ごみ問題から考えるSDGs|アパレル生産者の責任問題とは
日本のごみの最終処分場が23年後に無くなる・・・環境省が本年3月に公表した試算がちょっとした話題になっています。
最終処分場の新設が難しくなっているうえ、リサイクル率が横ばいであるためです。そして、毎年供給される衣料品のうち9割が使用後に手放され、その大半が焼却処分に回っているのが実情であり、アパレルビジネスとごみ問題は切っても切り離せない関係にあるのです。欧州では従来の大量生産・大量廃棄のビジネスモデルにレッドカードが突き付けられており、厳しい法規制が日本に波及する可能性もあります。
ローランド・ベルガー福田氏が解説する循環型アパレルに関する資料はこちら>
ごみの最終処分場が23年後になくなる!?
環境省はこのほど、令和3年度(2021年度)における全国の一般廃棄物の排出および処理状況等の調査結果を公表しました。今後、新たにごみの最終処分場が確保されず、2021年度と同じ量のごみが埋め立てられた場合、全国平均で23.5年後に処分場の受け入れ容量が無くなるという試算されています(「残余年数」が23.5年)。
ただ、ごみが大量に出る大都市圏ごとにみると、首都圏(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨)は30.1年、近畿圏(三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌県)は19.6年と地域差があります。とはいえ、最終処分場の埋め立て可能容量は9844万立方メートルと2020年度より1.4%減少しました。ごみ焼却施設の数は1056 カ所から1028カ所へ2.7%減り、最終処分場の数も減少傾向にあることから、処分場の確保は年々難しくなっています。
前記の残余年数は、2020年度は全国平均が22.4年、首都圏28.2年、近畿圏19.1年でしたので、2021年度はいずれも改善しています。ただ、これは2021年度のごみの最終処分量が減少したことによる数字のマジックであり、最終処分場が有限であることは厳然たる事実です。
参考:一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について(環境省HP)
こうしたごみ問題とアパレルビジネスは切っても切り離せません。環境省が令和2年度(2020年度)に実施した「ファッションと環境」に関する調査結果をご記憶の方も多いのではないでしょうか。
以下に要点をまとめてみます。
- 国内で新たに供給される衣類は年間計81.9万トン
- その9割に相当する78.7万トンが事業所および家庭から使用後に手放される
- このうち51.0万トンが廃棄される※手放される衣類の64.8%
膨大な供給量は国民1人あたり(年間平均)18枚の衣服を購入する一方、12枚を手放していて、着用されない服が25枚ある計算となっています。そして、服を手放す手段の実に67.6%が「可燃ごみ・不燃ごみとして廃棄」でした。「古着として販売」は10.7%、地域・店頭での回収も11.2%にとどまりました(下グラフ)。
ファストファッションもお直しサービス参入
ごみ削減は国内外に共通する課題となっています。これに呼応し、海外のアパレル業界では、各社がリペア(お直し)サービスの強化に乗り出しています。
お直しサービスは一部のラグジュアリーブランドは以前から提供していましたが、はるかに安い衣料品を扱う一般的なアパレル、特にファストファッションブランドにとって、お直しの本格的な展開は大きな戦略転換と言えるでしょう。
ZARAを運営するインディテックスは2022年末、ZARAの古着を対象に店舗やネットで修理や再販、寄付ができるサービスを英国で始めました。これを2023年中にスペインやフランス、ドイツでも展開し、2025年までに全ての主要市場で提供する予定だそうです。
英国では、修復作業を外部業者にアウトソースしており、穴の補修には約10ポンドかかります。しかしインディテックスは服の寿命を延ばすことでごみを減らすことを重視しています。
また、H&M傘下の上級ブランドCOS(コス)は、スタートアップ企業と組んで顧客が傷んだワンピースやジャケットを補修できるようにするサービスを手掛けています。補修したい衣服を持つ消費者と補修事業者をマッチングするデジタルプラットフォーム「ザ・シーム」と提携し、顧客にザ・シームを紹介することで、COSは自社に補修能力(設備、人材)を抱えることなくお直しを促せることになります。
ファーストリテイリングも国内外のユニクロ約20カ所で修理やリメイクを請け負う「RE:ユニクロスタジオ」を開設しています。
とはいえ、ファストファッションブランドにとってお直しがビジネスとして成り立つかどうかは未知数というのが実情でしょう。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、H&Mのヘレナ・ヘルマーソンCEOはインタビューで、これらは高く評価されるサービスであると自負しつつも、「採算が取れるほどの需要を確保するのは難しい。H&Mのゴミ削減策の主軸は修理よりも古着の再販になりそうだ」と述べています。
日本でも「生産者の責任」法制化なるか
それでも各社がリペアに取り組むのは、消費者や当局から環境負荷の軽減を迫られているからです。特に欧州ではその動きが顕著です。
EU議会(欧州議会)は本年6月、域内で活動するファッションメーカーにより高い環境基準を採用するよう求める新戦略を承認しました。また、ファッションブランドに対し、製造工程を環境に一層配慮したものにすることや、商品から出るゴミに対してより大きな責任を負うことを求める法案も10本以上検討されています。
EUはもともと2022年にテキスタイル戦略を発表し、2030年までに脱ファストファッションとサステナブルファッションへ移行することを宣言していました。EUテキスタイル戦略によって、繊維製品は高耐久性とリサイクル可能性が求められ、再生繊維による商品が大半を占めることや有害物質を含まず社会的権利や環境を尊重した生産プロセスを経ていることが要求されるようになったのです。
こうした流れを受け、欧州では「アパレル各社は商品の販売後も責任を持たなければならない」という考え方が広まりつつあります。実際、EUには生産者に販売後の責任も負わせるEPR(拡大生産者責任)法という法律があり、同法に基づきフランスでは企業が衣料品を廃棄すると罰せられることになりました。2023年以降、オランダやスウェーデンでも同様の法制化が行われます。
翻って日本です。前述のEPR(拡大生産者責任)は、製品の生産者が製品の製造と販売までの段階にとどまらず、使用後の廃棄やリユース・リサイクルにまで一定の責任を負うという考え方ですが、国内では家電製品に適用されていることはよく知られています(家電リサイクル法)。
これまで多くの重要な法的規制が〈外圧〉の影響で変化してきた日本のことです。欧州のようにアパレル製品にもEPRが適用される可能性は決して低くないでしょう。
日本のアパレル産業は、EPRやごみ問題を念頭に、真に実効性のあるサステナブル(持続可能)な取り組みを始めることが必須となっていくでしょう。
【スペシャルレポート】アパレルを変える3つのイノベーション
ローランド・ベルガーのパートナー福田稔氏が、世界のファッション産業の最新事情と規制当局の動きを徹底解説。SDGsとサステナブルファッションについて考えるのに最適なレポートをご覧いただけます。
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