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在庫管理を起点に考える 値引きと粗利益をコントロールする方法

多くの小売企業がコロナ禍で売上を7掛け・8掛けに落とす中、在庫を見直し、利益を生む体質改善に邁進している企業もあります。ポイントの1つは、いかにして値引きを抑制するか。そのカギは、商品計画と在庫運用の両方が握っています。ズバリ、在庫管理の発展形ですね。

そこで本稿では、『ユニクロ対ZARA』『アパレル・サバイバル』著者で在庫最適化コンサルタントでもある齊藤孝浩氏が、在庫管理と粗利益の密接な関係をひも解いて値引き抑制戦略を解説した内容をご紹介します。

弊社フルカイテン主催のウェビナーに齊藤氏が登壇した際の講演とフルカイテン代表・瀬川直寛との対談がベースになっているので、在庫管理から発展した在庫分析と値引き抑制の勘どころをご理解いただけると思います。

(※本ブログはこちらのレポートでも読むことができます)

値下げしても客数は狙いどおりに増えない

まず、売上は仕入れによりけりということで、仕入れに注力する企業が大半だと思います。そして、粗利益とキャッシュは、仕入れた在庫をチャンスを逃さずにしっかり売り切っていくことで生まれるものです。

アパレル小売は仕入れた商品を売り切り、粗利益を稼ぐのが目的ですが、最初はプロパーで販売していき、消化が思わしくなければ値下げする。そしてシーズン終わりには残在庫が残るという構造になっています。

値下げが増え、粗利が取れなくなると原価を下げようと考えますよね。かといって仕入れ原価を余りにも下げると、消費者も馬鹿ではないですから、「この品質でこの値段?」という反応が起こり、値下げされてからしか買わなくなるようなことも発生します。

あるいは、「しっかり原価を下げて値入れを取っているから、多少値下げしても(利益には)響かないよ」という社内の甘えもあると思います。その結果、値下げも、残在庫も、両方増える悪循環です。

まずはこの構造を理解し、どこに問題があるかを特定してアプローチすることが必要です。

価格は顧客との「約束」。簡単に破れますか?

そもそも値下げと残在庫を増やす「死に筋商品」とは何なのでしょうか。よく見かけるキャリー在庫の要因を挙げてみます。

  • 商品企画ミス
  • 無計画に作り過ぎた
  • 顧客にとって高すぎる価格設定
  • 納期遅れで販売期間が短くなった
  • 店舗に過剰に配分された
  • 売れないカラー
  • 売れ筋だからといって深追いし過剰生産

これらの中には、量さえ間違えなければ売れ筋で終わっていたかもしれない商品が多いことに気付くのではないでしょうか。

そのうえで、値下げを減らすためのポイントは以下の3つです。

  1. 適正価格を付ける
  2. 過剰な品番数を送り込まない
  3. 値下げ額をコントロールする

①の価格戦略の基本は、お客様が自社に期待する中心価格を決めてから、どうつくるかを考える「プライスポイント戦略」です(図1)。

図1

プライスレンジは最低価格と最高価格の幅、プライスラインは存在する販売価格の種類、プライスポイントはその中の最多価格帯を指します。プライスポイントはシーズンごとに変わるとお客様が戸惑ってしまいます。価格は顧客との「約束」なので、約束は大事に守った方が良いでしょう。

ユニクロとZARAの価格戦略は正反対

そして、カテゴリー別プライスラインは少ない方が良いです。ユニクロは、1900円に絞ってブランディングして成功しました。1900円というのは、実はカジュアル衣料の中で最も粗利額を稼ぐことができる価格なんです。

一方のZARAは相対的低価格戦略を採っています。比較対象は百貨店ブランドのプライスポイントで、その半額以下で提供しています。

プライスポイントのところで売上数の山と在庫数の山が一致していれば客数は維持できるので、むやみに値下げで客数を稼ぐことに走らず、当初から顧客が期待する適正価格に向き合うべきだといえます。

