導入事例

粗利率が3pt上昇!コロナ禍の経営課題を改善し、意思決定が早くなった推進法とは

株式会社ダイドーフォワード

レディース・メンズアパレル

小売
卸売
実店舗
EC

「NEWYORKER(ニューヨーカー)」などのアパレルブランドの小売や製造卸売を手がける株式会社ダイドーフォワード様。新型コロナウイルス危機の渦中である2021年度には、ディベロッパーの閉鎖や縮小、来店客数の減少なども影響し、売れ残り増加とそれに伴う値引き増加という経営課題に直面しました。そこで、その経営課題を解決すべくさまざまな取り組みを行った結果、2023年4月〜9月と前年同時期の比較で粗利率が3pt上昇し、その成果創出の秘訣を『NEWYORKER』MD戦略部長の横田様と推進リーダーの佐藤様が語りつくしました。

※写真左が佐藤様、右が横田様。中央は弊社カスタマーサクセス・山口

本稿は2024年3月7日に開催したセミナーの内容を再構成したものです。

コロナ渦で利益の創出が経営課題に

株式会社ダイドーフォワード ニューヨーカーDiv マーケティング戦略部 部長 横田浩之様は、2002年、株式会社ダイドーフォワードに入社。主な業務として婦人服の営業5年、マーチャンダイザー12年、EC担当5年を経験。その間、ポイントカードの電子化、BIツール、周年事業等の様々なプロジェクトを担当。新規事業として2ブランドの立上げ、カスタマーサービスの受託事業を開発。現在はマーケティング戦略部長としてMD、EC、PR、SP、CRM、CSを管轄し、商品戦略を含めチャネルの垣根を無くす新たなマーケティング戦略の推進に取り組んでいる。

講演する横田様

――どのような在庫課題を抱えていましたか

横田 コロナ渦の2020年度は、店舗数の減少による在庫増加、お客様の減少による値引き増加、リモートワークが増えたことによるオケージョン(式典)の減少によるコスト増加などが重なり、売上、粗利、粗利率が減り苦しい状況でした。これにより2020年と2021年に在庫が膨らんだため、改善方針として在庫の軽減や適正な仕入れ、値引き販売の圧縮などにも取り組み利益を創出することを目指しました。

――具体的な改善方法を教えてください

横田 基本となる商品企画と仕入れに関しては、色々な商品を作るのではなく、自社の強みが発揮できる商材に注力することを改めて決めました。加えて、コスト増、原価率増の傾向に対して改めて原価率の基準をつくり原価構造を再考しました。

以下のように、販売チャネルごとにも実施する取り組みを設定しました。

リテール店】定番品、販売期間を長く設定できる品揃えをより強化するために、セール対象品番の削減やセール開催期間も短縮しました。これにより、プロパー構成比を上げる狙いもありました。

値引きを減らすことで、お客様に対しても「このブランドは簡単に値下げしないのだな。」という信頼にも繋がります。加えて、店舗は新しい体験できる場所に変化させることで、コロナ禍であっても店舗に行く意義にもなると考えていました。

アウトレット店】バンドルセールのOFF率とセール実施回数の見直しを行いました。アウトレット店は商業施設に入居していることもあり、旅行など長期休暇がある時期に消費が盛り上がる傾向があります。然るべきタイミングでは値引きをしますが、値引きを軸に売っていくということではなく、不必要な値引きは行わないことにしました。

Eコマース施策】値引きキャンペーンを頻繁に行っていましたが、実施回数の見直しを行いました。一律で10%オフのような値引きではなく、課題のある商品に対して施策を実施しました。ですので、自信がある商品を丁寧に売っていくことを念頭に置きました。

新型コロナウイルスの禍中でしたので、どうしたら正常な企業活動ができるかが前提にありました。在庫が多くなってしまったことは事実なので、それらを消化させることは目の前の課題としてありました。そこから、今度は『その状況からどう抜け出していくか?』を考える必要がありました。

