無印コスメ大ヒットにみるアパレル×化粧品の勘所
アパレル関連企業が衣料品に次ぐ第2の収益の柱を確立しようとする動きが活発です。その第2の柱として近年脚光を浴びているのがコスメティック(化粧品)ではないでしょうか。
無印良品のコスメがヒットし、若者の間では韓国コスメブランドも人気です。そしてファッションモールZOZOもコスメのGMV(流通総額)を伸ばしていて、コスメは早くもレッドオーシャン化の気配もあります。本記事では勝敗のカギを探ってみたいと思います。
無印の休眠顧客を呼び寄せたスキンケア
良品計画の株価が2025年1月に入って年初来高値を更新しています。1月10日の四半期決算発表に合わせて2025年8月期業績予想を上方修正したことが好感されたようで、株価は翌営業日の14日に全営業日比9%も上昇して年初来高値を更新し、28日もさらに更新して終値は4045円となりました。
業績を牽引するのは、スキンケアや日用消耗品をはじめとする生活雑貨です。利益率が高いスキンケア商品を中心とした商品ミックスの改善による大幅な増収が、人件費をはじめとする販管費の増加を吸収して余りあったことから、営業増益となりました。
生活雑貨は、良品計画の売上高の45%を占める主力商品群です(下グラフ)。

2024年9〜11月期の増収は、国内における休眠顧客が戻ってきたことに支えられました。前年度から継続的にSNSの発信頻度を上げ、店頭で「MUJIパスポート」入会を促すなど、地道な取り組みを続けてきた成果とのことです。
ただ、それも店舗に足を運びたくなる商品があってこそ。日用消耗品やヘルス&ビューティーのような購入頻度の高い商品の品揃えを充実させたことが集客に寄与したのです。特にスキンケア商品は、男性の購入が増えていて、リピーターとなるケースが増えているそうです。
一方で、スキンケアを含むコスメは新興ブランドが立て続けに参入して競争が激化しているのも事実です。そんなレッドオーシャンぶりが、ベーシックな「無印良品」をかえって際立たせ、顧客から選ばれているという側面がありそうです。
2024年12月19日の日経新聞電子版に興味深い記事が掲載されていましたので、一部引用します。
(良品計画のコスメがブレイクした)3つ目の理由が情報過多だ。膨大な量の口コミのほか、インフルエンサーや皮膚科医までが発信する。小売りやメーカーはパーソナライズな情報提供に努めるが、相変わらず何が良いか分からない。無印のコスメ購入者に話を聞くと、何人かが「選ぶのに疲れてしまい、無印でいいやと思った」と話していた。同社にとっては褒め言葉だろう。「これでなくてはいけない」という嗜好性を誘うのではなく、「これでいい」という抑制を含んだ理性的な満足感を追求してきたからだ。
確かに、無印の商品や世界観は「これでいい」という安心感を想起させるという指摘は、首肯できる読者も多いのではないでしょうか。なおかつ、価格は発酵導入美容液が2000円を切る水準であり、コストパフォーマンスの良さが支持された面もあるでしょう。
コスメ専業ではないからこそ顧客の注目を惹き、リピート消費と新規顧客開拓の両方に貢献したようです。
UAもコスメブランド。実店舗への誘客に貢献
そんな良品計画の好調さを他社が指をくわえて見ているはずがありません。アパレル大手のユナイテッドアローズは2024年1月25日、ユニセックスのビューティーブランド「UNITED ARROWS BEAUTY」をローンチし、スキンケア・ヘアケア全6アイテムをECサイトと一部店舗で発売しました。

ラインナップはBBパウダーや美容液、シャンプー、ヘアオイルなどで、20代の若者をメインターゲットとし、新たな顧客層の開拓を目指しています。
ただ、アパレル大手によるコスメブランドの販売は一筋縄ではいかないようです。ファーストリテイリングは2020年にジーユーからコスメブランド、#4me by GU(フォーミーバイジーユー)を立ち上げましたが、現在は取り扱いを終了しています。アダストリアもコスメブランドのECサイトをクローズしました。
・参考:https://www.businessinsider.jp/article/281554/
とはいえ、アパレルブランドが化粧品を扱うことには一応の必然性と合理性があります。ここ数年で「メイクはファッションの一部である」という価値観が広がってきているからです。また、コスメはECでは店頭のようにサンプル(テスター)を試すことができません。気になった商品は店舗に足を運んで試してみる必要があります。そして、店舗にはアパレル商品も陳列されていますから、自然と顧客の目に触れることになるでしょう。
なお、ユナイテッドアローズはアパレル以外の事業分野としてこれらコスメティックのほかに食の領域への参入も検討しているとのことです。多角化の成否に注目が集まります。
・参考:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC076PO0X00C25A1000000/
ZOZOビューティーGMVは高成長
