成功企業が実践する値引き戦略|セミナーレポート
2023/8/9(水)に、オンラインセミナー「成功企業が実践する値引き戦略」を開催いたしました。
当日ご参加いただきました皆様に、御礼申し上げます。
本記事では、数々の企業を支援してきたメンバーがセミナー内でお伝えした以下2点についてご紹介します。
- 値引き施策の基本
- 値引きで成果を出すための「商品選定」「実施時期」「価格設定」
登壇者:矢田 陽平(フルカイテン株式会社カスタマーサクセス リーダー)
2011年に株式会社ファーストリテイリングに入社。
ジーユー日本事業で店長やSVを経験した後に、海外(中国/台湾)で営業/教育責任者として、全店舗の統括、採用/育成プログラムやインシーズンの商売立案を担当。
その後、HR-Techスタートアップでカスタマーサクセスを経験しフルカイテンに入社。現在はカスタマーサクセスチームのリーダーとして多くの顧客支援に従事している。
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値引き施策の基本
矢田:まず、値引き施策で成果を出すためには、売上を上げたいのか、粗利を上げたいのか、消化促進をしたいのか、の目的を明確にした上で、以下の3要素の理解と実行が必要になります。
また、一口に値引きといっても、施策の種類は多岐に渡ります。
一般的には「期間限定価格」「まとめ買い」「売価変更」の3つのパターンに分けられるでしょう。
では、それぞれの値引きの施策の特徴を整理したいと思います。
値引き施策の種類と特徴
期間限定価格
矢田:期間限定価格は、商品の価格を一時的に下げて訴求し、その対象の期間が終われば、また、元の価格に戻す値引き施策を指します。
売上上位品やイベントに合わせた顧客需要が高いような商品を打ち出すことで、集客や売上アップが期待できます。
しかし、売れ行きが好調なSKUが欠品するリスクも抱えています。
まとめ買い
矢田:まとめ買い(バンドル)は2点で〇%OFFのように、買い上げ点数に応じて割引を行う施策です。
低単価な商品や定番商品を対象に、他の商品との合わせ買いや複数買いを促すことで、客単価UPを図ることができます。
まとめ買いでは、期間限定価格ほどのプラスの効果はないですが、その分、マイナスの効果も少ないですね。
売価変更
矢田:売価変更(マークダウン)は定価だったものの価格を下げる、これは、一時的にということではなく、恒常的に価格を下げる、という施策です。
主に、在庫の消化を目的として実施される施策ですが、定価を下げるという行為ですので、粗利は大きく棄損する可能性があります。
また、現場の作業量の増加や物流の増加により、副次的に販管費に影響が出るケースもあります。
値引きはPLインパクトが大きい
矢田:お話したメリット・デメリットを、PL(損益計算書)の勘定項目に分解すると、下図のようになります。
値引き施策は、売り場の工夫や店間移動などの他の施策と比較しても、PLインパクトは非常に大きくなります。
従って、経営に大きなインパクトを与える施策となるため、値引きを実行する上では「どの商品を、いつ、どれくらい値引きするか」の見極めが非常に重要になります。
値引きのポジティブインパクトを最大化、ネガティブインパクトを最小化し、利益が残るような値引きを実行するためには、この「商品選定」「実施時期」「価格設定」の3つの要素の理解が不可欠です。
値引き意思決定までのフロー
矢田:それでは、値引きの意思決定までのフローをご説明します
まず、新商品が販売開始された際は、露出を強化するなど打ち出しを行います。しかし、販売開始から少し時間が経つと、売り上げが好調なお店がある一方で、不振なお店が出てきます。
そういった初動の結果を受けながら、図の①〜④のように売り場の工夫や、スタッフの販売方法の変更、また好調な店舗に在庫を集めて販売強化したりなど、値引きをする前にプロパーで売るための施策を行います。
そして、これらの①〜④のプロパー施策をしっかり実行して、どうしても商品の消化進捗が良くないと言った場合に、値引きを行うといった形になります。
大事なポイントは価格を下げる前に、この①〜④のフローをきちんとやりきることです。
また、在庫の消化が滞っている原因が、 商品の失敗なのか、数量の失敗なのか、販売期間の失敗なのか、価格設定の問題なのか、など要因が分析できるとさらに良いでしょう。
実際、成果を出している企業様は、①〜④のプロパー施策を、ちゃんとやり切ってるところが多いです。また、この①〜④のサイクルが早く、売れない商品の値引きの判断も早いのも特徴です。
目的に応じた商品選定
矢田:ここからは、先ほど申し上げた値引きの3要素について、それぞれ詳しく説明していきたいと思います。
1つ目は商品選定についてです。
商品選定は、その値引きにおける目的によって大きく変わります。
まずはその値引きの目的が、「売り上げを上げること」なのか、「粗利を上げること」なのか、「消化を促進すること」なのか、を明確にしましょう。
