経営者が現場に実践させるべき正しい「OTB」戦略とは。

アパレルの仕入れ・販売計画の鉄則であるOTB(Open To Buy)。「在庫を現金化できない限り、これ以上仕入れない」と歯止めをかける手法であり、多くの企業が採用して大きな成果を生んでいます。その半面、気付かぬうちに間違ったOTB運用を行い、粗利益を失っている企業が後を絶たないのも事実。特にコロナ下では、キャッシュフロー悪化への不安からOTBの行き過ぎた運用により利益を失うケースも目立っています。

そんな諸刃の剣であるOTBについて、事業再生スペシャリスト・河合拓氏が徹底解説します。成長を阻害する間違いだらけの運用を一刀両断し、経営者が現場に実践させるべき正しいOTB理論を紹介します。フルカイテン代表・瀬川直寛との対談では、きっちり利益を確保するOTB運用の外すことのできない大事なことについて深掘りしました。

※本コンテンツは、2021年9月2日(木)に開催されたウェビナー「成長を阻害する間違いだらけの「OTB」戦略 ~『生き残るアパレル 死ぬアパレル』著者・河合拓氏が一刀両断~」での講演・対談を基に制作しました。本ブログの内容は、こちらのレポートでも読むことができます。

投入点数のおよそ半数が残在庫になっている

OTBについてはマクロの産業構造から見ないと正しく理解できません。
余剰在庫の問題について、まずマクロの視点で考察してみましょう。

この30年間でアパレル小売の市場規模はおよそ15兆円から10兆円へと3分の2に縮小しました。対照的に投入点数は約20億点から35億点へと2倍近くに増加。その結果、平均単価は6,800円から3,200円へ大きく低下しています。

環境省によれば、日本国民が1年に消費する衣料品は約18億点にすぎないそう。つまり投入点数約35億点のおよそ半数が残在庫になっているのです。

大半の企業は翌期に引き続き販売する。どんな会社も3年くらい寝ている在庫はザラにあるにもかかわらず、毎年、新規投入しています。

日本のアパレルはファーストリテイリングを除いて海外で勝負していないので、グローバルのビジネスモデルから大きく乖離しています。

中国の越境ECアパレル企業であるShein(シーイン)はわずか10年間で売上高を1兆円に伸ばしたモンスター。素材などの供給業者が集積する産業クラスターに生産拠点を構え、物流は米FedExなどクーリエ(ドア to ドア宅配)を活用し、世界中の目的地に48時間以内に到着させています。

企画において人の感覚を排除し、顧客の購買動向に関するビッグデータを活用しているのが大きな特長で、SNS等を通じて世界中のZ世代を中心にプロモーションしています。そして、バリューチェーンは、工場からウェブサイトへダイレクトにつながるいわゆるD2Cであり、製販が分離している日本の長くて複雑なサプライチェーンとは比較にならないほどシンプルです。

しかし、日本では顧客不在。D2Cは経営モデルのパーツとしては存在するものの、バリューチェーン全体を通して一貫性を持ってDXを実現している企業は皆無です。EC企業がビッグデータを工場へ直接開示し、適時適量に生産していったら、莫大な流通コストを省くことができます。

政府の口出しも余剰在庫の原因。政策金融である資本性ローン貸出件数は86万件を超えており、倒産件数は過去最低です。本来であれば市場から退出すべき企業が残っています。

計画と実力値とのギャップをどう埋めるか決めるのが先決

次に余剰在庫の問題をミクロで見てみましょう。

「御社にOTBは存在しますか」と尋ねると、ほとんどの企業はあると答えます。ではなぜ山のように余剰在庫が出るのでしょうか。

例えば、

  • プロパー消化率50% 
  • オフ率50% 
  • 残品率20% 
  • 企画原価率30% 

という実力値を持つブランドが下記の目標を達成するにはどうすれば良いのでしょうか。

  • 売上100億円
  • 営業利益10億円
  • 販管費45億円
  • 残在庫5億円(簿価)

売上に関しては実力値を発揮して計画どおりになると仮定した場合、以下のようになります。

  • プロパー売上50億円⇒仕入れ15億円
  • セール売上50億円⇒仕入れ30億円
  • 営業利益:10億円

仕入れ総額は50億円になります。ところがこの会社は普通にやると20%売れ残ってしまうので、この計算でいくと残在庫は10億円になってしまいます。ということは、残品率をどうやって10%向上させたらよいか、そして(残在庫が5億円減る分)粗利益が5億円足りなくなるからどうすればよいか、というふうに目標を定めないといけません。多くの会社はこれをやっていないのです。

具体的な数字の目標を作り、月別に落としていって、顧客が反応する毎月のイベントに際して商品で賄うのかプロモーションで賄うのか決めます。

例えば、セールの前月は商品がなかなか売れないのでポイントを倍にするとか。このように計画と実力値とのギャップをどう埋めるかを決めるのが先決です。そのうえでOTBに基づき、売上がうまく上がっているのなら仕入れ枠を拡大することもあるでしょう。

ただ、仕入れ枠を縮小し、かつ売上は落とさなないようにするために残在庫を換金していく施策を考えることの方が多いです。なのに、ほとんどの会社はOTBを参考値程度としか捉えていません。だから成果が出ないのです。

OTBはExcelで十分できます。コンサルタントを入れてExcelシートを作らせると必ず失敗します。現場の人たちと一緒に作っていくことが重要です。中期的に見れば、デジタル技術によって余剰在庫ゼロ化は可能ですが、多くの企業はその段階にまで至っていません。まずは自ら考え基本を学ぶこと。

