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インバウンド消費が急回復! 日本の小売はどうなる

インバウンド(訪日外国人)の数と日本での消費額が急回復しています。3年続いたコロナ禍によってインバウンドは大きく落ち込んでいましたが、2023年5月は国によっては2019年の水準を超え、百貨店などで免税売上高が大きく伸びています。

対照的に私たち日本人(国内居住者)は総体として円安と物価高により実質賃金が下落し、購買意欲は旺盛とは言えません。こうした構造的変化は、日本の小売業をどのように変えていくのでしょうか。

インバウンド数はコロナ禍前の68%まで回復

日本政府観光局が本年6月下旬に発表した5月のインバウンド数の統計がちょっとした話題になりました。シンガポールや米国、インドネシア、ベトナム等からの訪日外客数が2019年の同月を上回ったのです。

参考:日本政府観光局「訪日外客数(2023 年 5 月推計値)」

2022年10月にインバウンドの個人旅行が解禁されました。本年5月の全体の訪日外客数は2019年同月比31.5%減の189万8900人でした。依然としてコロナ禍前の水準は遠いですが、2019年比の回復率は4月を上回りました。国際線定期便の運航数がコロナ禍前の約6割まで戻ってきたことと同様の動きになっています。

これに伴い、インバウンドによる消費額も急回復しています。インバウンドによる消費額は、日本百貨店協会が公表する免税売上高が代表的な指標になります。

(免税売上高:日本の非居住者である訪日旅行者は許可を受けた消費税免税店で一定の要件を満たすと消費税を支払わずに買い物ができる)

日本百貨店協会の統計によれば、本年5月の全国88店舗の免税売上高は217億円で、2019年5月(309.9億円)の70.0%の水準となりました(下グラフの棒グラフ=左目盛)。4月や3月と比べても回復率は上昇しています。

興味深いのがインバウンド1人あたり購買単価です(上グラフの折れ線グラフ=右目盛)。本年5月の8万9千円は、2019年5月(6万5千円)より36.9%増えています。4月以前も同様の傾向であることが分かります。

百貨店からすれば、こと免税売上については客単価が上昇していると言えます。小売業にとって客単価は最重要の戦略変数であり、百貨店にとっては歓迎すべき状態でしょう。

安いニッポンは買い物天国

インバウンドといえば、中国人による「爆買い」がコロナ禍前の風物詩でした。しかし、中国人の本年5月の訪日外客数は2019年5 月比82.2%減の13万4400人で依然として低調です。

そうしたなか、象徴的なエピソードがあります。7月中旬、大阪市の阪急百貨店うめだ本店で「ハワイフェア2023」が開かれましたが、筆者がその出店者から聞いた話をご紹介しましょう。

このハワイフェアには本場ハワイからの輸入品だけでなく、日本の作家が製作したハワイにちなんだ工芸品やハワイをテーマにした雑貨なども出品されました。輸入品は昨今の円安によってかなり割高になっていましたが、コロナ禍の影響で旅行に行けなかったハワイ好きの顧客が大挙して押し寄せました。

対照的に、インバウンド客たちはメイド・イン・ジャパンのアパレルや手作りアクセサリー、雑貨類を好んで買い求めていたそうです。

また、中国人の女性がスマートフォンで自撮りしながら商品を手に取り、作家の説明を聞く様子を同胞たちに見せ、大量に購入していったとのことです。筆者の知人の出店者は「メイド・イン・ジャパンに対する信頼感がベースにあり、丁寧で精緻な手づくり感や、ハワイがテーマとはいえ日本らしいきめ細かさが支持されている。日本人のお客さまにとっては高く感じる価格設定でも、インバウンドのお客さまからすれば、品質と比較して安いと受け止められている」と話していました。

過去10年近く、為替レートは大きく動くことなく安定していました。それと比べると、この1年あまりの為替は大激動です。2022年1月に1ドル=115円だったのが、10月には151円台にまで円安が進みました。今年に入って127円台まで上がったものの、7月には140円を突破して円安に戻ってしまいました。

