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ユニクロも事業化検討、欧州では廃棄禁止に…「古着」ブームの深層

いま「古着」がブームのようです。ビンテージ感やファッション性、個性が人気を集めるだけでなく、物価高によって価格面で消費者に受け入れられています。

大手アパレルも古着販売の事業化を検討しているほか、フリマなどのリセールアプリが隆盛している中、欧州では2年後から売れ残った衣料品や靴の廃棄が段階的に禁止されることになりました。過剰生産と過剰消費のオルタナティブとなるサーキュラー・エコノミー(循環型経済)への機運が急速に高まっています。

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ユニクロが期間限定店で古着販売、事業化も検討

ファーストリテイリングは本年10月11日、東京・渋谷に古着を販売する期間限定店を開きました。消費者から回収したユニクロ商品に洗浄や染色を施した上で、新品価格の3分の1程度で売り出しました。ユニクロの古着販売は初めてとのことです。

ファーストリテイリングはこれまで、商品のリサイクルとリユースに注力してきました。2001年には、一世を風靡したフリースの店頭回収を始め、その後回収対象をユニクロ・ジーユーの全商品に広げました。

回収した衣服は難民キャンプや被災地への寄付に回したり、固形燃料や防音材として再利用したりしています。また、ダウンをリサイクルしているのはよく知られるようになりました。

さらに、国内外のユニクロ約30カ所で商品の修理やリメイクを請け負う「RE:ユニクロスタジオ」も開設しています。

そうした中で、期間限定とはいえ古着販売に踏み切った形です。複数の報道記事によれば、ファーストリテイリングは事業化について、消費者の反応をみながら検討していくとのことです。

ただ、ラグジュアリーブランドを除き、古着の販売は新品の売上とのカニバリズム(需要の食い合い)が生じかねません。それでもファーストリテイリングが古着の取り扱いを検討する背景には、消費者の環境意識の高まりがあります。それは、古着(アパレルの中古市場)の市場規模の拡大に表れています。

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古着の市場規模は5年で倍増、今後3年で52%成長へ

アパレルを含む繊維産業の情報サービスサイトJust Style.comによると、アパレルのリセール(中古品)市場はグローバルで2016年から2021年にかけて109.4%成長、つまり倍増しており、2023年から2026年にかけては52%超の拡大が見込まれるとのことです。
>>https://www.just-style.com/news/apparel-company-filings-reveal-growing-interest-in-resale-market/

この傾向は欧州で特に顕著です。象徴的なのが、欧州最大級の中古ブランド品ECプラットフォームであるフランスのVestiaire Collective(ヴェスティエール・コレクティブ)でしょう。

Vestiaire CollectiveのWebサイト

ケリングは2021年、Vestiaire Collectiveの株式を5%取得しました。若く環境意識の高い消費者を獲得するための戦略の一環でした。

結果的にケリングの判断は慧眼でした。Vestiaire Collectiveは2022年、米国の同業Tradesy(トレードシー)の買収を発表しました。Tradesyは米国で700万人以上の顧客を持っており、大西洋をまたいだラグジュアリーブランドの一大C2Cプラットフォーム化が進んでいます。

このVestiaire Collectiveが本年11月17日、ZARA(ザラ)やH&M(ヘネス・アンド・マウリッツ)、ユニクロ、GAPなどの商品の販売を禁止すると発表しました。

ビジネスインサイダー・ジャパンの記事によれば、Vestiaire Collectiveは2022年11月、既にSHEIN(シーイン)や英国のTOPSHOPなどのブランドを締め出していましたが、今回、ファストファッションだけでなく、廉価な大量生産品を提供する企業も販売禁止の対象に含めたことになります。
>> https://www.businessinsider.jp/post-279071

リセール市場の拡大が確実な中でのVestiaire Collectiveの判断は、公益性を重視する経営姿勢と、アパレルのサプライチェーンがいかに環境負荷が高いかを発信しながら成長してきた来歴を象徴するものではないでしょうか。

