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南充浩note:ECの「ロングテール」は危険だらけ…在庫滞留のリスク

新型コロナウイルスの新規感染者ゼロの県も増え、非常事態宣言の解除も地方から始まりましたが、4月からほぼ1カ月、地域によっては1カ月超にわたる店舗休業が全国的に続きました。まさに戦後史において異例の事態だったといえます。
実店舗が休業しているわけですから、販路はウェブを含めた通信販売に限定されており、通販を得意とする企業やブランドは売上高の落ち込みを幾分か緩和することができた一方、通販が不得意な企業やブランドは実店舗休業で実質的に売上高がほとんど無かったということになり、改めてネットを主体とした通販に注目が集まりました。(南充浩=フリージャーナリスト)

新型コロナで大幅に売上落ち込み

衣料品において現時点では実店舗の落ち込みをネット通販(EC)で完全に補填することはできません。これは様々なアパレル企業の月次売上報告で証明されています。幾分かは落ち込みが緩和されたことは間違いない事実ですが、完全に穴埋めはできていません。

例えば、繊研新聞の5月7日の報道によると、

アダストリアは67.8%減(EC含む)で、客数61%減。8日から国内実店舗の約半数が休業、最終週までに全店が休業した。4月末時点の実店舗数は1179。ECは約20%伸ばした。
ユナイテッドアローズは実店舗とECの合計が62.4%減。実店舗のみは91.4%減。4月末時点では242店中241店が休業となった。ECは25%増で、うち自社ECは2倍近く伸びた。

https://senken.co.jp/posts/majorspecialtystores-april-200507

とあります。この両社はいずれもECに強いとされています。それでもアダストリアはECが前年比20%増にもかかわらず、全社売上高は32・2%減に終わっています。またユナイテッドアローズはECが25%増(自社とZOZOなどのモールを合わせる)で、自社サイトに関しては2倍増であったにもかかわらず、全社売上高は37・6%減に終わっていますから、いかに実店舗の売上高が大きく、裏を返せばECの売上高が小さいかがわかります。やはり洋服は実店舗とECの両輪がないと成立しにくいビジネスだといえます。

「ECは陳列場所が無限」は信じてはいけない

とはいえ、最近ではEC先行の衣料品ブランドも数多く現れています。ECのみ、とか、ECから実店舗出店へというブランドも珍しくありません。

しかし、実店舗を経験したことがないECブランドの大きな特色として「不良在庫が溜まりやすい」ということが挙げられます。それには様々な理由が考えられますが、滞留の最も大きな理由の一つとして「理論上、ネットは陳列場所が無限にある」ということが挙げられると思います。

実店舗の場合、どれほどたくさんの種類の商品を置きたいと願ったところで、物理的に限界があります。「売り場面積+ストックルーム」のキャパをオーバーする量の商品はどんなにがんばっても置くことができません。ところがネット上だとその制約は理論上ありません。ですから置きたいと思う商品をすべて並べることも可能なのです。

それ故、EC出身の会社は型数・品番数(SKU数)・デザイン数をたくさん作りすぎる場合が多く、それぞれに少しずつ売れ残りが発生し、これらをまとめると適正在庫を超過して莫大な在庫量になっているというケースが珍しくありません。

内定取り消しで話題となったドゥクラッセはカタログ通販からネット通販、実店舗へと発展した会社ですが、財務内容が近年悪化していました。理由の一つには不良在庫過多があると言われています。確かにドゥクラッセのサイトを見ると、例えばメンズの2019秋冬防寒アウターはやたらと品番数が多いのです。こんなに色んなデザインが必要なのかと疑問しか感じませんでした。

実店舗は「標準」に則って投入量や在庫を管理

一方、実店舗出身の場合は品番数・型数はある程度絞り込むという習性が身についていますからそこまで型数は増やしすぎません。品番数・型数を絞り込んで成功している代表はユニクロでしょう。ユニクロの2019秋冬メンズの防寒アウターの本体ラインナップは、ハイブリッドダウンが2種、シームレスダウン、ウルトラライトダウンくらいしかありません。コラボラインだとウールコートなんかもありましたが、コラボラインは本体に対しての売上比率は低いので、単なるアクセントにすぎません。

どうしてこうなるのかというと、成功している実店舗チェーン店は必ず「標準店舗」という考え方があるからです。「小型店なら面積はこれくらいで投入商品量はこれくらい」「中型店なら、大型店ならこれくらい」と標準が決められています。
しかし理論上、無限に陳列できるECにはそれはありません。EC出身の会社は「標準店舗」という考え方はほとんどありません。先のドゥクラッセは実店舗も展開していますが、物件によって広さはまちまちで立地もバラバラです。路面店もあれば百貨店インショップもあります。標準店舗という考え方がないとオペレーションするのは難しいでしょう。ですから経営が悪化していたとも考えられます。

以前、お蔵入りした仕事の一環で、カルチュア・コンビニエンス・クラブの増田宗昭社長をインタビューしたことがあります。その中で増田社長は「実店舗がどれほど頑張っても『品揃えの豊富さ』ではネット通販には勝てない。Amazonの倉庫は東京都中野区くらいの広さがあるが、品揃えの豊富さだけで勝負するなら、中野区くらいの広さの売り場を構えないとだめだけど、中野区くらいの広さの売り場を用意できますか?」と語っておられましたが、これもECでの陳列は理論上無限であることの裏返しといえます。

しかし、EC会社の多くはAmazonほどの巨大資本ではありません。むしろ、1人とか2人でやっている極小資本も珍しくありません。小資本が型数・品番数を増やしすぎて不良在庫が増えると、資金繰りがたちどころに圧迫されてしまい、倒産に至ってしまいます。ドゥクラッセの経営悪化やヤングレディース向け衣料の携帯通販で一世を風靡した夢展望の失速などはネット上での「標準店舗という考え方」なきネット上での無限陳列による取扱商品数の増やしすぎも原因の一端だと考えられます。

Amazonや楽天、Yahoo!ショッピングほどの巨大資本でない限り、ECといえども「標準店舗」という考え方を導入する必要がありそうです。

著者プロフィール
1970年生まれ。繊維業界紙記者としてジーンズ業界のほか紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下まで担当。 退職後は量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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