ダイナミックプライシングとは?小売向けに基礎から事例までを詳しく解説
市場の変化に合わせて柔軟に価格を変更することで利益を最大化する、ダイナミックプライシング。ECなどの小売業界におけるダイナミックプライシングは成功事例も多く、近年ますます注目を集めています。本記事では、ダイナミックプライシングの基本から小売業界での活用事例までを詳しく解説します。
ダイナミックプライシングとは?
ダイナミックプライシングとは、需要や販売状況などに応じて価格をこまめに変更させる仕組みのことです。多くの場合、商品やサービスの価格は発売から一定ですが、ダイナミックプライシングでは、AIなどのテクノロジーを用いることで状況に応じた最適な価格に変更することが可能になります。
ダイナミックプライシングが導入されている代表的な例は、航空業界やホテル業界です。
例えば、夏休みシーズンなどの航空券やホテルの需要が高まる時期は価格が高く、閑散期は安くなる、といったようにシーズンによって価格が変動しますが、これはダイナミックプライシングによるものです。
近年、ダイナミックプライシングはホテルや航空業界だけではなく、小売業界などの他業界からの注目が高まり、導入が進められています。
ダイナミックプライシングのメリット
ダイナミックプライシングのメリットは、収益を最大化できる点です。
通常、商品の価格は固定されていますが、この状態では実は機会損失が起こっています。
なぜなら、商品に対して付ける価値は顧客によって異なるためです。
例えば、あるワンピースを3000円払ってでも買いたいと思うAさんと、1500円以下なら買うというBさんがいるとします。ワンピースの価格が2000円だった場合、店はAさんから得られるはずだった1000円の収益と1500円だったら購入するはずだった顧客Bさんを失うことになります。
つまり、固定価格が需要価格より低い場合は収益を失い、高い場合は顧客を失うのです。
しかし、ダイナミックプライシングでは価格を変動させることができます。これにより、商品の需要や供給の変動に応じた価格変更が可能になり、機会損失を防ぎ、収益の最大化につながります。
例えば、需要が供給に対して大きい場合、欠品によって販売機会を損失する可能性があります。そこで、価格を上げることで(=高くても購入する顧客層にアプローチする)在庫不足を回避しつつ、単価も上げられるので収益を守ることができます。
一方、需要が供給に対して小さい場合は在庫が余る可能性がありますが、より安い価格に設定することで、より多くの顧客を獲得できます。
ダイナミックプライシングのデメリット
しかし、ダイナミックプライシングには以下のようなデメリットもあります。
導入にコストがかかる
ダイナミックプライシングを行うには、商品の価格を自動で変更するためのツールを導入する必要があります。ツール自体にコストがかかるのはもちろん、運用する際の人件費や仕組みづくりなど、導入する上ではさまざまなコストが発生します。
そのため、導入の際には、そのコストに見合った利益が得られるのかを検討する必要があるでしょう。
頻繁な価格変更で顧客離れが起きる
ダイナミックプライシングの導入で気をつけたいのが、不信感による顧客離れです。
消費者は値上げにとても敏感なため、頻繁に価格を変更すると「儲けに走っている」など消費者からマイナスなイメージを抱かれてしまう可能性があります。
ダイナミックプライシングの仕組み
ダイナミックプライシングの仕組みはツールによって異なりますが、大きくは以下の2つに分けられます。
- 自動化による値付け
- 機械学習による値付け
以下でひとつずつ詳しく解説いたします。
1.自動化による値付け
自動化による値付けとは、すでに行っている価格変更のルールに応じて自動で値付けを行うというものです。つまり、人力で行っている価格変更の作業をシステムで自動化する仕組みになります。
非常に多くの商品を扱っている企業では、価格の変更をするだけで大きな作業が必要になりますが、価格の自動変更ができるようになることで、迅速に大量の商品に対して価格の更新が可能になるため、業務負荷の削減につながります。
