「店間移動で上位1店舗分の売上を作れる」全国展開を振り返って語る、23区ディストリビューターの挑戦
株式会社オンワード樫山
課題
- 品番数が膨大な一方で1品番あたりの奥行きが浅く、倉庫からの補充だけでは在庫の偏りを解消しにくい構造があった
- 全国7拠点の各エリア担当が個別に店間移動指示を出す属人的な運用が続いており、本部から全国の在庫状況を把握・管理できない状態だった
- 移動対象の選定・検証に多大な時間を要し、売上ピーク前の最適なタイミングでの全国規模の移動が実現できていなかった
解決策
- FULL KAITEN〈店間移動〉を活用し、データに基づく移動リストを本部主導で作成。全国規模での在庫移動をタイムリーかつ継続的に実施できる仕組みを構築
定量成果
- 移動1回あたりの創出粗利が利用拡大前と比べて平均2.7倍に拡大
- 出荷実行率50%以下から90%へ改善
- 年間換算で上位1店舗分に匹敵する売上規模を、新たな出店コストなしに創出
- 移動リスト作成にかかる時間が大幅に短縮し、月曜の営業開始前に移動指示を出せるようになったほか、出荷店舗の作業負荷を考慮した上で実行可能な拠点数に絞った指示も出せるようになった
日本を代表する総合アパレルメーカーである株式会社オンワード樫山様は、「23区」「iCB」「自由区」をはじめとする多数のブランドを展開しています。その中でも、リアル店舗を主販路とするブランドは一般的に、固定客向けに色・サイズ展開が増えがちで品番数が膨大になる一方、1品番あたりの生産枚数は少ないため、倉庫からの補充だけでは在庫の偏りを解消するのが難しい側面があります。店舗ごとの需要差により、ある店舗では在庫が残る一方で、別の店舗では欠品している、という状態が構造的に起きやすく、店間移動が不可欠なのです。しかし品番数の多さゆえに業務負荷が高く、全国規模での実施は長年の課題でした。
そこでオンワード樫山の23区はFULL KAITENを導入し、全国の店舗間で在庫を適切なタイミング、量で移動させる仕組みを構築しました。その結果、在庫移動1回あたりの創出粗利が利用拡大前と比べて平均2.7倍に拡大。年間換算では上位1店舗分に匹敵する売上を、新たな出店コストなしに生み出せるレベルの成果が出ています。
本稿では、23区のディストリビューションを担当する紺野充様(23区販売戦略Div.販売第二Sec.課長)に、全社を巻き込むコミュニケーション術やFULL KAITENを通じた取り組みについて伺いました。
※本記事に含まれる情報は2026年9月時点のものです。
多様な販路と店舗網を抱える在庫移動の難しさ
――まず簡単な自己紹介と、現在のお仕事の内容を教えてください。
紺野様 23区のディストリビューターをしています。在庫コントロールをして利益を最大化するのが主な仕事です。新卒入社から13年間、東北・北関東エリアで営業職として現場を歩み、2020年に東京本部へ異動して現職に就きました。
――23区は全国に多くの店舗を展開されていますが、店間移動の難しさはどういったところにありますか?
紺野様 一番の難しさは、品番数に対して店舗数が多く、1品番あたりの平均的な奥行き(在庫数)が少ないことです。ブランドの特性として固定客の比率が高く、売上の主軸は定番商品ですが、それだけに色・サイズ展開が増えがちで、品番数は膨大になります。結果として、倉庫からのフォロー補充で店頭在庫を最適に保てる期間がとても短くなってしまうんです。
ある店舗では商品Aが余り、別の店舗では商品Aが欠品している場合、在庫全体が足りないわけではなく偏りが問題です。これを正すには店間移動が有効ですが、品番数が膨大なだけに、簡単には移動できないのが難しい点です。
太田(フルカイテン サプライチェーンコンサルティンググループ マネージャー) まさにおっしゃる通りで、倉庫からのフォロー補充があまりできない点は、大きな課題です。補充できる場合は倉庫出荷の最適化が主なアプローチになりますが、23区のような品番数の多いブランドは、店間移動の重要性が他のブランドに比べて高いと感じています。

引き継いだ時に見えた「課題」
――前任の方から23区の店間移動業務を引き継いだ時、どういった状況でしたか?
