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ついに値上げへ…無印良品の路線変更から考える2023年の価格戦略

「無印良品」を展開する良品計画が2022年まで長らく続けてきた値下げ路線から一転して商品の値上げに踏み切ります。2023年春夏物のおよそ2割の価格を平均25%引き上げるとのことです。

長引く新型コロナウイルス禍と原材料高が引き起こすインフレと賃金伸び悩みが同時に発生している国内市場において、アパレルをはじめとして価格戦略に悩む小売企業は多いのでは無いでしょうか。

眼鏡店大手のジンズ(JINS)ホールディングスのように、値上げした途端に客離れが起きたケースもあり、とても一筋縄ではいきません。本稿ではそうした価格戦略について考えてみます。

値下げでも客数は伸びず売上低迷

「独自の世界観に共感する固定ファンに買われていたはずが、最近は手頃な価格の雑貨屋になってしまったのではないか」

無印良品をめぐっては、こうした趣旨のコメントがSNSで散見されるようになりました。

それもそのはずで、良品計画はかねて靴下などの衣料品をはじめとした主要商品を値下げしていました。消費者が手を出しやすい価格を維持することで、購入頻度を上げ買い上げ点数を増やすことで売上高を伸ばし、収益を維持する算段でした。

しかし、目論見通りには行きませんでした。価格を下げても収益性を維持できるようにするには、どうしても一定量の発注は避けられません。

コロナ禍直前の2020年2月期は需要予測を見誤って在庫が膨れ上がり、期末棚卸資産(期末在庫)は前期末と比較して2割増えたのです。在庫回転率(売上ベース)も前期比1割悪化しました。

その後、コロナ禍で業績悪化に歯止めがかからない中、同社は2021年9月から国内でTシャツやレトルトカレーなど約200品目の値下げに踏み切りました。しかし、既存店の客数は微増にとどまり、客単価も低下。買い上げ点数増加とはなりませんでした。

堂前宣夫社長は当時の決算会見で「さまざまな企業が類似品を出してきている」と述べ、2022年7月には、継続的な値下げによる売上拡大効果が限界を迎えたことを認めています。

参考記事: https://senken.co.jp/posts/muji-221228

そして2023年春夏物からとうとう値上げに踏み切ることになりました。原材料高と円安による調達コストの上昇というやむに止まれぬ事情はありますが、「客数増・買い上げ点数増」を狙う戦略からの大転換と言えます。

小売にとって、値付け・値決めは経営そのものです。「誰に何をいくらで売りたいのか」という企業の存在意義が問われると言っても過言ではないのではないでしょうか。

「値上げ」で株を上げた会社と下げた会社

この良品計画をげに対して、株式市場は好意的に受け止めました。良品計画が値上げを発表したのは2022年12月26日。翌日の東証で同社株は一時、前日比7%高の1590円を付けました。10カ月ぶりの高値でした。28日付の日経新聞夕刊の記事では「ファンも多く、値上げは受け入れられるだろう」という証券アナリストの声が紹介されています。

良品計画によれば、2023年春夏物のおよそ2割の商品を平均で25%値上げするとのことです。同時に、低価格品の導入や家具のサブスク(定額サービス)という客離れ対策の手も打つところに用意周到さを感じさせます。

参考記事: https://senken.co.jp/posts/muji-230111

また、同じアパレルではしまむらが2022年秋冬物から一部商品を値上げしましたが、「しまむら」の客数(既存店)は直近の2022年9〜11月を見ると前年同期よりも1.5%増えました。無印良品のこの1月の既存店の客数や客単価がどう変化するか、大いに注目です。

一方、値上げで業績悪化が懸念される会社もあります。眼鏡店チェーンのJINS(ジンズ)ホールディングスです。同社の2022年12月の既存店売上高は前年同月比10.1%も減少しました。

同社は2022年11月に商品の価格改定を行い、5.3%〜12.5%値上げしていますので、その影響が出たとみられます。

これを受け、2023年の株価は下落。1月6日には前日比で一時14%安い4110円まで下がりました。1月12日に発表した2022年9〜11月期決算は売上高が前年同期比11.6%増、営業利益は35.0%増という良い数字でしたが、翌日の終値は3875円とさらに下げました。投資家たちは値上げ後の先行きをネガティブに見ているわけです。

業種は違いますが、値上げせず価格を据え置いて業績をV字回復させたのがファミレス大手のサイゼリアです。2022年9~11月期の連結決算は営業利益が16億円となり、前年同期の赤字(2億円)から黒字転換しました。同業他社が値上げするなか、サイゼリアは価格を維持したことなどから客数(既存店)が17%あまり増えたのです。

参考記事: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC102IZ0Q3A110C2000000/

これら良品計画やサイゼリアとジンズの明暗を分けたものは何だったのでしょうか。本稿は競合の存在とオンリーワン性(希少性)だと考えます。

良品計画は先に触れたように、必ずしも安売りのブランドではなく、統一的な独自の世界観にライフスタイルを合わせる固定客のハートを掴んでいました。お客は低価格を求めていたわけではないのです。そういう意味では「競合」は少なかったと言えるでしょう。

サイゼリヤも「競合」不在と言えるのではないでしょうか。同業他社が相次いで値上げするなか、価格を維持する同社はオンリーワンとなり、可処分所得が伸びない消費者層の間で価格と品質が他の追随を許さない存在になったと言えるでしょう。それが客数の伸びに表れています。

逆にジンズには眼鏡市場を展開するメガネトップや「メガネスーパー」のビジョナリーホールディングスという強力な競合がいます。ジンズはこれら2社と比べシニア層のシェアが低いのが弱みとされており、採算性の維持に向け難しい舵取りを迫られそうです。

価格戦略は消費者との心理戦の側面も

まとめとして、価格戦略に大きな影響を及ぼす「アンカリング効果」について触れたいと思います。

アンカーとは船舶の錨(いかり)のことで、アンカリングとは例えば何かを質問をする際、ある数値を示した上で質問すると、被質問者は解答を導く過程でその数値から無意識のうちに影響を受けるというものです。

ECショップの場合、トップページに掲載されている商品のメインの価格帯が2000〜3000円程度だとすると、ショップ側が4000円の商品を売りたいと思っても、消費者は「ここは4000円の商品を買うべきショップではない」と判断してしまうのです。

これがアンカリング効果の影響です。消費者がトップページを見て最初に「ここは2000〜3000円の商品を買うショップだ」という印象を植え付けられているからです。

つまり客単価や粗利単価の高い注文を増やしたければ、「安い買い物をするためのお店ではない」という印象を消費者に与える必要があるのです。

もちろん、値段が高くても消費者に商品を手に取ってもらうには真っ当な理由が必要です。普段から安易な値引きやセールに頼らないのは当然ですが、普段の努力で価格に見合う商品力をつけることが求められるのは言うまでもありません。

そうした商品起点のマーケティングは最重要ですが、社会心理学や行動経済学からのアプローチが消費行動を促す点で有効であることも実証されています。

具体的には次の6つです。

  • 返報性の原理(ギブアンドテイク)
  • コミットメントと一貫性
  • 社会的証明
  • 好意
  • 権威
  • 希少性

これらの絶大な効果については稿を改めてご紹介したいと思います。

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