AIを用いた価格設定ではないため、後述する機械学習による値付けと比べると精度は落ちますが、複雑なシステムは必要ないため、導入が比較的容易であるという利点があります。
2.機械学習による値付け
ダイナミックプライシングのもう一つの方法は、機械学習を用いるものです。
機械学習とはコンピュータが与えられたデータから規則を見つけ出し、それを他のデータにも当てはめることで、予測や分析などを可能にする技術のことです。
この方法では機械学習を用いて、曜日や天候、過去の売上や競合他社の価格など様々な条件をもとに需要予測を行い、適切な価格を導きます。
需要変動が頻繁に起こる業界では、既存の価格変更のルールだけではその時々での最適な価格設定を行うことが難しいため、機械学習によるダイナミックプライシングの導入が進んでいます。
小売業界でのダイナミックプライシングの活用
近年、ダイナミックプライシングの導入が進んでいる業界のひとつが小売業界です。
小売業では、扱う商品の特性から競合他社の商品との差別化が難しく、価格戦略が売上に大きく関わります。需要変動や競合商品の価格などによって販売状況が大きく変化するため、状況に応じて柔軟に価格を変更できれば、機会損失を防ぎつつ収益をさらに上げることができます。
このような背景から小売業界では多くの企業がダイナミックプライシングの導入を進めています。
ECでの活用事例
ダイナミックプライシングを導入している代表的な企業としてAmazonが挙げられます。
Amazonではダイナミックプライシングが他の企業よりも先駆けて導入されており、商品の価格は1日の中でも頻繁に変動します。Amazonの飛躍的な成長の要因の一つに、リアルの店舗よりも安い価格で商品を販売できたことが挙げられますが、これを可能にしたのはダイナミックプライシングによる需要に合わせた価格変更です。
実際、Amazonはダイナミックプライシングにより、2013年に競合をはるかに超える1日に250万回以上の価格変更を行うことで、以下のような効果をもたらしました。
ダイナミック・プライシングにより、Amazon 社の売上は、2012 年から 2013 年にかけて 27.2%拡大し、440 億ドルを超える収益を上げており、米国のトップ小売業者 10 企業の一つに初めてランクされるまでに成長したとしている。
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ダイナミックプライシングによるAmazonの大きな成功はさまざまな業界にダイナミックプライシングが広がったきっかけにもなりました。
店舗での活用事例
ECでの活用が注目されるダイナミックプライシングですが、現在ではリアル店舗での導入も進んでいます。
2020年、ビックカメラは店舗でダイナミックプライシングによる電子棚札を導入することで、業務効率を大幅に改善するとともに、機会損失を回避することで大きな成果を上げました。
電子棚札の導入前も本部から指示があった場合は1日に数回価格を変更していましたが、値札を変更する際は、新しい値札をプリンタで出力し、ハサミで切ってから該当商品の値札と張り替えるという作業を行っていました。
そのため、値札変更には1日2〜3時間かかっていた上、値札の張り替え作業が間に合わなかったために、価格が下がっていることを知らない顧客がそのまま帰ってしまうケースが多発していました。
しかし、ダイナミックプライシングを導入したことで、値札変更作業が必要なくなり業務負荷を大幅に削減することができたとともに、常にリアルタイムで競争力の高い価格を顧客に表示できるようになったため、機会損失を防ぐことにも成功しました。
電子棚札による成果も手伝い、同年度の売上は前年度から37%増加※しました。
※引用元:ビックカメラの連結EC売上は37%増の1487億円、EC化率は17.5%【2020年8月期】
まとめ
- ダイナミックプライシングとは、状況に応じて価格を頻繁に変更させる仕組み
- メリット:収益が最大化できる
- デメリット:コストがかかる、顧客離れの原因になりうる
- ダイナミックプライシングの仕組み
- 値付けを自動化する
- 需要予測を行い、適正価格を設定する
- 小売業界とダイナミックプライシングの相性は非常に良く、近年導入が進められている