紺野様 本部主導での全国規模の移動は、業務負荷が高すぎてほぼできていませんでした。せいぜい数品番の店間移動をエリアを絞って行うか、最終消化に近いタイミングでどこかに集めるといった規模でした。当社には7つの営業拠点があり、各エリアの担当がそれぞれのエリア内だけで在庫移動指示をしていたので、本部から見ると何が起きているか全然分からない状態でした。
何を移動させるかの判断も属人的で、移動した結果の検証も難しいと感じていました。自分たちは成果が出ていると思っていたけれど、効果検証をしたら全く成果が出ていなかった、ということもありましたね。その時々で自己満足になっていたのかもしれません。
――以前はどのようにデータを分析されていたのですか?
紺野様 Excelで店舗×SKUで売上予測を立てて、在庫の過剰・不足を算出し、回転率や消化率を加味しながら優先順位をつけてマッチングさせていました。ですが、これには非常に時間がかかっていました。在庫の状況は毎日変わりますが、毎日計算し直すなんてとてもできず、せいぜい週に1回という感じでした。
まず東京エリアで成果を出し、全国展開へ
――引き継いだ時、どういうことを変えていこうと思いましたか?
紺野様 まず規模です。エリア内だけで店間移動をしていても限界があり、全国で実施しないと本当の意味での効果は出ないと思っていましたから。またタイミングと商品選定にも課題を感じていました。どうしても売上のピークを過ぎた最終消化に近い段階での移動になっていたので、もっと早いタイミングで適切な商品を選んで移動したいと思いました。そして最終的には、誰でも同じクオリティでできる仕組みを作ることを目指しました。
――最初、東京エリアに絞ってスモールスタートした理由を教えてください。
紺野様 エリアごとに運営方針が異なる中で、成果を証明してから広げた方が、周囲の理解と信頼を得やすいと思ったからです。それに東京エリアは、私自身との距離が近くてコミュニケーションが取りやすかったというのが理由の一つです。
太田 私が支援を担当させていただく中で印象的だったのは、紺野様が「とにかくやる」という姿勢を一貫して持っていらっしゃったことです。成果が出るお客様の特徴として、「まずやってみよう」という方が多いんですが、紺野様はまさにそのタイプです。「制限をかけずに広げてやってみないと何が課題かもわからない」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
――全国展開に踏み切ったとき、他のエリアから反発の声はありましたか?
紺野様 いえ、特に反発の声はありませんでした。「東京でこれだけ成果が出ているので、絶対にやります!」と言い切りました。「移動した在庫は売れるものだから売ってください!」と月に1回リモートで開催する店長会で宣言しました。
出荷実行率50%以下→90%へ
――全国展開後、ぶつかった壁はありましたか?
紺野様 東京での展開時には問題なかったのに、全国に広げた途端に出荷実行率(本部が出した移動指示を、店舗が実際に実行した割合)が50%以下になってしまったんです。エリア外に在庫を出すことに慣れていなくて、指示が来ても動かない店舗が多かったです。
――それを見てどう対応しましたか?