――このような改善方針のもと、会社としてどのように解決していくか方針を立てたのですね

横田 はい。現場や部署を預かっているメンバーや経営陣も、販売チャネル毎に売上以上に中身を改善する必要があるという共通認識を持っていたと思います。実際は各商材やチャンネルにも責任者がおり、その担当者が方針を実現するように販売活動を行いました。

当時、DX推進が社会的にも話題になっており、弊社内でも気になるワードの一つでした。丁度、東京ビックサイトで開催されたDXの展示会で弊社の現場チームとDX推進チームがFULL KAITENのブースに立ち寄り、貴社代表の瀬川さんにお会いして、導入を決めました。このようなITツールはボトムアップかトップダウンかのどちらかで導入が決まると思いますが、弊社はほぼ同タイミングで目線が一致しました。

――DX推進は概念が広い領域だと思いますが、どのようなことをすれば推進に繋がるイメージをお持ちでしたか?

横田 会社には様々な部署や業務がありますが、それらに対して連携できることが大切だと思います。限られた部署だけがツールを使っているのではなく、そのツールを活用して得られた情報が連動していくようなイメージです。一方で、DXといえば効率を求める部分もあるとは思うので、それはそれで重視しながらも、お客様に弊社の商品を購入して頂くための活動に連携感を持てるようなものが良いと思っています。

――DX推進を通じて得られた成果について、改めて具体的に教えてください

横田 店舗では、セール対象品とセール期間の削減に取り組み、2020年から2024年の4年間でプロパー構成比が20ポイント改善できました。現在は90%近いプロパー構成比になりました。

コロナ禍だったため、思い切って行動できた点も寄与したと考えています。

アウトレットとEコマースでは、2020年を起点にそれぞれのチャネルで粗利率を向上させることができました。アウトレットチャネルでは、2020年度と2023年度を比較すると10ポイントほど改善し、Eコマースチャネルでは、2020年度と2023年度を比較すると4.5ポイントほど改善できました。

小売業各社に言えることだと思いますが、2020年と2021年は在庫が多かった分、それらを軽くしていく活動が多かったのではないかと思います。在庫を軽くすることはしながらも、その中身を追いかけたことで、2022年度に粗利率が上がり右肩上がりになりました。

Eコマースに関しては、店舗にバラ在庫が残った際にECに集約して消化したので、店舗の在庫が軽くなった場面で成果が現れました。

不必要な値引きを減らす過程で、データが全社の共通言語に

ここからは、実際にFULL KAITENを活用して実務を担当している推進リーダーの佐藤様にお話を伺いました。

株式会社ダイドーフォワード マーケティング戦略部商品運営課ウィメンズコントローラー担当 佐藤英行様は2005年、株式会社ダイドーフォワードに入社。婦人服の営業から始まり、紳士服の販売経験を経て、アウトレットの営業を担当。その後、婦人服のMDを担当して、カジュアルブランドで紳士MD、コントローラーを経験。現在は婦人服のコントローラーを担当し、フルカイテンプロジェクトのリーダーを務める。

講演する佐藤様

佐藤 まず、私が弊社店舗に向けて発信している「FULL KAITENとは何なのか?」についてお話しします。

FULL KAITENとは、今ある在庫をもとに近い将来どうなるかを予測して、従来より早いアクションを起こすことを可能にすることで、予測した未来を変えるための分析ツール。AIによる予測値を判断の根拠とすることで、チーム全体の共通認識としてPDCAを回すことが可能になる。

FULL KAITENの最も大きな特徴は、今ある在庫全てをBest、Better、Good、Badの4つに自動で分類するところです。これにより、それぞれの分類の中で何をすればよいのかを早く判断できる点が特徴です。

FULL KAITENのデモ画面。横軸の完売予測日は、予め設定した完売予測日を原点として、左に行くほど消化が速く、右に行くほど消化するのに時間を要する。縦軸の売上貢献度は上に行くほど売上への貢献度が高く、下に行くほど売上への貢献度が低い

