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Temuと夢展望が提携|視線は世界市場へ

日本のアパレルECの草分け的存在である夢展望と、中国発の新興ECモールTemu(テム)が連携することになりました。夢展望の海外販路の拡大やマーケティング強化に向け、主力ブランドの商品をTemuに出品します。

Temuは目下、広告に巨額の予算を投じて世界的に利用者数を急激に伸ばしており、出店者としてはその販路が最大の魅力です。他方、「模倣」をめぐって訴訟を抱えるほか取扱商品の品質に対する懸念も小さくありません。

本記事では、夢展望の狙いと勝算について考えてみたいと思います。

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アパレルECの草分けだった夢展望

夢展望は1998年に設立され、当初は玩具・雑貨の企画販売を行っていました。コスメや健康食品のECに事業転換していましたが、2005年になると、それまで積み上げてきた会員向けに衣料品のECに参入していきます。

業績が拡大したのは、携帯電話をあらゆる用途に使う20歳代前後の女性をメインターゲットにしてSPAビジネスに乗り出したのがきっかけでした。自社ブランドが若い女性に受け、多くの顧客を獲得しました。特に、モバイルアプリの導入や、さまざまなカテゴリーの商品を取り扱うことで、市場シェアを拡大しました。また、顧客サービスの向上にも力を入れ、高い顧客満足度を維持しました。

2013年には東証マザーズ(当時)に株式を新規上場しました。記者会見した岡隆宏社長(当時)は以下のように抱負を語っていました。

「海外進出も検討しているが、やはり信用力が欠かせない。マザーズ上場は通過点。最短最速で事業を拡大させて、できるだけ早く東証1部上場を狙う。超長期的にはネット通販業界のZARA(ザラ)やヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)になりたい」
「ファッションのネット通販市場は2015年には10年比2倍以上の9500億円とみられている。当社のブランドは現在5つあるが、M&A(合併・買収)も含め将来的には10程度に増やす。衣料のテイストを変えるほか、雑貨などにも広げて最適なポートフォリオをつくりだしていく」

※2013年7月10日の日経電子版より引用

しかし、夢展望の急成長はアパレルECというマーケットにおける「先行者利益」によるものでした。規模で勝る数多のアパレル企業がECに参入を始め、当然ながら競争は激化します。かつ夢展望がもともとターゲットとしていた20歳代前後の女性の顧客層のボリュームが減るという構造的な課題にも直面しました。

同社は売上を立てるためにマイルドなブランドをいくつか立ち上げましたが、他のECサイトに埋没しがちになり、個性が以前より薄れてしまったと思われます。

その結果、2015年に健康コーポレーション(現・RIZAPグループ)に増資に引き受けてもらう形で救済され、子会社となりました。しかし、その後も業績不振から抜け出せず、2019年3月期から2024年3月期まで6期連続で冬期純損益が赤字に沈んでいます。

夢展望はTemuを通じて海外での販路拡大を目指す(プレスリースより)

そうした中で2024年10月21日、Temuとの提携が発表されたのでした。翌10月22日以降、夢展望の株価は上昇し、3日後の10月24日には年初来高値の216円をつけました。9月30日(年初来安値)の1.8倍です。とりあえず、投資家はこの提携をポジティブに評価しているようです。

提携の具体的な中身はというと、Temuが展開する日本向け専用サイトにおいて、夢展望の主力ブランド「DearMyLove」を中心に販売するとのこと。Temuの日本向けサイトに出店する国内アパレルブランドは夢展望が初めてです。

同社は、Temuの日本向けサイトを足がかりとして、Temuを通じて海外市場での販路拡大を目指すと謳っています。2024年8月から越境EC事業を本格的に始動させており、米国、中国、韓国、台湾エリアに展開中です。Temuへの出品を通じて新たな展望を見出せるでしょうか。

