうよ、という事に尽きると思います。こんな事を言うとバッシングを浴びるかもしれませんが、今はクリエーションの現場の人たちが情熱を注げられるだけの時間を与えられていないのではないでしょうか。グルグル仕事を回していて、余裕がないんですね。

 粗利を上げて余裕ができて、ITなどいろんなツールを使えて。次に作るものは、もっと勉強して研究しながら他社と違う商品を作ってやるんだ、という人間臭い行為にもっと時間を割いてほしいと思います。

瀬川 クリエイティブなことに使える時間が足りていないというのは、その通りだと思います。
 ファッションビジネスはまだまだやらないといけないことが山ほどあります。少しでも多くの会社がいろんな取り組みに第一歩を踏み出すことで流れが変わると思うんです。歴史の流れの中で今は通過点の1つにすぎません。毎年少しでも前年より良くする努力をする。努力をしないこと、変わらないことが悪です。一歩でいいので変化を起こしていくことが重要だと思います。

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