紺野様 指示が正しいのかどうか検証するためにも、まずは指示どおりに移動してもらうしかないと思っていたので、根気強く続けました。「隔週月曜日の営業時間前に店間移動指示を配信するから必ず見てください」という周知から始めて、成果が出た際は店長会でフィードバックして、受け取った在庫は売れるものだとわかってもらえるよう伝え続けました。それと、店舗側が出荷しやすい設定になっているかをFULL KAITENで確認して、タイミングや量も調整しました。
週末に届いても準備できませんし、夕方に指示を出しても、その日に売れてしまって出荷できないことも見越しました。「そういう点も配慮して移動指示を出しているので、絶対に行動してほしい」と店長に伝えました。このように地道に取り組んだらすぐに改善しました。
太田 出荷実行率については、本当に丁寧に見ていただきました。店舗側が出荷しやすいような設定にする、タイミングを工夫する、成果をフィードバックし続けるという積み重ねが、実行率の改善につながったと思います。現場をご経験されてきた紺野様だからこそ、「今日中に出荷対応してもらうなら、指示は開店前に出すべき」「週末までに届けたいなら、何曜日までに指示を出さないといけない」という現場感覚で動いていただけているのも、定着に大きく寄与したと感じています。

紺野様 全国展開を進める中で、自社システム上の制約として、取り置き処理をしている在庫が見えない形になっており、こうした課題に対して、太田さんや御社のエンジニアの皆様と連携して改良しました。
「こんなにすぐ解決してくれるんだ!」と思うくらい、スムーズに解決していただきました。自社の基幹システムだけでは解決しづらかった課題を一緒に乗り越えてくださったことで、信頼関係が更に深まりました。
店間移動で、上位1店舗分に匹敵する売上を見込める
――一番手応えを感じた瞬間はいつですか?
紺野様 2026年3月頃です。全国で全サイズの移動を始めてから、最初の大きなピークが来たタイミングでした。移動数と結果の数字を見て、「これを年間換算したら、上位1店舗分の売場を作るぐらいの成果が生み出せるんだ」と思いました。それだけの規模のお店を作るのは簡単なことではないので、在庫を動かすだけで実現できるというのは大きな成果でした。
――移動1回あたりの創出粗利が利用拡大前と比べて平均2.7倍になったことはどう評価していますか?
紺野様 期待したとおりの成果が出たという感覚です。今後は更に粗利を伸ばしていきたいですし、アウトレットへのチャネル拡大なども進めていきたいです。
太田 継続して実施いただいていることも、成果につながった大きな要因です。よくあるのが、成果は出ているのに「忙しい」「人手不足」などの理由で移動を継続できなくなってしまうケースです。一方、紺野様は決めたスケジュール通りに継続し、店舗側もルーティンとして定着しているので、それが高い実行率にも表れているんだと思います。
――業務負荷に変化はありましたか?
紺野様 FULL KAITENの活用により、移動リスト作成にかかる時間が大幅に短縮されました。これにより、月曜の営業開始前に移動指示を出せるようになったほか、出荷店舗の作業負荷を考慮した上で実行可能な拠点数に絞った指示が出せるようになりました。
現状を疑い常に「改善」
――仕事をするうえで大切にしていることを教えてください。
紺野様 成長にこだわっています。今の状態を完璧だと思っていないので、常に改善できることはないか探しています。新しいことに対して前向きでいられるのも、こういう考え方だからなのかもしれません。
もう一つは、店舗の声を大切にしながら、数字や仕組みに落とし込んで成果につなげていくことです。データだけを見ても店舗で起きている現実から離れてしまいますし、かと言って店舗の声だけで判断するのは一面的になってしまいます。その中立的な目線を持ち続けることが、自分の役割だと思っています。
太田 紺野様は店舗での経験をもとに、データや数字に対して真摯に向き合っていらっしゃいますよね。店舗で養った現場感覚とデータの両方を持っているからこそ、店舗へのコミュニケーションも説得力を持って届くんだと思っています。
――最後に、同じような課題を持つ方に伝えたいことがあれば教えてください。
紺野様 「とりあえずやってみてください!」と思います。FULL KAITEN〈店間移動〉は短い期間でも十分に効果検証できますし、同じ課題を感じているなら成果は出ると思います。制限しすぎても現状は変わらないので、まずは一度やってみましょう。
属人的な店間移動では社内事情を加味して判断したり、動かす必要がない在庫まで動かしたりしてしまうことがあります。移動業務はFULL KAITENのようなツールを活用することで、本当に動かす必要があるものだけを動かすという状態が実現できているなと思います。実際に店長からも「移動の判断が平等になってよかった」という声がありました。
課題があるのに今のままでいる方が損失が大きいと思うので、とにかく取り組んでみるのがいいと思います。
――本日は誠にありがとうございました。