急成長のTemuはYahoo! ショッピングと比肩

一方のTemuは、PDDホールディングスが運営する世帯でも指折りの規模を誇るオンラインショッピングモールです。夢展望のプレスリリースによると、北米や欧州、アジアなど世界70カ国以上に展開し、4億人超のユーザーがいるそうです。

日本では2023年7月にローンチしましたが、消費者の間で急速に浸透しています。ニールセン デジタルが2024年7月に発表した同年5月のECモールの利用状況をまとめたのが下グラフです。

パソコンとモバイルの重複を除いたトータルで最も利用者数が多かったのはAmazonで、6724万人でした。続いて楽天市場6631万人、Yahoo! ショッピング3541万人となりました。Temuは日本市場への参入から1年足らずで3106万人に上り、セブン&アイ・ホールディングスが運営するOmni7を大きく上回りました。

Temuの最大の特徴は、取扱商品の価格の安さと多様さです。コスト効率の高いメーカーと、価格に敏感な消費者とを結びつけ、様々な商品を安価に購入できることで注目を集めています。

ニールセン デジタルはレポートで「新しいサービスが急速に利用者数を伸ばしている場合、その時々の社会のニーズを反映していると考えられる」と指摘しています。

当レポートによると、年代別でみると18〜34歳ではAmazonのリーチが81%と最高だった一方、35〜49歳ではAmazonと楽天市場がともに75%でした(50歳以上はAmazon51%、楽天市場53%)。他方、Temuは18〜34歳が29%、35〜49歳は32%、50歳以上28%となり、Amazonや楽天市場とは逆の傾向となりました。

  • Temuは年代に関係なく利用率が上昇しつつある
  • Temuは相対的に人口が少ない18〜34歳よりも、人口が相対的に多い35歳以上にリーチしている

このように2通りに見方をすることが可能です。ニールセン デジタルは「ECモールサービスを提供する小売事業者としては、サービス利用の変化の裏にある消費者の意識の変化を把握し、特定の年齢層や性別に合わせたアプローチでサービス改善につなげていくことが一層重要」と分析しています。

ブランド毀損せず世界を見据える

そんなTemuに国内アパレルブランドとして初めて出品する夢展望の勝算はどうでしょうか。まず、株価は将来の予想収益(収益期待)を織り込んで形成されると言われています。夢展望の株価は最初の章で触れたとおり、提携発表のほぼ直前は年初来安値を付けていましたが、発表後はその1.8倍に上がっています。つまり、株式市場は売上の伸長を予想しているということになります。

実際、Temuの利用者数はYahoo! ショッピングと同程度いますので、そこに出品されればある程度は売り上げが立つのは容易に想像できます。

ただ、Temuのアパレルの価格帯は非常に低いのが周知の事実です。口コミサイトのマイベストで、安さの秘密が解説されていました。

遠藤さんによると、「Temu」で販売されている商品の多くは、製造メーカーから直販されているものらしく「中間業者を介在しないことで手数料を削減できるため、低価格での販売を実現できています」とのことでした。
(中略)
また、「あくまで伝聞レベル」と前置きしたうえで、「Temu側で商品の出品価格を指定したうえで、複数の出品者が入札を行い、価格が安い出品者のみ販売できるという仕組みを導入している説もあります」と遠藤さんは話します。

https://my-best.com/products/5109613

夢展望の商品は現在、トップスが5,000円前後〜、ワンピース7,000円、ドレスが9,000円前後〜となっていて、リボンやフリルがついたガーリー系です。端的に言うと個性的で万人に受けるファッションではなく、コアな顧客層に支えられるタイプのブランドと言えます。

夢展望が活路を見出すとすれば海外市場でしょう。両社の提携はまず日本向け専用サイトでの出品となりますが、夢展望は最初から海外展開を主眼に置いていると思われます。その意味で、日本向けサイトでの売れ行きには一喜一憂しないのだと思います。むしろ、安易な値下げ(値引き)をせず、プライスラインは死守すべきでしょう。

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