そしてEU(欧州連合)も動きました。欧州域内で事業展開するアパレル企業は、2年後から売れ残った衣料品や靴の廃棄が禁じられることになったのです。

この件を報じた日経新聞の記事から引用します。

(前略)EUの立法機関である欧州議会と、加盟国の代表でつくる閣僚理事会が政治合意に達したのは、商品の環境配慮設計を義務づける「エコデザイン規制」の改正案だ。売れ残ったり返品となったりした衣料品をそのまま廃棄するのを禁じ、再利用や別商品へのリサイクル、修繕、寄付などを促す。
(中略)
欧州議会によると、2000年から20年までに世界の衣料品生産量は2倍近くに増えた。このままのペースで進むと、30年までには20年比3割増の1億4500万トンに達し、廃棄量はさらに拡大する恐れがある。
EUは衣料品以外の製品についてもエコデザイン規制の対象とし、資源の循環による廃棄物の抑制を進める。スペインのボハー産業・通商・観光相は「製品の持続可能な要素を設計の初期段階から確実に考慮されるようにしたい」とコメントした。

(日本経済新聞2023年12月6日付夕刊1面)

環境に対する意識の面で日本は欧州から周回遅れですが、アパレル企業としては、大量生産の1次流通一辺倒ではなく、リセールの収益化が喫緊の課題になりつつあると言えます。

リセールバリュー優先で服を買うZ世代

環境政策に関して欧州の周回遅れである日本に話を戻しましょう。アパレルのリセールは、物価上昇がしぶとく続くなかで可処分所得が上がらない多くの消費者にとって、お手軽かつ侮れない現金獲得手段になっています。

メルカリが本年11月15日に発表した「2023年版日本の家庭に眠る“かくれ資産”」の調査結果によると、国民1人当たりの“かくれ資産”(不要かつ換金可能な資産)は平均約53.2万円だそうです。この調査は2018年、2021年に続いて3回目ですが、1人あたりの不要品の平均個数が増えたほか、フリマアプリにおける平均取引価格の上昇を受けた換金価値の上昇が影響しているようです。

アパレル製品について見ると、売りたいまたは手放したいと思うアパレル品を持っているかという質問に42.0%が「持っている」と回答しています(下グラフ)。

また、どのような方法で売りたいかという問い(複数回答)には、「フリマアプリ」が最多の49.7%となりました。以下、リサイクルショップ(48.1%)、買取専門店(32.9%)、オークションサービス(ヤフオク!等、15.6%)と続きます(下グラフ)。

調査を監修したニッセイ基礎研究所上席研究員の久我尚子氏のコメントがメルカリのプレスリリースに掲載されていますので、一部引用します。

家の中にある不要品を「捨てるモノ」ではなく「資産になり得るモノ」と見る消費者が増えたことも影響しているでしょう。メルカリの調査によると、Z世代の過半数は「自らの持ち物は現金化しやすい」と答えています。フリマアプリの浸透によって、モノのリセールバリューを考えるという意識が幅広い年代に広がっているのではないでしょうか。

衣料品でいえば、不要になったら処分してしまうのではなく、フリマアプリで売るために「リセールバリュー」が下がりにくい衣服を買う人が増えているということでしょう。実際、メルカリの取引ランキングの上位にはユニクロの商品が多く並んでいます。新品で買われている量が多いことや、ユニクロなら中古でも失敗しない(一定の品質が担保されている)という安心感が背景にあるのは間違いありません。

また、久我氏は次のようにも述べています。

生活防衛意識の強さから、割安な中古品を入手できるフリマアプリへの関心は高い状況が続くでしょう。一方で中長期的には、消費者のサステナブル意識の高まりがフリマアプリの利用を後押ししていくのではないでしょうか。「地球環境や社会の持続可能性に関わる問題は他人事ではない」(43.9%)と考える消費者は4割を超える一方、「興味はあるが何をしたらよいか分からない」(35.5%)との回答も目立ちます。サステナビリティを意識した消費生活を送りたいけれど、どうしたら良いか分からない。そんな消費者にとってフリマアプリの利用は、身近で取り組みやすい社会貢献活動になり得るのではないでしょうか。

ファーストリテイリングは以上のような変化に目を付けたに違いありません。ECにおいて、自社ECにこだわり外部モール(ZOZO TOWN、ヤフーショッピング、楽天市場など)に出店しない自前主義を、古着にも適用して事業化する可能性は低くないのではないでしょうか。

アパレルのリセールはビンテージ性やファッション性、個性を求めるファッション好きの人たちから、低価格であることに価値を見出す客層へと市場が広がっています。サステナブル意識の高まりが、大手アパレルの背中をさらに押すことになるのか、注目が集まります。

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