その上で、商品を選定するフローは下図のようになります。
まず、値引きをする上では、当然ですが消化進捗が良くない商品を選ぶのがファーストステップです。
そして、次のステップから目的に応じて分かれます。
売上や粗利を向上させることが目的の場合は、値引きを集客フックにする必要があるので、顧客需要の高い売上上位品を選びます。また、施策としても消化が目的ではないため、期間限定価格が適切でしょう。
一方で、消化促進を目的とする時は、そもそも売り上げが伸び悩んでいる商品が対象となるため、売上下位品がターゲットです。また、こちらは在庫を売り切ることを目指しているので、施策は売価変更となります。
さらに、売上UPなのか粗利UPなのかによって、ここから商品を選ぶ基準が少し変わってきます。
売上を向上させたい場合は、売上上位品の中でも、時節やイベントに応じた商品(=ニュースになる商品)を選ぶことで、大きな集客フックになると考えられます。
例えば、4月に売上上位品を訴求するのであれば、新生活やゴールデンウィークの需要に即した商品を当てると、より大きな集客フックとなり、売上最大化につなげることができるでしょう。
また、粗利UPを目的にする際は、売上上位品の中から単品粗利が高いもの、いわゆる原価率が低いものに注力して選ぶことが重要です。
例えば、上記の図のように、単品粗利率が50%の商品を値引きした場合、値引き後の粗利率が50%を下回ってしまうため、全社粗利率も下がってしまいます。
一方、単品粗利率が60%の商品を値引きした場合、値引き後の粗利率が50%を上回っていれば、全社粗利率を損なうことはありません。また、値引きによって売上が伸長するため、全社粗利率を底上げも可能でしょう。
このように、売上UPまたは粗利UPを目指す場合、顧客需要の高い上位品を選んだ後のフローが目的に応じて変わります。
目的別の商品選定のマッピング
矢田:以上の内容を図で可視化すると以下のようになります。
下の図は縦軸を売り上げランク、横軸を消化進捗として、在庫を4象限上にマッピングしたものです。
例えば、消化促進をしたい売価変更の対象商品は、売り上げが低く、かつ消化状況が悪いという、右下にマッピングされる商品となります。
一方、期間限定価格の対象商品、つまり売上・粗利を最大化させる商品は、売り上げがある程度上位で、かつ消化進捗が良くない商品となるため、右上の部分となります。
このように、4象限で在庫を分類できると、値引きの対象商品を考える際に非常に役に立つと思います。
最適な値引き実施時期
矢田:続いて、値引きの実施時期についてお話いたします。
まず、売価変更を行う際、最も理想的なのは1回の値引きで最終消化できる価格に設定することです。
以下の図は値引きを実施する際のタイムラインになります。
通常、商品のピークが終わったタイミングで、一度値引きをすると思います。しかし、よくある例として挙げられるのは、値引きをかけたものの、なかなか消化進捗に乗らずに何回も値引きをかけてしまうケースです。
また、特に良くない例は、値引きの判断を期末(シーズンアウト)まで先延ばしにしてしまうことです。
期末になると、売り切り最終期限の直前になってしまうため、残された販売期間は非常に短くなります。さらに、それらの商品はすでに売れる時期を逃している可能性が高く、いくら値引きしても売れない場合が多いです。
従って、商品を売り切ろうとして、期末に近いタイミングでかなり大きな値引きをしてしまうケースが一般的に多く見られます。
これを防ぐために有効なのは、なるべく早い段階で値引きを実施することです。1回の値引きで最適な価格にし、それ以降の値引きを行わずに売り切るということで、利益を守ることができます。
以下の表では、上段に期末に深いOFF率で値引きを実施して売り切ったケース、下段に早い段階で浅い値引きを行って売り切ったケースをそれぞれ定量的に記載しています。
表を見ると、実際に早期に値引きを実施した方が、最終的に利益が残ることがわかります。
したがって、売れない商品をきちんと正しく見極めて、早いタイミングで売り切れる最適価格にし、 ワンマークで売り切ることが、最終利益を最大化することにつながります。
傾斜をつけた価格設定方法
矢田:続いて、価格設定についてお話します。まずは、以下の図をご参照ください。
消化進捗の良いa、消化進捗が普通のb、消化進捗の悪いcという3つの商品があります。
この3つの商品に対して、同じように10%オフした場合、消化スピードの伸び方は全て同じす。
値引きを行う上では、この消化進捗が良くないa、b、cが消化目標に対して一斉にゴールすることが理想ですが、これでは消化のスピードは平準化されず、消化目標まで一斉ゴールはできません。
このような場合、10%OFF、20%OFF、30%OFのように、価格に段差をつける価格設定が必要になってきます。
しかし、価格設定の際に注目するべき指標は在庫状況だけではありません。
売上状況も非常に重要です。