経営者も同様です。あまりにも細部を知らない経営者が多いと思います。OTBは簡単な四則演算でできるのだから、経営者自身が一度しっかり理解したうえでMDたちに指示を与えるようにしてほしいです。

欠品ではなく客単価を重視するべき

(※以下、事業再生スペシャリスト河合拓氏とフルカイテン代表の瀬川による対談の抄録です。)

瀬川(フルカイテン代表):欠品を気にする企業は多く、在庫過多を助長している面もあります。実際のところ、在庫を積むことで欠品は減っているのでしょうか。生産や仕入ればかり気にして、肝心の「売る」部分が商品頼みになっているケースが多いと感じます。海外では生産と販売の工程が平準化されている印象です。

河合氏(事業再生スペシャリスト):おっしゃる通りですね。製販を分けて考えることは非常に不毛で、小売の現場で起こっていることと生産・調達を同期化させなければいけません。もう1つは欠品の定義です。売上を追うから欠品を気にするわけですが、代わりに客単価を追いかければ良いわけですよ。消費者の頭の中には「絶対この商品でないとダメ」という考えがクリアにあるわけではないので、KPIを客単価に替えた方がいいです。

私はデジタル技術に非常に将来性を感じていますが、敢えてその話は避けました。何故かというと、多くの会社が業務改革・業務改善をすることなく、単にデジタルツールに飛びつくことを避けてほしいからです。「業務そのそものに骨太な論理を通しましょう」と呼びかけています。

というのも、QR(クイックレスポンス)は30年前からありますが、相当な精度で日本の約1万7000社が同じようなものを追いかけているわけです。A社が欠品してもB社が似た商品を作っているので、ZOZOなんかで検索すればズラッと価格順に表示されるわけです。消費者からすればラグジュアリーブランド品を除いて欠品という概念はありません。

瀬川:どうしてこのタイミングでOTBの話をされたのですか。。

河合氏:基本がないがしろにされているからです。基本の四則演算をしっかりやれば、プレMD(不確実な予測)の領域は極小化させられます。アフターMD(残在庫)は必ず出ますから、そこは御社のFULL KAITENを使うなどして換金率を上げていくという2段構えが絶対に必要なんです。

瀬川:うまくOTBを実践できている企業はあまりないと感じます。OTB経営はまさにキャッシュフロー経営であり、キャッシュを増やすが目的なのに「在庫をお金に換えさえすればいい」と曲解されているのではないかと懸念しています。増えたキャッシュを仕入れに回すのが本来のOTBであり、そのためには値引きの抑制と客単価アップが絶対に必要です。そうしないとBSの現金がどんどん減っていきます。それでは自転車操業と同じです。

河合氏:私は以前、商社の人に「アパレルに納入している商品が、彼らの利益・損失のどちらにつながっているか考えたことがありますか」と問うたことがあります。

在庫は利益にもなるし損失にもなり得るものですが、仕入れた時点ではどちらに転ぶか分からないわけです。MDは計画に責任を持っているし、仕入れ担当は調達責任を持っているというふうに分業制になっています。自分がやっている仕事が、会社のPLのどこに位置しているかを理解せずに業務をこなすのは良くありません。

経営が上手くいっている会社は基本に忠実

Q.与えられた仕事をだけをやっているのが問題というお話が出ましたが、経営が上手くいっている会社は具体的にどのようなことをやっていますか。

河合氏:大それたことはしていなくて、やはり基本に忠実ですね。どの変数をいじれば良いか、何をすれば最も効果的かというレベルまでブレークダウンします。もし失敗したら在庫の換金を急ぎ、成功すれば利益を最大化しようとします。私が知っている企業の中には年度残品率が3~5%というところもあります。

Q.パートを含め二十数名の会社の代表をしていますが、部分最適の弊害は常々感じています。業務分担を考える時は繋がりを大事に考えてきました。

瀬川:やはり組織の大小は関係ないんですね。

河合氏:そうですね。全体のPLを全員に見える化しておくことです。もしも仕入れれば仕入れるほど損失につながる状態ということが共有されていれば、手もと在庫を流動化させることが全体最適だと分かりますよね。

Q.今後、新型コロナによる市場への影響はどう予測されていますか。

河合氏:変わらないと思います。この2、3年はマスクをしてワクチンを2回打ち、社会的距離を保つということが続くとみた方が良いでしょう。「人流抑制」と言いながら、政府がやっていることは経済抑制に他なりませんから。

そしてこれからEC比率を上げるというのは、もう遅いと思います。3大プラットフォーマーなどの軍門に下るしかないですが、ECモールの中で軍門に下ったとしても、ある程度ブランド価値が強ければ、自社ECへ顧客を持っていくことはできるはずです。

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【プロフィール】
事業再生スペシャリスト
河合 拓 氏


Arthur D Little,・カートサーモンUS Inc.・アクセンチュア戦略グループ・日本IBMのパートナー(共同経営責任者)を歴任し、日本とアジアで50以上の小売企業の再建に成功した日本で唯一のコンサルタント。企業買収、デジタル導入、海外進出の3つおいて独自の理論を持ち、数多くの提言は業界に多くの影響を与える。IFIビジネススクール講師、企業買収ファンド(Private Equity)のマネジメント・アドバイザ。 国内外での年間講演回数は20を超え、2016年経済産業省に提言した「デジタルSPA」は産業復興政策の切り札として採用。NHK「クローズアップ現代」、国際衛星放送「Bizz Buzz Japan」のコメンテータとして出演。代表著書「ブランドで競争する技術」は、中国語に翻訳されアジアでベストセラーとなる。2013~16年東証一部上場企業の社外役員。


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