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EUアパレル廃棄禁止令|日本企業は古着・リセールに本腰を

ファッションビジネス企業が売れ残った衣料品や靴を廃棄することを禁じる欧州連合(EU)主要機関の決定が波紋を広げています。欧州域内で事業展開するアパレル企業は、大企業は2年後から、それ以外の事業者も6年間の猶予を経て売れ残り商品の廃棄が禁止されることになったのです。

欧州各国のサーキュラーエコノミー(循環型経済・社会)確立に向けた本気度が伝わってきますが、日本企業も遅かれ早かれサーキュラーエコノミーへの対応を迫られることは必至です。

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アパレル以外も廃棄量と理由の開示を義務付け

まず、改めてEU主要機関の決定を振り返ってみましょう。EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は2023年12月5日、製品仕様における持続可能性要件の枠組みを設定するエコデザイン規則案(ESPR)に関して、暫定的な政治合意に達したと発表しました。

EUのエコデザイン規則というのは、持続可能な製品を社会の標準にするためのルールのことです。EU域内で流通する製品を、そのライフサイクル全体を通して環境に優しく、循環的であり、かつエネルギー効率が高いものにしていくことを目的としています。

今回のエコデザイン規則案のポイントを以下に挙げてみます。

  1. 対象商品とエコデザインの要件を大幅に拡大
  2. こうした要件をどのように満たしているかといった情報の消費者への提供を企業に義務付け
  3. 未使用の繊維製品(履き物を含む)の廃棄を禁止
  4. 繊維製品(履き物を含む)以外の消費者向け製品についても、廃棄量とその理由の開示を大企業に義務付け

まず(1)です。エコデザイン規則は、食品や医薬品を除くあらゆる製品が対象に含まれることになりました。企業はEU域内で活動するために、生産するプロダクトが「持続可能な製品」と認定されるために、長持ちして修理やアップグレード、リサイクルが容易な製品を作らなければならなくなるのです。

次に(2)ですが、企業は新たに導入される「デジタル製品パスポート(DPP)」を通じて以下の情報を消費者に提供する必要があります。

  • エネルギー効率
  • 耐久性、信頼性
  • 再利用性、更新可能性
  • 修理可能性、リサイクル可能性
  • 懸念すべき物質の有無
  • リサイクル材の含有量
  • 炭素・環境フットプリントなど

デジタル製品パスポートは製品そのものかパッケージまたは付属書類に添付されます。これにより消費者はDPPに記載された情報を比較して購買判断を下せるようになります。

そして(3)と(4)です。このエコデザイン規則案の施行から2年後、履き物を含むアパレルの未使用製品(売れ残り品)の廃棄が禁止されることになりました。ただ、中規模の企業に対しては6年の猶予期間が設けられ、小規模事業者については適用が除外されるという配慮があります。

さらにアパレル製品以外でも、大企業は未使用製品の廃棄量とその理由の開示が義務付けられました。日本貿易振興機構(ジェトロ)は、今後、広範な製品に対して廃棄禁止の規定が適用される可能性が高いとみています。

これらが日本企業に及ぼす影響は小さくないようです。日経ビジネス電子版の記事にジェトロベルリン事務所の日原正視次長が取材に応えた内容が掲載されていますので、以下に引用します。

現状ではEUが規制の導入やデータ連携基盤の確立で先行している。好むと好まざるとにかかわらず、対応しなければ約5億人の欧州市場での事業展開が難しくなる。日原次長は、「27年ごろからDPPを介してバリューチェーン上の様々なデータの連携が必須となる。この動きに対応できなかった場合、日本企業が欧州市場から締め出される恐れもあるため、業界一丸となってデータスペース構築含めて速やかに対応を検討することが必要ではないか」と指摘する。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00122/121800209/

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「持続可能」であることに価値がある時代に

日本の大手アパレルへの影響はどうなるのでしょうか。まず、EU域内でも「ユニクロ」で大きなビジネスを行っているファーストリテイリングはエコデザイン規則案の売れ残り品の廃棄禁止規定が適用されるとみられています。