矢田:上記の図では、売り上げの上位品のa、中位品のb、下位品のc、という3つの商品があります。
これらの商品に同じ10パーセントオフの値引きをかけた場合、売上上位品のaは消化スピードが急速に上がる(販売数が増える)一方、下位品のcはなかなか消化スピードが上がりません。
そのため、 売上上位品、中位品、下位品を同じ消化スピード を担保したい場合は、売上ランクが高いものには浅い値引き、売上ランクが低いものには深い値引きをする必要があります。
在庫状況に応じた足並みの揃え方と、売り上げランクに応じた足並みの揃え方、この2つの概念を 一緒にして値引きの意思決定をすることが、価格設定をする上で重要です。
これらのことを図にまとめると、以下のようになります。
矢田:上の図では、縦軸を売上げランク、横軸を消化状況として、それぞれのセグメントに応じてOFF率をマッピングしています。
このように、消化状況と売上状況の2軸から商品のマッピングを行い、傾斜をつけた値引率が理想の値引率になります。
例えば、中央の列では、消化進捗はすべて同じです。そのため、通常は同じOFF率で値引きしてしまうことが多いですが、売上状況を考慮すると、売上が好調な商品はより浅いOFF率でも売り切れると判断できます。
このようにして在庫を分析することで、適切な商品に適切な価格設定を行うことが可能です。
FULL KAITENで効果的な値引き施策を実現
矢田:それでは、ここから値引き施策においてFULL KAITENを使ってできることをご紹介させていただきたいと思います。
まず、本日のセミナーで縦軸に売上ランク、横軸に消化進捗を取った4章限を用いた説明をいくつかお話しましたが、弊社のプロダクトをご利用いただくと、同じように在庫を分析することができます。
FULL KAITENは、在庫データを活用してAIで予測分析を行い、完売予測日と売上貢献度という2つの軸から在庫の評価を以下のように4つに分けます。
※完売予測日:在庫消化のスピードに関する予測値(各商品が何月何日に売り切れるかをAIで予測)
※売上貢献度:売上貢献の度合いに関する予測値(各商品の未来の売上への貢献度合いをAIで予測)
これらの機能を用いることで商品選定や価格設定の際にお話ししたマッピングやセグメント分けを瞬時に行うことが可能です。
実際、FULL KAITENを活用することで、多くの企業様が成果を出されています。
店頭平日限定セールの商品選定を工夫し、売上・粗利額3.8倍した事例はこちら>
Q&A
Q1. 商品選定、実施時期、価格設定の中でどれが成果を上げる上で最も重要ですか。
矢田:3つすべてです。どれが重要ということはなく、3つが掛け合わさって効果が出ます。
ただし、非常に重要なことは目的の明確化だと思っています。
その値引きは、何のために行うのか、売り上げを最大化するためなのか、粗利を最大化するためなのか、消化を促進するための値引きなのか。
こういった目的がないと、商品の選び方や、その値引きの方法が変わってきてしまうため、ここを明確することが、非常に重要かなと思います。
Q2.今の多くの企業様をご支援されている中で、値引きについて最も課題を感じる点はどんな点でしょうか。
矢田:これは大きく2つあります。 1つは、値引かなくていい商品まで値引きをしてしまっているという点です。
もう1つは属人化です。たとえば、ご支援させていただいていると、担当者ごとに全く違う値引き意思決定のロジックを持ってらっしゃるというケースが非常に多いです。
属人化を避けて、皆同じロジックで値引き施策を再現することが値引きの失敗を防ぐという点で重要なポイントだと思います。
Q3. 早期の価格引き下げを実施する際、そのブランディングの要素がよく問題になりますが、社内での調整と説得をどのように進めるべきですか?
矢田:当社の場合は、成功を収めている他社の事例を参考にし、数値的なデータを示して説得するのが良いと考えています。現在行っている価格引き下げのプロセスを変更し、それによって得られる利益を論理的かつ数量的に説明し、経営陣に認識させることが非常に重要です。このようなアプローチは、私たちのカスタマーサクセスチームが支援する方法の一つです。
まとめ
- 値引き施策の前提
- 儲かる企業は現場まで情報共有が早く正確で、現場でプロパー施策が早く徹底実行されている
- 結果的に、やるべきことをやり切った上で、売れない商品の値引き判断が非常に早い
- 目的に応じた商品選定
- 施策の目的(売上/粗利UPか消化促進で異なる)に応じて、商品選定の方法が変わる
- 最適な値引き実施時期
- 売価変更での消化が必要な場合、1回の値引きで最終消化できることが最も効率的かつ効果的(理想)
- 最初の値引きを、「どのタイミング(実施時期)」で「いくらにするのか(価格設定)」が重要
- 傾斜をつけた価格設定
- 売上が高い・消化状況が良い商品には「低いOFF率」、売上が低い・消化状況が悪い商品には「高いOFF率」
- 売上と消化状況の2軸で商品をマッピングした場合、傾斜をつけたOFF率設定が理想