ファッションモール最大手のZOZOも化粧品の取り扱いに注力しています。コスメに特化したモールZOZOCOSMEは、新型コロナウイルス禍まっただ中の2021年3月にオープンしました。立ち上げ3年目の2024年3月期のGMV(商品流通総額)は113億円と100億円台の大台に乗り、2025年3月期は15%増の130億円を目指しています。ZOZOTOWN全体のGMVの成長率は、6.5%を目標としていますから、コスメの高成長度合いがよく分かります。
ZOZOTOWNでは、日替わりブランドクーポンを発行するなどしたことで、ユーザーが毎日訪問したくなる仕組みを作っています。ZOZOCOSMEでも同様に日替わりのキャンペーンを打ち、リピーターを増やしたい考えです。
2024年度上期はカネボウ化粧品などの新規出店があったほか、韓国コスメブランドも出店を開始したことで購入者数や複数回購入客の増加に弾みがついているようです。
ZOZOの狙いは、ファッションからメイクアップまで顧客にZOZOTOWNで完結してもらうことです。ZOZOCOSMEディレクター青木俊祐氏のインタビュー記事(ファッションスナップ・ドットコム)の内容を一部引用します。
もちろん、アパレルと一緒にやっているからこそ、売上を伸ばしている部分はあると感じています。ただ、これからはアパレルを目的として来るユーザーだけでなく、コスメを目指して訪問していただける環境を作っていかなければなりません。例えば、消費財であれば、なくなった頃に追加購入を促すMAなどにも注力していきたい。実は、3周年記念のタイミングで、日替わりの特定アイテムを購入して、レビューを書いていただくと30%ポイント還元されるキャンペーンを行ったところ、非常に好評でした。このように毎日、ゾゾコスメを見に来たいと思ってもらえるような施策に注力して、さらに強化していきたいです。(中略)レビューが蓄積されてサイトの商品詳細内で商品の特徴が把握できるようになれば、口コミを見るために他サイトへ離脱する事がなくなり、すべてがサイト内で完結することができます。商品的にも情報的にも日々サイトが更新されていることで、毎日来訪したくなり、気に入ったものがあれば購入する。そのサイクルを作っていきたいと思っています。
https://www.fashionsnap.com/article/zozocosme-interview/
コスメも在庫コントロールが重要なカギに
富士経済の調査によれば、国内の2024年の化粧品市場は2023年実績と比較して4.2%増の3兆2102億円と見込まれるとのことです。市場規模はコロナ禍1年目の2020年に前年比14.5%減の2兆7502億円となってから徐々に回復し、2024年は2019年とほぼ同じ水準となります。
・参考:https://www.fuji-keizai.co.jp/press/detail.html?cid=24081&la=ja
こうしたV字回復はインバウンド需要に支えられている面もあり、旺盛な需要は当面続くと思われます。そういった状況で陥りやすいのが在庫過多です。
良品計画は2024年11月末時点の在庫高が前年同期と比べて327億円増加し1628億円でした。これは、国内のコスメをはじめとする生活雑貨の定番商品を中心に積み上げた結果でした。決算説明会で「回転率が低い商品でも、最少発注量の関係で発注が多くなり、在庫が積み上がっている商品もある」と言及しており、「やや過剰な水準にある」とみています。
典型的な品番の横展開のジレンマに直面していると言え、今後、値下げに頼って在庫処分を進めることなく消化していけるかが焦点です。
化粧品を「在庫」の側面から見ると、総じて衣料品と同じ傾向がみられます。その特徴は以下のとおりです。
- 定番品(安定した人気商品、人気の色)と流行を反映させた季節品(プロモーション品)で構成され、その比率は概数で7対3となっている
- 定番品の場合、在庫コントロールはある程度可能。それに対し季節品はマーケティングの成否やSNSでの評判に大きく依存するため在庫コントロールの難度が高い
- ただし、定番品も季節品も販売機会の逸失を避けるため、品番に対するSKU数が多くなり、在庫過多になりやすい
- 商品企画の段階で需要を予測することは難しいため、倉庫出荷や店間移動の適正化などによる在庫コントロールの精度向上が必須
実際、経済産業省の統計によると、ドラッグストアの在庫率(販売額と在庫高の比率)は日用品が約1.9倍、食品が約1倍であるのに対し、化粧品はおよそ3.5倍と高止まりしています。
また、化粧品は素肌に付けるものであるうえ化合物であるため使用期限もあります。各ブランドはブランド価値の毀損を避けるため値引きはしない半面、売れ残りの廃棄にはSDGsの観点で消費者や株主から厳しい目線が向けられるようになっています。
オペレーションのDXを通して倉庫から各売り場への出荷や店間移動の効率化・適正化を図り、在庫効率を高める取り組みが急務です。
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