ただ、ファーストリテイリングのように直ちに直接的な影響を受けずとも、このエコデザイン規則案の背景思想は、いずれ日本市場へ大きな影響を及ぼすことが必至です。

その背景思想とは、本記事の冒頭で触れた「サーキュラーエコノミー(循環型経済・社会)※」の考え方であり、現状のものづくりを根本から問い直すものに他なりません。

※廃棄物として捨てられている材料や製品を「資源」として捉え直して活用し、循環させる新しい経済の仕組み

なぜなら、小売企業が持続可能な形で事業活動を行うためには、扱う商品(製品)自体が持続可能である必要があり、そのためにサーキュラーエコノミーが根底になければならないからです。

ファッション業界は、世界の二酸化炭素排出量のおよそ10%を占め、全ての産業の中で2番目に多く水を消費し、マイクロプラスチックを生んで海に流出させています。ファストファッションが消費するエネルギーは、航空業界と海運業界の消費エネルギーの合計を上回るという研究結果もあります。

そんなファッションビジネスは今後30年間で原材料の需要は3倍になると予想され、地球上の有限な資源に大きな負担をかけています。
※参考:https://www.wri.org/insights/apparel-industrys-environmental-impact-6-graphics

2020年に新型コロナウイルス禍が始まって過剰生産と過剰在庫がクローズアップされたアパレル産業において、今後ますます「生産量」や「適量生産」が問われることになるでしょう。あらゆる企業が「廃棄」を抑えることを最重要課題の1つとして捉えるべき時が来ていると言えます。

「リセール」の価値が改めて見直される

とはいえ、アパレルビジネスにおいては、いかに的確に需要を予測し、適量を流通させたとしても、どうしても不用品は出てきます。ここで脚光を浴びる蓋然性が高いのがリセール、つまり古着販売です。不用品や中古品を回収し、単なるリサイクルや寄付に回すのではなく付加価値をつけて再販するプラットフォームの確立が求められます。

リセールの分野では、「無印良品」の良品計画がファーストリテイリングに先んじて事業化しています。ReMUJI(リ・ムジ)事業がそれです。

ReMUJIは、店舗で顧客から無印良品の衣料品を回収し(顧客にはマイルを付与)、一部を藍色や黒などに染め直してアップサイクルしています。日経クロストレンドの記事によると、ReMUJI の販売数は2023年8月期が前期を2000枚以上上回る3万433着だったそうです。

従来、アパレル各社は新品の需要との食い合いを敬遠してリセールに力を入れてきませんでした。顧客から不用品を回収して再販する事業がそれなりの売上規模に成長すれば、ビジネスと資源の「持続可能性」に鑑みて、新品の生産段階でアップサイクルしやすい素材を選ぶという変化も起きるかもしれません。

また、2023年12月14日に公開した別記事「ユニクロも事業化検討、欧州では廃棄禁止に…「古着」ブームの深層」でも紹介しましたが、ファーストリテイリングもリセールの事業化を検討中です。

実は、小売企業がリセールに取り組むことは、廃棄の抑制にとどまらないメリットがあります。顧客のロイヤリティ向上と、そのブランドの経済圏の構築です。

リセール品を扱うと、もし新品だけ扱っていたら接点がなかった客層にリーチできます。同時に、似通ったスペックで幅広い価格帯の商品を扱えるようになるので、他ブランドに顧客が流れる歯止めになり得ます。これらの結果、リセールという新たな選択肢を提供することで自社ブランドの経済圏に顧客を留められます。消費者がコストパフォーマンスを求める昨今なら尚更でしょう。

まとめ

EU主要機関がアパレル製品の廃棄の禁止を決めたことは、遠く離れた日本において、小売企業がリセールの可能性を真剣に考えるきっかけになるのではないでしょうか。近視眼に陥らず、「何が持続可能なのか」という視点で消費者とコミュニケーションしていってほしいと思います。

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