つまり、インバウンド客にとって日本は非常に安価に高品質な商品や満足度の高い買い物体験ができる国になっているのです。日本人の富裕層にとっても同様です(自分たち以外の消費者が周りから消え、快適に買い物ができるため)。

並行して富裕層以外の日本人の賃金も上がれば何の問題もありませんが、実態はどうでしょうか。実質賃金が減り続け、生活必需品や日用品は値上げが続いています。こうした状態は好む好まざるを問わず続くでしょう。

「コト消費」以外は熾烈な価格競争へ

まとめです。我が国の小売業と飲食・サービス業は下記2つに明確に分かれていくと思われます。

  1. インバウンド客や日本の富裕層向けの商品・サービスを提供。コストや為替レートに合わせて価格をどんどん上げていく
  2. 一般消費者向けの商品を提供。値上げができない中でコスト削減を続ける

(1)の好例が2つあります。京都・祇園祭のプレミアム観覧席と、東京ディズニーリゾートの入園料値上げです。

(筆者撮影)

京都市観光協会は今年の祇園祭で、1席40万円の観覧席を販売しました。祭りの佳境である山鉾巡行を間近で見られる文字通りの特等席です。京都市中心部はコロナ禍前、インバウンドが増えすぎて地元住民の生活に支障をきたすオーバーツーリズムが課題となっていました。中国政府が団体旅行を解禁すれば、オーバーツーリズムの再来が避けられず、京都市当局は観光客の「数」よりも「質」を重視して観光振興を図る必要性に迫られています。

次に東京ディズニーリゾートです。本年10月から入場料が改定され、大人の1日券(1デーパスポート)の料金が最高で1万900円となります。かねてより、インバウンド客が東京ディズニーリゾートに来場すると、その安さに驚くと言われていました。

主因は本記事で何度も触れている円安です。バブル経済の頃ですら、東京ディズニーランドの入場料は4千円台(大人)でした。2010年代以降、6千円台から7千円台へと小幅な値上げが実施されてきましたが、ドル建ての価格はあまり変わってこなかったのです。

しかし、昨今の円安により、ドル建てで見た入場料は下がりました。米ディズニー本社もさすがに看過できなかったと思われます(ちなみに、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの株価は、値上げの発表後に急騰しました。投資家は客離れは起きないとみているようです)。

入場料が1万円台では日本人、特に若者は年に何回も出かけるのは難しくなるのではないでしょうか。しかし富裕層やインバウンド客にとっては痛くも痒くもありません。

対照的に(2)に属する企業は、どれだけ原材料費が高騰し、人手不足により人件費が上がっても値上げをすることはできません。企業にとって最重要KPIである「値付け」の自由を奪われた先に待っているのは、資本力(体力)勝負の価格競争です。

象徴的なニュースが日経新聞の本年7月11日付朝刊に掲載されました。セブン&アイ・ホールディングスが2024年2月期中にプライベートブランドの低価格品を最大160品目に倍増するとのことです。

参考:セブン&アイ、低価格PBを倍増の160品目 節約受け皿に(日経電子版、2023/7/11)

この記事から最近の消費動向に関する部分を一部引用します。

消費者はブランド力のあるこだわりの商品の値上げを受け入れる一方、値上げ後に店頭で売れ行きが伸び悩む商品が出始めている。

日本チェーンストア協会(東京・港)によると、5月の全国スーパーの既存店売上高は前年同月比1.3%増と3カ月連続で前年実績を上回るが、「買い控え傾向が続いており、単価の上昇でなんとか売上高を補っている格好だ」(同協会)。5月の全店ベースの客数は前年同月を約1%下回った。

日経新聞,セブン&アイ、低価格PBを倍増の160品目 節約受け皿に

この先、熾烈な消耗戦は不可避であり、人手不足に端を発する倒産も増えてくるのではないでしょうか。

前記(1)(2)で重要なのが価格決定のメカニズムです。生活必需品や日用品などは生産にかかったコストやその性能に即して価格が決められます。これに対し、嗜好品やエンターテインメントは、その製品・サービスの消費によって消費者が感じる満足度や幸せさといった充足度合いが価格決定に大きく影響するのです。

インバウンドの人数、消費額の急回復に伴い、こうした二極化がますます進んでいくでしょう。

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