顧客が迷わない品番数にせよ

前章でみたように、値下げを減らすためのポイントは次の3つでした。

  1. 適正価格を付ける
  2. 過剰な品番数を送り込まない
  3. 値下げ額をコントロールする

➁の過剰品番数を送り込まないという点について考えましょう。品番数が多い方がお客様が喜ぶし、店側も安心できると考えがちです。

しかし売り場に並び切らないほど商品が多いとお客様は迷ってしまいますし、本部・店舗ともに手間と管理コストが増える弊害が出てきます。ECも同様で、お客様は何ページでもページをめくってくれるわけではありません。

それに対し、ZARAは店頭を起点に品番数を考えます(図2)。皆さんも売り場スペース(什器)に合わせ、ブランドらしいボリュームを決めてみましょう。商品の幅を広げすぎず、むしろ売ろうと決めた品番に奥行きをつける方が良いです。

図2

全社における値下げ許容額を把握

そして3つめのポイントは、値下げ額をコントロールすることです。

皆さんの会社は、毎シーズンどれくらい値下げしているかを把握していますか。例えば一律〇〇%オフは非常に勿体ないなあと思います。一律オフは死に筋対策にはならず、売れ筋から消化されていくだけだからです。

私はクライアント先とは、一緒に値下げ対象品を見極める基準をつくり、値下げ許容額を決め、その範囲内で値下げをコントロールする取り組みを行っています。

ユニクロが2021年3月に実質9%を値下げしたのは皆さんご存知だと思います。売上に関しては、販売数量を10%増やせばカバーできます。しかし粗利ベースでは25%多く売らないと値下げ前と同じ額は稼げません。

そのためにユニクロは仕入れ原価を下げ、期間限定セールをコントロールし、販管費を調整することで営業利益はしっかり維持しようとしています。つまり、値下げ許容額を知り、その範囲で値下げを行うことが大変重要なんです。

下のブロックパズルは、仕入れ原価に値入れを上乗せして、値下げをしながら売り切って残在庫が残るという事例を表しています。

ブロックパズル

PL上の粗利率が50%、最終消化率を95%とすると、残在庫の原価は売上高100に対して2.5となります。すると仕入れ原価は50 + 2.5 = 52.5となる。仕入れ原価率を38%とすれば、仕入れ上代は52.5 ÷ 0.38 ≒ 138と計算できますよね。

そして、どこまで値下げが可能かというと、138 – 100 – 5 = 33となり、仕入れ上代に対して24%オフ(33 ÷ 138)まで可能ということになります。

こうしてPLからは見えないものをシーズン単位で可視化していきます。実際に値下げ許容額を明確にすることで、週単位で運用して値下げを許容範囲内にコントロールできたという実例もあります。

原価低減よりも値下げ抑制を

(※以下、齊藤氏と瀬川による対談の抄録です。)

瀬川:現状、極限まで仕入れ原価が下がっているので、原価率を数ポイント下げたところで粗利への感度は低いと思います。それよりは値引きを抑制する方が利益感度が高いのではないでしょうか。

齊藤氏:そうですね。値下げは20%オフ、30%オフのレベルでやりますから、どんなに原価を下げようが、数%の原価低減分は一発で飛んでしまいますよね。「これだけ原価を下げたのだから、値下げしても構わない」という考え方から抜け出し、「値下げをもっとコントロールできないか」と発想を変えてほしいです。

瀬川:売上や在庫などの目標管理の仕方にも残在庫が膨らむ原因が潜んでいるのではないでしょうか。例えば日本は市場としては縮小していますから、前年比何%といった増加はできないはずだと思います。

齊藤孝浩氏(左)と瀬川直寛

齊藤氏:売上を伸ばすことでの成長というロジックで数十年やってきても、ある規模になると頭打ちになるんですよ。営業利益がピークアウトする時期が成長期から成熟期への転換点ですが、そこに至る前にいかにして営業利益重視経営にシフトできるかですね。