画面を見てわかる通り単純明快なので、この画面を見せて「この品番はBetterの中にいますよ。」というように共有しやすく社内の共通言語になっています。

今回はBetterに属する商品に対して4つの施策を行いました。

1.商品モニタリングによる施策決定のスピードアップ
2.販売強化品番の選定
3.値引き施策における過剰な値引きの抑制
4.効率的な在庫移動

一つずつ解説します。

1.商品モニタリングによる施策決定のスピードアップ

佐藤 商品を投入して経過した週数ごとに、どのような対策をするかパッケージ化することでスピード感をもって施策を実行できるようになりました。

週ごとの打ち手をまとめた表

佐藤 なぜBetterに属する商品に注力したかというと、BetterはBestと同じくらい売上には貢献する良い商品ですが、沢山仕入れたことで消化するのに時間がかかる商品群なので手をかけて販促をすべきだからです。今回はBetterをさらに4つに分けました。

なぜ4つに分けたかというと、そのエリアによって効果的な打ち手があるからです。

・A、C:縦軸と横軸の基準日(原点)付近にいるため、比較的目標に達成しやすい商品群

・B、D:このまま何も手を打たないと売れ残ってしまう可能性が高い商品群

つぎに、それぞれのエリアで打つべき施策についてお話しします。

【A】露出の強化が必要な商品群のため、VMDや販売チームへの共有を実施。売上貢献度が高く、比較的早く売り切れる商品なので『売れ筋』と言える。しかし、消化率や販売数で判断すると意外と見落としてしまう商品群。売上貢献度が高いので金額としての貢献度も高く、高単価な商品や在庫の仕込みが多かった商品、売れているが消化目標には届いていない商品も含まれている。

【B】Aと同様に露出の強化を実施し、少しの値引きを実施。Aと同等の売上貢献度だが、消化するのに時間を要する。

【C】Aと同様に露出の強化を実施。売上貢献度は低いが、在庫の消化は目標値に近い。

【D】Betterの中で一番深い値引き率を設定し消化を加速。売上貢献度が低く、在庫リスクも考えられる商品群。

――Better右下のタイムセールはどの販売チャネルで実施しましたか?

佐藤 弊社は百貨店様での販売が多く、プロパー販売を強化しているのでシーズン中のセールは行わないようにしていました。しかし滞留している在庫の消化を進める必要がありましたので、Eコマースチームと相談し公式ECでタイムセールを実施することにしました。その際に、お店との摩擦が無いようにセールの実施時期は慎重に検討しました。FULL KAITENの活用によって、ECチームとのコミュニケーションも円滑に進み且つ成果にも繋がったため手応えがありました。

2.販売強化品番の選定

佐藤 店舗に向けて、Better在庫のAに属する商品を対象に、もっと売ってほしい商品をリスト化して配信しました。分かりやすくしたかったので、2つのチェック項目を設けました。

【1】消化予測日:「この日までに売り切りたい」という意味合い
【2】客単価・商品単価:「客単価-商品単価」の計算をして差分の大きいものはセット率が高いといえる

3.値引き施策における過剰な値引きの抑制

佐藤 アウトレットでは随時値下げ施策を行うため、Better在庫を細かく分類することで『もったいない値引き』を防ぎました。

今までは経験値に基づいて一律10%オフや、消化率を見て判断していましたが、FULL KAITENを使うことで「この商品は実際ここまで値引きをしなくてもよいのでは?」と分かるようになりました。

売上貢献度と消化予測日を元に、値引き率に傾斜をつけたことで粗利も向上したため、ここは特にFULL KAITENが寄与したと感じています。

初めは、社内でも「FULL KAITENよりも自分の経験値のほうが信頼できる。」という声は多数ありました。実際に、自分の予測が合っていることもあれば、FULL KAITENの予測が合っていることも両方ありました。とはいえ、私は社員が数値的な判断をするために推進してきたので、なんとか説得して結果に繋がったことで以前よりは状況も変化したと感じています。

