在庫が黒字倒産の原因に|実例から学ぶ”罪庫”にしないための対策とは
企業倒産といえば、最近は従業員の退職や採用難、人件費高騰などに起因する「人手不足倒産」が話題を集めています。帝国データバンクの調査によれば、2023年度は2022年度の2倍超に増え、2024年度も時間外労働の上限規制により増加すると見込まれます。
しかし、業績が赤字でないのに倒産してしまう原因は「人手不足」だけではありません。在庫と密接にかかわる「黒字倒産」こそ、小売企業が警戒すべきなのです。実際の黒字倒産の事例を振り返りながら、在庫を「罪庫」にしないための方策について考えてみましょう。
売上不振でキャリー在庫が1.5倍に
平成から令和へ御代替わりして間もない2019年6月。子供向け服飾雑貨ブランド「motherways」を運営するマザウェイズ・ジャパンが破産を申し立て、倒産しました。motherwaysは名の知れたブランドだっただけに、当時大きなニュースになったことをご記憶の方も多いのではないでしょうか。このマザウェイズ・ジャパンも黒字倒産でした。
同社は2000年に設立されました。中国企業に製造を委託して輸入し、ショッピングモールに出店して店頭販売する典型的なSPAのビジネスモデルで成長。多い時で約100店舗を抱えていました。
状況が一変したのが2013年です。筆者が入手した破産申立書によれば、円安の影響で原価が5割ほども上昇してしまったそうです。
これを受けて店頭価格を15%ほど値上げせざるを得なくなりました。その結果、コアなファンを除く浮動的な客層が離れていって売上を落としてしまい、経常利益の低迷が続くことになりました。
売上が落ちると、在庫の回転率が悪化します。そして回転率の悪化は資金繰りの悪化に直結するのです。マザウェイズ・ジャパンの場合、冬物のキャリー在庫が例年は2億円強であるのに対し、暖冬の影響で売上が落ちた2018年10~12月頃は4億円弱と1.5倍にまで膨らんでしまいました。キャリーものを含めた全在庫(棚卸資産)は20億円にも上りました。
ここで、破産申立書に添付されていた決算報告書を基に、破産申し立て直前の月ごとの資金繰りを推計してみます。
収入:6.0億円
(内訳)
- 売上 :6.0億円
支出:6.1億円
(内訳)
- 人件費(法定福利費含む):1.2億円
- 賃料・光熱費(店舗倉庫):1.4億円
- その他経費 :2.8億円
- 借入金・仕入債務の返済 :0.7億円
現金の収支(キャッシュフロー)はマイナスです。また、破産管財人弁護士は同社が「粉飾決算(※)を行なっている」と明言していることから、簿外債務があった可能性があり、実際は上記推計よりも支出額は多かった可能性が高いでしょう。在庫が積み上がったことで手元現金が減り、2019年1月末時点で約4億円しかありませんでした。まさに資金繰りは綱渡りだったはずです。
(※)財政状態を事実よりも良く見せるために、利益を過大にしたり損失を過小評価したりして不正な会計処理を行うこと
一方で、損益計算書上は、2018年1月期、2019年1月期ともに営業損益、経常損益、当期純損益いずれも黒字でした。マザウェイズ・ジャパンは結局、金融機関への毎月の返済に窮し、経営破綻しました。
企業はたとえ赤字だったとしても、手元現金があって資金繰りが回っていれば倒産しません。しかし、黒字でも在庫過多だと手元現金が枯渇し、資金繰りに行き詰まりやすくなります。これが、黒字倒産を引き起こす「罪庫」の恐ろしさなのです。
融資つなぎ止めへ出店継続、在庫がさらに増加
ただ、マザウェイズ・ジャパンの社長も手をこまねいていたわけではありませんでした。資金繰りの命綱である金融機関からの融資をつなぎ止めるためには売上高を増やし続ける必要があり、新規出店を継続していきました。
しかし、店舗数が増えれば、仕入れも増えます。それに伴い在庫もますます増えてしまうというスパイラルに陥りやすくなります。同社はこのスパイラルの陥穽にはまってしまったのでした。
日経トップリーダー誌が同社元社長にインタビューした記事に元社長の「独白」が掲載されていますので、一部引用します。
「本音を言うと、最後の数年はもう出店はしたくなかった。ですが出店は我々にとって成長している証しであり、金融機関で借り入れをするための手段でもありました。 出店を抑制して、店舗数を減らし、経費を厳しく抑え、もっと小さな会社を目指すのも1つの道だったかもしれませんが、それはしたくないと考えていました」
「マザウェイズ」絶好調に見えたのに破産した理由/女児服の人気ブランドはどこで目算が狂ったのか=2022年6月23日、東洋経済オンラインで公開
なお、マザウェイズ・ジャパンの関連会社である根来も同時に破産申し立てを行いました。1987年設立の根来は主に女性向け衣類や靴、バッグ、服飾雑貨を国内や中国から仕入れ、中小規模の小売店に卸していました。
メーカーや1次卸の間では、根来は大量に商品を仕入れてくれることで有名で、多くのメーカーや1次卸が重宝する存在だったそうです。実際、経済全体が右肩上がりの時は根来の業績は堅調でした。しかし1990年代に入るとバブル経済の崩壊で売上が減少傾向に転じ、2000年代以降は拠点数や取扱商品数を段階的に減らすなど事業縮小を余儀なくされていきました。
このため、同社は2016年の社長交代を機に売上偏重から利益率重視へ経営方針を変えました。過度な価格競争から手を引き、商品の差別化による利益改善で経営の立て直しを図ったのです。
この路線が奏功して利益率は改善しました。しかし、それまでに抱えていた余剰在庫や過剰な銀行借入の負担があまりにも大きく、資金繰りの抜本的な好転には至らずに破産申請となりました。利益重視への転換が遅すぎたのです。
なお、根来も直前の2019年1月期まで損益計算書上は黒字でした。
在庫の「中身」を可視化し、値引きせず現金化する
黒字倒産の事例から見えてくるのは、「在庫をいかに早く現金化するか」ということの重要さです。なおかつ、同じ「現金化」するにしても、値引き販売に頼るのでは回収できる現金が減って粗利益を毀損するので、意味がありません。
また、期末在庫(アパレルの場合はシーズン終了後の在庫)が増えると、損益計算書上は売上原価が減って利益が増えます。実際は価値が低下している商品も、不良在庫として帳簿価額を切り下げることを避ければ、損失は損益計算書に出てきません。
ここから見えてくる教訓は次の2点です。
- 在庫の中身を分析し、不要な値引きを抑えて販売する
- 少ない在庫で多くの粗利益を稼ぐ指標(GMROI)をKPIにする
1つめは、見かけ上の利益ではないキャッシュフローの健全化に向けて大変重要です。不必要な値引きを頻発するようでは、仕入れや投資にかかった現金の回収がおぼつかないからです。在庫を商品ごとに、その「商品力」を可視化することが求められます。
2つめは売上偏重への戒めです。どれだけ売上高が増えていようとも、増収ペースを超えて在庫高が増えていては、財務リスクが増すだけだからです。
とはいえ、売上が増えて事業が成長するフェーズでは、仕入れを増やして在庫を積む誘惑に抗うことは困難です。そういう場面では、業務負荷を削減しながら欠品を抑制する発注方法が必要不可欠です。
国内市場は人口が加速度的に減少しており、安易な価格競争は資本力の大きさがものを言います。利益重視で縮小市場を勝ち抜くため、もっと在庫に目を向けた経営が求められます。
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