規模が大きくなると、それなりに効率が良かったものが薄まっていきます。出店が典型例です。販売効率が高い場所に出尽くしてしまい、地方へ出ていくと販売効率は下がり、販管費の負担が大きくなります。本部が忙しくなったので本部経費を増やすといったこともあり得ます。

組織が分断し部分最適化が横行

瀬川:組織の部分最適化も大きな原因の1つではないでしょうか。原価率の上限ルールの存在を前提に仕入れ量が決まり、過剰在庫を抱えてしまうような例です。齊藤さんはクライアントでこうした組織分断に対しては、どんなアドバイスをされるんですか。

齊藤氏:まずは会社経営的には利益が大事ですよね、営業利益の唯一の原資は粗利ですよね、そこをしっかり確保しましょうと。ただ、粗利をしっかり確保したとしても、在庫が残ったら翌期以降にボディーブローのように効いてくるんです。

キャリー在庫は利益を生み出しません。よくてトントン、大概は赤字です。販管費がかかりますから。つまり在庫は未来に対する損失の先送りです。本当の評価は「粗利マイナス残在庫」を基準にすべきです。

瀬川:ユニクロはベーシックが多くライトオフ期間が長いのに対し、ZARAやしまむらは売り切り御免のビジネスモデルという違いはありますが、双方とも在庫をきちんと念頭に置いていますよね。

齊藤氏:ZARAやしまむらは値下げが少ない企業の筆頭です。特にZARAはたくさん作らないので、そもそも値下げの対象となる在庫をあまり持っていない。そしてキャリー品でも最後の1着までプロパー消化にこだわります。しまむらは単価が安いので値下げしているイメージがありますけど、値下げ率は業界の中でも断トツで低い会社ですよ。その辺りにヒントがあると思うんです。

「粗利益マイナス残在庫」というKPI

Q.粗利マイナス残在庫を評価基準にするというお話が非常に興味深かったです。何か水準設定の方法などはありますか。

齊藤氏:設定しているある会社の例で言いますと、残在庫の原価を期間売上高で割った数値に対して何%以内という縛りを設けています。それを守っていれば経営は大丈夫だという基準を基に作ればいいと思います。

瀬川:GMROI(粗利 ÷ 期中平均在庫高)、つまりいかに少ない在庫で多くの粗利を稼ぐことができるかという指標で測るのもいいのではないでしょうか。

Q:販売価格を上げていく施策についてはどうお考えですか。

齊藤氏:平均単価を上げることはできると思います。明らかに高付加価値がついている高価格ゾーンの品揃えを支持してもらうということですね。基準となるプライスポイントが顧客に伝わっているかどうかでも変わります。単純に同じクォリティで価格だけ上がってしまうと、しばらくは客離れが起こるでしょうね。

あとは経営的にリブランディングする場合です。いったんは売上が下がっても構わないという覚悟ができるかどうかですね。ただ、客数が8掛けで売上は従来と同じとかになった場合、「これなら大丈夫だ」とアクセルを踏むと危ないですね。

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【セミナー登壇者プロフィール】
ディマンドワークス代表 在庫最適化コンサルタント
齊藤孝浩 氏

ファッション専門店の在庫最適化コンサルタント。ディマンドワークス代表。
総合商社でアパレル生産、欧州ブランド日本法人で輸入卸、アパレル専門店で小売販売、商品管理からチェーンストア経営を経験。多くの新興・成長中ファッションチェーンの在庫最適化と人財育成を支援する傍ら、国内外のファッション流通を取り巻く環境や企業のビジネス構造をわかりやすく解説する専門家としても活動中。IFIビジネススクール講師として複数の大学講座のファッションビジネス論にも登壇する。
著書に「ユニクロ対ZARA」、「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)がある。


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