2024年夏の大手小売総括|客単価向上の継続が今後の鍵
2024年も暑くて長い夏がようやく終わりました。アパレルをはじめとした小売業界は、値上げの浸透やインバウンド効果で増収の半面、人件費の上昇や原材料高が響いて利益面は明暗が分かれました。本記事ではアパレル夏物商戦を振り返り、雑貨やメガネなどの大手小売の売上状況を比較してみたいと思います。
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ファストリ、良品計画が大幅増収
まず、株式上場している大手アパレル企業の2024年3〜8月期(2024年度第2四半期)決算を見てみます(ファーストリテイリングと良品計画は8月期決算のため、人為的に3〜8月の6ヵ月間を抽出)。売上上位5社を一覧にしてみました(下表)。
2024年は7月に家計消費支出が3カ月ぶりに前年比プラスに転じ、例年よりも遅い梅雨明け後から猛暑が続きました。そうした中、ファーストリテイリングと良品計画は10%台半ば以上の大幅な増収を達成しました。営業利益も、ファーストリテイリングは51.6%と大きく増益となり、良品計画は7.8%増、オンワードホールディングスは4.6%増となりました。
ファーストリテイリングは、為替の円安もあって海外売上高が大きく伸長しており、収益の柱が多様化しています。国内ユニクロ事業は粗利率が2.9ポイント改善したとのことで、夏物の販売において値引き抑制が奏功した形です。
しまむらは、3〜8月期として売上高と各利益が過去最高を更新しました。PBの品揃えを拡充したほか、しまむら業態で1点単価を前年比2.6%上げました。その結果、買上げ点数は1.3%減少したものの、全店売上は4.0%増を達成しました。また、EC売上高も前年同期からほぼ倍増しました。
アダストリアは売上高が8.5%増加した一方、営業利益は一時益を計上した前年の反動で3.8%減となりました。グローバルワーク、ニコアンドなど主要ブランドが軒並み好調で、平均6%の賃上げを継続した半面、広告宣伝費を抑制したことで前年並みの営業利益を確保しました。
オンワードホールディングスは、猛暑に対応した機能性商品の販売が好調だったことやクリック&トライ(OMOサービス)の利用拡大が増収に寄与しました。
GMROIもファストリ、良品計画が大きく改善
次にGMROI(商品投下資本粗利益率)です。次のグラフは、各社の3〜8月期のGMROIについて、2019~2024年の推移を示したものです。2019年3〜8月を1とした指数で新型コロナウイルス禍前後を比較しています。
※GMROI:どれだけ少ない在庫で多くの粗利益を得たかを表す指標
GMROIについて詳しくはこちら>
アダストリアを除く4社はコロナ禍前の2019年を上回る水準となっています。特にファーストリテイリングは2020年を底に一本調子で改善を継続しており、在庫コントロール能力の高さが光ります。
一方、オンワードホールディングスは大きく悪化してしまいました。2023年以前に作ったキャリー品の在庫高の適正化を進めるなかで粗利益率が低下した影響であり、記者会見でも「コロナ禍からの回復過程での反動。こうした状況が今後も長く続くとは考えていない」と説明しています。同社は2024年8月末時点での在庫高を前年同期比16%増加させており、在庫の中身を入れ替えたとみられます。
アダストリアは一貫して2019年の水準の80%台を保っています。2024年3〜8月期は粗利益率が前年同期から0.6ポイント低下しており、9〜11月期以降の課題となります。
良品計画は2024年、ようやく2019年の水準を上回りました。国内外での積極的な出店で売上高を伸ばす中で在庫を積み増し続けていますが、在庫高の伸びに売上高の伸びが追いついてきたといえそうです。2024年9月以降も2桁の増収を見込んでいます。
フルカイテンブログで繰り返し訴えていることですが、在庫を効率よく粗利益に換える力の向上を伴わない売上増加が大きなリスクを孕むことは、今般のコロナ禍で明白になりました。物価が上昇していくなかで商品単価を上げやすくはなっていますが、だからといって在庫効率の規律を緩めてよいことにはなりません。
雑貨、宝飾は客単価上昇が定着
この章では、アパレルに近しい雑貨や宝飾分野において、月次販売状況を公開している大手企業のデータを比較しながら業界を俯瞰してみたいと思います。
まず良品計画とニトリホールディングス(HD)、エフ・ディ・シィ・プロダクツ(ヨンドシーHD傘下)の既存店売上高の推移です(下グラフ)。
良品計画の2023年12月と24年1月は、冬物の主力アイテムの在庫不足や11月に実施したセールの反動、前年は値上げ前の駆け込み需要があったことから、前年同月比91.0%、92.7%にとどまりました。
ただ、2月以降は9月まで前年超えを継続しています。7月は夏物の在庫不足が影響して100.9%へ落ち込みましたが、8〜9月は2桁の伸びに戻しました。2023年1月以降の段階的な値上げが浸透しています。
そして、売上高の傾向はニトリホールディングスも良品計画と同様の折れ線を描いています(7月以降のデータは11月初旬に開示)。ただ、ニトリは2022年秋に一部商品を値上げした結果、客離れが起きたため23年4月に値下げし、24年に入ってようやく客数が回復しました。両社の戦略は正反対ですが、消費が底堅いことの裏付けともいえます。
エフ・ディ・シィ・プロダクツの売上も2024年7月までは前記2社と同じ折れ線になっていましたが、8月以降に失速しました。同社は商品戦略とリブランディングに取り組んでおり、その成果に期待したいところです。
次に良品計画とエフ・ディ・シィ・プロダクツの客単価および客数です。良品計画は2024年2月以降、客単価が高水準で推移しています。1月までは値上げの影響がありましたが、3月以降は新商品の投入が効いています。スキンケア商品やサーキュレーターなどの季節商品が全体を底上げしたとのことです。
エフ・ディ・シィ・プロダクツも2024年5月以降、客単価が継続して前年同月を上回っています。これにより、客数が伸び悩む中でも売上高が下支えされています。
以上から、初夏以降の消費支出の回復ははっきりしており、各社とも概ね需要を捉えたといえます。これから秋物商戦、そしてクリスマス・年末商戦を控えており、動向が注目されます。
メガネも7月以降は販売が回復
最後にメガネ(眼鏡)小売大手の販売状況を見てみます。国内の眼鏡小売市場は、コロナ禍の影響が収束して発生以前の水準へ回復が鮮明です。株式上場していてかつ月次販売状況を開示しているジンズホールディングス(国内)と愛眼の既存点売上高の推移を下グラフにまとめてみました。
ジンズHDの足元の業績は絶好調です。2024年8月期連結決算は当期純利益が前期の2.6倍の46億円、売上高は13.3%増の829億円でした。営業利益は61.7%増の78億円となりました。
特に6月以降は既存店売上高が前年比20%前後伸びており、新規出店に頼らない売上成長という点で、特筆すべきといえます。
他方、愛眼は前年比プラスとマイナスを行き来しているものの、折れ線は9月を除いてジンズHDと同じように上下しています。さらに需要をつかめば黒字転換は近いでしょう。
アパレルを含めた小売全体に言えることですが、消費の回復が本格的になってきたとはいえ、国内は人口減に直面しており、業績を伸ばしている会社は客単価を上げる方向に舵を切っています。在庫を効率よく利益と現金に換える販売力を付けることで、過剰在庫と値引き頼み、在庫評価減というかつての悪循環に戻らないようにできると言えるでしょう。