今までは、在庫に関する意思決定をする際に判断に迷う場面もありましたが、FULL KAITENを導入して判断が早くなったのは非常に貢献余地が大きいと感じています。

4.効率的な在庫移動

佐藤 売れる商品を売れる店舗に移動する在庫移動の業務では、『移動数』に注目して頂きたいです。

従来、移動指示を出していた商品は4,340点でしたが、FULL KAITENを使うことでその領域を広げることができました。更に、移動指示を出す際のリスト作成も8時間から4時間に短縮でき時間効率も上がりました。結果的に、在庫を移動したことで創出した売上は13%増になりました。

稼働率に関しては、今後の大きな課題だと感じています。

――店間移動に関して、社内からの反発はありましたか?

佐藤 店舗との摩擦はありました。弊社は従来、在庫移動をする量を抑えていたので、初めは「FULL KAITENで算出した移動数が多い!」という声も多数寄せられました。SKU単位で在庫移動を行うとセットアップの上だけが移動されることもありましたが、トライアンドエラーを繰り返して少しずつ補正したので、今は社内に根付いています。

私に関しては、FULL KAITENで在庫移動を効率化できたことで、実際に移動した後にもう一度振り返りをする時間を確保できているので助かっています。

小さな変化と進化を積み上げ、さらなる成果を

――FULL KAITENの推進で苦労したことはありますか?

佐藤 横の連携に苦労しました。営業チームをはじめ多くの社員が改善すべき点は感じているものの、FULL KAITENの分析結果を元に施策に踏み切るまで時間を要しました。ですが、今の組織になり横田を通じて全体に話をしたことで、少しずつ横の連携も強化されました。初めは私一人でFULL KAITENを使っている状態で、貴社のカスタマーサクセス・山口さんだけが支えだったように思います。継続することがとても大事だと思っています。

――データが「共通言語」を提供していることのメリットも感じられますか?

佐藤 はい。FULL KAITENの使用を開始した当時は在庫コントローラーが7名で、2023年10月からは2名がジョブローテーションとなり新人が1名追加され計6名体制になりました。

これにより、私が扱うSKU数は2.5倍となりましたが作業時間は縮小でき、稼働SKU数を増やすことができています。

チームや会社全体の共通言語として効率アップに繋がっている点は、DXの結果に繋がってるといると思います。

横田 佐藤がウィメンズ中心にFULL KAITENを使っていたのですが、メンズに関しては他の担当者がFULL KAITENの活用を躊躇していました。しかし、2023年の夏から活用するようになり、売上推移が右肩上がりになりました。これは特別な施策を実施したわけではなく、一番は『在庫に対する意識が変化』し、担当者が理解して取り組んだ結果だと思います。データを見て判断することの重要性を感じました。

左:佐藤様 右:横田様

編集後記

セミナーの最後に、佐藤様から以下のお話がありました。

導入した当初はFULL KAITENという名前だけが社内で一人歩きしました。私はその状況をなんとしても変えたかったので、「そうじゃないです!FULL KAITENはあくまで分析ツールに過ぎないです。ここで得た分析結果を受け止めて何ができるかの判断をしましょう。」と言い続けました。ここまでこれたのは、貴社カスタマーサクセス・山口さんのおかげです。FULL KAITENプロジェクトが始まった際の資料を改めて見返したのですが、そこにこんなことが書いてありました。


『成果は螺旋階段を上った先にある。小さな変化を過小評価しない。』

これは、日々の小さな変化に気が付き、それを積み上げてチームに共有することで、大きな結果に繋がるということです。改めて「山口さんは、しっかり支えながら引っ張ってくれていたんだなぁ。」と痛感しました。

佐藤様と横田様が「山口さん、ありがとうございます。」と仰る姿を見て、これからもお客様の成果創出に向けて身の引き締まる思いでした。

セミナー終了後に撮影。左から、佐藤様、山口(弊社カスタマーサクセス)、横田様、高山(司会)